軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

057:山間の関所

山と山の間、谷のようになっている場所に建設された、巨大な門。

それは、このアルファシア王国と、隣国との境となる国境の関所だ。

両側はかなり険しい山となっており、そちらを通り越すのは中々に困難な地形となっているだろう。

少数ならば無理とは言わないが、軍勢で通り越せるような山ではない。

そういう意味では、この関所は両国にとって重要な施設であると言えるだろう。

だが――

「閉まってますね」

「ああ……人の気配もないな。関所だって言うなら、誰かしら居るかと思ったんだが」

俺たちの前に姿を現した関所は、その重厚な門を閉ざしたまま沈黙していた。

恐らくは両国の兵士が存在しているものだと思っていたのだが、生憎と人の姿は全く見受けられない。

しかしながら、何かの事件が起こったという気配も感じられない。戦いの気配や痕跡も感じ取れないのだ。

ただ単純に、閉ざされた門があるだけ――そんな印象を受ける光景である。

「んー……まだこの先は実装されてない、ってことなんですかね」

「あん? ああ……こういうゲームだとそういうこともあるのか?」

「って言うか、ゲームならよくあることですよ。条件満たさないと先に進めないなんて、普通ですって」

まあ、ゲームに慣れている緋真がそう言うのならば、そういうことなのかもしれないな。

少なくとも、争いの気配がないことだけは確かだ。であれば、この場で俺にできることもあるまい。

無理やり潜り抜けることに対するメリットも、あまり感じないしな。

とりあえず、関所のことはいいだろう。何か起こる気配も無いし、放置する他無い。

当初の目的はこれで果たせてしまったわけだが――ならば、後は修行に集中すべきだろう。

「よし、なら山籠もりだな」

「……ちょっと、いきなり何言ってるんですか先生」

「元々、イベントまでのレベル上げも目的の一つだ。なら、ちょうどいいだろう? 敵はそれなりに強く、数も多い。ついでに言えば、この関所の周囲は魔物の気配も少ないから、休憩拠点も確保できる。いい立地じゃあないか」

