軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

500:霊峰確保作戦

霊峰の麓の様子を確かめてから二日。

プレイヤーたちの動きは、一気に慌ただしい物へと変化していた。

アルトリウスたち上位クランのプレイヤーはレベルキャップ近くまでキャラクターレベルを成長させつつ、それと共に作戦の準備を進めている。

また、それに関わらない一般のプレイヤーたちは、無数にいる悪魔を相手にすることでレベルを上げていた。

どうやら、一部のプレイヤーはレベルキャップにまで到達し、試練を受けることを心待ちにしている状況であるらしい。

まあ、山まで到達すれば試練自体は受けられるのだが、今は麓を悪魔によって占拠されている状態だから、抜け駆けも難しいようだ。

「しかし……中々面倒な作戦になりそうだな」

「相手のボスを倒したら終わりって話でもないですからねぇ」

今回の霊峰確保であるが、今のところ麓を占拠している悪魔たちを指揮する存在は確認できていない。

つまり、大変厄介なことではあるのだが、常に供給され続けるアルフィニールの悪魔を迎撃し続ける必要があるのだ。

問題となるのは、結界の要である石板の設置である。

あの石板は、その効果範囲内に敵性存在が一定数以上存在する場合、設置を完了させることができない。

また、設置するにも時間がかかり、最短でも十分近くその状況を維持し続けなければならないのだ。

幸いなことに、作業を中断させられても途中から再開できるようなので、何度も最初からやり直さなければならないということは無いのだが――

「まず第一段階として陣地内の悪魔の排除。第二段階として、防衛線の構築。そして第三段階として、防衛線を用いた戦線の維持……そうせざるを得ないのはその通りなんだが、面倒だな」

「ついでに言っておくと、第四段階として防衛拠点の構築もあるわよ。石板だって、決して完璧とは言い難いんだから。拠点を確保し続けられるような建造物が必要だわ」

「……エレノアか。現場指揮をしていなくていいのか?」

「ええ、必要なことはもう伝達済みだから。後は勘兵衛が進めてくれるわ」

俺と緋真の会話に割り込んできたのは、疲れた様子を隠し切れていないエレノアであった。

連日作業を続けつつレベル上げも行っていた様子であるし、疲れが抜けないのも仕方のない話だろう。

ログイン時間が長いと生活リズムも崩れがちになるし、流石のエレノアでも無理している部分が出てきているのだろう。

とはいえ、それも必要なことではある。ここは踏ん張って貰いたいところだ。

「で……その第四段階ってのは?」

「元々、麓の集落に設置されていた石碑は、悪魔によって破壊されていたのでしょう。たとえ石碑が有ったとしても、悪魔は絶対に侵入できないわけではないし、石碑を破壊する手段も存在する。石板もそれは同じだし、防衛手段は必要だわ」

「確かに、それはその通りですけど……そんなにすぐ建物を作れるんですか?」

「まあ、すぐは無理ね。周囲の防壁と、石板を囲む建物……全てを構築するにはそれなりに時間がかかるわ。でも、一度結界を展開できれば防衛はやりやすくなるし、最初の確保より難易度は下がるわね」

