作品タイトル不明
560:準備期間
あの後、アルトリウスに先ほどあった戦いについて報告したところ、戻ってきた返答は俺と同じ結論であった。
即ち――情報を整理するから、攻撃は一旦中止というものだ。
確かに、あの都市は新たな要素があまりにも多すぎる。相手の戦力の削減もどこまで効果があるのかは不明であるし、もう少し作戦を練った方が無難であることは事実だろう。
まあ、アルトリウスには他にもいろいろと懸念があったようであるが、流石にそこまでは読み取れないし、意見も同意は取れていたから問題はない。
「行きますよ……《オーバースペル》、【ボルケーノ】!」
というわけで、若干時間を持て余した俺たちは、適当な場所で狩りを行うこととなった。
特に重要なのが、緋真の覚えた呪文である【ボルケーノ】の検証だ。
この呪文は起点となる場所を指定して発動するタイプで、まずその場所を中心として三本の火柱が地面から発生する。
その後、火柱の中央で巨大な爆発が発生するという、二段階に分かれた呪文となっているのだ。
この呪文の大きな特徴としては、緋真が話していたように、注ぎ込んだMPの量によって効果範囲が広がることである。
具体的には、増加したMP量によって三本の火柱の距離が広がるのだ。
そうなると、火柱の間を焼き尽くす爆発についても、その効果範囲を広げることとなる。
現在、緋真は総MPの半分を注ぎ込んだ場合にどのような効果になるか確認しているのだが――
「ふむ……直径で三十メートル以上ってところか」
「敵の一部隊をまとめて吹き飛ばすぐらいの威力はありそうな感じですね」
「まあ、MPを半分も使ってそこまで、っていうのはちょっともったいない気もするがな。だが、選択肢の一つにはなるだろう」
総合的な威力の面で言えば、間違いなくこれまでの魔法の中で最も高い。
範囲、威力共に【インフェルノ】以上の効果を持っていることだろう。
まあ、単体に対しての威力については【フレイムポイント】の方が高いようだが。
ただし、この呪文には一つだけ問題があった。
「これで空中でも使えたら万々歳だったんですけどねぇ……」
「 噴火(ボルケーノ) だからな、そういう制限もあるだろうさ」
この呪文は、どうやら地面からしか発生させられないらしい。
空中を起点とすることができず、そもそも発動させることができないのだ。
まあ、呪文の名前がそもそも 噴火(ボルケーノ) であるし、地面から吹き上がるのも当然と言えば当然なのかもしれないが。
尤も、その割には使った後に地面に穴が開いている様子もないし、よく分からない呪文である。
ちなみにだが、この呪文を《術理掌握》で取り込んだ場合、近接攻撃が非常に高い熱量を持つことになる。
それこそ、融点の低い物質は熔かし斬ってしまうほどの熱量だ。
その割には刀には何の影響もないのだから、魔法とは不思議なものである。
「普通の爆発を起こすタイプの方が扱い易かったんですけど……まあ、それは後の楽しみにしておきます」
「また次の機会を楽しみにするしかない、か」
トップを走っている以上、どのような呪文が現れるのかは全くの不明。
使い易いものが現れることを期待する他ないのである。
さて、新しい呪文の検証もある程度済んだことだし――
「シリウス、残りは片付けろ。さっき言ったことは覚えているな?」
「グルルルッ!」
俺の言葉に、シリウスは威勢よく唸り声を上げながら地を蹴る。
先ほどの緋真の魔法により、こちらを襲撃してきた魔物の大半は蹴散らされている。
だが、その範囲を逃れた一部の魔物は健在、こちらを虎視眈々と狙っているのだ。戦意が旺盛で実に良いことである。
そんな魔物たちへと向け、俺はシリウスをけしかけた。俺自身が対処してもよかったのだが、今はシリウスに経験を積ませたい。
「そろそろ、『待て』と『よし』はできるようになったみたいね」
「まあ、元々それはできないことも無かったからな」
いつの間にか戻ってきたアリスが、僅かに口元を綻ばせながらそう口にする。
流石に、シリウスが暴れている戦場では暗殺も難しいのだろう。
ルミナやセイランと違い、シリウスは実際に生まれてからあまり時間の経っていない存在だ。
そのせいもあってか、戦う時に抑えが利かないのである。
「俺が傍についている時なら声をかけて何とかなるが、お前たちの言葉だと聞こえないだろう?」
「ええ、やっぱり主従関係ははっきりしてるのかしらね」
