軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

593:第二防衛ラインへ

都市内へと入る悪魔たちと、それを迎撃する久遠神通流の剣士たち。

そして、悪魔の先鋒に立つエリザリットと、それを抑える俺たち。

戦況は、奇妙な膠着状態にあると言ってもいい。

この状況下では、普通ではここまでの膠着は発生しない。敵は防壁を乗り越えて内部まで侵入し、その圧倒的な戦力差で後退するこちらを追撃してくることとなるからだ。

こういった場合、殿を務める者たちはほぼ死兵であると言ってもいい。よほど準備良く後退する手はずを整え、更にタイミングまで含めて完璧に動かなければ、無傷での退避など不可能だろう。

そこでうまく働いてくれているのが、ファムが用意したであろうあの聖火だ。

どうやって聖火を燃やし続けているのかは分からないが、外壁は未だに燃え続けており、悪魔の侵入を阻んでいる。

こちらまで来れているのは、空を飛ぶことができる連中と、エリザリットが破壊した門を通って来た個体だけだ。

「《蒐魂剣》、【断魔斬】!」

青く輝く軌跡にて、エリザリットの雪の結晶を薙ぎ払う。

《蒐魂剣》で破壊すれば消滅するため、周囲に攻撃を撒き散らすことはないのだが、やはりすぐに補充されてしまうため鼬ごっこだ。

とはいえ、減らさなければ増えるだけなので、やるしかないのだが。

しかし、そうして雪の結晶に苦慮する俺に対し、エリザリットはただニヤニヤとした笑みを浮かべているだけだ。

やはり、こいつは今のところ、積極的に攻めてくるつもりはないのだろう。

(性格の悪さに助けられるってのも妙な気分だが)