とはいえ、決して楽な任務というわけでもあるまい。

一度突破され、石板を破壊されてしまえば全ては水の泡だ。

確実に防衛しきれるような拠点と、戦力を揃えておく必要がある。

「……とはいえ、確保後の話を今気にしていても仕方ないか」

「そうね、まずは確保が重要。それが果たされなければ、何も始まらないわ」

小さく溜め息を吐き出して、並ぶ軍勢の姿を眺める。

防衛に優れた、パルジファルの部隊。彼女たちが護るのは、『エレノア商会』の生産職の面々だ。

石板に関する技術者や建築系のスキルの持ち主。彼らは、今回の作戦の要となる人物だ。

彼らに悪魔の攻撃が及ぶことがあれば、作戦は失敗となってしまうだろう。

そのために、『キャメロット』最大の防御力を割り振るのも間違いではあるまい。

「ところで、真化ってどんな感じなのかしら?」

「おいおい、お前さんもそれを聞くのか?」

「ここのところ、知り合いと顔を合わせる度にその話になってますからね……」

実際、エレノアだけではなくアルトリウスにも雑談程度に振られた話だ。

最初の内はともかく、何度も同じ話をするのも億劫なものである。

「そもそも、感覚的にはそう変わるもんでもないからな。特殊なスキルが追加されたという程度の話だ」

「あー、でもレベルは上がり辛くなった感じがありますね。昨日一昨日でもあんまり上がらなかったですし」

「ああ……それはあるかもしれんな。敵の数が多いから、上げようと思えば上げられるんだが」

「ふぅん……やっぱり、レベル100は一つの節目なのかもしれないわね」

とりあえず納得はしたのか、エレノアは頷いて視線を上へと向ける。

高く聳える霊峰、雲と雪に包まれたその頂上は、未だその役目を果たし切ることなく佇んでいる。

次にあの場所に到達するのは誰になるのか――それも、全てはこの作戦が終わってからだ。

「さてと、そろそろ時間だな」

「そうね。先鋒はお任せするわ、斬り込み隊長さん?」

「いつも通りだな。ま、自由にやらせて貰うさ」

軽く手を振り、エレノアの傍から離れる。

俺たちの担当する場所は最前線、アルトリウスとも確認を取っている配置だ。

俺たちを生産職の護衛に回すという案もあったようだが、それよりは前線で自由に暴れさせた方が敵にダメージを与えられると判断したらしい。

実際、俺としても退屈な後方で護衛任務をやらされるよりは、前線で暴れさせて貰った方が気が楽だ。

無論、後方の『エレノア商会』のメンバーが重要であるということも理解してはいるが、そこは『キャメロット』に任せていれば不安は無いだろう。

俺たちは他の一般プレイヤーと同様、特に場所を選ぶこと無く戦えばいいだけだ。

「それにしても、明確なボスも無く防衛するっていうのも退屈な話ね」

「分かりやすい標的がいた方がやり易いのは事実だがな。まあ、状況を把握しきれているわけでもないし、出現する可能性も否定はできん」

「そうね。その方が楽しめそうではあるんだけど」

いつの間にか姿を現していたアリスは、見た目に似合わぬ好戦的な表情でそう呟く。

物騒ではあるが、俺としても同意見の話だ。

際限なく攻めてくる敵よりもよほど対処しやすいという点もあるが、やはり強敵がいなければ面白くない。

無論、状況についてはまだ分からないのだし、強力な悪魔が襲撃を仕掛けてくる可能性もある。

それらも考慮に入れた上で、悪魔の群れに対処することとしよう。

「ワールドクエストではないし、報酬は無いが……いや、俺たちの場合は本当に無いが、せめて戦いぐらいは楽しませて貰いたいもんだ」

「他の人たちは解放クエストを受けられるようになりますけど、こっちはもう終わってますしねぇ」

この作戦は、解放クエストを受注可能になるという条件を元に人を集めている。

別にこの作戦に参加しなかったとしても、霊峰の確保に成功すればいつでも解放クエストは請けられるだろうが、逆に言えば成功しなければいつまで経っても請けられないのだ。

他のプレイヤーとのレベル差が気になる連中にとっては、この作戦の成功は死活問題であるとも言えるだろう。

(あの辺りにいるやたら気合が入った連中は、そういう手合いなんだろうな)

一部、目が血走っているような様相で作戦開始を待ちわびている連中は、恐らくそんな人物たちなのだろう。

そこまで必死になるのもどうかとは思うが、今回の件に真剣に取り組んでくれるのであれば否はない。

まあ、空回らないでほしいとは思うが。

「ま、別に今のところ欲しいものがあるわけでもないからな……それより、プレイヤー全体の強化で行動範囲が広がってくれた方がマシだ。まだ、悪魔側の動きはあまり掴めていない状況だからな」

前より多少マシにはなったものの、未だ悪魔の陣営に関する情報は少ない。

更に言えば、あまり北上できないためにこの土地の調査も進んでいない状況だ。

この土地で手に入る素材、アイテムについても不明な部分が多く、新たな装備の作成も滞っている。

これらを効率よく進められるようにするためにも、レベルキャップの解放は必要不可欠だ。

「さて、悪魔共がどう出るか、見物だな」

どのような形であれ、この戦いこそが人間側の攻撃の足掛かりとなる。

それに対し、悪魔はどのように対処するのか――まずは、それを見極めるとしよう。