軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

546:新たなる攻撃

悪魔を迎撃しながら距離を取っているが、それでも少しずつ悪魔の集団との距離は近づきつつある。

尤も、近付けば近づいた分だけ取れる手も増えるため、まだ多少の余裕はある状況だ。

ある程度近付いたことで緋真の魔法が、そして更に接近されたことにより俺の【咆風呪】が射程圏内へと入る。

横薙ぎに振り抜いた刃より放たれた黒い風は、こちらへと迫る悪魔の群れを飲み込み、そのHPを一気に吸収した。

ただのデーモンであればそれだけで即死し、アークデーモンたちもHPの大半を奪われ動きが鈍る。

餓狼丸の解放がなくとも、既にこれだけの火力を発揮することができるようになったということだ。

(それでも、公爵級と戦うにはまだまだ不安があるな……)

そもそも比較対象がディーンクラッドしかいないため、どの程度の力があれば公爵級に通じるのかも曖昧なのだが。

とりあえず、今の状況なら餓狼丸の最大強化状態であれば攻撃は通じるつもりでいるのだが、ディーンクラッドは公爵級の中では最下位、あれよりも強い奴がデルシェーラを含めて七体いる。

果たして、その上位の連中に通じるのか――未知数であるとしか言えないだろう。

(とりあえず、相手の動きの出がかりは潰せているし、別動隊による回り込みは今のところない……さて、どう出てくる?)

現状、悪魔たちはこちらの正面にしか存在していない。

というか、前方にいる集団から左右に展開しようとしている連中はいるのだが、シリウスやセイランによってその動きを潰されている状況だ。

手を広げるようにこちらを包囲しようとしているようだが、部隊を分ける動きを目に見える範囲で行っているのであればいくらでも対処できる。

問題は、こちらの目の届かない所で行われている行動だが、今のところルミナやセイランが異常を察知している様子はない。

現状、特に問題は無いと言えばその通りなのだが、それが何とも不気味であった。

と――

「……あれは?」

遠く、今は距離を離した都市から、何かの光が発生する。

まるで花火のように上空へと撃ちあがる光の筋。そして、僅かに遅れて聞こえてくるのは、コルク栓を抜いた時のような気の抜けた音――その正体を理解し、俺は総毛立つ思いで声を上げた。

「セイラン、迎撃しろッ!」

「クェエッ!」

セイランも俺の言葉の真意は理解できなかっただろうが、必死さだけは十分に伝わったようだ。

俺の言葉に応えるように、その翼の羽ばたきと共に上空へ雷を伴う嵐を巻き起こす。

そして、その直後――街の方から放物線を描くように落下してきた光が、嵐の中に巻き込まれて爆裂した。

「ッ……!」

衝撃が体を叩き、僅かにバランスを崩しかける。

地面へと押し潰されそうな衝撃に歯を食いしばり、思わず舌打ちを零した。

間違いない、迫撃砲だ。一体どんな方法で再現したのかは知らないが、悪魔共はとても少数を狙うものではない兵器を持ち出してきたらしい。

「ルミナ、セイラン!」

「っ、無事です、何とか!」

「クェッ!」

爆発と距離が近かったルミナとセイランであるが、バランスを崩し墜落しかけたものの、何とか立て直したらしい。

とりあえずは何とか対処できたが、少しでも反応が遅れていたら全滅していた可能性もある。

まさか、このような攻撃手段を持ち出してくるとは考えてもみなかった。

(別動隊の動きが見えなかったのはこれが原因か。混戦状態になっていたら、確実に味方を巻き込むことになる)