「えーと……あ、でも、確かにそうかも?」

半眼でこちらを見つめていた緋真であるが、改めて考えて、ここが狩場として使い易いことに思い至ったのだろう。

何しろ、まだ他のプレイヤーの気配がない地域だ。この場を独占できれば、ルミナの成長にも拍車がかかるだろう。

まあ、山籠もりの難易度としては随分と低いものではあるが。

身一つで山奥に放置されるのと比べれば、ただのハイキングのようなものだろう。

「というわけだ。ルミナ、今日はログアウトするまでひたすら修行だぞ、覚悟しておけ」

「はいっ、がんばります!」

「終わったら関所のすぐそばで野営ですね。ま、人が来るまでに稼げるだけ稼いでおきますか」

どうやら、緋真も乗り気になってきたようだ。

反対意見がなくなったのであれば話は早い。時間を無駄にせず、さっさと修行に入るとしよう。

差し当っては――

「とりあえず、狙いは猿と蜂だな」

「まあ、時間効率はいいですよね。素材単価は低そうですけど」

「問題は、夜になったらどうなるかだな。出現パターンが変わるだろう?」

平地にいた頃も、日が沈んでからは出現する魔物の種類が変化していた。

主に、スケルトンやウィスプなど、アンデッド系の魔物が出現するようになるのだ。

だから、この山の中でも何かしらの変化があるかもしれない。

まあ、アンデッドが出てくるぐらいならばたいした問題ではないのだが。

光属性の魔法を扱えるルミナなら、アンデッドなど物の数ではない。

「アンデッドか、それとも夜行性の動物? あんまり厄介なのは勘弁してほしいですね」

「悪辣さを持たない相手の方がつまらんだろう。ま、獣相手にそれを期待しすぎるのも間違いだが」

「アンデッドも今の所頭悪いですしね」

まあ、今の所は基本的に動く死体ばかりだからな。

ウィスプについては若干異なるが、どちらにしろ獣と大差ない動きだ。

もうちょっと頭の良い敵が出て来て欲しい所である。

とりあえず森の中まで足を踏み入れ、関所に続く街道から離れていく。

マップで位置は確認済みだ。戻ろうと思えば、簡単に元居た場所に戻れるだろう。

「じゃあルミナちゃん、私の隣で戦ってね。先生、しばらく安定志向で行きますから、先生のペースには合わせられませんよ」

「分かってるよ。お前はルミナの面倒を見てろ――」

緋真の言葉に肩を竦めつつ、俺は飛来した石を篭手で払っていた。

こちらの頭を狙ってきたそれには、確かな害意が込められていた。

それが飛来した先にいるのは、グレーの毛皮を持つ、体長1メートルほどの猿。

フォレストエイプという名の、この辺りを代表する魔物であった。

「――俺は、適当に暴れるからな」

その姿を確認し、俺はフォレストエイプへと向けて突撃していた。

そんな俺に対し、猿は地面を叩きながら威嚇の声を上げている。

だが、ここで気を取られ過ぎれば、少々厄介なことになるのだ。

歩法――烈震。

前傾姿勢となって地を蹴り、一気に加速する。

その瞬間、俺の体は前方の猿へと向けて突撃し――それとほぼ同時に、俺が居た場所に二体の猿が降ってきた。

この猿共は、こうして奇襲を仕掛けてくる場合があるのだ。

まあ、気配は掴めているし、その程度の奇襲に引っかかることは無いのだが。

とりあえず、落ちてきた二匹は緋真たちに任せ、俺は前方の猿へと攻撃を加える。

この時、一撃で殺してしまわないことが重要だ。

「しッ!」

「ギキィッ!?」

振り下ろした一閃が、猿の左腕を肩口から斬り落とす。

こいつらは、個体で見れば大した強さは無い。若干頭は回るものの、ただそれだけの敵でしかない。

一匹のみで見れば、ルミナの練習相手にはちょうどいい程度の強さであると言えるだろう。

だが――

「キキャ――――――――ァッ!!」

猿の口から、劈くような絶叫が響き渡る。

その声は、山の中に文字通り山彦のように木霊して、遠く周囲へと響き渡ってゆく。

瞬間、周囲の森から、大量の敵意が一斉にこちらへと向けられていた。

これこそが、フォレストエイプの持つ仲間呼びの能力。

敵が際限なく現れるわけではないのだが、効果範囲内にいる猿たちは全てこの声のもとに集まってくるらしい。

「クク……さあ、来い来い。楽しい乱戦の始まりだ」

「分かってましたけど、先生!? こっちルミナちゃんの様子見ながらだから、あんまり余裕ないですからね!?」

「分かってるさ。大半は俺が相手をする。お前らは零れた奴だけでいい」

緋真の抗議に返答している内に、敵の第一陣が到着する。

真っ先にやってきたのは、木の上を飛ぶようにして移動してきた猿だった。

先ほどの奇襲のように、木の上から飛び降りた猿は、頭上から俺に拳を叩きつけようと腕を振るい――

打法――天陰。

対する俺は拳を回転させながら突き上げ、相手の一撃を逸らすように受け流しながら、降ってくる相手の眼窩に親指を突き入れていた。

そのまま相手の体勢を崩し、頭から地面へと叩き落とす。

脳に致命的なダメージを受けた猿は、抵抗の間も無く絶命していた。

これは元々、天井裏から奇襲してきた相手に対する迎撃手段として開発された術理である。

あまりにもニッチな条件であり、習得しながらも使い所などまず無いと思っていたのだが、人生とは分からないものである。

そう胸中で零して苦笑しつつ、俺は地面に突き刺していた太刀を抜き放ち、そのまま周囲を薙ぎ払っていた。

「さあ、来い! テメェらの仲間の仇はここにいるぞ!」

