軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

587:防衛戦

街の西側の外壁。その上に集まってきているのは、少数精鋭とも呼べるメンバーであった。

まず、『キャメロット』の各部隊の中でもレベル、実績共に高いプレイヤーの面々。

中には射撃部隊の隊長である高玉も含まれており、アルトリウスの本気が窺える。

一方で、彼らの数はそこまで多くはない。恐らく、数を少なく見せるためにそのような編成にしているのだろう。

そこに加わっているのが軍曹のパーティで、尚且つ軍曹は自分が調練したプレイヤーたちを配下にレイドを組んでいるらしい。

「しがらみと面倒を嫌うアンタが、よく一般人に訓練なんかつけたもんだな?」

「ミリタリー好きってのはどこにでもいるもんだからな」

「ああ、ミリオタにエサを与えたわけですか……」

軍曹の説明を聞き、緋真は若干呆れた表情で彼の配下たちを見回す。

統一した迷彩服風の装備であるのだが、果たしてこの防壁の上で機能を発揮するのだろうか。

とはいえ、軍曹の経験、知識は本物であり、彼らは軍曹のハンドサインをきちんと理解して待機している。

何だかんだと、作戦行動を取る上では問題は無さそうだ。

「実際に訓練を付けたのはランドの方ですけどね。軍曹は時々来て隊員たちをボコボコにして帰ってただけですよ」

「おいおい、本場のCQCだって喜んでた連中ばっかだったぜ?」

「時々思うが、あれで喜ぶ連中って何なんだろうな……」

アンヘルのツッコミに対して、軍曹はあっけらかんとした表情で笑う。

まあ、大体予想していたところではあるが、面倒事はランドに押し付けていたようだ。

その割には隊員たちにも慕われているようであるが――まあ、そこはいつものことか。

「で、軍曹。敵の様子は?」

「そろそろこっちのことも気にし始めてるようだぜ? ほら、見てみろ」

言いつつ、軍曹はこちらへと双眼鏡を投げ渡してくる。

軍で使われていたようなものとは異なる、古めかしいデザインの品物ではあるが、どうやらきちんと運用可能であるようだ。

恐らく、これも『エレノア商会』が開発した品物なのだろう。

感心しつつも軍曹が見ていた方向へと双眼鏡を向けると、確かに騎獣に乗った悪魔たちがこちらの様子を窺っているのが見て取れた。

「偵察兵か……どっちに来ると思う?」

「どっちでも構わんがな。分けてくれるのが一番いいが」

「東側は東側で本気ってわけか」

「あっちも、兵力は十分に割り振っているからな。東側なら近づかれてもしばらくは持つと思うぜ? 何せ、他のプレイヤーもあっちに誘導してるからな」

この場に『キャメロット』以外の戦力をあまり見ないと思ったら、どうやら北や東に誘導していたらしい。

足並みを揃えられない連中がいても、俺たちには活かしきれないし、それはそれで構わないのだが――

「それはちょっと、数の違いが露骨過ぎないか?」

「誘われているのは相手も理解してるだろうよ。その上で乗ってくるかどうかさ」

どうやら、東に攻めてこようが西に攻めてこようが、結果は同じであると判断しているらしい。

つまり、戦力を集中している東と比べても、こちらが戦力的に劣っていないという判断なのか。

その想定が正しいかどうかはともかく、数的に劣っていることは紛れもない事実なのだから、あまり露骨に減らす真似はやめてほしいのだが。

「あえて罠の中に飛び込んでくるか、それとも数に任せた力押しをしてくるか。シェラート、お前はどっちに賭ける?」

「あ、私はこっちに来てくれた方が面白いので、こっちがいいです」

「そりゃ予想じゃなくて希望だぞ、アンヘル」

面白がっている様子のランドの言葉に、軽く嘆息を零す。

もしもこちらを罠と警戒して、わざわざ戦力の多い東側に向かうのであれば、警戒心が強く堅実だと判断できる。

想定外の事象を嫌い、そして数で勝っていることを理解した上での戦闘を行うだろう。

