軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

522:増援と対策

鎧の悪魔であるアズラジードは、大きさという面についてはそこまでではない。

精々が、三メートルあるかないか程度であろう。無論、それでも大きいと言えば大きいのだが、ドラゴンのような怪物と比べれば明らかに小さい部類だろう。

だが、それでも侯爵級は侯爵級。やはり、強力な戦闘能力と特殊能力を持っていることに変わりはない。

『キャメロット』の精鋭を含めてなお攻めきれずにいるほどの難敵だ。やはり、生半可な攻撃では倒し切ることはできないだろう。

(さてと……アルトリウスの奴め、何を考えていやがるんだか)

ちらりと目を向けたアルトリウスの表情の中には、あまり緊張らしい緊張もない。

無論、敵を前にして油断しているわけではないようだが、アズラジードをそこまでの脅威として扱っているわけではない様子だった。

俺としてはかなり攻めあぐねてしまうような敵であるため、どうしたものかと頭を悩ませているのだが。

尤も、アルトリウスが本気で本心を隠そうとしている場合、俺には読み取れるようなものではないため、本心のところは分からない。本当に余裕であることを願うばかりだ。

「『生奪』」

斬法――剛の型、刹火。

こちらへと振り下ろされる大剣を、掻い潜るように回避しながら一閃を放つ。

アズラジードの腕関節に突き刺さったその一閃は、確かにその鎧の一部を削り取るが、やはり大きなダメージにはなり得ない。

弱点以外の部位を攻撃しても、僅かにその体が削れる程度で有効な威力にならないのだ。

かと言って、アズラジードは的確に己が弱点に対する攻撃を防いでいる。

魔法攻撃を行っている連中も多いので、少しずつダメージは蓄積していっているのだが、やはり決定打にはほど遠い。

やはり、何とかして相手の弱点に攻撃を届けさせねばならないだろう。

(さてと、どうするかね)

迫りくる連結刃、その攻撃は、アズラジードの攻撃の中では最も注意すべきものだ。

もしも受けに回れば、一撃で武器を弾かれ、続く何本もの刃によって身を引き裂かれることになるだろう。

腕によって振られているわけでもないため、受け流すことも難しいしメリットもない。

この攻撃は、とにかく回避を優先するしか方法はないのだ。

歩法――陽炎。

緩急をつけ、迫りくる連結刃の目測をずらす。

この武器についてのせめてもの救いは、アズラジードの周囲でしか動かすことができないことだろう。

ある程度離れてしまえば、この攻撃が届くことはないのだ。

またこの武器は、一度背中の定位置に戻さないと、もう一度攻撃することができないらしい。

しっかりと見ておけば、対処することはそう難しくはない部類だろう。

問題は――

(その間も両手の武器が襲ってくるってことだがな……!)

