軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

539:殺意の氷塊

シリウスの放った《魔剣化》による一閃は、確かに巨大な氷塊を真っ二つに割ってみせた。

無論のこと、それだけで事態が解決することを期待していたわけではない。

俺が期待していたのは、事態の変化による解決策の発見だ。

これだけの破壊を叩きつければ、この謎の氷塊も何らかの反応を示すだろうと期待していたのだ。

しかし――

「《蒐魂剣》、【断魔斬】ッ!」

想像以上に劇的な反応に、俺は即座に《蒐魂剣》を発動させた。

真っ二つになった氷はそのまま崩壊する様子はなく、それどころか強烈な殺気をこちらへと向けてきたのだ。

そして次の瞬間――巨大な氷は、まりでハリネズミのように無数の棘を生やしだしたのである。

それが向けられている先は、攻撃をしたシリウスと、それを命じた俺に間違いあるまい。

(いや待て、何故俺に――)

シリウスはともかくとして、何故あの氷の塊は俺が攻撃を命じたことを認識しているのか。

ただの無機物、機械的な反応を返す物体だと考えていたのだが。

しかし、それを考察するよりも早く、氷の塊はこちらに対する攻撃行動を開始した。

表面に生やした氷の棘を、まるで重機関銃のようにこちらへと撃ち出してきたのだ。

【断魔斬】をチャージしていたのは正解だっただろう。俺は即座に刃を振るい、飛来した氷の弾丸を消滅させた。

だが生憎と、それだけで攻撃が止まる気配はない。

「セイラン!」

「クェエ!」

合図を受けたセイランは、嵐を纏ってその場から移動を開始する。

氷の弾丸はかなりの速度ではあるが、追尾性のない直線攻撃だ。

セイランの速さならば、捉えられることもなく回避しきれるだろう。

シリウスの方は、流石に防御して貰うしかないが。

(しかし、どうなってやがる。この氷、誰が攻撃を命じたかが分かる程度の知能があるってことか?)

とりあえず、地上へ攻撃が向かないように注意しながら空を飛び回り、その最中に氷塊の様子を観察する。

氷塊は無数の氷の弾丸を飛ばしてきているが、シリウスには大したダメージを与えられている様子はない。

どうやら、単体の攻撃力はそれほど高くは無いが故に、シリウスの耐性でほぼほぼカットされている状態のようだ。

(だが、攻撃を防がれていることに対する対処は行われていない。攻撃方法がこれしかないのか? 或いは……いや、考え過ぎか)

詳細は不明だが、この攻撃だけならば対処することは容易い。

単純に、有効射程の外側まで逃れてしまえばいいだけだからだ。

尤も、これに攻め込むとなると色々と面倒なのだが、今はそこまで無理をする必要はないだろう。

今の反応と、それに対する考察。そこから解決策を見つけることこそが、今すべき対応なのだから。

大きく飛び離れながら氷塊を観察し、この物体の性質を、そして弱点を考察する。

「真っ二つになった程度じゃ停止はしない……殺気を放っていたことからも意識はあるが、細かな思考回路があるわけではない。だが、攻撃を命じたのが俺であることは理解している……引っかかるな」

細かな考えや応用力が無いのに、何故俺まで攻撃対象に含めることができたのか。その点が、どうにも引っかかるのだ。

本当に単純な思考をしているだけであれば、シリウスだけが攻撃対象になっていた方が自然だろう。

また、もしも応用力があるならば、殆ど攻撃が通じていないシリウスに対してそのまま無意味な攻撃を続ける意味も分からない。

それなりに考える頭はあるが、攻撃方法はこれしかないというのであれば話は通じるが、そう決めつけてしまうのにも違和感があった。

(……分からん。後でアルトリウスと詳細を詰めるとして――とりあえず、落ち着かんもんかね)

