軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

061:逃げてきた男

『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀》のスキルレベルが上昇しました』

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《HP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

ログイン直後の稽古を終えた後は、いつも通り猿や蜂を相手にした修行だ。

相も変わらず大量に襲い掛かってくる連中だが、繰り返し戦っていると対処にも慣れてくる。

こちらのレベルが上がって攻撃力が上がっているのもあり、割とあっさりと片付けられるようになってきているのだ。

緋真曰く、レベルアップに要求される経験値も増えてきているが、戦闘効率も上がっているからまだ狩場として使えるとのことらしい。

個人的には、あまり面白い相手ではなくなってきているのだが、今は効率よく成長を重ねておくべきだろう。

「しかし、割とでかくなってきたな、お前は」

「……?」

レベルが上がるごとに体が成長するルミナの頭に手を置けば、その大きさが随分と変わってきていることを実感できる。

王都を出発する前はまだ幼児レベル、肩車していてもまるで違和感のない子供だったというのに、今では小学校高学年ぐらいの大きさになっている。

どうやら精神的にも成長しているらしく、ますますスプライトの生態がよく分からない状況だ。

まあ、剣を扱う以上はいつまでも子供のままでいられるのも困る。そういった精神的な面においても、こいつがどこまで成長するのかは楽しみだった。

「緋真、ルミナの調子を確認しておけ。ここからは1レベルごとにやっていくぞ」

「了解です。索敵で敵を見つけても襲いに行かないでくださいよ?」

「向こうから来たなら話は別だぞ?」

「まあ、そりゃ仕方ないですけど」

半眼を向けてくる緋真の言葉に、くつくつと笑いながら返す。

とは言え、こちらから攻撃するような真似はしないつもりだ。

ルミナの成長度合いの確認は、それだけ重要なものなのだから。

若干不安そうにルミナの状態を確認し始める緋真の様子を眺めながら、俺は周囲に感覚を広げて索敵を開始する。

尤も、猿や蜂たちは周囲に存在している同種の魔物を呼び寄せるため、一度戦うと周囲の魔物が大幅に数を減らすことになる。

そのため、効率よく戦うには時間を置くか、移動してから戦わなければならないのだ。つまり、今この周囲には殆ど敵は存在しない。そこまで警戒する必要は無いだろう。

「じゃあ、ちょっと一通り見せてもらうからね」

「はい、お願いします、緋真姉さま」

そんなやり取りと共に、緋真はルミナの習熟具合を一通り確認していく。

烈震だけではなく、純粋な体捌き、竹別や流水の熟練度まで含めた確認だ。

基本的な動きについては、それなりに習熟してきたと言えるだろう。見た感じでは、一般的なプレイヤー相手にはもう十分通用するレベルだ。

恐らく、雲母水母ほどの相手であれば拮抗し得るだろう。正直、既に妖精だった頃の戦闘スタイルの面影は無い。

まあ、まだ小柄であるため、刀で戦うにはあまり適さない状態ではあるのだが、そこはもう数レベル上がれば解決するだろう。

「……今更ながら、何でこんなことになったんだろうな?」

魔法特化型であったはずの妖精が、いつの間にかプレイヤーに劣らない前衛戦闘能力を手に入れている。

俺もルミナを《テイム》したのはその場のノリと勢いだったのだが、このような展開になるとは思ってもみなかった。

尤も、そこはルミナが選んだ道であるし、否定するつもりも無いのだが。

ともあれ、ルミナはかなり上達してきている。

烈震についても、ごく短い距離に関してはそれなりに形になってきたようだ。

