軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

482:次なるエリア

延々と続くかのような、薄暗い森。

何度も迂回させられ、どこまで続くのかと嫌気がさしてきた辺りで、俺たちは唐突に森を抜けた。

そこで目に入ったのは――

「これはこれは……映画とかで見かけるような光景ですね」

「実際に目にすることになるとは思わなかったわ」

半ば呆れを交えたアリスの言葉に、俺も内心で同意する。

森を抜けた先にあったのは切り立った崖、そしてそこにかけられた古い吊り橋だったのだ。

朽ちているという程でもないが、真新しさは微塵も感じられない、そんな吊り橋。

まさに、物語の中で敵に追われている時などに遭遇するような光景であった。

「ふむ……結構な高さだな」

「テイムモンスターなしじゃ降りるのは不可能ですね」

「まあ、普通に渡ればいいだけよね。まずは軽い私が行く?」

「そうだな、頼む」

俺たちの中で最も体重が軽いのはアリスだ。

彼女であれば、吊り橋に対してあまり影響を与えずに渡ることができるだろう。

まあ、相変わらず周囲に魔物の気配もないし、変に魔力が集中しているような場所も無い。

ただ単純に、この高い橋を渡り切るという試練だろう。

「じゃ、行ってくるわ。何かあったら援護をお願いね」

「構わんが、俺たちが攻撃すると吊り橋が破壊されないか?」

「……流石に破壊されないようになってるんじゃないかしらね、これは。無いと先に進めないし」

そう言いつつも、アリス当人が半信半疑である様子だったが。

ともあれ、ここでいつまでも足踏みしていた所で何も始まらない。

意を決した様子で、アリスは吊り橋へと足を踏み出す。

長さはおよそ五十メートル程度だろうか。一息に渡り切るには少々長い距離だ。

だが、体重が軽い上にスキルで身軽さを補っているアリスは、殆ど吊り橋を揺らすことも無くひょいひょいと渡っていく。

彼女の体の小ささの場合、下手をすると板面の隙間から落下してしまいそうでもあったが、それで足を滑らせるようなことも無く、アリスはあっさりと吊り橋を渡り切ってしまった。

「何か、ちょっと拍子抜けですね」

「ああ。だが、ここは全てのプレイヤーがやってくるようなエリアだ。あまり難易度を高くすることはできないんだろうさ……高所恐怖症の人間は知らんが」

思えば、頂上付近では崖際の細い足場を鎖を頼りに登っていくような場所もあった。

この吊り橋を含めて、高所恐怖症の人間にとっては地獄のような環境だろう。

何か対応策があるのかどうかは知らないが、俺たちは別に高所恐怖症ではないため関係のない話だ。

「とりあえず、次はお前だな。変に火を出すなよ?」

「意味もなく出しませんよ。敵が襲ってきそうな気配も無いですしね」

唇を尖らせながら、緋真は特に気負った様子もなく吊り橋を渡っていく。

緋真の言う通り、周囲には敵の気配などありはしない。

森の中と同じく、風が谷間を吹き抜けていく甲高い音が響いているだけだ。

果たして、この試練では戦闘を行うことは無いのだろうか。

(……あるとするなら、あの洞窟内の試練か)

山の中腹ぐらいからは、洞窟の中で試練を受けることになる。

そこではルートが三つに分岐しており、恐らくではあるがプレイヤーのスタイルに応じて試練を分けると考えられる。

仮に生産系にスキルを特化させているプレイヤーがいた場合、戦闘系の試練を受けることは困難だ。

他のプレイヤーと協力することが必要という可能性も考えられるが、個人で試練を受ける可能性もあるし、生産系は生産系で何とかできるようになっていると考えた方がいいだろう。

