軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

049:エレノア商会

王都ベルクサーディの大通りを歩く。

やはりプレイヤーの数は相当に増えており、ファウスカッツェやリブルムほどではないものの、随分と人の姿が多くなっていた。

こうなると、来た直後の頃のベルクサーディの姿が懐かしい。

今後、ああいった姿を見ることはできなくなってしまうだろう。あの姿の王都を知っているのは、俺たちと、後は俺たちのすぐ後に来た数少ないプレイヤーだけのはずだ。

まあ、そんな些細なことで優越感を覚えるのもどうかという話だが。

「しかし……流石の影響力と言った所か」

「……? おとーさま?」

「アルトリウスの話だ。あれは中々頼りになる男だぞ、ルミナ。覚えておいた方がいい」

「んー、はい!」

いまいち理解はしきれていない様子のルミナに、思わず苦笑を零す。

あのアルトリウスとの問答は既に多くのプレイヤーに広まり始めているのか、俺に声を掛けようとするプレイヤーの数は激減していた。

まあ、注目度が変わったわけではないため、人々の視線から逃れられるわけではないのだが。

何にせよ、あまりちょっかいを掛けられなくなっただけでも大助かりだ。

やはり、アルトリウスには感謝しておくべきだろう。

「さて……確かこの辺だったと思うんだが」

「んー?」

フレンド機能のメールから受け取った場所を目指し、街を進む。

探しているのは、エレノアが新たに拠点として居を構えた販売店だ。

彼女は早くもクランハウスを購入し、この人通りの多い通り沿いでショップを開店させたそうだ。

その資金力は流石と言うべきか。ボスの攻略法が明らかになってから、まだそれほど経ったわけではないというのに、ここまで活動範囲を広げているのだからな。

まだ他のプレイヤーたちが進出していない段階での素早い市場支配だ、それはもう効果的だろう。

「っと、あそこか」

やたらと人の集まっている一角を発見し、そちらへと近づいていく。

まさかこのタイミングで大通りに面したクランハウスを借りて、しかも改装までしているとは。

あの強かなエレノアのことだ、最初から計画していたのだろう。

半ば呆れにも近い感情を抱いたまま店舗へと近づいていけば、その店先にいた一人の男と視線が合っていた。

「お? よぉ、いらっしゃい、クオン。姐さんの目論見通り、あっさりと王都まで到達したな」

「いや、あれはただの偶然だがな」

「偶然にせよ何にせよ、お前さんが姐さんの睨んだ通りに道を開通させたことは事実だろ? ま、もうちょっとゆっくりやってほしかったところではあったけどな。おかげでこちらに進出するのが慌ただしくなっちまった」

