軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

501:麓への出撃

準備を終えた俺たちは砦から出発し、北西にある霊峰の麓へと向かった。

北へと向かったため、散発的に悪魔が襲い掛かってくるが、それらの大半はシリウスの攻撃によって蹴散らされている。

他のプレイヤーも戦ってはいるが、多くのプレイヤーはシリウスの戦いっぷりが気になっている様子である。

まあ、この辺りにいる悪魔程度であれば、シリウスの相手になるような存在はいない。放っておいても特に問題は起きないだろう。

「しかし……数が増えてきているな」

「ですね。一昨日来た時より、出現する量が多くなってますよ」

「この位置でこれだけの数との遭遇だからな。こちらの数が多いからというのもあるだろうが……」

今回はレイドクエストというわけではないため、プレイヤーの総数は把握しきれていない。

だが、この数であれば数百人に達しているだろうし、それだけの数がいれば悪魔が寄ってくるのも無理はないだろう。

しかしそれを加味したとしても、この数は異常だ。明らかに、以前よりも悪魔の数が増えてきている。

しかも目的地に向かうほど数が増えているということは、今霊峰の麓がどうなっているのかの想像もつく。

どうやら、最初に想定していたものよりも厄介な戦いになりそうだ。

「大丈夫ですかね? 数が多すぎて手数が足りなくなるなんてことになったら大変ですけど」

「一応レイドを組んでいるとはいえ、少しでも突破されたらやり直しでしょう? 結構厳しいんじゃないの?」

「さてな……手が回り切らないのであれば一度撤退するのも手だろうが、まあこの程度ならアルトリウスも想定しているだろ」

あいつは戦に際し、様々な可能性を考慮した上で準備を行っている。

敵の数が増えるということは、大公アルフィニールによる手が加わるということ。

これまでに起こっている現象であるが故に、その可能性は十分に考慮していることだろう。

(それだけじゃなく、他の陣営の悪魔や、爵位持ちの悪魔の参戦まで考えているだろうな。起こって欲しくは無いが)

アルフィニールの悪魔が動いているからといって、他の大公配下の悪魔が動かないという保証はない。

ついでに言えば、爵位悪魔も今は姿が見えていないだけで、動いている可能性は十分にあるだろう。

どのレベルの悪魔までを想定しているのかは知らないが、最悪の場合は公爵が出現する可能性も否定はできまい。

まあ、公爵を相手にするのはトッププレイヤー層全員が万全の準備を行った上でもなければ無理であるため、その場合は即座に撤退となるだろうが。

「アルトリウスが撤退を指示しない限りは、正面から戦えば済む話だ。数が増えていようが、やることに変わりはない」

「そんな単純に済めばいいですけど……」

「済ませるのさ。そのための俺たちだ」

どうあろうと、すべきことに変わりはない。

悪魔を排し、エリアを確保して、石板を設置する。

その上でそれを防衛できる拠点を構築し、誰もがレベルキャップ解放クエストを受けられるようにすることで、全てのプレイヤーを強化する――そこまで上げると中々に遠いが、やらなければならない戦いだ。