いくらでも補充の利くアルフィニールの悪魔はともかく、あの悪魔たちは早々使い捨てにできるものではないのだろう。

少なくとも、俺たちを爆破に巻き込むための道連れとしては使えないようだ。

逆に言えば、先程の攻撃はその軌道からして、アルフィニールの悪魔ごと吹き飛ばすことには躊躇いが無かったように思える。

つまり、連中に追いつかれて対処に追われることとなれば、まとめて爆撃を受ける可能性が高いということだ。

「せ、先生! さっきのは何ですか?」

「迫撃砲による爆撃だろうな。距離を取れ。射程外まで逃れろ。そうでなけりゃ、一方的に攻撃を受け続ける」

まあ、恐らくは魔法によるものであろうし、正式な名前は別にあるのかもしれないが。

だが例え魔法であると言えど、《蒐魂剣》での迎撃は困難であると言わざるを得ない。

高速で落下してくる砲弾に対処することは難しいし、そもそも一発ではないため一つ消し去ることに成功したとしても吹き飛ばされることに変わりはない。

つまり、先程のように空中で撃ち落しつつ、この攻撃の射程外まで逃れるしかないのだ。

「すぐに追撃が来ない辺り、連続での発射はできないんだろう。だが、いずれまた撃ってくる可能性は高い。さっさと逃れるしかないぞ」

「あんなのが何度も来るのは勘弁してほしいんですけど」

「同感だが、やるしかあるまい」

俺たちの世界の基準にある迫撃砲であれば、軽量であったとしても3キロメートルは届くと考えていい。もしも重量迫撃砲になれば、その倍は届くはずだ。

だが、この世界においてそんな遠距離の距離計算ができるとは考えづらいし、そもそも迫撃砲の利点である速射性が活かされていない。

俺の知識にある迫撃砲とは全くの別物であると考えた方がいいだろう。

「実際の迫撃砲と同じではないだろうが、かなり遠距離まで届く可能性がある。あんなものがあると知れただけでも収穫ではあるが……まあいい、対策はいずれ考えるとして、とにかく今は距離を取るぞ」

先ほどまではある程度引き付けつつの引き撃ちであったが、もっと早く離脱するべきだろう。

しかし、上空での迎撃のため、セイランたちは下げるわけにはいかない。

騎獣での退避の方が良かったが、本来の目的を忘れるわけにもいかないのだ。

幸い、先程と同じ攻撃であれば、セイランによる迎撃で対処できる。

(使い捨ての戦力の利用、新兵器、そして精鋭部隊による攻撃――互いに様子見の段階とはいえ、ここまで見せてくれるとはな)

或いは、これらは見られても問題のない戦力ということか。

もしも、この動きに軍略に優れるというエインセルが関わってきている場合、その裏まで考えると大層厄介な状況となることが想像できる。

これらを含めて、アルトリウスと詳細を詰めておくべきだろうが――

「……まずは、この場を切り抜けるしかないか」

小さく嘆息し、迫ってくる悪魔たちへと刃を振るう。

黒く渦を巻く風で奴らを飲み込みながら、俺は先ほどよりも早い足で後方へと進む。

俺としては面倒と言わざるを得ないが、こいつらに捕まればまとめて爆破されかねない。

直接の斬り合いは、しばらくはできそうにないだろう。

(迫撃砲の威力はかなりのものだった。直撃を受ければ、シリウスはまだしも他のメンバーは即死する。たとえシリウスでも、複数発を受け止められるようなものではない。一発でも至近弾を受ければこちらは詰みだ)

だが、果たして奴らはそこまで精密な爆撃を行えるのか。

今のところ、都市との距離は2キロメートルは離れていない程度のところだろう。

目視可能な距離ではあるが、迫撃砲は弾道計算無しで直撃させることはまず不可能だ。

射角計算表があったとしても、正確な距離を測れなければ近くに落とすことも不可能だろう。

(最悪のパターンは、正確な射角計算表と距離測定機器がある場合。だが、そうであるならばもっと何度も爆撃を受けている筈だ)

迫撃砲は速射性に優れる。単純極まりない機構であるが故に、大して時間を置かずに次弾を発射可能なのだ。

だが、今回の攻撃にはそれが無い。少なくとも、俺の知識にある迫撃砲であれば、既に第三射まで放たれていても不思議ではない。

つまり、俺の知るものとは色々と性質の異なる兵器であると考えるべきだろう。

(定位置に対して攻撃を行える固定砲台? 或いは、そもそもの原理が異なる未知の魔法によるものか。あの威力は間違いなく脅威そのものだし、性質は正確に把握しておきたいが――)

流石に、先の一発だけでは把握は困難だ。

後何度か攻撃を受けなければ難しいが、あんな攻撃を何度も受けたいとは思えない。

しかしながら、いずれあの都市を攻めるとなれば情報の収集は必須――何とも、ままならない事実である。

「……発射地点だけでも確認せにゃならんか」

後で再び都市に接近した際、アリスに目視確認をして貰いたいところだが、そのためにも発射地点だけは再確認しておきたいところだ。

深々と溜息を零しつつ、後方への退避を急いだのだった。