全方位に向かって威圧しない程度に殺気を放ち、猿共を挑発する。

流石に、これだけの数は今のルミナには厳しかろう。あまり向こうに行き過ぎぬよう、調節してやらねばなるまい。

まあ、あまり行かなすぎるのも良くないので、そこは適度に流すとしよう。

薙ぎ払った際に斬った二体の猿は、流石に急所を斬った訳ではないため、それだけで死ぬことは無かったようだ。

相手の数は多い。殺すのに手間をかけていたら、あっという間に群がられることになるだろう。

ここは効率よく行かせて貰うとしよう。

「――【アイアンエッジ】」

武器の攻撃力を高め、横から走り込んできた猿の飛び掛かりを避けながら首を撫で斬る。

猿共の攻撃は、基本的に体当たりと手による殴打。後は組み付いたのちの噛みつきと言った所だろう。

つまるところ、こいつらの攻撃のリーチはかなり短い。

投石という遠距離攻撃手段もあるが、狙いはそれほど正確ではないし、複数が一斉に投げてくるということも無い。

こちらに武器がある以上、有利に渡り合える相手だった。

斬法――剛の型、鐘楼。

傷の浅かった猿に高速の斬り上げを叩き込み、その胸を深々と斬り裂く。

直後、摺り足で回転するように体を回しながら刃を振り下ろせば、その一閃が殴り掛かってきていた猿を肩口から両断していた。

斬法――剛の型、鐘楼・失墜。

骨が細いためなのか、この猿共は中々に柔らかい。

武器を強化しておけば、両断することはそれほど難しくはないのだ。

あまり急所を狙わずとも一撃で斬れる、というのは中々にありがたい話である。

「くははははっ! どうした、そんなもんか!?」

脇構えに構えた太刀を横薙ぎに一閃、二体の猿の胴を深く裂きながら、俺は哄笑と共に猿たちを挑発する。

迫りくる数は数えきれないほど。先ほども似たようなことをやったのに、少し置いただけでこれなのだ。

本当に、狩場として優秀な場所だろう。

さて、ここでどこまで成長させられるか――楽しみだ。

* * * * *

『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀》のスキルレベルが上昇しました』

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

さて、あの後蜂の大軍も相手にしたことで、随分と経験値を稼ぐことができた。

おかげで俺もレベル20に到達し、スキルスロットを一つ増やすことができたのだ。

まあ、随分と戦闘が長引いたおかげで日も落ちてきてしまったわけだが。

「はぁ……まあ、いいですけど。蜂の時は魔法も鍛えられますし」

「突撃してくるから落とすのは簡単なんだが、ああも群れてるとな。流石に、お前たちの魔法の方が効率はいいな」

ストライクビーは、その針を使ってこちらに突撃してくるという攻撃方法を取る魔物だ。

だから、飛んでいる魔物ではあるものの、刀による攻撃で落とすことも難しくはない。

だが、一匹ずつ落とすとなると中々時間がかかってしまうのは紛れもない事実だった。

そういう時に役立つのが、緋真やルミナの持っている攻撃魔法である。

特に、緋真は魔法の消費MPを増やす代わりに威力を高める《スペルチャージ》というスキルを持っている。

これと《火属性強化》によって増幅された緋真の魔法は、火に弱い蜂共を落とすには十分な火力を持っていた。

あれが無ければ、さらに多くの時間がかかっていただろう。

「まあいいですけど。こっちも色々上がりましたし……ルミナちゃんも、結構上達しましたしね」

「打ち込みもかなり正確になってきたな。重心移動はまだ拙いが、最低限は行けるようになったか。引き続き教えてやれ」

「流水も、ですよね。分かってますよ。それより、先生のスキル枠はどうするんですか? 普段から《採掘》を入れておくわけではないですよね?」

「ああ、取るスキルはもう決まってるんだ」

緋真の言葉に頷き、俺はスキルの習得画面を表示させる。

何のスキルを取っていくかは、もう以前から決めてあった。

と言うのも、今後のスキル強化のために何を取っておいた方がいいかということは、以前に助言を貰っていたからだ。

そう、他でもない、この世界の住人達から。

■《生命力操作》:補助・パッシブスキル

HPを消費するスキルを効率化させる。

効果はスキルレベルに依存する。

この説明を読むだけではよく分からないが、《生命力操作》のスキルを習得することにより、《生命の剣》で使用するHPの量を操作できるようになる。

まあ、今のレベルではそれほど期待できるものではないだろうが、それよりも重要なのは、上位スキルである《練命剣》を覚えるのに必要であると言われたことだ。

いずれはあの魔剣を覚える為にも、このスキルは育てておきたい。

「まーた変なスキル取って……いやまぁ、先生のスキル構成なら有用なんでしょうけど」

「使えるんだから構わんだろう? 早速試したいところだが――」

その時、感じた違和感に、俺は視線を横へと向けていた。

敵意や殺意とは異なる、だがどこか異質で冷たい気配。

これまで感じたことの無い気配に、俺は即座に警戒態勢へと移行していた。

「おとうさま?」

「構えろ。何かが来ているぞ」

緋真とルミナに警告し、太刀を構える。

ルミナの作った魔法の光源によって、視界は確保されている。

その先から現れた影は――大量の、地を蠢く生物たちだった。