現状、俺たちも積極的に攻めるつもりはない。そして、エリザリットはこちらをいたぶるつもりであるため、本気での攻撃を仕掛けてはこない。

攻めあぐねている俺の姿を見て、悦に浸ることが目的だ。

そう考えるとその顔面を蹴り飛ばしたくなってくるのだが、積極的に攻めてこないのであればこちらとしても都合がいいことは事実。

本気にさせ過ぎない程度に戦う方がいいだろう。

一方で、エリザリット以外の悪魔については、ほぼ完ぺきな形で迎撃することができている。

まあ、多少の撃ち漏らしはあるかもしれないが、この状況では撤退中の部隊にさえ攻撃を受けなければ問題はない。

これだけの時間が稼げたならば、そろそろ――

『――ようシェラート、生きてるか?』

「……ああ」

タイミングよく来た軍曹からの通信に対し、俺はエリザリットに気取られぬようにしながら返す。

俺が敵の目の前にいることを理解したのだろう、軍曹もまた、こちらに一方的に話すような形で言葉を続けた。

『全部隊の撤退が完了、逃げ遅れてる連中もいるが、そいつらは無視だな。お前のところのクランメンバーも、こっちに向かってきてるみたいだぜ』

とりあえずは朗報だ。エリザリットからの追撃を、ほぼ無傷で躱すことができたと言えるだろう。

つまり、作戦第二段階への移行準備が完了したというわけだ。

本来であればもうちょっとスムーズに行けていたのだろうが、まあこの程度ならば想定の範囲内だろう。

『で、お前だが……こっちで撤退の援護をする。一瞬でいいから、周りのスノークリスタルを片付けてくれ』

難しいことをあっさりと言ってくれるものだが、ここはやらなければなるまい。

ここで離脱することになるのであれば、ちょうどいい、大盤振る舞いさせて貰うこととしよう。

「ルミナ、セイラン、シリウス! まとめてぶっ放せ!」

「っと、ここでですか! 【紅桜】、【火日葵】!」

俺の声を聴いた緋真が、まず紅蓮舞姫のスキルを放ち、無数の爆発を巻き起こす。

それに巻き込まれた雪の結晶達はまとめて弾け飛ぶが、距離があるためその破裂による攻撃はこちらまでは届かない。

そして、その直後、頭上よりいくつもの光と雷がエリザリットへと向けて降り注いだ。

「ちっ……!」

流石に防御しないと防ぎきれないと判断したか、エリザリットは雪の結晶の追加を中断し、防御魔法を発動する。

ルミナたちの魔法は雪の結晶を次々と破壊はしたものの、その防御魔法を貫くことはできず、エリザリットにはダメージを与えられなかった。

そこに襲い掛かるのは、シリウスのブレスである。そこそこ体力を削られてしまっているシリウスだが、それでも余裕で動き回れる程度には健在だ。

その口より放たれるブレスは、周囲の雪の結晶ごとエリザリットを巻き込み――けれど、その防壁までは破れずに終わる。

「フン、やってくれるじゃない。でも、アンタたちの攻撃程度で、このアタシを――」

無傷のエリザリットは、勝ち誇った表情で防御を解き、再び結晶を生み出そうと魔法を発動する。

――そう、エリザリットは、この雪の結晶の生成と、防御魔法の展開を同時に行うことができない。

故に、全ての結晶を失い、再構成するそのタイミングこそが、軍曹の求める最大の隙となるだろう。

『――ナイスだ、シェラート』

一瞬の閃光。そして、遅れて響く銃声。

それと同時に、エリザリットの体は大きく仰け反った。

軍曹が放った弾丸は、彼らしい精密な射撃によって、エリザリットの額に吸い込まれるように命中したのだ。

だが――

(脳天にライフルを喰らって、仰け反るだけだと!?)

大きく仰け反ったエリザリットは、仰向けに倒れそうになり――しかし、たたらを踏むようにバランスを取る。

軍曹の弾丸は確実に命中した。しかし、それでもこの小娘は倒れることすらなかったのだ。

だが、それでも動きを止めたことは事実。奴が復帰する前に、大きくダメージを与えて動きを止めようと足を踏み出す。

しかしその足は、エリザリットの前に現れた赤い影を眼にして止まることとなった。

「……ようやく、隙を晒してくれたわね」

「がは……っ、アンタ――」

エリザリットの心臓に刃を突き立てたアリスは、体を戻したエリザリットの顔を覗き込む。

その瞬間、割れた額から緑の血を流していたエリザリットは、すとんとその表情を消して硬直した。

それを目にし、俺は即座に叫ぶ。

「セイラン、来い! 撤退だ!」

上空にいたセイランは、すぐさま翼を羽ばたかせ、こちらへと降下してくる。

そして俺は、エリザリットから刃を引き抜いてこちらへと走ってきたアリスの手を取り、走りながらセイランの背中へと跳び乗った。

ペガサスを出した緋真、そしてルミナとシリウスがこちらに続いてくるのを確認し、急いでその場から離脱する。

そして奴の射程外まで逃れたタイミングで、俺はようやく息を吐いた。

「今のは《闇月の魔眼》か……助かった、ありがとうな」

「こっちも全然攻撃ができなくて、フラストレーションが溜まってたから。ちょうど良かったわ」

アリスの種族スキルである《闇月の魔眼》は、瞳を合わせた相手に対し、耐性を無視して強制的に『放心』のバッドステータスを与える能力だ。

高い耐性を持っている悪魔といえども、この効果から逃れることはできない。条件が厳しいとはいえ、非常に強力なスキルだ。

とはいえ、『放心』はそこまで強い状態異常というわけではなく、ほんの数秒動きを止められる程度のものでしかない。

あのまま追撃したところで仕留め切れるものではないため、撤退が安定だろう。

「で……何とか離脱できたけど、ここからどうするの?」

「まずは軍曹たちと合流だな。そうしたら……あの荒れ狂っているクソガキを何とかする方法を考えるか」

眼下では、正気に戻ったエリザリットが当たり散らすように魔法を放って、街の一角を破壊している。

あれに巻き込まれたら堪ったものではないし、離脱しておいて正解だっただろう。

しかし、結局はあれを仕留めなければならないわけであるし、対策は必要だ。

「ここから先が本番って話だったけど、どうするのかしら」

「さてな。あの女が何を仕込んでいるかは分からんが……貯蓄を派手に使うことになるのは間違いないだろうよ」

準備は綿密に行うくせに、いざ実行するとなると非常に派手なことをやらかすのは、あの女の特徴とも言える。

今回はそれほど準備時間が無かったのだが、それでもあんな燃える防壁まで準備したのだ。

恐らく、あれ以上に派手な何かを準備していることだろう。

辟易はするが、悪魔共の吠え面を見られると思うと悪くはない。早いところ、次なる作戦を確認することとしよう。