尤も、今の距離程度では到底実戦投入できるレベルではない。

これは、もうしばしの習熟が必要になるだろう。

しかし、ある程度は形になっていることもまた事実。これまでのレベルアップによる成長を考えると、次なる術理の稽古もつけておくべきだろう。

「先生! 穿牙も教えたいんですけど、いいですか?」

「ああ、構わんぞ。俺もそろそろだと思っていたところだ」

ルミナの習熟度的に、本来はまだまだ先と言った所だが、レベルアップによる成長を考えれば早めに教えておいて損はない。

基礎的な部分だけでも教えておけば、レベルアップによって一気に習熟するのだ。

ある程度教えておけば、レベルアップの特性を有効に利用することができるだろう。

穿牙は、簡単に言ってしまえば動作の大きい突きの攻撃だ。

一般的には前進しながら放ち、その運動エネルギーを切っ先に集中させることによって高い攻撃力を発揮する。

この時難しいのが、切っ先の一点に無駄なく威力を伝えることだ。

少しでも軸がぶれれば威力はガタ落ちするし、下手をすれば刀が折れる。

握りから切っ先までを一直線に、それだけではなく腕から肩、腰から足まで、全身の連動を余すことなく伝えなければならないのだ。

重心制御とはまた異なる、肉体制御――運動エネルギーの効率的な運用を求められる一撃だ。

これに関しては、初めてでは外から見ていても中々理解しがたい感覚である。覚えさせるにもなかなか時間がかかりそうであるし、先に教えておくのは有効だろう。

「……ん?」

緋真が体の連動のさせ方について手取り足取り解説している様子を視界の端に置きながら、俺はふと視線を起こしていた。

だいぶ離れているが、これまでは聞いていなかったような音が聞こえる。

これは――

「獣の唸り声、か? 聞いたことの無いタイプだな」

かなり離れているが、聞き覚えの無い動物の声だ。

この辺りで動物と言えば、猿と熊程度だ。だが、この声はそのどちらでもないように聞こえる。

どちらかと言えば、獰猛な肉食動物の吠える鳴き声。これまでに聞いたことの無い声だった。

この辺りで、まだ会ったことの無い魔物が存在していたのだろうか。しかし、あれだけ戦闘を繰り返していたのに会わないというのは少々考えづらい。

一体何がいるのだろうかと耳を澄ませ――その瞬間、森の中に甲高い声が響き渡っていた。

『キキャ――――――――ァッ!!』

「っ、今のは……!」

先ほどの声と違い、こちらにはこれでもかと言う程聞き覚えがある。

間違いなく、猿共の仲間を呼ぶ声だ。

ということはつまり、この森の中に、俺たち以外にあの猿と戦っているものが存在するということか。

「先生、今の――」

「待て、緋真」

今の声は流石に聞こえたのだろう、目を見開いた緋真が、こちらへと駆け寄ってくる。

しかし、それを手で制して、俺はこいつに対して告げていた。

「まだ離れてる。今は気にせず、そいつの稽古に専念しろ」

「あー……ついに他のプレイヤーがここまで入ってきたってことですかね。分かりました」

どうやら、あの叫び声にかなり神経質になっていたようである。

だが、他のプレイヤーの戦闘によって起こったことであれば、基本的にはこちらから介入する理由は無い。

確か以前に、よほどのことが無い限り横殴りはマナー違反であると聞かされているし、あえて手を出す必要は無いだろう。

俺の言葉に頷いた緋真は、若干声の方角を気にしつつも、ルミナの稽古へと戻っていた。

「しかし……他のプレイヤーがやって来るとなると、流石に効率が落ちるか」

周囲の敵をひたすら集めまくるという性質を持つこの付近の魔物だが、広範囲にその効果を及ぼすだけに、複数のプレイヤーが集まると効率が大きく落ちることが予測できる。

とは言え、この場の占有権が俺たちにあるわけではないし、この辺りに入ってくることを制限できるわけでもない。

住み分けをしてもある程度効率は落ちるだろうし、どうしたものか。

