軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

056:イベントへ向けて

グラードとの話を終えた俺は、緋真たちを探して砦の中庭まで出てきていた。

中庭では兵士たちが訓練を行っており、彼らの練度の高さを窺うことが出来る。

そんな中庭の隅の方で、緋真とルミナは互いに木刀を向け合いながら構えていた。

どうやら、ルミナに自由に打ち込ませ、その打ち込みの型を矯正してやりつつ、流水を間近で見せているらしい。

剣を振るう速度にしても、ルミナに合わせているのか非常にゆっくりだ。

「どんなもんだ、緋真?」

「ああ、先生。いい感じですよ……っと。ルミナちゃん、続けて!」

「っ、はい!」

ルミナの木刀を軽々と受け流しながら、緋真は細かくルミナの動きを観察している。

ただの素振りならば精密に振れても、動きながら正しく剣を振るうということは困難だ。

それこそ、俺であってもそれは変わらない。実戦においてどこまで訓練通りに戦うことができるのかは、剣士にとっては永遠の命題であると言える。

戦場における理想と現実の乖離は、中々もどかしいものだ。

ルミナの動きは、まだ拙いものである。

直線に振り下ろすだけならばそれなりのものであるが、他の動きはまだまだであるし、動きながらであるため型の崩れが見える。

まあ、実際に動きながら剣を振るのはこれが初めてのようなものだ。

様々な構えからの素振りをやらせていたため、一応体勢を整えてからの攻撃はできているし、最初としては十分だろう。

「そう……攻撃の後、自分がどんな風に動くのかをイメージして動かなきゃダメだよ。でも、それを過信しすぎるのもダメ。相手の動きによって体勢を崩されることもあるからね」

「わかり、ました!」

振り下ろした一閃を流水で受け流され、ルミナはバランスを崩してたたらを踏む。

今のを重心移動でバランスを崩さずに耐えられるようにならなければ、久遠神通流相手に戦うことはできない。

とは言え、歩き方はできているのだ。重心の移動も、今緋真が教えていることもあり、転ぶことなく耐える程度はできるようになっている。

やり方さえ教えれば、ルミナは素晴らしい学習速度で術理を吸収していく。

稽古をつけている緋真の方も、随分と楽しそうな様子だ。

俺も、緋真に――明日香に教え始めた頃は、その吸収力に舌を巻いたものだ。

まあ、こいつの才能は吸収力とは別の所にあったわけだが。

「ふむ……お前たち、切りのいい所までやったら出発するぞ。そこそこ経験も積めただろう」

「あ、はい。じゃあルミナちゃん、もう1セットやったら終わりにしようか」

「はいっ!」

それぞれの構えからの打ち込みを再度教えていく緋真たちの様子を眺めながら、今日の予定を組み立てていく。

ワールドクエストの開始まで、現実世界の時間では今日を含めてあと四日。

それまでに、可能な限りの成長をしておきたいところだ。

特にルミナは、中途半端な実力のまま戦場に出すことは避けたい。

久遠神通流を名乗れるレベルまで――と言うのは流石に高望みのし過ぎだが、それでも前衛を張れる程度までは成長させるべきだろう。

それにはまず、ルミナのレベルアップによる特性を利用した急成長を狙わなくてはならないだろう。

(この成長にしても、いつまで続くのか分からんしな。レベルアップで身長が伸びている間は続きそうな気もするが……いつまで続くんだかな)