あまり慎重派だとファムの罠も一部見破られてしまうかもしれないため、これをされると少々厄介だ。

逆に、誘いと理解した上でこちら側に攻めてくるのであれば、敵はこちらの罠を踏み潰した上で突破できると判断していることになる。

自信家であり、かつ用兵に優れている可能性が非常に高い。

こちらの方が、ファムの感覚的にはありがたいのだろうが。

「……恐らく、こっちに来るだろうな」

「その心は?」

「アルトリウスは、こっちに来た方が都合がいいと考えているからさ」

東側はプレイヤーの数が多く、そのおかげもあって統制が難しい状況だ。

その場合だと、単純明快な作戦以外は実行が難しい。

こちらから打って出ることが難しい以上、やることは単純――有効射程に入ったら撃つ、それだけだ。

プレイヤーによって攻撃射程はまちまちだが、そのおかげで偵察部隊も近付きづらい状況だろう。

「悪魔共に伝わるのは、あっちの 異邦人(プレイヤー) の数が多いことと、偵察も行いづらいってことだけだ。その点、こっちは情報を集めやすいだろ」

「偵察の邪魔はしていないからなぁ」

「得られる情報の量が違う。敵が慎重派であったとしても、自信家であったとしても――そして、罠と気付かなかったとしても、こちらに来る可能性は十分にあるだろう?」

「確かにな。そうなる可能性は高そうだ」

どうせ自分もそう思っていただろうに、ランドは笑みを浮かべながらそう答える。

アルトリウスは、最初から俺たちに防衛戦を任せようとしていた。

であれば、こちら側に敵を誘導するように動くことだろう。

敵がその通りに動くかどうかは分からないが、最初からこちらに来ると想定しておいた方がいい。

と――そこで、軍曹が北の方へと視線を向けた。

「――音が変わったな」

「音、ですか?」

「そうだぜ、サムライガール。戦場で音ってのは重要だ。常に耳を澄ませておいた方がいい」

軍曹の言葉に、緋真は耳を澄ませているが、生憎と変化は理解できなかったようだ。

だが、確かに軍曹の言う通りだ。北の方から聞こえていた、射撃音のリズムが変わっている。

砲撃はテンポよく行うものだ。そのリズムが変化したということは、当然敵側の戦力に何かしらの変化が訪れたということになる。

「ルミナ、セイラン! そろそろ来るぞ!」

「はいっ!」

「クェエッ!」

俺の声に、上空のルミナとセイランが威勢よく応える。

それと共に、ルミナたちは北西側へと位置を移動させた。

恐らく、敵が来るとしたらそちら側の方角からだろう。

「頭上は天使様にお任せだな」

「プロペラもエンジンも煩くない天使で良かったじゃないか」

「ハハハ! 雷の音は煩いがな!」

威勢よく笑う軍曹の言葉に苦笑する。

何故なら、その言葉の通り、セイランが雷の魔法を放ち始めたからだ。

どうやら、上空で接敵し始めたらしい。

「まずは航空戦か。天使様には頑張って貰わなきゃな……さて、俺たちも仕事だ」

言って、軍曹は横へとハンドサインを送る。

休息ではなく戦闘待機――いつでも攻撃行動に移れるよう、銃のセーフティを解除しろという命令だ。

それを受け、軍曹の配下たちは一斉に銃の準備を開始する。

使用しているのは、軍曹と同じくスナイパーライフル型の魔導銃。

しかし、彼らはそれを抱えたまま遮蔽物に背を預けるようにしながら座り込み、外には姿を見せずにいる。

「……いつ訓練したんだ?」

「時々襲ってくる悪魔共を相手に、ちょっとな」

アルトリウスが取っていた作戦を、上手いこと活用していたらしい。

隊員たちは随分と慣れた様子で、過度な緊張の様子もない。

慣れた仕事をこなす――その意気が伝わるようだ。

彼らの様子に、思わず笑みを浮かべながらこちらも鯉口を切る。

壁に隠れながら見る外の景色。その先に、僅かに蠢く軍勢の姿が目に入った。

「軍曹」

「ああ」

ハンドサイン、射撃準備の合図。

それと共に、彼らは一斉に銃を構える。そして――

「――撃て」

一瞬で照準を付けた彼らは、同時に第一射を放ったのだった。