軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

053:砦への歩み

『レベルが上昇しました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀》のスキルレベルが上昇しました』

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

さて、色々と倒している間にそれなりに上昇した。

成長した直後にルミナの姿を確認してみたが、やはりレベルアップと共に体が成長しているようだ。

大雑把な目測ではあるが、恐らくレベルが1上がるごとに、人間で言えば半年ぐらいずつ成長しているように思える。

最初は幼稚園児程度にしか見えなかったルミナも、今では小学生の低学年程度には見えるのだ。

精霊の生態というものはよく分からないが、どうやらレベルが上がるごとに、あの時戦ったスプライトのような大人の姿に近づいていくようだ。

(いや、しかし……面白いな、こいつは)

だが、精霊の成長に関して驚くべきはそこではない。

ルミナは、レベルアップした瞬間、それまで教えていた動きの習熟度が上昇しているのだ。

先ほどから緋真が刀の握り方を教え始めていたのだが、レベルアップした直後の今では、覚束なかった手つきがすっかりと様になっている。

これは、単純に体が成長しているわけではなく、半年分の経験を一気に積んだようにも見える現象だ。

だが、この特性があれば、ルミナに対する修行も大きく効率化させられるだろう。

「緋真、そろそろ次に進めていいだろう」

「あ、はい。分かりました」

ルミナの刀の握り方、振り方を確認していた緋真は、俺の言葉にこくりと頷く。

刀の扱いについてはまだ十分とは言えないが、刃筋は立ってきているし、そろそろ別の修練も積んでおかなければ勿体ないだろう。

次に進化するときまでに、果たしてどれだけの術理を教え込むことができるのか。

それは、横で見ている俺としても少々楽しみだった。

「さてルミナちゃん、次は歩き方を教えるよ」

「歩きかた? わたし、歩いてるよ?」

「それは普通の歩き方だね。ルミナちゃんに覚えてもらいたいのは、久遠神通流の歩法、その基礎になる歩き方。礎礼という歩法だよ」

歩法の基礎、礎礼。

これは、俺が戦いに使っているような戦闘用の歩法とは異なる、普段からの歩き方だ。

常在戦場を心掛ける久遠神通流の理念に適う、即座に戦闘態勢への移行が可能な歩き方だ。

また、他の歩法のための体重移動の練習にもなるため、久遠神通流を学ぶ者は、まず刀の持ち方と歩き方を学ぶことになるのである。

華々しい斬法や打法を覚えるまでには、こういった下積みが重要なのだ。

「まず、刀を構えてみて?」

「はい」

少しだけ、ルミナの返事に落ち着きが出てきた気がする。

ともあれ、緋真の指示に素直に頷いたルミナは、これまで学んできた通りに小太刀を正眼に構えていた。

両足を開きすぎず、重心を中央に来るようにした立ち方は、久遠神通流にとって基礎の基礎となる構え方だ。

これは、全方位を警戒するための立ち姿。どの方向にも即座に移動できるようにするためのものである。

「そして、その状態で横に回避する」

「んっ!」

とん、と。ルミナはステップを踏むように横に回避する。

若干覚束ない感じではあるが、それでも重心の揺れは少ない。

もう少し鍛えれば、そちらは安定するだろう。尤も、そちらは今の趣旨とは違う。

緋真はただ単に、説明するために今の動きをさせたのだ。

「横に回避するとき、ルミナちゃんは地面を蹴る足を、踵を上げて足の前半分を使うような感じで使ってたね?」

「ん? えっと……はい、そうです!」

「強く地を蹴る時は、必ずそうなるの。そしてその時、無意識に足の指に力を入れているわ」

「あ、ホントだ」

これは人体の構造上、必ずそうなっている。

だが、これを理解しているかどうかで、人の動きというのはかなり違ってくるものだ。