連結刃を回避した俺に対し、アズラジードは出現させた巨大な斧を振り下ろしてくる。

アズラジードの体のサイズから比すれば普通のポールアックスだろうが、俺の体の大きさと比較するとギロチンの刃にしか見えない。

無論、そんなものは受けることも流すこともできないため、さっさと回避してアズラジードへと接近する。

だが、アズラジードは即座に斧を放棄すると、両手に剣を生成してこちらへと振り下ろしてきた。

「チッ……!」

流石にこのまま進んでしまえば回避しきれない。俺は舌打ちと共に減速し、その一撃を回避した。

攻撃範囲は広くないが、手数が多い。その上で、一撃必殺に等しい火力を有している。

確かに侯爵級というだけはある、非常に強力な戦闘能力だ。

追撃を避けるために後退し、それと入れ替わるようにデューラックがアズラジードに接近する。

現在ここで戦闘しているメンバーの中では、彼が最も効率的にダメージを与えられているだろう。

何しろ、彼は緋真と同じ魔法剣士タイプのプレイヤーだ。彼自身の技量も相まって、とにかくアズラジードにダメージを通しやすいのである。

とはいえ、攻撃を当てても一切怯むことのないこの悪魔を相手に、一人で接近戦を挑むこと自体が無謀以外の何物でもないのだが。

「《練命剣》、【命輝一陣】!」

援護として、生命力の刃をアズラジードの顔面――というか顔面と思われる兜へと飛ばす。

瞬時に飛翔した刃は兜へと直撃して弾け、しかしアズラジードは意に介した様子もなく最も近いデューラックへと槍を突き出していた。

どうやら、顔面に攻撃を受けても怯まないらしい。まあ、そもそもあの兜から視覚を得ているのかどうかも定かではないのだが。

「いやはや、厄介な相手ですね!」

デューラックは攻撃を回避するが、反撃に繋げる余裕は無い。

その代わりに横から突撃してきたのは、炎を纏う大剣を構えたディーンであった。

機関車のように突撃してきた彼は、攻撃を振り切った体勢のアズラジードへとその刃を叩き付け――瞬間、弾けるような轟音と共に炎が噴き上がった。

流石にその衝撃は受け止めきれなかったのか、アズラジードはその強靭な体を揺らしてたたらを踏む。

どうやら十分な衝撃があれば怯ませられるようではあるが、流石にあの威力を常に発揮するのは困難だろう。

『有象無象が、この私に届くと思うな』

一方で、アズラジードは大したダメージを負ってはいない。

ディーンはどちらかというと物理攻撃に傾倒しているタイプで、魔法はその補助でしかない。

威力は高く派手ではあるのだが、アズラジードにはあまり有効ではないのだ。

とはいえ、彼は恐らく、筋力という面では全プレイヤー中でもトップクラスのステータスを誇る人物。

あえて盾を外し、両手で武器を構えたディーンの剣は正面からアズラジードの攻撃を迎え撃ち、互いに一歩も譲らぬまま武器を打ち付け合うこととなった。

「……あれを正面から受けられるのか」

俺やデューラックには取れない選択肢であるが、これもまた一つの手段であるだろう。

しかしながら、ディーンがこれを可能にしているのは、周囲からの強化魔法があってこそだと思われる。

つまり、効果が切れれば押し潰されてしまうため、のんびりと見ていることはできないということだ。

「《練命剣》、【煌命閃】!」

斬法――剛の型、迅雷。

放つは神速の居合。ただ速さと鋭さを突き詰めたその一閃は、不可視の閃光となってアズラジードへと襲い掛かる。

狙ったのは、アズラジードが剣を振るっている腕の手首。

僅かに残る光の残滓だけが、その一撃の命中を物語っていた。

「お見事……!」

「はああああああッ!」

アズラジードの攻撃は軌道を逸らされ、空を切る。

その瞬間、相手へと肉薄した二人の騎士は、その渾身の一撃をアズラジードの胴体へと叩き付けた。

瞬間、炎と水、二つの魔力が炸裂し、アズラジードの巨体を後方へと押しやる。

歩法――縮地。

「《練命剣》、【命輝練斬】」

噴き上がる高温のスチームの中を、息を止めながら駆け抜ける。

二つの攻撃を受けたアズラジードは体勢を崩し、その胸には大きくはないものの鎧の破損が見て取れた。そして、その内側にある、紫色の宝玉も。

狙うべき場所を見定めて、俺はアズラジードへと肉薄する。

『――ッ!』

息を飲むような声。蒸気の中から現れた俺を、直前まで捉えられていなかったのだろう。

故に、それ以上の反応などさせはしない。

動きを止めているアズラジードへと刃を突きつけ、その胸の穴へと向けて餓狼丸の切っ先を突き込んだ。

斬法――柔剛交差、穿牙零絶。

『ぐ、がァ……ッ!?』

空洞の体に響く苦悶の声。

見れば、アズラジードのHPは、その一撃で大きく減じていた。

想像していた通り、この胸の中にある宝玉こそがアズラジードの弱点であったらしい。

しかし、《練命剣》でかなりHPを消耗してしまったため、このままの追撃は危険だ。

大人しく刃を引き抜いて安全圏まで退避、回復のためにポーションを取り出したところで、立ち直ったアズラジードが腕を振り上げた。

その頭上に出現したのは巨大な槍――否、槍と表現するにはあまりにも巨大すぎる鉄塊であった。

『やってくれたな、貴様ら……! しかし、こちらの準備も完了したぞ!』

「っ、しまった!」

こいつの狙いは俺たちではない。後方にある聖堂だ。

あまり積極的な攻撃を仕掛けることなく受けに回っていたのは、この槍を準備するためだったのか。

咄嗟に止めようとするが、HPを回復できていない俺では十分な火力を発揮することができない。

ディーンやデューラックも止めるために動こうとするが、それよりも僅かに早く。

『貴様らの希望、打ち砕いてやるとしよう!』

アズラジードは、その巨大な槍を聖堂へと向けて射出した。

単純な破壊力だけでも計り知れないその一撃は、並のプレイヤーでは受け止めることなど不可能だろう。

それでも何とか受け止めようとしたプレイヤーたちを薙ぎ払いながら、巨大な槍は聖堂へと向けて直進し――刹那。

「――当然、そう来るでしょうね」

聖堂を囲むようにして刻まれていた魔法陣、その作り主たるエレノアの声と共に、藤色の光が聖堂を包み込んだ。

プレイヤーが発したとは思えないような、強力な魔力。

その光は、アズラジードが投擲した槍を正面から受け止め――僅かな傷すら受けることなく、その一撃を弾き返した。

『ッ!? 《典礼魔法》だと!?』

「残念、その上位の《儀式魔法》よ」

驚愕の声を発するアズラジードに対し、聖堂の入口で一歩も動かなかったエレノアは不敵に告げる。

《典礼魔法》、その名前はプラチナのスキルオーブで見たことがある。

確か、広範囲に作用し、準備にひたすら時間がかかる代わりに、非常に高い効果を発揮する魔法だ。

とてもではないが実戦向きではないためスルーしていたが、まさかエレノアがその魔法を取得していたとは。

「お生憎様、貴方の攻撃じゃびくともしないわ。それよりもいいのかしら、こちらにばかりかまけていて?」

『ッ、しま――』

あんなものを用意していたのなら先に言っておいてほしかったが、まあいいだろう。

エレノアの言葉に息を飲んだアズラジードは振り返り――そこに、銀色の輝きが襲い掛かった。

『ガッ……!?』

「到着に時間がかかったもんだが……まあいい、そのまま放り投げてやれ、シリウス。この聖堂の近くで戦うべきじゃない」

敵を視認するなり躊躇いなく襲い掛かって噛みついたシリウスに、俺は溜め息交じりにそう指示を出す。

如何に攻撃を防げると言えども、聖堂を気にしたままでは戦いづらい。

まずは、暴れても問題ない場所に戦場を移すこととしよう。