軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

467:エレノア商会の現状

石碑の破片の納品と、フィノの様子の確認。

二つの目的で訪れた、聖都シャンドラにある『エレノア商会』の支店――否、本店になるらしい店舗は、相変わらず多くの人々が慌ただしく行き交っていた。

まあ、こっちもあまり用事があるわけではないし、向こうも忙しそうであるため、店頭にいた勘兵衛で用事は済ませてしまったのだが。

「本当にあれで使えるのかしらねぇ」

「その辺を調べるのも含めて、あいつらに期待するさ。まあ、あの状況じゃ本来の石碑としての機能を備えるのは無理だろうが、性質を調べることぐらいはできるだろう」

『エレノア商会』はあくまでも商店であるが、研究者の集団としての性質も備えている。

製品開発のコンペティションなどもそうであるが、新たな技術の開発は積極的に行っているのだ。

それこそ、ゲームの攻略とは関係ない、現代技術の再現なども行っているのだから筋金入りである。

そんな彼らであればこそ、石碑の解析を行うことも可能であると考えているのだ。

それに、エレノアの情報網ならば現地人との伝手も多いだろうし、忙しかったとしても何とかしてしまうことだろう。

「石碑の解析、製造方法の確立――それから、霊峰の確保と。それまでに聖王国の復興も進めなきゃならんしと、エレノアはとにかく忙しそうだな」

「こっちから仕事を振るのは止めておきましょうね」

エレノアからしたら自分の思い通りに事が運んでいる状況であるし、機嫌はいいかもしれないが、それでもとんでもない忙しさであることに変わりはないだろう。

修羅場の状態となっているエレノアと顔を合わせるのは少し怖いため、なるべく邪魔はしないように最低限の接触で済ませたのである。

本当に急ピッチで進んでいる復興やら何やらには思わず戦慄しながら、俺たちは再び北の地へと足を運んだ。

北の大要塞から北上、そのまま悪魔領へと向かう。

(しかし、この悪魔領っていう呼び方も気に入らんよな)

別に正式名称というわけではないのだが、一般にプレイヤーの間ではそういった呼び名となってしまっている。

誰が最初にそう呼び始めたのかは知らないが、一度広まってしまった以上は直しようのない呼び名だろう。

俺自身、見たこともない連中から師匠と呼ばれていたこともあるし、直そうと思って直せるようなものではない。

業腹ではあるが、甘んじて受け入れる他ないだろう。

「で、ここからはシリウスが進化するまでレベル上げですか?」

「ああ、ついでに言うと、南下してくる悪魔を迎撃しながらだがな」

今でも、悪魔たちは不定期に南下し、要塞へと攻撃を行ってくる。

プレイヤーが少ない時間帯になると、たまに遊撃するプレイヤーをすり抜けて都市までやってくることがあるのだ。

防衛力の高い要塞であるため多少攻撃を受けたところでどうにかなるものではないが、被害が皆無というわけでもない。

奴らの攻撃は事前に潰しておくに越したことはないのだ。

それに、今日判明したように、奴らは転移魔法によって戦力を集結させ、大群で襲ってくることもあるようだった。

爵位悪魔もいたようであるし、あのような攻撃は事前に発見して防いでおかなければなるまい。

「あの転移の魔法、ポンポンと作れるものなのかしら?」

「悪魔に聞いてみないことには分からないと思いますけど……」

「そりゃなぁ。だが、ある程度制限はあるんじゃないか? そもそも制限が無いのであれば、もっとこちら側の内地に繋げちまえばいいんだから」

その場合、俺たちは様々な方角から来る悪魔を迎撃しなければならなくなってしまう。

出現地点を割り出し、破壊しなければならないわけだが、それをしている間にも他のゲートを設置されかねない。

イタチごっこを繰り返している間に、こちらは追い込まれてしまっていたことだろう。

油断するべきではないが、ある程度の制限があると見るべきだ。

「距離か、あるいは時間か。何にせよ、ノーリスクで即座に戦力を送り込めるような仕組みであるなら、ああやって時間をかけて戦力を集結させるような真似をすることはないだろう」