「それでも対応できたってことは、エレノアもある程度予想してたってことだろ?」

「予想してた中で最速、ぐらいだな。お前さんには色々と驚かされる」

まあ、我ながら急展開だったとは思うが、それでも対策を練っていたエレノアは流石と言うべきか。

結果としては、こうやって上手いこと店舗を増やすことができたわけだ。

「さて、それで何の用事だ? 姐さんと相談事か?」

「いや、普通に買い物だ。こいつの装備を揃えておきたくてな」

「ああ、噂の妖精……妖精? まあ、とりあえずフィノの所か。おーい、ジャック! この兄さんをフィノの所へ案内してやってくれ!」

「はい、勘兵衛さん! では、こちらです」

勘兵衛に呼ばれてやってきたジャックという男は、どうやらこの店舗の従業員をやっているようだ。

生産職プレイヤーなのかと思いきや、少々趣が異なる。

どうやら彼は、現地人であるらしい。

「へぇ、エレノアは現地人を雇い入れることにしたのか」

「ははは、クランハウスの有料サービスの一つですよ。まさか、いきなりここまで沢山雇われるとは思いませんでしたが」

「だがエレノアのことだ、コストに見合うだけの売り上げは上げているんだろう?」

「ええ、まあ。大きなクランらしからぬ拙速方針、私も勉強させていただきましたよ」

ちょいと気になりはするが、俺は商売関係にはあまり詳しくはない。

その辺を聞いたところで理解はできないだろう。

まあ、彼女であれば上手くやるはずだ。その手腕を信じておくこととしよう。

周囲の様子を確認しながら建物の奥へと足を踏み入れれば、そこには真新しい鍛冶場のスペースがあった。

そこにいるのは言うまでも無く、鍛冶師であるフィノ――それに加えて、その隣で話をしているエレノアと緋真の姿があった。

「おや、会長。フィノさんにお客様ですよ」

「あら、ご苦労様、ジャック。それに――」

「……先生、ようやく来ましたね」

「お、おう。お前もここに来ていたのか」

何やら胡乱げな視線を向けてくる緋真に、思わず頬を引き攣らせる。

そういえば、ゲームの中ではしばらく放置してしまっていた。

リアルで稽古をつけている際も、それについて度々文句を言われていたのだが、まさかこのような場所で再会するとは。

「んおー? ちょっとお久しぶり、先生さん。装備の手入れー?」

「ああ、フィノ。あまり減ってはいないが、よろしく頼む。ただ、本来の目的はそっちではなく、こいつの装備を揃えることだ」

緋真の装備を修復していたのだろう、砥石から顔を上げたフィノは、相変わらずぼんやりとした表情で問いかけてくる。

そんな彼女の発した言葉に頷きつつ、俺は隣にいるルミナのことを示していた。

流石に、建物の中で肩車をしていると頭をぶつけそうだったので、今はこうして降りていたのだ。

フィノはきょろきょろと周りを見回しているルミナの姿を見つめ、興味深そうに目を輝かせる。

まあ、珍しいのだから仕方ないだろう。恐らく、現状唯一のテイムされた精霊なのだから。

「おー、その子が噂の妖精?」

「今は精霊、スプライトだ。進化したんでな」

「成程。その子に装備を持たせたいの?」

「ああ。だが、他に見たスプライトは結構でかかったんでな、もしかしたら人間のように成長するかもしれんから、サイズの調整が利くものがいいな」

現在レベル3のルミナであるが、レベル1の頃より若干ながら身長が伸びている感がある。

このままのペースで成長していくと、試練の時に戦ったスプライトぐらいまで成長するのはレベル10台半ばかそこいらだろう。

まあ、個体差があるかもしれないので何とも言えないが。

「んー、布系装備で、肩幅は一時的に紐で縮めて……和服なら胴回りは帯で何とかなるかなー。最初は長くても、最終的にはミニ着物になったりしそうだけど」

「成程。まあ、その辺の裁量はお前さんに任せる。その辺はよく分からんしな」

「はぁ……先生、本当に服装は無頓着なんですから。フィノ、私も調整手伝うよ」

「お願いねー」

どうやら、フィノに加えて緋真もルミナの装備調整に付き合ってくれるようだ。

女物の服なんてのは正直よく分からんし、やるというのであれば任せておけばいいだろう。

二人の言葉に俺は小さく頷き、ルミナの背を押し出していた。

「よし。じゃあルミナ、あいつらに装備を合わせて貰え」

「はーい」

わくわくとした表情で、ルミナは二人の方へと向かう。

そんなちびっ子の様子を見送り、俺は思わず苦笑を零していた。

精霊に進化はしたが、やはり妖精の頃の好奇心までは失っていないようだ。

だが、ルミナは既に、自分の望む姿を描いて示している。果たしてこの先どのように成長するのか――楽しみであることは否定できなかった。

と――そこに、声がかかる。こちらへと近づいてきたのは、唯一この場で装備合わせに付き合っていなかったエレノアだった。

「こんにちは、クオン。相変わらずのようね」

「何を指して相変わらずと言ってるんだ、そりゃ」

「勿論あなたの強さと行動よ。突然妖精をテイムしたかと思えば、あっという間にボスを倒して王都まで到達、しかもイベントをこなしてワールドクエストの引き金まで……私だってここまでは予測してなかったわ」

