軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

509:対包囲戦

包囲を受けている場合、基本的にはそこから脱出することを目指すことになる。

包囲された状態は、戦闘においては最も避けなければならないものだ。

いざという時の退路がない状態というのは、士気に対して大きく影響を及ぼす。

まあ、俺たち異邦人の場合は死んでも復活するためそこまでではないのだが、それでも不利な状況に対する心理的影響は無視できない。

であれば、包囲された時にどのような対処を行うべきか――そもそもそのような状況に陥ることを避けなければならないのだが、基本的に対応策は二つ。

一つは、援軍を待って数的不利な状況を打破すること。そしてもう一つは、戦力を集めての一点突破で、包囲された状況から脱することだ。

だが――

(今回は、そのどちらにも当てはまらないんだよなぁ)

今回の作戦は、この地そのものに目的がある。

ここから脱出した所で、作戦は最初からやり直しになってしまうのだ。

この場から脱出することができたとしても、得られるものは悪魔の情報だけだろう。

(ここまで来ておいて、それしか得られないのでは最悪だ。それに、勝ち筋が無いわけじゃない)

敵に包囲され、戦力は増え続けている状況。

不利も不利、本来であれば絶望的と言わざるを得ない。

だが、それでも俺たちには勝利の可能性が残されている。

それは他でもない、本来の目的を果たすことだ。石碑を模して作り上げられた石板は、魔物や悪魔を退ける効果を発揮する。

その力があれば、例え包囲された状況であったとしても、この状況を打破することは可能だろう。

問題は、その石板の設置のため、一度悪魔を退けなければならないことだろうが。

「……あそこか」

上空から見れば、どこから悪魔が出現しているのかは分かりやすい。

列になって集落へと向かってくる悪魔の群れ、その根元に、悪魔を吐き出しているゲートはある筈だ。

「セイラン、お前は別の場所を目指せ。ここは俺が抑える」

「クェエ」

「俺のことは心配いらん。それより、お前こそ気を付けろよ。フォローできる状況じゃないからな」

「ケェッ!」

回復魔法を使えるルミナや、そもそもが頑丈なシリウスとは異なり、セイランは単体ではあまり優秀な回復能力は持っていない。

だからこそ慎重に立ち回る必要があるだろうが、それはセイランも重々承知している話だ。

何だかんだで、ここまで数多くの激戦を潜り抜けている俺の騎獣だ。引き際はわきまえているだろう。

威勢良く頷いたセイランに満足し、俺はその背から飛び降りた。

「さてと、結構な数を用意してきたもんだが――」

正直なところ、ここに降下するのはあまり賢い選択肢であるとは言えないだろう。

悪魔の増援に対して直接対処するということは、後方には集落で戦闘を続けている悪魔がいるということなのだから。

もしも集落側の悪魔がこちらに攻撃を仕掛けてくれば、俺は全方位の敵に対処しなくてはならなくなる。

けれど――

「――増援も、ゲートも、全部破壊してやる。それが一番手っ取り早いだろう」

餓狼丸を構え、前へと進み出る。

敵の数は多い。こちらを確実に潰そうとする増援だろう。

逆に言えば、これらを正面から迎撃した上で押し返すことができれば、相手側の思惑を一つ潰すことができる。

それだけ、挑戦する価値はあるだろう。

「だからこそ、本気で殺してやる――《夜叉業》」

角が伸び、右手が赤黒い炎に燃え上がる。

スキルと魔法、そして餓狼丸の解放――全ての攻撃力上昇を重ねた、この状態。

それがどれほどの攻撃力を有しているのか、目の前の悪魔たちで確かめてやることとしよう。

「《練命剣》、【命輝一陣】」

斬法――剛の型、迅雷。

一度納刀した餓狼丸を、神速で抜き放つ。

眩い軌跡を残した一閃は生命力の刃となり、そのまま凄まじい速度で、迫り来る悪魔へと正面から襲い掛かる。

