軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

048:聖剣騎士アルトリウス

「ありがとう、本当に助かった」

「あまり気にしないでくれ。こちらとしても、手っ取り早く王都に戻れて助かったしな」

「そいつはよかった。それじゃあ、異邦人たちに声を掛けるの、よろしく頼むぜ」

王都まで到着し、護衛の兵士たちと握手を交わした俺は、報酬を受け取って彼らに別れを告げていた。

報酬にマイナスは無し。まあ、馬車にも人にも被害は無かったのだ、当然だろう。

飛び回り活躍していたルミナは、避難民たちからも人気を博していたため、別れを惜しむ声は多かった。

対するルミナは己に対する人気がよく分かっていないのか、特に変わった様子も無くにこやかに手を振っていたが。

ルミナを肩車した状態のまま王都の大通りへと進んでいけば、そこには以前とは違い、多くのプレイヤーの姿を目にすることができた。

どうやら、ボスの攻略法もすっかりと広まっているらしい。

まあ、いつまでもあそこが越えられないようでは困るのだし、人が増える分にはいいのだが――

「……チッ」

「おとーさま?」

「ああ、何でもない。気にしなくていいぞ、ルミナ」

どういうわけか、こちらに集まってくる視線が多い。

ファウスカッツェでもある程度視線を向けられていたが、これは流石に少々多い。

それに、何やら視線同士で牽制し合っているような気配がある。

流石にこれだけ視線が集まっている中では、認識から外れることは難しいだろう。

ルミナがいるのもあって、かなり目立つようになってしまっているしな。

しかし、この破裂しそうな風船を見ているような緊張感は一体何なのか。

牽制しあっている連中に対して胡乱げな視線を向けていたところで、ふとこちらへと近づいてくる気配に気づいていた。

見れば、そこにあったのは見知った姿。他でもない、この街へと足を踏み入れるきっかけとなった四人組であった。

「クオンさん、こんにちはー……って、ルミナちゃんですか、その子?」

「な、何故突然大きく?」

「雲母水母、お前さんたちか。こいつは、種族進化してスプライトになったんだ。テイムモンスターの進化って奴だな」

まあ、色々と特殊なイベントが発生していたわけだが、そこまで説明するのも面倒だ。

こいつらもテイムモンスターを連れるつもりは無いと言っていたし、その辺りの説明は必要ないだろう。

「それで、お前さんらは何をしてたんだ?」

「ああ、私たちは買い物です。クランを組んで、チームとして活動していく準備って感じですね」

「ほう? クラン結成はゲーム第一号か?」

「もっちろん! おにーさんのおかげだけど、折角の王都到着第一号だった訳だしね!」

快活に笑うくーの言葉に、こちらもくつくつと笑いを零す。

まあ、特に何か意味があるわけでもなかろうが、ある種の実績ではあるだろう。

彼女らをここまで連れてきたのは俺であるが、その行動にまで口出しをするつもりもない。

楽しんでいるのであれば大いに結構、存分に満喫するべきであろう。

「まあ、イベントのこともありますし、色々と買い揃えたおかげでちょっと金欠なんですけどね」

「……きらら、ちょっと使い過ぎ」

「だ、大丈夫だってば。装備更新した方が、レベル上げも効率的でしょ? それで戦ってればお金もまた溜まるわけだし」

窘められる雲母水母であるが、まあその言い分も理解できなくはない。

それで無計画に戦ってしまえば本末転倒であろうが、きちんと計画立てているのであれば問題は無いだろう。

「ふむ。ま、戦いのための準備は重要だ。緊急時の対応手段は怠るなよ? 金を稼ぎたいなら……ああ、西の港町に行ってみるといい。馬車隊護衛のクエストがあるぞ?」

「へぇ……もしかして、今やってきた所ですか」

