軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

599:静寂の歌声

再び音の消えた世界の中、エリザリットの発現した魔法の数々がこちらへと牙を剥く。

やはり、聞こえている時と比べてその密度は薄いのだが、それでも厄介であることに変わりはない。

先ほどと違う点は、近くにアンヘルがいることだろう。

スレッジハンマーを放り投げた彼女は、背中に括り付けていたハルバードを強引に引き抜き、バトンか何かのようにグルグルと回転させ始める。

どういうことか、その回転による攻撃に衝突した魔法は、砕け散るように消滅した。

(スキルは使えない筈だが、武器の能力か?)

アンヘルは成長武器を持っていない。

《マルチウェポン》というスキルを使っている性質上、一つの武器に集中するメリットがあまり無いのだ。

だが、アイテムの中には成長武器でなくとも、特殊な能力を備えた逸品が存在する。

アンヘルが振り回しているあのハルバードも、おおよそそういった類の装備なのだろう。

魔法を破壊する能力があるなら、先程の攻撃時に使っておけばよかっただろうに――

(ったく、わざわざこちらの援護をするのに、大層な連携を見せてくれやがって)

アンヘルは、エリザリットをスタンさせるためにスレッジハンマーを使ったのだろう。

そして、それを命中させるために、ランドの狙撃に頼ったのだ。

あの障壁を射抜くこと自体は軍曹にもできるだろうが、回避が不可能なほぼタイムラグ無しの一瞬を狙えるのは、間違いなくランドだけだろう。

(さて、どうしたもんか)

歩法――陽炎。

先ほどと同様、緩急をつけて走り回りながら、エリザリットの攻撃の隙間を探る。

だが、奴は感情的に見えて、意外とクレバーな戦い方をする悪魔だ。

そんな単純なミスは、期待するだけ無駄だろう。

俺と緋真は、《蒐魂剣》こそあるがアンヘルのような特殊な武器はない。

この効果の発現中では、奴の魔法に対処するのが不可能なのだ。

(スキルが使えなけりゃ近寄れないか。何とも情けない話だ)

実際のところ、近寄ること自体は可能だろう。

だが、攻撃を加えたところで確実に相手を殺し切る手段が無い。

そして一撃で仕留め切れないならば、反撃によってこちらが倒されることとなってしまうだろう。

そのような勝算のない博打に出るわけにはいかない。

アンヘルがこちらに来たことによって多少的は分散したのだが、それでも回避に専念しなければならない密度だ。

(チッ……やはり、多少防御を捨てなければならんか)

倒す手段はいくつか思いつく。しかし、それを実行可能な段階まで状況を動かす手段が無い。

いくつものHPバーを持っている侯爵級悪魔を相手にするには、瞬間的に大ダメージを与えるだけでは足りないのだ。

安定して戦える戦況を作り出し、その上で相手の手札を潰し続けるしかない。

今のままでは、どこかのタイミングでこちらの戦力を潰されてしまうことになるだろう。

(ったく、厄介な!)

建物を足場に跳躍し、飛来した氷の弾丸を回避する。

単発の威力は低い氷であるが、命中した場所が凍結するのは面倒な追加効果だ。

特に、水の魔法が命中して水たまりになっていた場所は、より広く凍結してしまう。

炎を纏った緋真はその熱量で何とかしているのだが、俺やアンヘルはそうもいかない。

アンヘルはハルバードで魔法に対処できる分、一番割を食っているのは俺だろう。最も敵意を向けられているのも俺だしな。

舌打ちも音にならず、とにかく回避に専念するが――このままでは、近い内に足場を奪われてしまうだろう。

(クソ、もうちょっと急いで《空歩》を取得できるよう、スキルレベルを上げておくんだったか)