「で、何か用事か?」

「……後ろから近づいているのに気付くのですか」

「そりゃまあ、別に気配を隠して近付いてきたわけでもあるまいに」

ふと、接近してくる気配に振り返れば、そこには呆れた表情を浮かべるKの姿があった。

どうやら、俺たちに用事があってここまで来たらしい。

「アルトリウスはどうした?」

「彼は『キャメロット』全体に指示を飛ばしている状況です。流石に、あまり余裕がありませんのでね」

今回は今後の展開の要となるだけに、アルトリウスも本気ということか。

『キャメロット』をどこまで動員しているのかは知らないが、限りなく本気ということなのだろう。

「で、アルトリウスからの伝言は何だ?」

「『可能な限り目立ってください』とのことです」

「また随分とざっくりした伝言だな……言いたいことは分かるが」

恐らく、敵に爵位持ちの悪魔がいた場合のことを考えているのだろう。

俺の名は悪魔の間でも通っているらしく、先日の侯爵級悪魔エリザリットも俺のことを知っている様子であった。

つまりアルトリウスは、俺が目立つ戦いをしていれば、爵位持ちの悪魔が何かしらのリアクションを取ると考えているのだろう。

もしも俺を敵視していたり、興味を抱いている悪魔であれば向かってくるだろうし、逆に恐れを抱いているような低位の悪魔ならば逃げる可能性も考えられる。

どちらにせよ、リアクションのパターンが絞れるのであれば、その分だけ対処がしやすくなるということだろう。

「ちなみに、アルトリウスは爵位持ちの襲撃はあると考えているのか?」

「はい、可能性は高いと踏んでいますね。集落に悪魔が集結しつつある状況であるため、何かしらの準備はあると考えています」

「ま、そうだろうな。だが、相手の強さによって対応は変えるんだろう?」

「本当に敵の強さ次第なので、それについてはまだ判断を下せません。状況に応じて判断します」

「そうか……まあ、そうだろうな」

場合によっては撤退の可能性もある、そのことは常に頭の中に入れておくことにしよう。

準備もしていることだし、できるだけそのようなことにはなってほしくないが――そのような状況になった場合、無理をしてまで作戦を強行したとしても、得られるものは何もないだろう。

「まあ、方針は理解した。結局、いつも通りに戦えば済む話だ」

「相変わらずですね。ですが、だからこそ頼もしい。よろしくお願いします」

俺の返答に満足したのか、Kは笑みと共に一礼し、再び『キャメロット』の列へと戻って行った。

それを見送り、胡乱げな表情をしたアリスがこちらを見上げつつ声を上げる。

「安請け合いしてしまっていいの? あれ、要は囮になれっていうことでしょう?」

「まあな。だが、それはどこで戦っていたとしても同じ話だ。悪魔共が俺に注目している以上、俺は必ず囮になっちまうだろうさ」

「……まあ、別にいいけれど」

若干納得はしきれていない様子ではあったが、アリスはそこまでで言葉を切った。

正直、囮云々など今更の話だ。これまでの戦いで、俺たちは幾度となく矢面に立つ形で戦ってきた。

その結果が今の状況であるならば、こちらとしても望むところというものだ。

「さてと……そろそろ俺たちも行くとするか」

「もうですか? 到着にはまだ少し時間がかかりそうですけど」

「ウォーミングアップにはちょうどいいだろう? それに、そろそろシリウスだけでは手が足りなくなってきそうだからな」

シリウスは強力なテイムモンスターではあるが、その体格と性質故に、他のプレイヤーとの共闘は難しい。

慣れている俺たちならば問題は無いが、他のプレイヤーでは不可能だろう。

そのため、そろそろシリウスに対する援護が必要だ。

まだ大したダメージを受けるような状況ではないが、放っておけば徐々に削られて行ってしまうだろう。

辿り着くまでに、シリウスの余計な消耗は避けておきたい。

「退屈しのぎにもなる。そろそろ、俺たちも始めるとしよう」

「了解です。ま、疲れない程度にやっておきますよ」

軽く溜め息を吐いた緋真は、紅蓮舞姫を抜き放ちながら前に出る。

その様子を見つつ、俺は空を飛ぶルミナたちを地上へと呼び寄せた。

「お父様、ご用事ですか?」

「ああ、シリウスの援護を頼む。あまり敵を引きつけ過ぎる必要はないから、寄ってきた悪魔だけに対処するんだ」

「分かりました!」

元気よく頷いたルミナは、スキルを発動させながら緋真と並び飛び出していく。

戦力としてはこれだけでも十分だろうが、見ているだけというのもつまらない。

俺も、多少は暇潰しをさせて貰うこととしよう。

笑みと共に、俺は餓狼丸を抜き放ったのだった。