軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

047:護衛しながら

王都への避難民を連れてゆくクエストは、いくつも連なった馬車を護衛するミッションとなっていた。

一度に連れていける数はそれほど多くはないが、馬車で進めばそれだけ進める速度は速くなる。

まだ例のアナウンスからそれほど時間は経っていないし、避難するにしても準備できていない者が多いのだろう。

全員が馬車に乗り込めたのはそういった理由からだ。

そして、その機動力を損なう理由も無いからだろう、護衛の兵士たちも全員馬に騎乗している。

つまるところ、この隊列の移動速度は結構速く、飛んでいるルミナはともかく、徒歩の俺には少々面倒なミッションではあった。

「ま、近づいてきた連中を片付ければいい話だがな――ルミナ、右斜め前方だ」

「うんっ!」

故に、俺は先頭を走る馬車の上に登り、そこから接近してくる魔物たちの気配を探りながらルミナへと指示を出していた。

俺の指示を受けたルミナは、ふわりと跳び上がってそちらの方向へと飛翔してゆく。

それとほぼ同時、森の中からはガサガサと音を立てながらリザードマンたちが姿を現し――

「やぁっ!」

その直後、上空に到達したルミナが、その小さな手を振り下ろしていた。

彼女の手から発生した光は、刃となってリザードマンたちに降り注ぐ。

魔法に込められた威力は、妖精だった頃と比べても一段階上だ。

ただでさえ魔法攻撃力に優れていたルミナの火力は、この辺りの魔物を相手にするには十分すぎる威力となる。

「ありゃ、加勢は必要ないな」

上空からの攻撃が可能なルミナは、あまり攻撃の対象になることは無い。

弓矢で攻撃を受けてはいるものの、ルミナの飛行速度は妖精の頃よりも速くなっている。

そうそう矢が当たることもあるまい。

ちなみに、アイテムについては放置している。リザードマンの素材については森を歩いている間にそこそこ回収していたので、あまり必要とはしていない。

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

「ん、終わったか」

今までの相手は全てルミナにさせていたおかげで、レベルも上がってきている。

魔物の出現する頻度は普通に街道を歩いている時よりも多いだろう。

その割には体力が低めであるから、ルミナの修行にはちょうどいい塩梅だった。

「……会った時にも驚かされたが、本当に驚かされっ放しだな」

「うん? そんなに驚くようなことがあったか?」

こちらへと飛んで戻ってくるルミナの姿を確認してから、俺は声を掛けてきた兵士の方へと振り返る。

元々は馬上で周囲の警戒をしていたはずの彼は、しかし今は気の抜けた様子で苦笑していた。

どうやら、敵が近寄ってくる前に片付けられてしまっているため、暇をしているらしい。

「そりゃそうだ。精霊と契約して、《精霊魔法》を使っている奴なら、たまに見たことはあるが……精霊をテイムしている奴なんて初めて見たしな」

「ああ……成程、そういうものか」

妖精をテイムしていただけでもあれだけ珍しがられていたのだ、精霊となるとそれ以上なのだろう。

まあ、ルミナが妖精から精霊に進化したことは言わないでおくが。

そもそも、 妖精郷(ティル・ナ・ノグ) まで行って種族を変えたなどと言っても信じられるものなのかどうか。

説明も面倒だし、それをわざわざ話すことも無いだろう。

そう結論付けて軽く肩を竦めたところで、魔物を倒し終えたルミナが帰還していた。

「もどりました!」

「ああ、よくやった。次の時まで待機してくれ」

「はいっ!」

正直、俺としても少しは戦いたいのだが……流石に、一度離れた後馬車まで戻ってくるのは面倒くさい。

ルミナの修行にもなるだろうし、こいつの手に負えないような状況になるまでは今のままでいいだろう。

そう判断して、俺は再び周囲の索敵に戻っていた。

「……しかし、どうやってあんな遠くの敵を感知しているんだ? 斥候という風には見えないが」

「うん? まあ、気配を感じ取ってるんだが」

「いや、だからどうやって気配を感じ取ってるんだ?」

「普通に害意を向けてきた相手を探ってるだけだが。この速度で動いていると、流石に音で探るのは難しいからな」

自分の足で移動しているならまだしも、馬車での移動では聴覚での察知は不可能だ。

だからこそ、今は相手から向けられている敵意や殺気を感知することで、出現する位置を割り出していた。

魔物たちは今の所例外なくこちらに敵意を向けてきているし、そもそも敵意の無い魔物が襲ってくることは無いだろう。

そういう意味では、読みやすい相手であると言えた。

「へぇ、そういうスキルがあるのか。聞いたことが無いけどな……異邦人特有のスキルなのか?」

「おん?」

「え?」

よく分からない兵士の問いかけに疑問符を浮かべると、向こうも驚いたように目を見開く。

思わずしばし顔を見合わせてしまったが……何やら、彼は妙な勘違いをしているらしい。

そのようなスキルがあるのかどうかは分からんが、仮にあったとしてもそのようなものを使うつもりは無い。

久遠神通流は自己の制御を念頭に置く。生きることすらその修行であり、その機会を潰すような馬鹿は久遠神通流にはいない。

まあ、そんなことを説明するのも面倒だし、勘違いしているならそれはそれでいいのだが。

適当に頷き返そうとし――ふと、俺は新たな気配があることを感じ取っていた。

(大きい悪意――いや、これは 多い(・・) のか)

