軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

551:迫撃砲の調査

回復と準備を終えた俺たちは、再び街へと接近を開始した。

今回は流石に警戒されていると思われるため、身を隠せる位置を探しながらの接近となる。

少なくとも、毎度同じ方向からの接近は避けなければならないだろう。

幸い、西側に行ったところに川が流れており、その近くには森林地帯がある。

ここならば、身を隠しながらある程度の距離まで接近することができるだろう。

少し遠回りをしたため、何度か魔物と遭遇し、その間に蓄積した経験値によってもう1レベル上がってしまったが、これは稼ぎの良さが証明されたということでもあるだろう。

「とはいえ、これ以上の接近は難しいか」

「流石に、これ以上進むと気づかれそうですね」

たとえシリウスを隠していたとしても、これ以上近付けば気付かれてしまう。

敵が出てきたら出てきたで対処することに変わりはないのだが、都市に攻撃をせずに撤退戦に移ってしまうのは勿体ない。

今後のためにも、少しぐらいは都市にダメージを与えておきたいところだ。

「うーん……一応、遠距離攻撃の範囲に届く程度まではゲートを繋げられそうだけど」

「それなら、少し飛べば都市の中まで攻撃をブチ込めそうだな。まあ、シリウスが体当たりして壁を壊すという手もあるが」

「強度が分からないんだし、止めておいたら? 角が刺さって抜けなくなったりしたら悲惨だし」

アリスの言葉に、思わず想像してしまい苦笑を零す。

シリウスの頭部には、衝角の如き鋭い角が生えている。

あれが深々と突き刺さった状態で動けなくなれば、確かに大きなピンチとなってしまうだろう。

体から体当たりをすればその危険はないだろうが、どちらにしろ勢い余って都市の中まで入り込んでしまう可能性はあるし、もう少し中の様子を確かめてみてからでもいいだろう。

「それで、さっきと同じようにゲートを繋げればいいのかしら?」

「そうなんだが、その前に少し調査をして貰ってもいいか?」

「もしかしなくても、迫撃砲のことよね。確かに調べておいた方がいいとは思うけど、私だと見ても何も分からないわよ」

「写真で撮って貰うだけでも十分だ。ある程度のところまで分かれば色々と予想もできるからな」

迫撃砲については、今アルトリウスが対策を練っている筈だ。

たとえ僅かでも、情報があれば立てられる対策も多くなる。

実際にどこまで考察が進むかは不明だが、少なくとも今のままよりはずっと対策も取りやすくなるだろう。

「もし可能であるなら強奪なりしてきて欲しいが、流石にそう簡単にはいかないだろうからそれはいい。破壊も今回はいい」

「いいの? やろうと思えばできると思うけど」

「そこまですると都市を守っている側が本気になってくる可能性が高いからな。あれがエインセルの手勢による配置であると考えた場合、そこまでするのはリスクが高い。もう少し様子を見てからの方がいいだろう」

今回の目的は、あくまでもエリザリットに対する挑発だ。

少なくとも、奴のことが解決するまではそこまでしない方がいいだろう。

もし破壊するとしたら、あの街に攻め入る直前だ。その方が対策も取られづらいし、いざという時の切り札としておきたい。

「……まあ、了解。とりあえず、写真を撮るだけに留めておくわ」

「ああ、よろしく頼む。気を付けてな」

その言葉に小さく微笑んだアリスは、そのままスキルを発動して姿を消す。

今回は調査を含んでいるし、すぐに終わることはないだろう。

しばらくは時間を潰して、アリスが戻ってくるのを待つこととしよう。

* * * * *

(さてと……迫撃砲、ねぇ)

クオン達から離れ一人都市への潜入を開始したアリシェラは、とりあえず姿を隠したまま真っ直ぐと進み、都市の外縁部に到着した。

見上げる外壁は、要塞化された都市と比べれば高くはないが、やはり二階建ての建物程度の高さはある。

尤も、返しが付いていない壁など、アリシェラにとってはあっても無くても変わらない程度のものでしかないのだが。

「よいしょっと」

軽く屈伸運動をしたアリシェラは、そのまま壁へと向けて駆け出し――そのまま、垂直な壁を真っ直ぐと駆けのぼる。

先ほど進化した《空歩》のスキルは、その前段階である《立体走法》の効果を依然として含んでいる。

そのため、スキルが進化した今であろうとも、平然と壁を足場として駆けることができるのだ。

道具も使わずに外壁の上まで至ったアリシェラは、その場で身を潜めつつ周囲の状況を確認した。

完全に透明となっている状況ではあるが、それでも警戒するに越したことはないのだ。

(歩哨はいるけど、デーモンね。あれなら大丈夫そうか)

