軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

529:変化する情勢

あの大規模な戦いから一日経ち、例の拠点は大勢のプレイヤーで賑わうこととなった。

別に誰が管理しているわけでもないため、その総数は不明だが、現在霊峰は常に賑わっている状態だ。

まあ、特に張り切っているのは『MT探索会』の連中だろうが。

「結局、真化の先の検証はどうなっているんだ?」

「私もあんまりよく調べてはいないですよ? だってもう必要ない話ですし」

「そりゃその通りだがな」

しみじみとした疑問に対し、緋真はあっけらかんとした表情でそう答える。

真化は不可逆であり、一度選んでしまえば元に戻すことはできなくなる。

つまり、どのような条件で真化先が発生するのかどうかも、俺たちには最早意味のない話なのだ。

興味を満たす以上の意味など無く、あまり積極的に調べるほどのものではないということだろう。

尤も、興味本位で調べること自体はしていたようで、緋真は視線を中空に彷徨わせながら続けた。

「一応、所々レアな種族が見つかってはいるみたいですね。とにかくひたすら聖属性、回復魔法に特化させた人は 聖人族(セイント) とかいう種族が発生したとか」

「聖人って種族なのか? 聖女はいたけど」

「さあ……? というか、ローゼミア様は別に真化はしてないですし」

あの箱入りお姫様は、レベル99になるような戦いはこなしていないだろう。

一応、ディーンクラッドとの戦いに参戦していた判定になっているのであれば、そこそこ経験値を得ているのかもしれないが。

「とにかく、『MT探索会』の予想では、それまでのプレイ実績が反映されて真化先が現れているのはまず間違いないだろうってことでした」

「それに関しちゃ同意見だが、レベル99に達するまでの膨大な経験だぞ? いちいち細かくは覚えていないだろうに」

「そりゃそうですよね。なので、正確な条件付けはまず不可能だろうっていう話ですよ」

それも無理はない話だろう。

単純に現在習得しているスキルだけを反映しているのであれば、その考察はかなり簡単だったはずだ。

だが、俺はともかく緋真に近しいスキル構成のプレイヤーはそれなりに多く、そんなプレイヤーたちからも確実に羅刹女族が出ることはなかった。

それによって『MT探索会』が出した仮説が、スキル構成だけでなくこれまでの経験そのものを反映しているのではないか、というものだったのだ。

羅刹族や羅刹女族の説明文からして、その可能性は示唆されていたし、十分に納得できるものだ。

問題は、その条件を詳細に詰めることがまず無理であることだが。

「まあ、真化先を決定せずに一度リタイアして、もう一度受け直せば選び直せるみたいですけど……経験まで含めてとなると、中々大変ですよね」

「そもそも、詳細な条件も分かってないのにそれをするのもな」

「ですよねぇ」

それでも、より強い種族を求めてやり直す連中はそれなりに多いらしい。

そもそもの話、真化種族にはそれほど大きな優劣は無く、単純に伸びるステータスと得られる種族スキルの違いでしか無いはずなのだが。

自らのスタイルにマッチした種族を選びたいというのであれば分からなくはないが、より強い種族と言われても首を傾げざるを得ないところだ。

「まあ、そういう連中はともかくとして、レベルキャップを解放できたプレイヤーも増えてきたわけだ」

「当然、レベルアップへの意欲も上がってるみたいで、早速北に進出してきてる人も多いみたいですよ」

「そりゃいいことだな。今後もどんどん増えて行って貰いたいところだ」

北へと向かえば数えきれないほどの悪魔が襲ってくる。

それ自体はいいのだが、流石に密度が高すぎて俺たちでも先に進みづらかったのだ。

他のプレイヤーも増えてくれるのであれば、その分だけ先に進み易くなっていることだろう。

実際、こうして北に出てきても、以前より悪魔と遭遇する割合は減ってきているのだから。

「それで、クオン。これからどうするつもりなの?」

「行けるところまで行ってみるつもりだ。とりあえず、次の標的になりそうな場所をいくつか見繕っておきたいところだな」

俺と緋真の会話に興味を惹かれたのか、セイランの上で寝そべっていたアリスが会話に加わってきた。

歩幅のこともあるし、セイランに乗ること自体は別にいいのだが、流石にリラックスし過ぎではないだろうか?

