軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

468:雌伏の時

シリウスの戦闘は、基本的に荒っぽいものになる。

まあ、それは仕方のない話だ。そもそもの性格が獰猛であるのもそうだが、シリウスの場合は丁寧に戦うには体が大きすぎる。

細かく狙いをつけて戦うよりも、力任せに腕を振り回した方がよほど効果的なのだ。

ただ鋭い爪を振るうだけで、レベルの低いデーモン程度はあっさりと細切れになる。

図体がでかいため相手からの攻撃も避けられていないが、頑強極まりない鱗は多少の攻撃ではびくともしない。

結果として多くの注目を集めることになり、特にスキルを使っていないにもかかわらず、盾役としての役割を果たしているのだ。

「自分が戦うと思うと、悪夢以外の何物でもないな」

シリウスに向かって魔法を飛ばしていたアークデーモンの首を【命輝練斬】で斬り飛ばしながら、俺は横目に映るシリウスの姿に苦笑する。

爪で、牙で、そして尻尾で敵を蹂躙するその姿は、まさに凶悪なドラゴンそのものだ。

全身を頑強な鱗で包まれているシリウスには、物理攻撃は有効なダメージにはなり得ない。

魔法攻撃であればダメージは通るのだが、持ち前の体力の高さによって多少のダメージではびくともしないのである。

当然ながら、奇襲を受けて戦列を乱された悪魔たちはシリウスに対して攻めあぐね、大きな隙を晒すこととなっているのだ。

「『生奪』」

斬法――剛の型、輪旋。

無論、そんな状態の敵などただのカモだ。

こちらから注意を逸らしている悪魔たちを斬り捨て、同時にこの悪魔たちの姿を観察する。

それなりの数が揃っていた悪魔たちではあったが、残念ながら爵位悪魔の姿はなかった。

この中での大将首と呼べるものはデーモンナイトであったが、そちらは既にアリスによって片付けられてしまっている。

(あいつ、本当に大物を狙うのが上手いな)