壁の上で外部を警戒している悪魔の姿――現状、アリシェラの位置から確認できるそれらは、全てデーモンであった。

たとえそれがエインセルの悪魔であったとしても、デーモンの能力だけで捉えられるほど、アリシェラの隠密は甘いものではない。

彼女はそのまま、一切音を立てることなくデーモンたちの背後を抜けて移動を開始した。

目指す先は、先程自分たちが撤退していった方角だ。

(あの時、花火みたいに光が上がっていたのはどこだったかしらね。外壁の上あたりに見えたような気がしたけど……)

今回は南西側の壁から登ったため、あの時撤退した南の門は近い。

時折擦れ違うデーモンたちには気付かれることも無く移動したアリシェラは、程なくして南門の付近に到達した。

だが生憎と、その付近に迫撃砲と思わしき兵器の存在は確認できない。

思わず眉根を寄せたアリシェラは、身を乗り出すように壁の内部、街の中を見渡した。

目に入るのは、破壊の痕跡が見える街の風景。荒れた様子からも破壊は直近のものであり、先程自分たちが撃ち込んだ攻撃によるものだと判断できる。

(そこそこ派手に攻撃をしたと思ったけど、こうして見るとほんの一部だけなのね)

流石に、自分たちだけでそこまで大規模な破壊をもたらすことはできない。

これでは、悪魔たちに対する嫌がらせにこそなるも、大きなダメージにはなり得ないだろう。

アリシェラは小さく嘆息しつつも、再び目標の捜索を再開した。

尤も――目的のものを発見するのに、あまり時間はかからなかったが。

(かまどの煙突かと思ったけど、五本も並んでるのはおかしいわよね。ひょっとしてあれかしら?)

事前にクオンから聞いていた迫撃砲の知識とは随分と異なる形状ではあるが、不審な物体であることに変わりはない。

一度外壁の上から撮影しつつ、近くで検分するために、アリシェラは街の内部に身を躍らせた。

音も無く着地した不可視の影は、そのまま誰に見咎められることも無く五本の筒の元まで到達する。

(……やっぱり、かまどじゃないわね。これが迫撃砲……っていうか殆ど大砲じゃないこれ?)

地面に固定するための台座と、砲身内に弾を込めるための穴。

一応砲身の向きは変えられるようになっているようであったが、砲身の長さはアリシェラの身長以上である。

彼女の力では、とてもではないがそれを動かせるとは思えなかった。

アリシェラはとりあえず隅々までスクリーンショット機能で撮影しつつ、迫撃砲に関する情報を収集していく。

(さっき上から見た感じだと、街の外壁近くに何個か同じものが設置されてるみたいね。しかし、この大きさだとインベントリには入らないし……それに、私の力じゃ破壊も難しいわね。まあ、今は破壊はいいって言ってたけど)

元より、通常の攻撃力はあまり高くはないアリシェラだ。

頑強な建造物に対する攻撃は、ほぼほぼ通用しないと考えた方がいいだろう。

この場で何かをすることは諦め、情報を収集するだけに留めておき――アリシェラはふと、こちらに近づいてくる足音を察知した。

(気づかれた? いや、慌てている様子はないわね)

透明な状態ではあるものの、物陰に隠れて息を潜める。

程なくして姿を現したのは、大荷物を持ったデーモンであった。

特に感慨も無く肉体労働をこなしている悪魔は、一抱えもある木箱を迫撃砲の傍に置いて戻ってゆく。

その気配が完全に離れたことを確認し、アリシェラは再び接近してその木箱の中身を確認した。

固定されていない蓋をずらすと、内部には見慣れぬ円筒形の物体が詰め込まれている様が目に入る。

(……これ、もしかして砲弾?)

陶器製と思われる筒と、それを蓋するようにはめられている赤く透明な物質。

重さからして内部に何かが入っている様子であったが、《鑑定》系のスキルを持たないアリシェラにはそれを分析することはできなかった。

(でも、これなら持ち帰れるわね。二つほど拝借しましょうか)

小さく笑みを浮かべ、アリシェラは砲弾と思わしき物体を二つインベントリへと放り込む。

そして何事も無かったかのように、その場を後にしたのだった。