「先生、渡り切りましたよ!」

「ああ、今行く!」

そんなことを考えている間に、緋真は吊り橋を渡り切っていた。

特に何かが起こることも無く、やはりここは度胸試しのようなものということか。

であれば、特に気にすることも無く、さっさと通り過ぎてしまった方がいいだろう。

念の為、餓狼丸以外の刀は一度インベントリに格納しつつ、俺は吊り橋へと足を踏み出した。

歩法――至寂。

――そして、駆ける。

足音を一切立てずに移動するこの至寂は、当然足元に対する衝撃が最小限になる。

そのおかげで、こういった不安定な足場であろうとも、殆ど揺らさずに移動することができるのだ。

足元にかかる負荷のほとんどを体のバネで吸収しながら、俺は数秒程度で向こう岸に到達する。

「……唐突に変なことをしますよね、先生」

「時間をかける理由も無いんだ、さっさと通り越すに越したことは無いだろう?」

「そりゃそうですけどね。仕掛けた側は、恐る恐る渡っているところを見たいんだろうと思いますよ?」

「別に見せてやる義理も無いな」

軽く肩を竦めつつ、装備を戻して先に進む。

崖を挟んだことで地質が異なるのか、こちら側には木々が少ない。

しかも道もはっきりしており、これなら迷うような心配はなさそうだ。

「ここまで薄暗かったり度胸試しだったりと変なエリアばっかりだったけど、ようやく少し落ち着く感じね」

「さて……普通に進ませてくれるもんかねぇ」

「それはこっちも分かってるわよ。仮にも『試練』と名がついている以上、普通に進ませてくれるわけがないでしょう?」

俺の言葉に、アリスは嘆息と共にそう声を上げる。

どうやら、忠告の必要はなかったらしい。

これまでのエリアも、悪辣とまではいわないが、中々に底意地の悪い場所ばかりであった。

であれば、ここから先もただで進ませて貰えるとは考えない方がいいだろう。

進んでいくほどに木々はまばらになり、足元に生えていた草花も少なくなる。

そこらに転がっている岩や山肌によって行く手は遮られやすく、蛇行するように先へと進んでいるが、おかげで先の光景は見えづらい。

果たして、この先何が発生するのか――

「……ッ!」

刹那、感じた悪寒に、俺は頭上へと視線を上げた。

そこには、岩壁の上にいくつも転がっている岩の塊と、それの周りで飛び回る妖精たちの姿。

妖精や精霊は女神の眷属、確かにこの山の中にいたとしてもおかしくはないが――あの遠慮のない妖精たちがそこにいるという状況が拙い。

「おいおい、まさか……!」

妖精たちはこちらの姿を認め、動きを止める。

距離が開いているため、その表情は上手く読み取ることができないが、おおよその予想はつく。

いつか妖精郷で見かけた妖精たちのように、好奇心旺盛で悪戯好きなあいつらが、女神からの大義名分を受けて遠慮などするはずがないのだ。

「走れッ!」

「ちょ……!」

「ああ、今度はそういう趣向ね……」

俺が叫ぶのとほぼ同時――妖精たちは、俺たちの頭上へと岩を転がし落とし始めた。

巨大なものはそう多くはないが、最低でもバスケットボールぐらいの大きさがある落石だ。

直撃すればダメージは避けられないし、当たり所が悪ければ即死する可能性もある。

三つ目の試練、この山肌を登る際の試練は単純――とどのつまりが、妖精たちの『悪戯』を回避しながら走り抜けろということだ。

「ここにきて普通にダメージ受けそうな内容が来ましたね!」

「全くだ……アリス、ついて来れてるか!?」

「大丈夫よ、何とかなるわ!」

アリスは体が小さく、歩幅も小さいため、普通に走っていては俺たちよりも遅くなってしまう。

しかしながら、AGIのステータスの高さに加え、不安定な足場をものともしないスキル構成を持っているのだ。

俺たちが山道に沿って右往左往しながら進む中、アリスは岩壁やら岩やらを駆け登るようにしながらショートカットして進んでいるのである。

「ったく、ルミナがいればあいつらも止められたかもしれないんだがな」

「呼び出せないものは仕方ないでしょう? 前方、まだまだたくさんいるわよ!」

「クソ、準備がいいことだ」

幸いと言うべきか、妖精たちの狙い方はかなり適当だ。

俺たちへと向かって岩を転がし落として遊んでいるだけで、積極的に命中させようとしているわけではない。

他のプレイヤーであったら、隠れながら進むなり、防御しながら進むなり様々な方法があるのだろう。

だが、俺たちは避けながらさっさと通り抜けてしまった方が楽だ。

そう考えつつ、俺は壁を走るアリスへと声をかける。

「アリス、先の方の様子は見えるか? 分かったら教えてくれ!」

「喜びなさい、さっきより数が増えてるわよ」

「そいつはご機嫌だな!」

国連軍にいた頃のようなやり取りに思わず懐かしさを覚えつつも舌打ちして、それでも先へと歩を進める。

試練はまだまだ先があるし、この程度で音を上げているわけにもいかない。

これが女神の準備した仕掛けであるというならば、正面から打ち破ってやるとしよう。