軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

050:刃を振るう意志

ルミナは、自ら異なる方向性を望んだことにより、本来の進化ルートを外れた存在だ。

それはつまりルミナの在り方そのものを決めた願いであり、それは精霊王に対して示した答えでもある。

もしもこれが、ただの興味本位から来る言葉であったならば、即座に却下していただろう。

また、子供の言葉であっても、普通であれば信用はしない。子供の本気など、後々容易く覆されるものだ。

もしも子供が安易にやりたいなどと口にしていたならば、徹底的に根性を叩き直すところだっただろう。

だが――

「……ルミナ。お前、本気で学びたいって言うんだな?」

「はいっ! わたしは、おとーさまと同じように戦いたい、です!」

やはり、ルミナは魔法でも見せていたように、剣で戦うことを目標としているようだ。

その覚悟は、並のものではないだろう。何しろ、母とも言える妖精女王と決別してまで俺と進む道を選んだのだ。

俺はその選択を、子供の戯言だと断ずることはできなかった。

けれど、安易に認めることができないのもまた事実。だからこそ俺は、ルミナと視線を合わせるように片膝をつき、俺は彼女へと問いかけていた。

「ルミナ、お前はどうしたい? お前はまだ非力だし、体も小さい。だが、精霊王にそう願った以上、最終的にはお前の望みに近い形になれるだろう。だが、肉体の違いがある以上、俺と完全に同じという方向性は無理だ」

「そう……なの?」

「体格が違う、筋力も違う。俺の剣の扱い方は、俺自身の肉体に最適化させたものだ。女のお前が真似をしようとしても上手くはいかないだろう」

だからこそ、緋真は技の型こそ俺から学んでいるものの、戦い方そのものを俺は修正しているだけで、指定して教えているわけではない。

これについては、緋真は既に自分自身で己のスタイルを見つける領域まで至っているというのもあるが。

ともあれ、ルミナが俺の戦い方そのものを真似することは不可能だ。

そんなことをしようとしても、まともに動けずに自滅するのがオチだろう。

「お前は、お前自身の強みを生かしつつ、更に己に合った立ち回りを身に付けるべきだ。お前には、俺には無いものもあるしな」

「おとーさまにないもの?」

「魔法と飛行能力だ。あまり俺のやることにこだわり過ぎず、自分のやれることを狭めずにやっていけばいい」

「ん……わかった!」

「……って、ちょっと先生! 先生が教えるのは――」

「分かってるよ、落ち着け緋真」

俺が却下すると思っていたのだろう、若干慌てた様子で緋真が口を挟む。

周りからすればおかしな反応かもしれないが、これは緋真にとっての死活問題であるからだ。

久遠神通流の師範が――つまり俺が直接教えられるのは、師範代たちを除けば、俺自身が選んだ一人の直弟子のみに限定される。

門下生たちに多少の指導をすることこそあれど、術理の継承を行うのはその面々だけと一族の掟に決められているのだ。

つまり、俺がルミナに教えるということは、ルミナを直弟子にするということであり、緋真を直弟子から外すということに他ならない。

俺としても、そのような真似をするつもりは無かった。

緋真は俺自身が選んだ弟子だ。俺は未だに、こいつ以上の才能と熱意を持った人間を見たことは無い。だからこそ、変える理由など一切ないということだ。

「ルミナ。俺はお前に、直接の指導をしてやることはできない。業を見せてやる程度は出来るが、手取り足取り教える、ということは禁じられている」

「ええ!? わたし、おとーさまがいいのに!」

「済まんが、決まりごとなんでな。その代わり、俺ではなく緋真がお前に指導することとしよう」

「はい?」

俺の言葉に、緋真が目を丸くする。

今初めて言ったからな、驚くのは無理もないだろう。

とは言え、我ながら中々いい案だとは思っている。

「お前が教えてやる分には問題ないからな。俺の指導を、お前なりに噛み砕いてルミナに教えてやれ」

「はぁ……つまりそれも、私の修行の一環ってことですか」

「誰かに教えることで、見えてくるものもあるからな。お前も分かっちゃいると思うが、術理は理解しなけりゃ扱えない。そして、誰かに教えることもそれは同じだ。どちらもこなせば、より理解度は高まるだろう」

