軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

605:デルシェーラの行方

「お疲れ様でした、クオンさん。今回は特に、ですけど」

「お前さんこそ、よく生き残ったもんだ。パルジファルのお陰だったとはいえ、よく最後まで戦線を支えてくれた」

大将であるアルトリウスが落ちていれば、戦線は早期に崩壊していたことだろう。

うちの馬鹿共も、どれだけ生き延びることができたか分かったものではない。

あのデルシェーラの一撃でパルジファルも退場してしまったようであるが、よくもまあ、あの不意打ちに対して対処できたものだ。

「結果として、エリザリットを仕留め、デルシェーラに大きなダメージを与えることができました。痛み分けと言えばその通りですが、損害の規模で言えば相手の方が上でしょう」

「だが出費も大きかっただろう。その状態で、デルシェーラと戦えるのか?」

「同じような戦いをするのは無理だろうねぇ」

今この場にいるのは、俺と緋真に加え、アルトリウスとファム、そしてマリンだけ。

勝手知ったる人間だけを呼んでいるのは、そういう意図があってのことだろうか。

しかし、マリンはそんな疑問に答える様子もなく、いつも通りの軽薄な調子で続けた。

「でも、今度の戦いにおいては問題ない。何故なら、そもそも相手が打って出ては来ないからね」

「デルシェーラは引きこもっているのか?」

「聖火によるダメージがどこまで通用したのかは分からないけど、理論上ではゲージを一つ割ってるね。悪魔の――MALICEの性質上、一度出現した以上は大枠のリソースを復帰させる手段は少ない。今もゲージは一つ割れていると考えていいだろう。警戒して出てこないのも納得できる話さ」

ゲームのシステムを裏側から考察しているようで微妙な気分であるが、彼女らは専門家だ。その言葉は信用していいだろう。

つまり、デルシェーラは己が領地に戻って姿を見せていない。

奴の本拠地は、今回戦場となった街のさらに北。あの街よりはよほど要塞としての機能を持つであろう山際の都市だ。

あそことの戦争、しかも相手側が防衛しているとなると、かなり苦労しそうだと思ったのだが――

「こちらに、デルシェーラの都市を攻め落とせるだけの戦力があるのか?」

「いえ、クオンさん。そもそもの前提が違うんです」

「シェラート、貴方ワールドクエストの開催通知ぐらい見なさいよぉ」

ファムに正論を説かれるということに理不尽さを覚えつつも、ウェブサイトを開いてワールドクエストの説明を確認する。

そこに記載されていた内容は、俺が思い描いていたデルシェーラとの戦いとはまるで異なる内容だった。

「氷の城塞を攻略せよ、か」

「簡単に言うと、ダンジョンアタックですね。そこにある写真の通り、今のあの都市は全てが氷に包まれ、氷の城塞と化しています。その最奥に、デルシェーラは潜んでいるのでしょう」

「入れるようになってるのか?」

「はい。偵察を出しましたが、入り口は完全に開け放たれているようです。まるでこちらを誘い込もうとしているかのように」

アルトリウスの言葉に、思わず眉根を寄せる。

侵入する手段があるのはいい。問題は、デルシェーラがなぜそのような行動を取っているのかだ。

ゲームが――というより女神がこれをワールドクエストとして発令したのはいいだろう。

公爵級悪魔との対決であるし、奴を仕留める機会にプレイヤーを焚きつけるのも納得できる。

疑問なのは、当のデルシェーラがなぜそのような戦いに応じているのかだ。

「俺たちを誘い込んで、奴に何のメリットがある?」

「ワールドクエストが発生したということは、MALICEの総意として決戦に応じたということでもあります。デルシェーラを切り捨てたとも取れますし……逆に攻略に失敗した場合、デルシェーラのリソースを補填する手段もあるのかもしれない」

「……分からんが、どっちにしろここで仕留めるしかないってことか」

「ワールドクエストには期限があります。その期間内で攻略できなければ、何らかのペナルティがあるでしょうからね」

相手のことを追い詰めているのは事実。しかしながら、こちらにも条件を突きつけられている状態か。

中々に厭らしい手を使ってくれるものだ。

まあどちらにせよ、デルシェーラを仕留めるにはダメージを負っている今が最大のチャンスであることもまた事実。

そのデルシェーラが戦いに応じているというのであれば、このワールドクエストには乗らざるを得ないだろう。

「仕方あるまい。それで、内部の状況は?」

「基本的には外見通り、氷に閉ざされた都市を進んでいく形になります。ただ、氷であるため足場は大変悪いですね。それと、かなり道が塞がれているので、進むのは中々困難なようです」