真っ二つになった氷塊は、隙間を埋めるようにしながら一つの塊に戻ろうとしている。

ただ両断された程度では再生するということか。

粉々になるまで粉砕した場合はどうなるのか分からないが、何にせよ《魔剣化》だけで解決できる問題というわけではなさそうだ。

だが、これだけはっきりとした防衛反応を見せるということは、破壊すること自体は可能である可能性は高いだろう。

そもそも破壊することができないならば、こうして防衛しようとする必要すらない筈なのだから。

(こうも激しい反応を見せるのは、破壊される恐れがあったからだろう。つまり、シリウスの攻撃は全く通じていなかったわけじゃないと考えられる)

大きくダメージを与え、その上で波状攻撃を行うべきか。

或いは、どこかに弱点となるような部分でもあるのか――分からんが、何にせよ今のままでは解決には至らない。

俺はセイランと共に氷の射程外へと後退し、同時にシリウスも氷塊の傍から撤退させた。

俺たちが距離を置いたところで氷も攻撃をやめ、どうやら自身の回復に専念し始めたようだ。

「ふむ……とりあえず、一度戻るか」

シリウスを《小型化》させ、俺は再びアルトリウスたちのところへと帰還した。

俺たちを出迎えたアルトリウスは、何とも難しそうな表情で声を上げる。

「お疲れ様でした。中々、不思議な反応でしたね」

「まあな……反撃は予想していたが、俺を積極的に狙ってくるとは思わなかった」

どうやら、アルトリウスとしても予想外の動きであったらしい。

しかしながら、多少は解決策も見えてきたのか、その表情は決して暗いものというわけではなかった。

「とりあえず、今の反応ではっきりしました。あの氷塊は普通の攻撃で破壊可能な魔法です」

「まあ、魔法でもなきゃ空飛ぶ氷の塊なんぞ無いだろうが……だが、どうするんだ? 波状攻撃でも仕掛けるのか?」

「いえ……恐らくは、コアのようなものがあると思われます。それを破壊すれば、あれを崩すことができるでしょう」

アルトリウスが発したその言葉に、俺は思わず眉根を寄せる。

言わんとしている内容は分かるが、一体何を根拠にそう判断したというのか。

そんな俺の、そして周囲の考えを読み取ったのだろう。アルトリウスは、未だ宙に浮かぶ氷の塊を見上げながら声を上げた。

「見てください。半分にされていますが、僅かに中央を逸れています。これは外したのではなく、僅かに回避した結果です」

「《魔剣化》は風景が歪む。俺からは見えなかったが……緋真、確かか?」

「はい。ほんの僅かですけど、横にスライドするように避けていました」

「ふむ……成程な」

となると、確かにアルトリウスの言う通り、何かしら弱点のようなものがある可能性は否定できまい。

しかし――

「あの氷のど真ん中にそれがあるとして、どうやってそれを狙うつもりだ?」

「これから作戦を立てます。幸い、今の攻撃であの氷は回復に専念しているようですから、さらなる成長には少し時間を要するでしょう」

氷の塊を見上げれば、確かに先ほどから大きさは変わっていないように思える。

その言葉の通りなら、攻撃を加えていれば巨大化はしないということになるだろう。

尤も先程のように反撃を受けることにはなるだろうが。

「とはいえ、この氷の塊が何故こうして現れたのかについては謎のままです。対策はともかくとして、原因の排除は難しいですね」

「原因ねぇ……氷といえば、いつかの公爵級悪魔だが」

「可能性としては考えていますが、現状では確証を得ることは難しいでしょう。デルシェーラであると仮定しても、これまで姿を現す気配もなかったあの悪魔が、どうして今になって出てきたのか……全て謎のままですから」

その言葉に、軽く肩を竦める。

相手側からの主張がない以上、その目的を把握することは難しい。

あの氷のアクションが攻撃以外にない以上、まずは排除する以外の選択肢はないのだ。

――だが、その答えは予想外の場所からもたらされることとなった。

「デルシェーラであるということは間違っていないわ。でも、あれには別の悪魔も関わっているわね」

「っ、お前は……!」

響いた声と共に、こちらへと向けて歩いてくる気配。

そちらへと視線を向けて、俺は思わず眼を見開いた。

燃えるような赤い髪と、褐色に変わった肌。

かつての敵、ロムペリアの姿がそこにあった。