「まあな。お前さんらなら、そこそこ効率よくできるだろう」

こいつらはそれなりに役割分担ができている。

索敵能力もあるし、襲撃に対する備えは十分に可能だろう。

「それで、お前さんらのクランの名は?」

「あ、私たちのクランは『 御伽噺(フェアリーテイル) 』です。ちょっとルミナちゃんにあやかってみました」

「成程。今は妖精ではなくなっちまってるが……きっかけは妖精だったしな、中々いいんじゃないか? なぁ、ルミナ」

「うん、ぴったりだよ!」

「喋ってる……!」

何やら感極まっている様子のリノに苦笑しつつ、俺は周囲の気配を探る。

雲母水母たちと話していることもあってか、話しかけようとしてくる者はいない。

だが、彼女たちのおかげで若干ハードルが下がってしまったのも事実であるようだ。

面倒ではあるが、何か対処しないと面倒なことになりそうだ。

と――その時、集団でこちらに近づいてくる気配を察知する。その方向へと視線を向け、俺は思わず眼を見開いていた。

こちらへと歩み寄ってくる集団の先頭にいるのは、テレビの中でしか見たことの無いような、非常に容姿の整った青年だったのだ。

金髪碧眼であり、青く縁取りされたプレートメイルを纏うその姿は、騎士と呼ぶに相応しいものだった。

そんな彼の視線は、外れることなく俺へと向けられている。そして、その涼やかな美貌を笑みに緩めた青年は、穏やかな口調で声を上げた。

「お話し中のところ、すみません。貴方がクオンさんですね?」

「間違いないが、アンタは?」

「申し遅れました。僕はアルトリウス。クラン、『キャメロット』のマスターを務めています」

青年――アルトリウスの自己紹介に、俺は視線を細める。

その名は聞いたことがある。このゲームの中で、有名なプレイヤーを三人挙げろと言われれば、間違いなく名前が出るであろう人物だ。

「アルトリウス、さん!? あの、《聖剣騎士》の!?」

「ははは……お恥ずかしいですが、そういった二つ名称号を頂いています」

《聖剣騎士》アルトリウス――このゲームのβ版のイベントで、緋真を抑えて成績トップを勝ち取り、『聖剣』と呼ばれるアイテムを手に入れたプレイヤー。

一体どんな人物なのやらと思っていたが、これは中々……予想以上の人物であったようだ。

アルトリウスが話しかけてきたおかげで、周囲の視線は彼の方へと向いている。

そのことに若干気を良くしつつ、俺は彼に対して問いかけていた。

「……それで、俺に対して何の用事だ? わざわざ声を掛けてきたんだ、世間話ってわけじゃないだろう?」

「ええ、それは勿論」

俺の問いに対し、アルトリウスはにこやかに笑いながら首肯する。

さて、このゲームでトップと呼ばれるプレイヤーは、果たしていかなる用事で姿を現したのか。

まず間違いなく、軽く済ませるような話ではないだろう。わざわざ、自分の背後にクランメンバーを――それも恐らく幹部と思われる仲間を引き連れているのだから。

しかし、後ろにいる連中は中々の実力者だな。アルトリウスを始めとした六人を相手にするとなると、俺でもそれなりに苦戦しそうだ。

そんな俺の思考を遮るかのように、アルトリウスはじっと俺の瞳を見つめながら続けていた。

「僕の目的は勧誘です、クオンさん。貴方を是非、我が『キャメロット』の一員として迎え入れたい」

「……ふむ」

アルトリウスの放ったその言葉に、周囲に驚愕のざわめきが走り、同時に俺は僅かに視線を細める。

集団戦においての実力は本物であると、緋真に断言させるだけの実力者。

そのクランメンバーとしての勧誘となれば、ただ一蹴するというわけにもいかないだろう。

それに、この男は――

「どうでしょう。無論、こちらから要請している立場ですから、ただでとは言いません。金銭、およびアイテムの支援や情報支援等……こちらから提供できる支援体制は最大限提供するつもりです」