そして久遠神通流では、それを理解した上で活用しようと様々な歩法を編み出してきた。

その基礎となる礎礼とて、それは例外ではない。と言うよりむしろ、それを忠実に利用したものこそが礎礼であると言えるだろう。

「いい、ルミナちゃん? ルミナちゃんの歩き方は先生を参考にしているおかげで、形だけは礎礼に沿っているわ」

「そーなの?」

「ええ、そうなのよ……これ、本当は形を矯正するのが一番大変なんだけど、まさか姿勢を正すだけで済むとはね」

緋真はここまで、身振りでルミナの視線を誘導することにより、自然にこいつの姿勢を正してきた。

おかげで、ルミナの歩き方は既に、形だけは礎礼に沿ったものとなっている。

簡単に言えば、踵から上げて指の付け根辺りから足をつける。殆ど摺り足のような歩き方である。

こいつを意識しすぎるとつま先立ちのまま歩いているような体勢になり、これを矯正するのが非常に面倒なのだ。

そこさえ正しているのなら、もう完成はそれほど難しくない。

「後は、歩く時に足の指で地面を掴むように力を籠めること。そして、それでいながら速く歩きすぎず、一定のペースと体勢を保つこと。それが基礎の歩法、礎礼よ」

「ん……んー、難しい……」

「焦らなくてもいいわ。ゆっくりと、崩さないように、確実にね」

ルミナは足元を気にしながら、よたよたと歩いている。

まあ、初めはそんなものだろう。指先に意識が集中しすぎていて、体勢が崩れてしまっているのだ。

背中と額を軽く叩いて体勢を整えさせつつ、緋真を促して先へと進む。

ルミナはしばらく、歩くことに集中させねばならないだろう。いくらある程度できていたとはいえ、教えて数分程度でできるものではない。

まあ、レベルアップによる急成長を除けば、であるが。

「よし。このまま進んで敵を探すぞ、緋真。イベントまでにある程度形にしてやらねばならん」

「ルミナちゃんの成長の特性が無かったら、無茶にも程がありますよね……」

「まあな。俺としてもそこは驚いた。さて……二匹、近づいてくるぞ」

街道からは少し外れているため、敵の出現率はそこそこ高い。

その目論見通りにこちらへと近づいてきたのは、二匹の大きな獣――黒い毛並みを持つ熊であった。

その姿に若干の懐かしさを覚えつつ、俺は連中の姿を注視する。

■ブラックベアー

種別:魔物

レベル:21

状態:アクティブ

属性:なし

戦闘位置:地上

どうやら、見た目の通りの名前であったらしい。

レベルは中々に高い。どうやら、こちらの方角に向かう場合、王都から離れれば離れるほど敵が強くなるようだ。

まあ、それについては好都合であると言える。敵が強いに越したことはない。

「ルミナ、お前は歩き方の練習をしておけ。緋真、お前と俺とで一匹ずつだ……それと、俺に遠慮してスキルを使わずにいる必要はないぞ?」

「え? でも……先生、気に入らないんじゃ?」

「俺が気に入らんからと言って、お前のやることにまでいちいち文句は付けんさ。そもそも、使えるものを使わんほうが気に食わん」

俺自身が使うつもりは全くないが、緋真が使うことを否定するつもりも無い。

無理やり体を動かされるとしても、それで型が崩れないのであれば問題はないのだ。

ともあれ、こちらはこちらで戦いを楽しまなければ。

熊の相手というのは久しぶりだ。あまり面白い思い出というわけでもないが、懐かしいものは懐かしい。

今にして思えば、クソジジイの修行もあの頃はまだマシだったということだろう。

「なら……先に行かせて貰います! 《闘気》!」

歩法――烈震。

緋真が駆けると同時に、その体からは金色の光が噴出していた。

どこか、《生命の剣》にも近しいエフェクトのスキル。

一応話には聞いていたが、確か一時的に自分のステータスを上昇させるスキルだっただろう。

緋真は全身に光を纏ったまま、一瞬でブラックベアーの懐にまで潜り込んでいた。

そのまま緋真は袈裟懸けに熊の肩口を斬り――刀を斜めに振り下ろした姿勢のまま、叫ぶ。