流石に、いつまでも続くようなものではないと思われる。

であれば、どの辺りまでを目標としておくべきか――まあ、時間の許す限りやっておけばそれ以上のことはないか。

というわけで、イベントまでの日数は積極的に魔物を狩りに行くことにする。

ただの妖精であったルミナが、果たしてどれほどの剣士になるものか……それは、少し楽しみだ。

ちなみに、現実世界の方で明日香にそれを話した時、『ゲーム内初のテイム妖精が何でそんなことになったんでしょうね』と皮肉を言われたが、こいつも共犯である。

「よし……とりあえず、今はここまで。お疲れ様、ルミナちゃん」

「ありがとうございました!」

向かい合って礼をする二人の様子に頷きつつ、俺はそちらへと近づく。

それなりに時間はかかったが、おかげでルミナも実際の動き方を学ぶことができただろう。

とは言え、それを実戦で再現できるかどうかはまた別の問題だ。

今から、それを確認せねばなるまい。

「よし、準備はいいな? それじゃあ、出発するぞ」

「はい、先生。今日はどっちに行きます?」

「とりあえずは国境の関所を確認しに行く。その後は……良さそうな所で狩りだな」

昨日まで回ってきた所もそれなりだったが、できるだけ敵が強い場所の方がいいだろう。

関所の方がどうなのかは知らないが、一度確認しておく価値はある筈だ。

そう会話をしつつ、俺たちは砦の外へと移動していく。

俺たちを迎え入れてくれた門番に軽く挨拶をしつつ外へ出れば、既に日は高い。

天気はいいし、いい修行日和であろう。

「じゃ、行くとするか。確か……ここから東寄りだったな」

「はい、頑張りましょう!」

「んっ!」

歩くのもこなれた様子のルミナを引き連れ、俺たちは街道を外れた道を進んでゆく。

向かう先は、国境となっているという山脈。

緩やかに傾斜が始まっている方面へ、俺たちは足を踏み入れていった。

* * * * *

『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀》のスキルレベルが上昇しました』

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

どうやら、進む方向としては正解だったようだ。

山脈方面に向かってから、出現する敵は徐々に強くなってきている。

以前に出会ったブラックベアーに加え、ストライクビーという蜂、そしてフォレストエイプという大きめの猿が主に出現するのだ。

この蜂と猿が中々に厄介で、結構な頻度で仲間を呼んでくるのだ。

それによって、ある程度近場にいる同種の魔物たちが反応し、延々とこちらに向かってくるのである。

と言っても、結局はその範囲内のものまでしか呼べないため、無限に出続けるというわけではないようだが。

「狩場としては中々いい効率だな」

「ドロップ品は正直大したことないですけどねぇ……蜂の針と、猿の毛皮ですし。これ、何に使えるんですかね」

「さてなぁ。その辺は、エレノアの所の職人が考えるだろう」

エレノアのクランであるエレノア商会は、店を持たない多数の生産職を雇い入れて一大マーケットを形成している。

彼女の名声はプレイヤーの間どころか現地人にも広まっており、その本店に並ぶアイテムは売れ筋の商品として認識されているのだ。

特に、その本店にはショーウィンドウが配置されており、その中に保管されたアイテムは看板商品として多くの衆目を集めている。

ちなみにこの看板商品であるが、週に一度所属する生産職たちが渾身の作品を持ち寄ってコンペティションを開いており、そこで最も票を集めたアイテムが置かれることになるのだ。

名声を得たい生産職たちは、我こそはとばかりに腕を磨いているのである。

あそこに渡しておけば、何かしら面白いものが出来上がるかもしれない。

「まあ、修行にはちょうどいいかもしれんな。ほれ、ルミナのレベルがもう上がったぞ」

「早くも二つ上がりましたしね。確かに効率はいいかも」

レベルが二つ上がったことで、ルミナはまた大きくなっている。

前の時と比べれば、およそ一年分ぐらいの成長になるだろうか。

そろそろ小学校の中学年ほどかと思われる姿となったルミナは、久遠神通流としての動きもかなり上達してきていた。

刀の振り方、そして刀を使った立ち回りも覚え、下位の門下生程度の実力は備えてきたことだろう。

「緋真。体も安定してきたし、そろそろルミナをお前の隣で戦わせてもいい。重心移動について詳しく教えてやれ」

「分かりました。そこが終わったら、そろそろ一人で戦えますかね」

「終わるまでに流水を使えるようになっていたらな」

流水を使えるか否かで、生存確率は大きく変わるだろう。

久遠神通流にとっては命綱となる業だ。これが編み出されなかったら、久遠の家は遥か昔に滅んでいただろう。

それだけ、危険に首を突っ込み続けてきた家系なのだ。

「さて、そろそろ関所も見えてくるころだろうが――ッ!」

ルミナに指導を始めた緋真から視線を外し、進む先へと視線を向けたその瞬間、背筋の粟立つ感覚に咄嗟に体を傾けていた。

その直後、飛来した水の飛礫が、俺の顔面があった場所を貫いてゆく。

魔法による攻撃だ。しかし、これまで出会った敵の中には、魔法で攻撃してくる相手はいなかったのだが――

「――新手ってわけか」

太刀を構え、魔法が飛来した方へと向けて走り出す。

同時、ひり付くような感覚と共に、再度飛来する水の弾丸。

――だが、見えているものであれば問題は無い。

「《斬魔の剣》」

カーブを描きながら飛来する、三つの水の弾丸。

俺は加速しつつ前に出ながら、俺に当たる一つのみを切り捨て、更に前へと進んでいく。

今の魔法の発射地点、そこにいたのは――宙に浮遊する、小さな人型の生命体。

見間違えるはずもない、以前のルミナによく似た姿の存在だった。

■マッドハイフェアリー

種別:魔物

レベル:23

状態:アクティブ

属性:水・闇

戦闘位置:空中

その名は、 狂った(マッド) ハイフェアリー。

どのような理由かは知らないが、魔物に堕ちた妖精ということだろう。

ともあれ――

「キヒヒヒヒヒッ!」

「はっ、その様で妖精を名乗るなよ、薄汚い羽虫が」

放ってくる魔法を《斬魔の剣》で散らしつつ妖精へと接近するが、相手は空を飛んでいる。

俺は遠距離攻撃手段を持っていないので、正直厄介なのだが――まあ、森の中ならばどうとでもなる。

俺は地を蹴り、更に木の幹を蹴って垂直に駆けのぼり、妖精の頭上を取っていた。

邪悪に歪んでいたはずの妖精の顔は、今は驚愕に目を見開いて、茫然とこちらを見上げる表情へと変わっている。

その顔面に叩き付けるつもりで、俺は全身の回転で太刀を振るっていた。

「――《生命の剣》」

黄金の燐光を纏う太刀が、虚空に軌跡を描きながら振り下ろされる。

狙い違わず妖精の顔面に命中したその一閃は、小さな体躯を一撃で真っ二つに斬り裂いていた。

レベルが高いとはいえ、所詮は貧弱な体力しか持たない妖精。

この一撃に耐えられるはずも無く、HPは完全に尽きていた。

空中でぐるりと回転した俺はそのまま回転を生かしつつ地面に転がり、体勢を整えながら落下の勢いを殺す。

一応警戒はしたが――どうやら、敵は一匹のみだったようだ。

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

「ふむ……面倒な相手だが、魔法を使ってくるのはこいつぐらいか」

《斬魔の剣》を鍛えられる相手は中々貴重だ。

プレイヤーから飛んでくる魔法を斬るのでもいいのだが、それでは魔法を使う側の方はスキルのレベルが上がらないらしい。

さすがにそんな作業をやらせるわけにもいかんし、こういう魔法を使ってくる相手は貴重なのだ。

「……さて、目的地はあそこか」

先ほど高く跳躍した時、木々の間から建造物のようなものが目に入っていた。

どうやら、あそこが目的地である関所のようだ。

俺は、追いかけてくる緋真たちのことを待ちながら、目的地の方へぼんやりと視線を向けていた。