範囲魔法による奇襲で混沌としていた陣地の中は、アリスにとっては確かに隠れやすい場所は多かっただろう。

しかし、その状況下で大将首を探し当てられる能力は大したものだ。

まあ、正直そういった悪魔からは多少情報を引き出しておきたいところではあったのだが、デーモンナイトでは喋る前に処分されるのがオチだろう。

可能であれば《 化身解放(メタモルフォーゼ) 》を持たない男爵級か子爵級辺りを捕まえたいところではあるのだが、そうそう上手くいくものでもないか。

「《練命剣》――【命輝一陣】」

少々離れた場所にいたスレイヴビーストに対して生命力の刃を飛ばし、こちらに意識を向けさせる。

先ほどシリウスの腕の薙ぎ払いを受けて弾き飛ばされてきた個体だが、何とも珍妙な姿をした魔物だ。

外観は狐に近いが大きさは大型犬ほど、そして背中にはヤマアラシのように鋭い棘が無数に生えている。

何の魔物なのかは気になるが、悪魔に支配されている場合は名前が全て『スレイヴビースト』になってしまうため、正確な名前は分からない状況だ。

気にはなるが、本来の生息地にでも行かなければその正体は判明しないだろう。

ひょっとしたら《鑑定》辺りのスキルであれば判明するのかもしれないが、ない以上はただ倒す他に道はない。

歩法――烈震。

スレイヴビーストの注意がこちらへと向けられるその刹那、俺は即座に魔物の視界を逃れるように死角を通って移動した。

結果、攻撃が飛んできた方向に敵の姿を見つけることができず、スレイヴビーストは混乱した様子で硬直する。

虚拍・先陣の前段階、ちょっとした手品のようなものではあるが、魔物相手には十分な効果があるだろう。

「『生奪』」

斬法――剛の型、鐘楼。

篭手を膝で蹴り上げての一閃、地から伸び上がるように閃いた一撃は、スレイヴビーストの胴を深々と斬り裂く。

元よりシリウスの攻撃によってダメージを受けていたスレイヴビーストは、その一撃によって大きく体勢を崩した。

だが、それでもこちらに対しての意識は途切れておらず、俺の姿を改めて捉えたスレイヴビーストが攻撃動作に移ろうとする。

背中の棘が逆立つように蠢き、こちらへと向けられた殺気が膨れ上がって――

「『練命破断』」

斬法――剛の型、鐘楼・失墜。

――無論のこと、それを黙って見過ごすつもりもない。

返す刀で振り下ろした一閃は、断頭台のごとくスレイヴビーストの首へと命中、防御力無視の力を加えて一息にその首を切断した。

そのまま残心と共に周囲の状況を見渡し、敵の掃討がほぼ完了していることを確認して構えを解く。

残る一体はシリウスの目の前――それも、振り下ろされた鉤爪に引き裂かれて、戦闘は終了した。

『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀神》のスキルレベルが上昇しました』

『《昇華魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』

『《クロスレンジ》のスキルレベルが上昇しました』

『《回復特性》のスキルレベルが上昇しました』

『《高位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』

『《血の代償》のスキルレベルが上昇しました』

『《立体走法》のスキルレベルが上昇しました』

『《会心破断》のスキルレベルが上昇しました』

『《 再生者(リジェネレーター) 》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』

敵の数はそれなりに多かったが、やはり奇襲に成功すればこんなものだろう。

あの状況で戦列を立て直せるほどの能力があるならば、こんな雑な襲撃など企ててはいない筈だ。

「しかし……悪魔側の動きも良く分からんな」

「何がですか、先生?」

自らのレベルアップ処理を終えたらしい緋真が、こちらに近づいてきながら声を上げる。

こちらも自らのステータスを操作しつつ、軽く肩を竦めて返答した。

「攻撃の仕方が随分と雑だろう? 何を企んでいるのかと思ってな」

「雑、ですか?」

「お前、この程度の数で、要塞都市を何とかできると思うか?」

「そりゃまぁ……無理ですね」

龍王は元の住処に戻ったとはいえ、未だある程度の真龍が定期的に姿を現す悪魔領との境界地帯。

それを抜きにしたとしても、この程度の戦力ではあの大要塞に痛手を与えることなどできはしない。

そもそも、そのつもりがあるならもっと上位の悪魔が出張ってくることだろう。

「派遣してきた戦力の頭にデーモンナイトを使っている時点で、単なる鉄砲玉扱いしているとしか考えられないからな」

「悪魔からしたら、消耗しても惜しくはない戦力ってことですか?」

「ああ、だがそこは別に問題じゃない」

悪魔が無尽蔵な戦力を保有していることは初めから分かっている。

消耗品扱いで戦力を送り込んできたとしても、別に疑問に思うほどのことではない。

問題なのは、何故そう大した効果のない戦力投入を行っているのかということだ。

「この程度の戦力を送り込んできて、奴らにはどんなメリットがある?」

「うーん……偵察? 或いは陽動とか……」

「そうだな。いずれにせよ、この動員の裏側に、何らかの意図があると考えた方がいい」

これまでであれば、単なる攻撃目的であると考えることもできた。

だが今は、悪魔側もこちらの情報を得ながら動きを変えてきている。

ただ適当な攻撃であると考えて油断するべきではない。

「奴らも何かしらを準備している……だが、アルトリウスの話を聞く以上、悪魔共はその辺りの隠蔽にも力を入れているようだな」

「それじゃ、向こうが何をしているのか分からないってことじゃないですか」

「だから厄介なんだ。この戦力派遣にも、俺たちの視線を逸らす意図が含まれていたとしても不思議じゃない」

厄介な点は、向こう側の動きがほとんど見えてこないことだ。

想像を巡らせることはできるが、下手に考えを固めて先入観で動いてしまえば、その裏を突かれかねない。

だが――

「……まあ、視線を逸らそうとしているのであれば、まだ準備は終わっていないということでもある。今は、互いに雌伏の時ということか」

「結局、どうするんですか? 何かできることとかは無いんですか?」

「例えば、強引に敵の警戒線をブチ抜いて探ってくれば、何らかの情報は手にはいるかもしれない。だが、公爵級や大公級がいる場所に何の策も無く突撃すれば、当然詰むのは俺たちの方だ」

流石に、その状況では俺たちも逃げられない。

そこまでして情報を掴んだとして、それが偽装工作ではないという確証を得ることもできないのだ。

そんなリスキーな行動を取るぐらいであれば、どのような状況でも対処できる基盤を固めた方が有意義ということだろう。

「とりあえず、今はやれることをやるだけだ。余計なことは考えず、悪魔を見つけたら片付けていくぞ」

「はぁ……分かりました。続き、行きましょうか」

どうせアルトリウスが何かしら掴んでくるだろうし、俺たちはそれまで戦力増強に努めることとしよう。

まず目標にするのは限界突破の試練――そのためにも、より多くの敵を狩らなければ。

内心で決意を固めつつ、俺はレベルアップの処理を完了させたのだった。