「【焔一閃】ッ!」

その声と共に、緋真の刀が真紅の炎を纏う。

そして次の瞬間、緋真は一気に加速し、宙に紅の直線を描きながら熊の胴を斬り裂きつつ横を駆け抜けていた。

あれは、刀の 魔導戦技(マギカ・テクニカ) だ。雲母水母たちが時々使っているのを目にしていたが、刀のそれは初めて見た。

それに……緋真の使い方は、他のプレイヤーたちとは少々異なっているようだ。

今の刀を振り切った姿勢、あの状態からは、本来であれば大きく移動することは難しい。

歩法で対処することも不可能ではないが、それでも攻撃しながらというわけにはいかない。

それを、 魔導戦技(マギカ・テクニカ) を利用することで可能にしたのだろう。

炎を発しながら5メートルほど移動した緋真は、刀を振るうように残心の動作を見せる。

だが、その動きは普段の緋真とは異なり妙にぎこちない。どうやら、あれも 魔導戦技(マギカ・テクニカ) のモーションの内らしい。

ああいった所が、俺としては納得しづらい部分なのだが、まあそこに文句を言っても仕方ないだろう。

今の攻撃のおかげで、緋真が敵一体の注意を引きつけてくれた。後は、俺が残りの一体を片付ければ問題なしだ。

「さて――」

もう一体の注意も緋真の方に逸れている。

とは言え、二体とも緋真に譲ってやるつもりも無く、俺は死角を縫うようにして熊に肉薄していた。

熊というのは、全身を強靭な筋肉に覆われている動物だ。

そのため、普通に斬ろうとしても内側までダメージを通すことが難しい。

ならばどうするのかと言えば――その内側を直接揺さぶってやればいい話だ。

打法――寸哮。

熊の横っ面に拳を押し当て、内功を叩き付ける。

瞬間、俺の足元の地面が土煙を上げて罅割れ、衝撃音と共に熊が大きく仰け反っていた。

そしてそのまま、白目をむいた熊はその巨体を地面へと横たわらせる。

脳を直接揺さぶることによって、相手を気絶させたのだ。

「熊は斬るよりは刺すか殴るかの方がいいぞ、緋真」

「その業はまだ無理ですから! それ、結構難しいんですからね!?」

そう叫びつつも、緋真は熊に肉薄し、射貫で熊の体を穿っている。

どうやら、射貫の有用性をようやく理解できたらしい。リアルの方でも重点的に練習していたし、その成果が出てきたということだろう。

そんな弟子の様子に満足しつつ、俺は転がした熊の喉笛を裂いてとどめを刺していた。

緋真の方も終わったようであるが、スキルの上昇などは特になし。

あまり雑な戦い方をしたいわけではないのだが、もう少しスキルも使ってやらねばならないだろう。

「ふむ。二体ならいいが、三体以上出てくると面倒かもしれんな」

「あっさり片付けたくせに何言ってるんですか……まあでも、ルミナちゃんにもそろそろ魔法支援ぐらいはしてもらった方がいいのでは?」

「まあ、それもそうだな。並行作業の練習ぐらいにはなるだろう」

敵は強くなり続けている。今の所はまだ問題はないが、このレベルで数が増してくると手が足りなくなってくるかもしれない。

ルミナはまだまだ未熟とすら呼べない状態ではあるのだが、それでも魔法戦闘能力は本物だ。

まだ刀を振らせるには早いが、歩き回らせながら魔法を撃たせるぐらいは問題ないだろう。

まあ、あまり放置すると型が崩れそうであるし、様子は見てやらねばならないだろうが。

とはいえ――もう既に、目的地である砦は薄っすらとその影を覗かせている。

遠からず、目的地に到着することができるだろう。

「目的地もそろそろ見えてきたみたいだし、ほどほどやっておくとしよう。ルミナ、分かったな?」

「はいっ! わたし、がんばる!」

「いい返事だ」

地味過ぎて門下生たちに人気のない基礎訓練を、これほど楽しくやってくれていると、こちらとしても気分が良い。

やはり、学習能力の高いものに対して術理を教え込むのは面白いものだ。

刀の整備をしている緋真の姿を後ろから眺めつつ、俺は内心でそう呟いていた。