「そりゃまた、随分と買ってくれるものだな」

「ええ、貴方にはそれだけの実力と、価値がある。僕はそう判断しています」

その言葉に、嘘は含まれていないだろう。この青年は、正直にその言葉を告げていた。

だが――恐らく、それが全てというわけではない。

何故ならアルトリウスの言葉には、その熱心な言葉とは裏腹に、『熱』というものが籠っていなかったのだ。

クランマスター自ら勧誘しているというのに、その内側には本気さを窺うことができない。

この男は、本気で勧誘するというつもりは無いのだろうか。であれば、この言葉の真意は何なのか。

そんな疑念を抱きながら彼の瞳を見返せば――彼は、小さく苦笑のような笑みを浮かべて、軽く肩を竦めていた。

どうやら、俺の疑念は間違いではないらしい。であれば、この男の思惑は――

「ふむ……成程、光栄な話だな。だが、悪いが遠慮させて貰おう」

「……それは何故でしょう。理由をお聞かせ願えますか?」

「こいつは俺の信条の問題でな。俺の剣術は、自己の制御こそを真髄とする。であるが故に、己が刃を振るう理由を、他人に委ねるなどあってはならないことだ」

久遠神通流の剣は、自らの意志の下に肉体を支配し、剣に伝えることで術理と成す。

つまるところ、己自身の意志で戦うことは、久遠神通流にとって基礎中の基礎であると言えるのだ。

誰かと協力して戦うことはあるだろう。だが、この剣を他者の意志に委ねることは決して無い。

「俺がクランに加わることがあるとすれば、それは俺自身がクランを組んだ時ぐらいだろうよ。まあ、そんな面倒なことをやる気はさらさらないんだが」

「……成程、そうですか。どうやら、 脈はさっぱり(・・・・・・) のようですね」

そう、周囲に聞こえるように口にして、アルトリウスは淡く笑う。

だが、ここまではまず間違いなく、彼の想定内であろう。

まるで食い下がってくる様子が無いのだ。本気の勧誘であれば、これだけで済んでいたとは思えない。

であれば――この男の目的は、周囲への牽制だろう。

(周りの野次馬共がざわついてやがるな……さっきから俺の方を見ていたのは、これと同じ理由だったってわけか)

今まで緋真がトップとして謳われていたのであれば、それ以上の俺の実力を欲する連中が現れるのは想像に難くない。

それを見越して、アルトリウスは俺に対し、成功するとは微塵も考えていない勧誘を仕掛けてきたのだろう。

これ以上ないほどの好条件を示し、その上で俺が断ることを予測して、それを周囲に知らしめるために。

あれほどの好条件ですら首を縦に振らない俺を、他の連中が勧誘できる可能性はまず存在しない。

そう野次馬共に認識させることにより、俺に対する勧誘の数を減らしてみせたのだ。

つまり――アルトリウスは、今の会話だけで俺に対する貸しを作ってみせたのである。

「ではせめて、今度のイベントの際、一緒に戦ってはいただけませんか?」

「同じ陣営で戦おう、ということか?」

「ええ。無論、こちらの指示に従えと言うつもりはありません。ただ、同じ戦列に並んで戦いたい、というだけの話です」

そして、これこそがアルトリウス本来の目的ということだろう。

俺に恩を売り、断りづらい状況を作り上げた上での、同盟の申し出。

成程確かに、こいつはやり手だ。緋真が成績で追いつけなかったことも納得できるというものだろう。

そして俺としても、その申し出を断る理由は無い。世話になったこともまた、紛れもない事実であり、同時にその提案にデメリットは無い。素直に受けておく方が得策だろう。

「……承知した。では今回は、轡を並べて戦うとしよう」

「それは良かった! では、こちらから連絡先を渡しておきます。予定については、また連絡しますね」

『【アルトリウス】からフレンド申請が送信されました。承認しますか? Yes/No』

また、随分と面白い相手をフレンド登録できたもんだ。

申し出は素直に受け取り、俺は彼の言葉に対して首肯していた。

後ろの連中の実力も含めて、アルトリウスに関しては興味を引かれた。

その辺りも含めて、悪魔どもとの戦いの際は色々と見せて貰うとしよう。

エレノアと同じように、この男とも付き合いは深くなりそうだ。

「承知した。共に戦える時を楽しみにしている」

「ええ。それでは、僕はこれで」

目礼して立ち去ってゆくアルトリウスの背中を見送り、軽く息を吐き出す。

色々と、面白い相手だった。これは、悪魔共を斬れるということ以外にも、ワールドクエストに対する楽しみができたな。

「あ、あの、クオンさん……良かったんですか? あの《聖剣騎士》からの直々の勧誘でしたよ?」

「構わんさ。さっきも言った通り、誰かの下に付くつもりは無いんでな」

「……っていうか、ルミナちゃん肩車したままなのがすっごいシュールなんですけど」

半眼で見上げてくる薊の言葉には反論できず、苦笑を返す。

まあ、ルミナにはちょいと難しい話だっただろう。

疑問符を浮かべている様子のちびっ子に苦笑しながら、俺はアルトリウスとの約定を考察していた。

俺と組んだことで、あの男はどう動くのか。単純な戦力としての期待か、或いは――何か、他に目的があるのか。

現状の材料では判断がつかないが、向こうの動きには少し注意を払っておくべきか。

何にせよ――

「まずは、ワールドクエストに向けた準備だな」

やるべきことは、まだいくらでもある。

俺は雲母水母たちに対して色々と情報を提供してから、当初の予定――エレノアの元へと向かっていた。