どのみち間に合う筈もない妄言に自ら苦笑し――その直後。

こちらに近づいてきた気配を捉え、俺は思わず眼を見開いた。

慣れ親しんだその気配。まず最初に駆け込んできたのは、剃髪の大柄な男であった。

「――――ッ!!」

全身にうっすらと金色のオーラを纏った巌は、その光を足に集中させ、勢いよく槌脚を放つ。

その瞬間、地面を伝って周囲へと広がった金色の衝撃が、周囲の氷をまとめて打ち砕いた。

だが、これは物理的な攻撃力によって砕いたわけではない。今の金色の光に、魔力と反発するような効果があったようだ。

どのような方法を使ったのかは分からないが、詳細は後だ。視線を合わせた巌は深く頷き、足に集中させていたオーラを両の拳に移動させる。

そして、巌は臆することなく、遥か格上のエリザリットへと向けて駆けだした。

(他の連中もか。ったく、馬鹿共め)

こちらへと近づいてきた気配は四人。言うまでもなく、師範代たちである。

どうやら、この沈黙の効果の中でも気にすることなく、迫る悪魔たちを返り討ちにして近付いてきたようだ。

とはいえ、それは当然門の側の防御力低下を意味する。あまり長い間、この状況で戦うわけにはいかない。

巌がある程度魔法に対処できることを確認したたため、俺は彼を盾にする形でエリザリットへと距離を詰める。

当然、エリザリットは眦を吊り上げてこちらに殺意を向けてくるが、こちらに集中すれば当然他への意識が散漫になるものだ。

(……まあ、あの馬鹿はどうかと思うが)

攻撃の密度が下がったことを直感的に察知したのか、何と戦刃が何の遠慮も無く烈震で駆け出した。

急激な加速と無防備な接近に面食らったのか、エリザリットの反応は僅かに遅れる。

その一瞬で接近した戦刃は、何も考えていないかのように蜻蛉の構えから白輝を撃ち降ろした。

スキルも乗っていない、ただの純粋な攻撃。当然ながら、エリザリットはその攻撃を防御する。

だが、戦刃も防がれることは分かっていたのか、そこに動揺はなく。横合いから魔法を回避して接近した水蓮とユキが、エリザリットへと斬撃を放って反撃を中断させた。

(切り札はまだ切るべきじゃない。ここは、普通に削る!)

いまのエリザリットのHPバーは残り僅か。

これだけは、こちらの手札を切ることなく削り切ってしまいたい。

四人が加わったことでエリザリットの攻撃が分散し、こちらにも多少の余裕ができた。

まあ、未だに攻撃は苛烈で、集中しなければあっという間に潰されてしまいそうであるのだが。

「――――ッ!」

魔法が減ったことによって再び動き出したアンヘルが、先程地面に突き刺していた槍を引き抜き、それを強引に放り投げる。

突撃槍(ランス) を地上で扱っていたこともそうだが、槍投げに使うのもどういう筋力をしているのか。

とはいえ槍が弾丸のような勢いで飛ばされたことは事実。その一撃は、エリザリットの構えた氷の盾に突き刺さって動きを止める。

そしてそれとほぼ同時、後方から飛来した多数の銃弾が、宙を舞っていた雪の結晶をまとめて打ち砕いた。

防御している間は、雪の結晶を追加できない。今、エリザリットの防御は著しく低下している状態だ。

ならば――

「ッ……!」

歩法――烈震。

巌と共に、一気に駆ける。

位置関係上、エリザリットにこちらの姿は見えづらい。

それでもこちらを狙ってくるあたり恨みの深さが窺えるが、やはり若干狙いは甘くなっている。

そして、多少の攻撃であれば、巌の拳によって弾かれるだけだ。

歩法――影踏。

ある程度接近したその瞬間、俺は強引に進行方向を変えて巌の陰から飛び出す。

エリザリットもそれを察知しただろうが、他の連中の攻撃に対処している現状では、手を回す余裕などありはしない。

そして――完全に俺へと意識が集中したその瞬間、大きく刃を翻した緋真が、エリザリットの体を背中から斬り裂いた。

「か……ッ!?」

その瞬間、音が元に戻る。

大きなダメージを受けたからか、または時間切れになったのか。

どちらにしろ、このタイミングで途切れてくれたのは幸運だ。

「《ワイドレンジ》、《練命剣》【命衝閃】!」

斬法――剛の型、穿牙。

突き出した一撃に、黄金の輝きが槍となって纏わりつく。

閃光の如きその一撃はエリザリットの胸を貫き、奴が持つ二つ目のHPバーを完全に消し去っていた。