一瞬の閃光にしか見えなかったであろうその一閃は、その射程の限界まで悪魔たちを胴から真っ二つにして見せた。

その結果に、俺は口角を吊り上げて笑う。

「成程、いい威力じゃねぇか」

【命輝一陣】は、命中するたびに威力が減衰し、敵を一撃で倒せない威力まで下がった時に消滅する。

それが、射程の限界まで消滅することなく、敵を斬り裂き続けたのだ。

例えデーモンばかりであったとしても、これほどの威力は見事と言わざるを得ない。

流石にアークデーモンが混ざっていればこうはいかなかっただろうが、高々【命輝一陣】でここまでダメージを出せるのであれば十分だろう。

「《奪命剣》、【咆風呪】」

次いで、広範囲に広がる呪いの風を放つ。

こちらは威力の減衰も無く、相手の防御力すら無視する攻撃だ。

巻き込まれた悪魔たちから、デーモンは瞬く間にHPを吸い尽くされて、ミイラのように枯れ果てながら消滅する。

残るのは、デーモンに比べて体力の高いアークデーモンだけだ。

流石に、アークデーモンのHPを吸い尽くせるまでには至っていないらしい。

だが、ここまで数が減っているのであれば、直接斬ってやれば済む話だ。

歩法――縮地。

【咆風呪】のダメージで脱力し、片膝を着いているアークデーモンへと肉薄する。

その動きが鈍っている今ならば、斬り捨てることなどあまりに容易い。

そのまま走らせた一閃は、アークデーモンの首を豆腐か何かのように容易く斬り裂いてしまった。

「うーむ……ちょいと特化させすぎたかもしれんな、これは」

これまでひたすら攻撃力増加を続けてきたのは、格上の悪魔相手に戦うためである。

たとえ相手の攻撃に対処することができたとしても、攻撃力が低ければダメージを与えられず、勝利には届かない。

その対策のための攻撃力特化であったのだが、まさかここまでに達していようとは。

まあ、防御力は相変わらず何も強化していないため、アークデーモンどころかデーモンに殴られても大ダメージを受けるわけなのだが。

「まあいい、悪魔を効率的に殺せるのなら、それに越したことは無いからな」

摺り足で距離を詰め、首を貫き、払う。

そのまま重心を移動させることによって次なる一歩へと足を動かし、体ごと動かすように刃を振るってもう一体のアークデーモンを斬り捨てる。

高めに高めた攻撃力は、最早《練命剣》を使わずともアークデーモンの体を袈裟懸けに両断できてしまうほど。

ある程度の威力を確かめて、俺は更に前へと足を進める。

目標はゲートの破壊なのだ、のんびりしていても話は進まない。

【咆風呪】の効果が及ばなかった範囲から、黒い靄が晴れたことで新たな悪魔が向かってくる。

どうやら、何も考えずに効果範囲に入ってくるほど考えなしというわけではないらしい。

「《練命剣》、【煌命閃】!」

敵の数は多く、できるだけ多くの相手を一度に屠らなければ間に合わない。

俺はあまり範囲攻撃には優れていないため、こういう時が厄介なのだが――それでも、対応できないというわけではない。

斬法――剛の型、輪旋。

刃を大きく振るい、可能な限り【煌命閃】の効果範囲を広げる。

弧を描くように広がった一閃は、左右に展開しようとしていた悪魔を丸ごと斬り裂いた。

そこそこにHPを使ってしまったが、囲まれるよりはマシだろう。

次いで――

「《奪命剣》、【呪衝閃】!」

斬法――剛の型、穿牙。

三魔剣のいいところは、一撃の速さや鋭さがそのままテクニックの威力に反映されるところだろう。

俺の放つ一撃、久遠神通流の術理は、確かに三魔剣による攻撃を強くしてくれている。

餓狼丸に纏わりついた粘性を持つ闇は、俺の刺突の一撃と共に前方へと向けて大きく伸びる。

如意棒が実在するならばこのような動きをするのか、などという益体もないことを考えながら、俺はその一撃によって正面の悪魔を丸ごと刺し貫いた。

【煌命閃】で消費したHPは一気に回復しながら、更に前へ。

目指す先はこの悪魔の群れを吐き出しているゲート。悪魔を殲滅し続けながら、先に進んでいくこととしよう。