まだ少々先、だが馬車の速度で進んでいれば近いうちに接敵するであろう場所。

草原の、背の高い草の中――そこに、複数の気配が存在することを感じ取っていた。

流石に、これは数が多い。恐らく15以上はあるだろう。

これをルミナだけに対処させるのは流石に無理だ。であれば――

「俺も出るとするか」

「あ、おいっ!?」

驚いた表情で兵士がこちらを制止する声を受けながら、俺は馬車の上から飛び降りていた。

走行の慣性をそのまま生かして地を蹴り、こちらを置いていった馬車を、逆に瞬く間に追い抜いてゆく。

その辺りでルミナも俺の動きに追いついたのか、いつの間にか俺の頭上を飛行していた。

共に目指す先は先ほど気配を感じ取った茂みの中。太刀を抜き放ち――その瞬間、茂みの中から殺気が膨れ上がる。

それと共に放たれたのは、十本ほどの粗雑な矢であった。それらの向かう先は俺たちではなく、後方にある馬車だ。

「ルミナ、吹き散らせッ!」

「うんっ!」

上空で動きを止めたルミナが、その小さな手を前へと突き出す。

その瞬間、ルミナの手から放たれた烈風が、飛来する矢を纏めて吹き飛ばしていた。

あれは、スプライトに進化したことによって新たに得た《風魔法》だ。

相変わらずメインの魔法は光であるが、今のルミナは風属性の魔法も同時に扱うことができるのである。

その様子を気配で察知しながら、俺は前に倒れるようにしながら地を蹴る。

歩法――烈震。

足元の地面が踏み込みによって爆ぜ、俺の体は爆発的に加速して目標地点へと直進する。

その前傾姿勢の状態から跳躍によって体勢を変え、スライディングのように滑りながら太刀を脇構えに構える。

そして――そのまま、俺は目標とした茂みの中へと飛び込んでいた。

斬法・剛の型――扇渉。

背の高い草が、一斉に千切れ飛ぶ。放ったのは、広範囲に移動しながら放つ横薙ぎの一撃だ。

そしてそれと共に、その奥にいた魔物たちの首を五つほど刎ね飛ばしていた。

「キィッ!?」

「ッ――おおおッ!」

視界に入ってきたのは、緑色の醜悪な小人。

その悪意と欲望に満ちていた視線は、俺の攻撃によって大きく驚愕に見開かれていた。

その動揺を見届けてやるほどの理由も無い。スライディングの足で強く地面を踏みしめ、正面にいる敵を纏めて薙ぎ払う。

斬法・剛の型――扇渉・親骨。

その突進の勢いを纏めて一閃に込めたその一撃は、強大な破壊力を以て三体の魔物を両断する。

これで八体、魔物の数は半減した。

■ゴブリン

種別:魔物

レベル:10

状態:アクティブ

属性:なし

戦闘位置:地上

■ゴブリンアーチャー

種別:魔物

レベル:10

状態:アクティブ

属性:なし

戦闘位置:地上

■ゴブリンファイター

種別:魔物

レベル:12

状態:アクティブ

属性:なし

戦闘位置:地上

■ホブゴブリン

種別:魔物

レベル:15

状態:アクティブ

属性:なし

戦闘位置:地上

相手は全てゴブリンとかいう魔物の類。

一体一体は弱いが、徒党を組んで襲ってくる魔物ということだろう。

道具を使い、このように罠を張りながら襲ってくるというのは中々に面倒な性質だ。

だが――

「――テメェらみたいなのは得意分野だ」

「ゴァッ!」

ホブゴブリンが、こちらを指さして叫び声を上げる。

だが周りのゴブリンたちは、俺の動きに圧倒されたのか、二の足を踏んでいるような状態だ。

無論、その動揺を見逃すつもりも無く、俺は返しの一閃によってゴブリンアーチャーを斬り伏せていた。

そしてその直後、上空から降り注いだ光の矢が、慌てふためくゴブリンを射抜く。

「おとーさま!」

「そのまま続けろ、ルミナ!」

降り注ぐ光の矢の中へ、飛び込んでゆく。

その軌道の全てを読み取りながら、俺はゴブリンファイターへと突撃した。

大きなハンマーを振りかざすゴブリンファイターは、耳障りな喚き声を上げながらハンマーを俺へと叩き付けようと振るう。

――だが、遅い。

「《生命の剣》」

木製の柄を叩き斬り、そのままその先にあるゴブリンファイターの首を叩き斬る。

周りのゴブリンたちはルミナだけで十分だろう。後は、その奥にいるホブゴブリンだけだ。

「ギガガァッ!」

「ふッ!」

斧を振りかざすホブゴブリン。その体躯は、他のゴブリンと違い人間のそれと近いだろう。

だが――力任せに振り回された攻撃など、俺にとってはただの攻撃チャンスでしかない。

斬法・柔の型――流水・逆咬。

振り下ろされた一撃に合流し、それを反転させるように振り上げる。

繊細な力の合理が無ければ成しえないその一撃は、流水の中でも難易度の高い術理だ。

その急激な力のベクトルの変化により、ホブゴブリンの斧はその手から弾き飛ばされていた。

「ギッ……!?」

「――《生命の剣》」

大上段より振り下ろされた一撃が、ホブゴブリンの体躯を袈裟懸けに斬り伏せる。

噴き上がる血を振り払い、周囲の敵が全滅したことを確認する。

他に敵意を向けてくる魔物はもう存在せず、小さく嘆息するように整息する。

「さて……到着までもうすぐか」

『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』

インフォメーションが耳に届くのを聞きながら、俺はルミナを伴って馬車へと追い付くために走り始める。

目的地である王都は、既に遠目に見えるところにまで近づいてきていた。

――僅かに香る戦の臭いに、口元を歪めながら。