「一気に移動させられるなら、あんな中途半端な数で来る筈がないものね」

先ほど戦った悪魔たちは、あのゲートの近くから移動する様子はなかった。

一気に大量の戦力を輸送することができるならば、ああやって待ちの時間を作ることは無いと考えられる。

まあ、悪魔に直接聞かない限りその性質は想像の域を出ないのだが。

「とにかく、あまり便利には使えない手段であるならば何とかなる。ルミナ!」

「はい! 上空から索敵し、悪魔の群れを発見するのですよね?」

「よく分かってるな。頼んだぞ」

相手を探しながら戦う場合、ルミナの索敵は非常に役に立つ。

先ほど戦った悪魔たちは一か所に群れて準備を行っていた。

つまり、例え隠れて行動しようとしていたとしても、非常に目立つのである。

ルミナは目がいいし、飛行する魔物に攻撃されたとしても難なく対処できるだけの実力がある。

このまま進んで行けば、程なくして悪魔の姿を発見してくれることであろう。

まあ、それが例のゲート関連であるかどうかはまた別の話だが。

(しかし、ゲートか)

先ほど戦った時は、あの場を率いていたと思われる爵位悪魔は即座に撤退してしまった。

あの時と同じように戦った場合、爵位悪魔は隙を見て撤退してしまうことだろう。

まあ、その悪魔の性格次第である気もするが……現状、逃げられてしまう可能性は考慮に入れなければならない。

情報を得るためにも、言語を話せる爵位悪魔やデーモンナイトとは戦っておきたいのだが、あのゲートがある限りはそう簡単な話ではないだろう。

となると、先手を打ってあのゲートを破壊したいところだが、これには多少の無茶が必要になってしまうだろうな。

(アリスが魔法破壊を持っていたら良かったが、できないものは仕方がない。上空から一気に強襲するか、或いはシリウスをけしかけて混乱させたところを狙うか……)

やってやれないことはない、だが確実性には欠ける、そんな手段ばかりだ。

しかし、そうでもしなければ爵位悪魔を止める手段がない以上、どうしようもない。

ともあれ、次にあのゲートに出会った時には、最初にゲートを破壊することを狙うとしよう。

と――内心で今後の戦い方をイメージしていた、ちょうどその時だった。

「お父様! 前方より悪魔の群れ、スレイヴビーストを含めおよそ三十体です!」

「っと、来たか」

どうやら、それなりの規模の群れにぶち当たったようだ。

ルミナの目で見えたばかりであるということはまだ距離はあるし、こちらの姿を捕捉されてはいない。

こちらに向けられる意識を感じ取れない以上、それは明らかだ。

さて、正面から挑むというのもアリだが、こちらに気づかれていないのであれば奇襲したいところだ。

「先生、どうしますか?」

「とりあえず、一旦シリウスは戻すか」

「グルッ!?」

何故か驚いた様子のシリウスであったが、このギラギラと輝く銀色の巨体はあまりにも目立ちすぎる。

最初は従魔結晶に戻しておき、戦うタイミングで呼び出した方が奇襲向けなのだ。

むしろ、突如としてこの巨体が現れる方が驚くことだろう。

「シリウスを隠しておくってことは、奇襲ね?」

「ああ。大きな群れではないとはいえ、それなりの規模だ。初手で打撃を与えておきたい」

「それなら、とりあえず向こうの進行ルートからは外れておきますか」

向かってくる奴らを避けるように横に移動し、近くにあった大きな岩の影に身を隠す。

ちなみに、ルミナとセイランは上空で待機させたままだ。

より多くの敵を捕捉するためにも、こいつらは上空から奇襲を行った方が効果的である。

俺たちが隠れている間にも悪魔たちは進行を続け、俺たちが先程までいた場所を通り過ぎようとする。

敵はデーモン、アークデーモン、スレイヴビーストの混成部隊だ。

どうやら爵位悪魔やデーモンナイトの姿はないらしく、完全に使い捨ての攻撃部隊であると思われる。

「緋真、準備を」

「もう開始してます。いつでも撃てますよ」

「いい返事だ。よし、それじゃあ――行くとするか!」

緋真の言葉に笑みを浮かべつつ、手を掲げる。

その瞬間、上空で今か今かと待ち構えていたルミナとセイランは、同時に魔法を発動させた。

降り注ぐ光と雷が、それまでマークしていなかった頭上より降り注ぐ。

それによって一気に混乱した陣容へと向け、俺たちは一気に踏み出した。

「《スペルエンハンス》、【インフェルノ】!」

「そら、シリウス! 行って来い!」

緋真が魔法を放つのに続き、シリウスの従魔結晶を悪魔たちの頭上へと向けて投げ放つ。

上空からの奇襲に混乱する悪魔たちを、強力な火力を持つ火炎が舐めるように包み込み――その頭上から、巨体を誇るシリウスが叩き潰す。

完璧な形で入った奇襲に笑みを浮かべつつ、俺は餓狼丸を抜き放ちながら悪魔の群れへと駆けたのだった。