「成程……分かりました。それはつまり、今後はずっと、先生とパーティを組んで活動するってことですよね!」

何故か妙にテンション高く聞いてくる緋真であるが、その認識に間違いは無い。

俺よりも女性の身での戦い方を熟知しているであろうし、ルミナに教えるという点では俺よりも適任だ。

まあそれに、オークスと交わしていた会話のこともある。

この弟子が剣に狂うということはあり得ないだろうが、もう少しきちんと面倒を見てやった方がいいだろうと考えていたのだ。

まあ正直、ゲームの中でまで師匠にあれこれ口出しされるのは愉快なものではないだろうが、緋真の表情の中には不快そうな色は見られない。

どうやら、本人もそれなりに乗り気ではあるようだ。

「ふふふ、今後はちゃんと、付いていきますからね! イベントの時だって、ちゃんと見ててもらいますから!」

「お? ああ、そりゃ構わんが……アルトリウスとの先約があるから、あいつらの所で戦うことになるぞ」

「成程、アルトリウスさんと――は?」

「ちょっ、待ちなさい、クオン。アルトリウス? 彼が接触してきたの?」

イベントについては、先ほど話した約束がある。

緋真が付いてくる分には構わんが、約束を交わした以上、戦う場所はあいつらと同じ戦場だ。

しかしその言葉に、緋真は目を丸くし、フィノと話をしていたエレノアは慌てた様子でこちらに戻ってきた。

その様子に疑問符を浮かべつつ、俺は首肯しつつ返答する。

「ああ、先ほど話をしてな。同じ戦場で戦おうと、同盟を結んできたところだ。ちっと借りもできちまったからな」

「はぁ……やられたわね。まさか、こんなに早く接触してくるなんて。本当に油断ならないわ」

「ええ……えっと、エレノアさん?」

「緋真さん、もう契約済みだからね?」

「あっ、はい」

据わった眼で凄んでくるエレノアの言葉に、緋真は消沈したように肩を落とす。

俺がアルトリウスと組んで、何か問題があったのだろうか。

そんな疑問と共にエレノアへと視線で問いかければ、彼女は嘆息と共に返答していた。

「プレクランについては知ってるわね? ああやって集まっていたのもあって、既にそこそこ大きな規模のクランがいくつか生まれてるのよ」

「代表的な所では、あのアルトリウスさんの『キャメロット』、エレノアさんの『エレノア商会』、他には『MT探索会』とか『剣聖連合』とか『クリフォトゲート』とか『 始まりの道行き(ファーストオーダー) 』とか……まあ、色々できてるんです」

「で、そういった代表的なクランで集まって、イベントにどう参加するかを相談し合っていたのよ」

成程、俺が王都を離れている間に、他のプレイヤーたちはすぐさま動いていたらしい。

まあ、王都まで来ずとも掲示板とやらで相談を行えるのだろうし、そういった流れになることも不思議ではない。

そこまでは納得できる話だが、何故エレノアたちが残念がっているのかは分からなかった。

「イベントでは悪魔どもが攻めてくるという話だが……それで、どう対処するつもりなんだ?」

「規模の大きいクランはそれぞれの戦力をまとめ上げて、他のクランと領域が被らないように対処しよう、という程度ね。ま、お互い無駄な争いをしたいわけでもないし」

「ふむ……」

作戦とすら呼べないような話ではあるが、まあ素人の集団、烏合の衆のようなものだ。

全域に渡る組織立った動きなど、望む方がどうかしているだろう。

まあ、全体にごちゃ混ぜにして動かすよりは、一つ一つの団体で固まっていた方がまだ効果はある筈だ。

「で……簡単に言うと、私たち『エレノア商会』は王都の北を担当することになっているの。『MT探索会』と合同でね。けど、『キャメロット』は東側。つまり――」

「俺はエレノアたちと一緒には戦えない、ということか」

「ええ。私もあなたに協力を持ちかけるつもりだったのだけど……まさか、こんなに早くアルトリウスが接触してくるなんてね。貴方と懇意にしているというアドバンテージに油断したわ」