先日はシリウスに乗ることも試していたようであるが、敷いたクッションが数分の内にズタズタになったことで諦めたらしい。

ともあれ、霊峰を確保できたことで、プレイヤーたちが各々を強化していく算段は整ったと言える。

であれば、次に必要となるのは侵攻すべき場所だ。

悪魔からの侵攻を防ぎつつ、こちらの領土を少しずつ広げていくことが、この戦争の趣旨であると言える。

今も、前線に構築した砦には定期的に悪魔が襲撃を仕掛けてきている状況だ。

しかし幸いにも、あの石板が生産可能になったおかげで、プレイヤーが構築した前線拠点を防衛することは格段にやり易くなったと言える。

防衛の余裕ができたならば、次に考えるべきは侵攻だ。

「どの位置が取りやすく、守りやすいか。その辺りの考察はアルトリウスにやって貰うことになるだろうが、地図にチェックしておくに越したことはないだろう」

「支配された土地を奪いに行く、ってことだとアドミス聖王国の戦いを思い出しますね」

「方式としては近いな。とはいえ、今回は相手側が拠点から出てきてこちらに侵攻してくることもあるわけだが」

結界を構築してくれる石板があるとはいえ、安心することはできない。

アズラジードが行ったように、石板を破壊することも決して不可能ではないのだから。

だからこそ、それを防衛するための設備は慎重に慎重を重ねている。

エレノアが、手続きが面倒な《儀式魔法》を鍛えているのも、それが大きな要因であるだろう。

「正直なところ、こういう戦争が一番厄介だ。状況によって頻繁に攻守が交代する戦いは、本当に悲惨なものになる」

「実感が伴っているわね」

「一時期とはいえ、経験したものだからな」

かつての戦争、趨勢が拮抗していた時分は、そんな戦いも少なくはなかった。

ジジイを始めとした軍曹の部隊で、相手の重要拠点を襲撃して回っていたからその状況を優位に傾けることができたが、そうしなければ泥沼の削り合いを続けることになっていただろう。

いつまでも決着がつかず、互いの資源を削り合いながら続ける戦争は、本当に悲惨なものでしかない。

「尤も、この世界では人的資源が削られることはない。それだけは唯一の救いだな。とはいえ、それは相手方も同じことであるし……互いの削り合いが無駄なものにしかならない、本当に不毛な戦争だ」

「ふぅん……それなら、どうするの?」

「前も言った通り、こいつは陣取りゲームだ。お互いの陣地の奪い合いさ。その状況において、俺たちはまだ奪われてはならない拠点しか有していない状況にある」

前線を維持するための砦と、真化の儀式を受けるための霊峰。

これらは、どちらも決して手放すことのできない拠点であると言える。

奪われるようなことはあってはならない、仮に奪われたなら死に物狂いで取り返さなければならない、そんな場所だ。

その観点で言うと砦の優先度は幾分か下がりはするのだが、どちらにせよ奪われてはならない場所に変わりはない。

「つまるところ、今の俺たちは余裕がない状況ってことだ。状況に余裕を持たせなければ、次なる行動へ繋げるための余地を得られない」

現状では、選択肢があまりにも少ないのだ。

今ある拠点を何とかして防衛しながら、次なる攻撃への準備を進めるしか道はない。

拠点を使った陽動策も、前線基地の構築も、何もかも――今の状況では、取れる作戦の幅が狭すぎる。

それは恐らく、アルトリウスにとっても悩みの種であるだろう。

「アルトリウスのやつが、今後をどのように進めていくつもりなのかは分からん。だからこそ、今後の展望に関わることは知っておく必要がある」

「それが、次に攻められそうな拠点を探すってことですか?」

「戦術論、戦略論は詳しくもないし、軍曹が話していた内容でにわか知識を得たに過ぎんからな。どうするのか、ということについては判断ができん。だが、情報は仕入れておくに越したことはないだろう」

今の俺には、ただ防衛して力を蓄える程度の選択肢しか見えてこない。

だが、きっと他にもやれることはある筈だ。

そのためにも――

「まずは、邪魔者を片付けて先に進むとしようか」

再び現れる敵の気配、充満する殺意。

それらを肌に浴びながら、俺は餓狼丸を抜き放つ。

変わりつつあるこの戦況――まずは、それを確かめていくこととしよう。