「……?」

もう一度気配を探り、俺は眉根を寄せる。

先ほどより、気配がこちらに近づいてきているのだ。

まあ、こっちは関所に近い方であるし、向かってくることはそれほど不思議ではないのだが――

「……何か、逃げてきてないか?」

わらわらと群れている気配と、それらに対して牽制しながら後退してくる気配。

これはどうも、俺たちが蟻を相手に取っている戦法に近い動きのような気がする。

問題は、その気配がまとめてこちらに近づいてきていることだろう。

既に、戦闘音がこちらまで響いてきている。どうやら、この気配の主たちは戦いながらここまで押し込まれてきているらしい。

「ふむ、緋真」

「はい、逃げてきてるみたいですね」

軽く肩を竦めながら太刀を抜き放ち、近づいてくる気配の方へと構える。

こちらに魔物どもを押し付けようとしているのであれば問題だが、単純に逃げているだけとも考えられる。

まあどちらにせよ、敵が向こうから来てくれるのであれば対処すれば済むだけの話だ。

既に気配はかなり近い。そしてそれが近づくと共に、男の声が聞こえてきていた。

「ロウガ、一番近い奴の足を! ガオウは悪いが左の二匹受け持って! リオン、ガオウの援護!」

若い男の声だ。矢継ぎ早に指示を飛ばしているが、それに応えている声は無い。

代わりに、獣の唸り声がその言葉に対して返答を返していた。

響いてくる声に、隣で構えている緋真が驚いた様子で声を零す。

「あれ、この声ってまさか……」

「知り合いか?」

「……面識はある、っていう程度ですけど。ただ、この人は結構有名人です」

言いつつ、緋真は手元でウィンドウを操作し始める。

何をやっているのかは分からないが、敵を前にしてやり始めたのだ、何かしら必要なことなのだろう。

そう判断しつつ再び前方へと向き直り――ようやく、そこでその姿を視認していた。

目に入ったのは、青い髪をした男の姿。どこかの遊牧民のような独特な衣装に、手に持っているのは杖と竪琴だろうか。

そんな特徴的な姿をした青年であったが、それよりも目立つのは、彼が指示を飛ばしている仲間が全て人間ではなく、魔物であったということだろう。

「やっぱり……シェパードさん! ミニレイドの申請を送ります! 承認してください!」

「ッ――緋真さんか! 了解、お願いします!」

青年――シェパードの言葉に対し、緋真は待ってましたと言わんばかりに素早く手元のウィンドウを操作する。

その瞬間、俺の目の前には、緋真の手元と同じようにシステムウィンドウが表示されていた。

『パーティメンバー《緋真》より、レイド申請が発行されました。受理しますか?』

「先生っ!」

「あいよ」

何のシステムなのかはよく分からんが、緋真がこのタイミングでやったことだ、疑うようなことはない。

俺は躊躇うことなくその申請を受理し――その数瞬後、俺の視界にはメンバーの表示以外に、見慣れぬ『レイド結成中』という表示が浮かび上がっていた。

「大丈夫です! 先生、行ってください!」

「了解、いつも通りにいくぞ」

「はいっ!」

緋真の言葉と共に、俺たち三人は躊躇うことなく前方へと向けて飛び出していく。

ルミナも既に慣れたものではあるが――他のプレイヤーと共に戦うのは久しぶりだ。

どの程度の者であるかお手並み拝見、と言いたい所ではあるが、どこからどう見てもこの男は変わり種だ。

しかも、緋真はこいつのことを『シェパード』と呼んでいた。

その名は正しく、興味を抱いていた《テイム》専門のプレイヤーとやらだ。

となると、こいつが連れているこの魔物たちは、全て《テイム》で仲間になった存在なのだろう。

これはまた――

「思った以上に面白そうな奴だな」

二本足で立ち、二匹の猿からの攻撃を受け止めている熊の横をすり抜けながら、俺は笑みと共に小さく呟く。

敵の殲滅と、シェパードの戦い方。その両方に興味を抱きながら、俺は刃を振るっていた。