反省しながら額を押さえているエレノアに、俺は苦笑しつつ肩を竦める。

言いたいことは分からんでもないが、既に決めてしまった以上、俺もその言葉を変えるつもりは無い。

彼女もそれが分かっているのだろう、諦観の混じった嘆息を吐き出していた。

さて、それはそれとして――

「それで、緋真は何で落ち込んでいるんだ?」

「……私、エレノアさんの所で戦うって約束しちゃってるんですよ。先生もこっちで戦うと思ってたのに……」

「あー……ま、そういうこともあるだろう。俺もお前の調子を見ておきたかったが……仕方なかろうさ」

対多数の戦場――それは、久遠神通流にとって貴重な経験の場だ。

俺としても、弟子の成長を見られないことは残念ではある。

だが、一度契約を交わしてしまった以上、アルトリウスとの約定を撤回するつもりは無かった。

「はぁ……仕方ないわね。緋真さんを確保できただけでも幸運だったと思っておくわ」

「エレノアさん、私を先生と比べられても困るんですけど」

「……そんなに違うの?」

「正直、私が十人いても勝てませんよ」

嘆息交じりにぼやく緋真の言葉に苦笑する。

その条件ならば、確かに俺が勝つだろうが、それでも多少は苦戦させられるだろうに。

とは言え、戦場形態は籠城戦に近い。防ぎ続け、相手が減った所で反攻に移るのが定石だろう。

まあ、俺はそれに従うつもりは毛頭ないが。

「ともあれ……済まんが、そういうことであればエレノアたちには協力できない。俺の代わりに緋真をこき使ってやってくれ」

「緋真さんも大変ね……了解したわ。残念だけど、また次の機会にしておきましょう」

「ああ、その時はよろしく頼む。それでフィノ、作業は終わりそうか?」

「んー、終わったよ」

装備の調整及び修理を行っていたフィノが顔を上げる。

その手にあるのは調整を終えたルミナの装備、および俺の刀や篭手だ。

防具については殆どダメージを受けていないため、耐久度もほとんど減ってはいなかったが、思いついた時にやっておくべきだろう。

「はい、全部揃えて三万五千ねー。相当価格で素材と交換するよー」

「ん? 随分と安いな。足袋なんか四個もあるってのに」

「王都に着いたことで経済周りの調整がやりやすくなったから、価格は下げてきているのよ。インフレもようやく収まってきたわ」

「昨日の今日だろうに……サラっと言ってくれるもんだな」

確かにプレイヤー間の取引はインフレ傾向にあったのは事実だ。

悪魔を倒せず先に進めなかったがために、溜め込み型の経済になってしまっていたことが原因だろう。

だが、その経済傾向はあくまでもファウスカッツェとリブルムのみ、ここベルクサーディでは異邦人による手が入っていなかったため、そのような傾向は無かった。

そこに目を付けたエレノアは地価が安い状況にいち早く参入し、可能な限りの設備を整え店舗を設営、安く仕入れられる王都の素材で加工品を作り安価に売り出す……物が安ければ当然プレイヤーたちは『エレノア商会』でアイテムを購入するだろう。

そうして起こるのが価格競争。安値での商売が続けば他のプレイヤーの商品の値段も落ち着いていくことだろう。

……恐るべきは、その流れを支配しているこの女傑だが。

「そう難しい話じゃないわよ? そうなる流れはあらかじめ見えていたんだから、対策しておくのは当然じゃない」

「あー……まあ、そうだろうな」

あっけらかんとした彼女の様子に、思わず口元を引き攣らせる。

ちらりとフィノへ視線を向ければ、彼女はやれやれと肩を竦めながら首を横に振っていた。

どうやら、エレノアは普段からこんな調子であるようだ。

これほどの能力があるのならば、クランの名前が満場一致で『エレノア商会』になることも頷ける。

彼女には、それだけの実力があるということなのだ。

「さて……それじゃあ、そろそろ行くとするか」

「あ、はい! それじゃあエレノアさん、また」

「っと……そうだ、行く前に八雲に用事があるんだが、居るか?」

「ええ、居るわよ。どうかしたの?」

首を傾げるエレノアに、俺は軽く笑みを返す。

これからは、弟子たちに稽古をつけてやらねばならないのだ。

この間も少々不便であったことだし――

「ルミナに渡す刀は俺の使っていた小太刀でいいが、普段の稽古には木刀を使いたいんでな。あるんなら購入したい」

「あら……分かったわ。出来合いであれば残ってると思うわよ」

「助かる。それじゃあ、買ったら行くぞ、お前ら」

『はーい』

同じように返事をする緋真とルミナの様子に苦笑しつつ、俺たちは軽く手を振ってフィノの部屋を後にしていた。