「冷静な時なら話は聞いて貰えるんですけどね。戦闘中はダメな時が多いですよ」
これまではそれでも何とかなっていたのだが、敵の動きが変わってきた状況を考えると、今のままでは拙いと判断したのだ。
つまりシリウスに学習させ、攻撃と退避の判断力を培わせることこそが、目下の目標なのである。
「シリウスだけで暴れさせることも可能っちゃ可能だが、やはりもっと連携した方が効率的だからな……シリウス、一旦下がれ!」
「グルッ!」
俺の指示にはきちんと従い、シリウスは翼を羽ばたかせてその場から後退する。
そこに、間髪入れずにルミナとセイランが魔法を撃ちこんだ。
連携というには単純ではあるが、シリウスを目立たせ敵を集めたところに、広範囲の魔法を撃ちこむ戦法である。
シリウスは目立つため、ただ暴れているだけでも敵を集めてくれる。そこに範囲攻撃を放り込めば、あっさりと壊滅させられるという寸法だ。
『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』
『《刀神》のスキルレベルが上昇しました』
『《格闘術》のスキルレベルが上昇しました』
『《致命の一刺し》のスキルレベルが上昇しました』
『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』
『《HP自動超回復》のスキルレベルが上昇しました』
『《回復特性》のスキルレベルが上昇しました』
『《超位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
『《血の代償》のスキルレベルが上昇しました』
『《立体走法》のスキルレベルが上昇しました』
『《会心破断》のスキルレベルが上昇しました』
『《 再生者(リジェネレイター) 》のスキルレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』
『テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』
今の一撃で敵は全滅、ついでに蓄積していた経験値も相まってレベルも上がったようだ。
エリザリットの奴、公爵の力を借りたおかげで、分身にもそこそこの経験値を貯め込んでいたのか。
とりあえず、成長の具合は後々確認するとして――今は、シリウスへの教育が先だ。
「ほら、シリウス。この通り、お前だけで戦うよりもよっぽど早く仕留められただろう」
「グルル……」
「お前は強い。だが、それは俺たち全員も同じことだ。なら、力を合わせた方がよほど強くなるだろう」
シリウスは総合レベルで劣っているものの、既にルミナやセイランと同等クラスの能力を有している。
種族としての強力さが現れているといえばその通りなのだが、その能力に経験が追い付いていないのだ。
だからこそ、総合的な戦力で言えば、今のところルミナとセイランの方が高いと言えるだろう。
それでもシリウスが前に出て暴れ回るのは、ドラゴンらしい傲慢さというわけではない。
こいつがどのように考えて戦っているのかは、【アニマルエンパシー】である程度分かっているのだ。
「シリウス。お前が、俺たちを守ろうとしてくれていることは承知している。確かに、お前を盾にしなければならないような場面もあることは事実だ。だが、常にお前が矢面に立たなくてはならないほど、俺たちは弱くはないぞ」
「……グァウ」
「つまり、もっと俺たちを頼れということだ。お前ひとりが苦しい戦いをする必要はない」
俺の言葉に、シリウスはしばし考え込んだ上で頷いた。
とりあえず、これで気が逸って前に出すぎることが無くなればいいのだが――意識一つで変わるかどうかは難しいところだ。
その辺の矯正は、これからも続けていくべきだろう。
「ほら、次に行くぞ。反省するのもいいが、お前が覚えるべきことはまだまだある」
「ガァッ!」
「そうそう、その意気だ」
シリウスは、戦い方がまだまだ荒い。
全身が凶器であるゆえに、暴れているだけでも強いのだが、それでは効率的とは言えないのだ。
的確に攻撃をすることができれば、近くで戦っていても巻き込まれる心配は少なくなる。
その状態を維持することができれば、もっと密な連携を行うことも可能になるだろう。
次の進化までには、是非ともそういった戦い方を覚えて欲しいものである。
次なる獲物を求めて、俺たちは再び北の地を進み始めたのだった。