「足場か……スパイクは好みじゃないが、贅沢も言ってられんか」

《走破》系統のスキルである程度緩和できるとはいえ、いざという時に足を滑らせるのは致命的だ。

エレノアにスパイクシューズでも注文しておくべきだろう。

しかし、大きいとはいえ都市一つ。人海戦術ならば最奥まで辿り着くルートを割り出すのも難しくはないだろう。

「それと、一番大きい要素ですが……どうやら、あの内部は定期的に構造が変化するようです」

「何だと?」

「定期的に氷の壁が動き、進める道が変わってしまうみたいだね。マッピングが無意味になったと調査班が嘆いてたよ」

マリンはからからと笑っているが、中々に問題のある要素である。

一度撤退しても、前回の知識をあまり活かすことができないのである。

ある程度の共通項はあるだろうから皆無とは言わないが、それでも道筋が変わってしまうのは面倒だ。

「それ、上空からの接近はどうなのかしらぁ?」

「それは不可能ですね。上空は冷気の霧によって覆われています。近付いただけで氷のオブジェの出来上がりですよ」

「霧だから、多少どかしてもすぐに補填されてしまうし、面倒なものだよ」

当然思いつきそうな行動ではあったが、一応試してはみていたということだ。

これの厄介な点は、上空が霧によって覆われているという点だろう。

外部から空を飛んで近付くことが不可能であると同時に、内部でも飛びすぎればその影響を受けてしまうのである。

ルミナやセイランは、その戦力の一部を封じられることになりかねない。

戦い方には注意しなければならないだろう。

「ふぅん。じゃあ、壁の破壊とかは?」

「予想は出来ていると思いますが、困難ですね。魔法破壊スキルで傷がつくことは確認できましたが、すぐに修復されました」

「なるほど、一応不可能ではないのねぇ?」

「何度も何度も全力で《蒐魂剣》を使うような真似をするぐらいなら、素直に進んだ方が消耗せんと思うぞ?」

「できないのとやらないのは全く別の話でしょぉ?」

つまり、手札としては用意しておくつもりということか。

まあ、これに関してはファムの言う通り、手札の一つとして持っておくことには意味がある。

いざという時、窮地を脱する手段になるかもしれないのだから。

「とにかく、期限までに何とかしろってことか」

「はい。今回はパーティ単位の挑戦なので、早い者勝ちという空気ができていますね。今日の戦いでデスペナルティを受けていない人たちはさっそく挑んでいたりもしますが……」

「まあ、流石にな。後始末もあるし、準備もある。いきなりの挑戦はしないさ」

「ですね。僕も、色々と済ませてから挑戦します」

こちらはこちらで、中々に忙しそうな状況だ。

特にアルトリウスの場合、政治方面でも面倒なしがらみを抱えている。

そちらを任せられるような人材がいるのであれば、もうちょっと効率よく進めることも――

(……このタイミングでブロンディーが出てきたのは、そういうことか?)

アルトリウスの手が回らなくなる状況と戦況。

それを見越した上でこの女を投入してきたのであれば、合衆国やその他の国々は――

「――どうせそういうことを考えるだろうと思ったから、勝手を知ってる人間だけ呼んできたのよぉ」

「……毎度思うが、思考を読んで発言するのは止めろ」

「貴方がおかしな勘違いをしているのがいけないんでしょぉ? 私に対しての警戒の仕方が普段と違うわよぉ」

露骨に警戒してしまったのが悪かったか。

しかし、それならそれで、何故このタイミングで顔を出してきたというのか。

合衆国が単なる善意でこんな奴を送り込んでくるとは思えない。

「言われてないからはっきり言っちゃうけどぉ、別にどこかの利権を割り込ませろとかそういう話はされてないわよぉ。軍曹越しに工作員の要望があったから、こっちにお鉢が回ってきただけ」

「純粋に支援をするつもりだってか? そんなバカな」

「私だってミニチュアガーデンプロジェクトの全容を知ってるわけじゃないし、こちらに移ってくる前にどんな取引があったかなんて調べようもないわぁ。だって物理的に記録が無いのだし。でも、逢ヶ崎の支援をすることが全体の利益に繋がると考えられてるのは間違いないわねぇ」

「ますます分からんが……」

「私から言えるのは、誓って敵対する気はないことと、他にそう言う動きは見られなかったということだけよぉ」

こいつの嘘を見破ることは困難なのだが、知り合いに対して後の関係に影響を及ぼすような嘘は言わない女だ。

とりあえずではあるが、この言葉自体は信用しても良いだろう。

色々と問題はあるが、まずはやれることをやっていくしかない。

「はぁ……とりあえず、今日は休む。明日以降動くから、何か分かったらまた教えてくれ」

「了解です。お疲れ様でした」

「お前さんも、程々にして休んでおけよ」

先日ほどの緊急性はないとはいえ、一難去ってまた一難。

まずは、念入りに準備を進めておくこととしよう。