「あー……それはまあ、否定しきれないか」

確かに、俺としても怒涛の展開だった自覚はある。

しかもその妖精、ルミナについては特殊進化して精霊にまでなってるわけだしな。

とはいえ、派手な動きをしているのは俺だけではあるまい。

「お前さんだって、大層なことをしているじゃないか。最速での市場支配を狙ったって所か?」

「それが可能ならば狙わない理由は無いでしょう?」

「そんな大それたことを実行できるほどの行動力と資金力を持ったプレイヤーが他にいるとは思えんね。御用商人でも目指すのか?」

「流石に、現地人の市場を食い荒らすような真似はしないわよ。私たちはあくまで 異邦人(プレイヤー) 向け、私たちが居なくてもこの国は回っているんだから」

この配慮があるからこそ、あの神父から聖印を受け取ることができたのだろう。

まあ、協力関係を結んでいるエレノアが躍進してくれる分には、こちらとしても文句は無い。

是非、今後とも自重せず商会を成長させてほしい所だ。

しかし、順調であるにも関わらず、彼女の表情はあまり優れない。

何か問題でもあるのかと、俺は彼女に問いかけていた。

「順調に行ってそうな割には浮かない顔だが、何か問題でもあるのか? 内容によっちゃ手を貸すが」

「ああ、いえ……個人的な事情よ。商会運営は順調そのものだわ」

「ふむ、と言うと?」

「遠慮なく聞いてくるわね……まあ、大した話じゃないけど。クラン名のことよ、クラン名」

そう口にすると、エレノアは大きく嘆息しながら頭痛を堪えるように頭を抱えていた。

クラン名と言うと、先程アルトリウスが自己紹介していた『キャメロット』のような名称のことだろう。

集団に名前を付けるということは、意識の統一やら連携の強化やらにはそこそこ有効だ。

クランを結成する上で必須となるのであろうし、その名称の決定には間違いなくエレノアも関わっていたのだろうが……それで何故問題が起こるのだろうか。

そんな俺の疑問を感じ取ったのか、エレノアは茫洋とした瞳で続けていた。

「ここのクラン名、『エレノア商会』になってしまったのよ」

「ふむ? まあ、妥当じゃないか?」

「貴方まで言わないでくれない!? 私以外の全員がこれを推してきたんだけど!?」

「そりゃあエレノア、お前さんの陣頭指揮の下に運営されてる組織なんだぞ? お前さんがその屋号を背負わんでどうする」

うちの流派の名は久遠神通流、そしてそれを受け継ぐ我らは久遠一族だ。

そして、若干不本意ではあるものの、その旗頭は紛れもなく俺自身である。

あのクソジジイに嵌められたとはいえ、当主になった以上は久遠の名と歴史を背負うことに異論はない。

俺からすれば、そういった団体に己を示す名が刻まれたとしても、それは決しておかしなことではないと言いたいのだが。

「……まあ要するに、気恥ずかしいわけか」

「ええ、そうね……まあ確かに、貴方の言うことにも一理あるわよ。けど、何か自己顕示欲高い女みたいで恥ずかしいじゃない」

「そんなもんかねぇ……ま、言いたい奴には言わせておけばいいだろう。お前さんには、それだけの力がある」

「そもそも、クランを結成する前から大体の人に呼ばれてた名前だけどねー」

と、そこで横から声を掛けてきたのは、ルミナの装備を調整していたフィノだった。

どうやら装備合わせは終わったのか、ルミナは今までとは違った装いを見せている。

基本的には、薄緑を基調とした着物だ。僅かにグラデーションがかかっており、裾に行くほどに白くなっている。

帯にはもっと濃い緑の色を。そして、伸びていた金の髪はバレッタによってまとめ上げられていた。

■《防具:胴》森蜘蛛糸の着物(薄緑)

防御力:11

魔法防御力:3

重量:3

耐久度:100%

付与効果:なし

製作者:伊織

■《防具:腰》森蜘蛛糸の帯(緑)

防御力:8

魔法防御力:1

重量:1

耐久度:100%

付与効果:なし

製作者:伊織

■《防具:足》森蜘蛛糸の足袋

防御力:4

魔法防御力:1

重量:1

耐久度:100%

付与効果:なし

製作者:伊織

どうやら、俺が以前に装備していたものと同じシリーズのものらしい。

ただし、肩や裾をリボンで留めて縮めているせいか、少女らしい装いの印象が強まっていた。

「もしもルーちゃんが大きくなったら、リボンを緩めて調整してね。けど、足袋はちょっと難しいからサイズ違いも用意したよ」

「ふむ……まあ、流石に足装備は仕方ないか」

足のサイズは成長につれて大きく変化する要素だ。

しかも服と違って調節が利きづらい。下駄ならば多少余裕があったかもしれないが、流石に歩き慣れていないルミナに下駄は厳しいだろう。

まあ、物自体は俺が初期に買ったものに近い。値段はそこまでではないだろう。

「まあ、これでいいだろう。金で払うか? それとも、俺がとってきた素材の方がいいか?」

「素材でー。とりあえず、一覧見せて」

「……私も確認するわ。一応、私も《書記官》は持ってるから、会計はできるしね」

「ああ、存分に見分してくれ」

一覧で表示したアイテムを二人に提示し、計算結果を待つ。

と、そこで装備を纏ったルミナが、上機嫌な様子で俺に近寄り、袖を引っ張っていた。

「おとーさま、おとーさま、どうですか?」

「ん? ああ、よく似合っている。見違えたぞ」

「えへへっ、わーい!」

「……あの、先生」

はしゃぐルミナの隣で、何やら複雑そうな表情を浮かべた緋真が声を上げる。

先ほどの不機嫌な様子とも異なる、何やら迷っているような表情だ。

あまり見慣れない様子の弟子に、俺は思わず疑問符を浮かべる。

「どうかしたか、緋真?」

「えっとですね。この子、ルミナちゃんなんですけど――」

「おとーさま!」

ぐい、と――ルミナが、体重をかけて俺の袖を引っ張る。

耐えることもできたが、あえて逆らわずに体を屈めれば、ルミナは先ほどとは異なる真剣な表情で、俺の瞳を見上げていた。

「わたし、刀がほしい!」

「……さっきから、こう言ってきかないんですよ」

そう押し切られたのだろう。嘆息を零す緋真と、真剣な面持ちのルミナに、俺は思わず眼を細めていた。