軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

454:不穏な勝利

緋真の一閃が袈裟懸けに斬り裂き、俺の一閃が胴を半ばまで断ち斬る。

どちらか一撃でも致命傷ではあっただろうが、構うまい。結果としてコイツを殺し切れたことが全てなのだ。

もし、あのタイミングで転移を許していれば、ゼリオポラリスが逃げ延びてしまっていた可能性も否定はできない。

その場合、俺たちの戦闘情報を主観的な内容で持ち去られてしまっていた可能性もあるのだ。

それがどれだけ今後の戦いに影響するかは分からないが、可能な限り相手に情報を渡さないようにしたいところだ。

(……まあ、どうせ見てるんだろうがな)

魔王を名乗る、悪魔たちの王。MALICEの首魁――マレウス・チェンバレン。

奴の思想そのものがMALICEの根幹となっている以上、奴は人間の成長というものに執着している筈だ。

以前の戦争で《 払暁の光(デイブレイク) 》のクソ共が見せていた反応からも、マレウスの反応はある程度予想ができる。

金龍王やロムペリアも、マレウスが俺に注目しているという話はしていたし、俺の戦いも監視していたことだろう。

故に、俺の情報はゼリオポラリス生存に関係なく集められている可能性が高い。

だが、逆に言えば俺に意識を集中させられているということでもある。それによって多少なりともエレノアやアルトリウスへの注目を逸らすことができるのであれば十分だろう。

『ふ、ははは……こうも、呆気なく終わる、か……』

「……よく言う。元より、勝つつもりはなかっただろう」

こちらに龍王が付いている時点で、今回の戦いはほぼ勝利が確定していたとも言える。

二体の龍王がこの地を護っている時点で、悪魔側は大公級を出さなければ勝ちの目は無かったのだ。

故に、デルシェーラは目的を情報収集に切り替えたのだろう。

奴自身は途中で帰還することになったが、ある程度の情報は抜かれてしまった筈だ。

何しろ、都市結界を利用したとはいえ、公爵級悪魔の攻撃を正面から防いだのだから。

『異邦人は、既に侯爵級悪魔を上回る戦力を手に入れた……だが、それでどうなる……?』

既にHPが尽きているゼリオポラリスは、その身を徐々に黒い塵へと変えていっている。

最早助かる筈もない、紛れもない致命傷だ。

だが、それでも尚、ゼリオポラリスは言葉を紡いでいた。俺たち異邦人に対する、嘲弄を。

『その小細工で、せせこましい技術で、あの方々に勝るとでも……? ふふ、ははは……!』

「ああ、乗り越えるとも。それが、俺たちの戦いだ」

大公級悪魔――龍王たちすら凌駕する、悪魔たちの最大戦力。

成程、確かに、その戦力は絶大だろう。今の俺たちでは影を踏むことすらできていない筈だ。

だが、それでも引くという選択肢はあり得ない。

俺たちは勝利しなくてはならないのだ。そうしなければ、俺たちの行く末に未来はない。

故に、大公級も必ず殺す。そのために、ただ前に進み続けるだけだ。

『お前たちは知らない、あの方々を……くくく……その絶望を、楽しみにしているぞ……』

捨て台詞と言ってしまえばそれまでだろう。

だが、それは紛れもなく本気の嘲弄であり、同時に憐憫でもあった。

俺たちでは絶対に大公級に勝てないと、そう確信しているかのような言葉だ。

だが、その真意を確かめる間もなく、ゼリオポラリスは黒い塵となって消滅してしまった。

それと同時、周囲で戦っていた悪魔たちも塵となって消滅し、操られていた魔物たちは一斉に去っていく。

どうやら、これで戦闘は終了のようだ。

『グランドクエスト《人魔大戦:フェーズⅠ》を達成しました』

『イベント中の戦闘経験をステータスに反映します』

『イベント報酬アイテムを各プレイヤーのインベントリに格納します』

『イベント成績集計中です。ポイント交換は後日実施可能です』

『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀神》のスキルレベルが上昇しました』

『《格闘術》のスキルレベルが上昇しました』

『《昇華魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《神霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《致命の一刺し》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《奪命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『《HP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』

『《クロスレンジ》のスキルレベルが上昇しました』

『《回復特性》のスキルレベルが上昇しました』

『《高位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』

『《見識》のスキルレベルが上昇しました』

『《血の代償》のスキルレベルが上昇しました』

『《立体走法》のスキルレベルが上昇しました』

『《会心破断》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《セイラン》のレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』

怒涛の如く流れるインフォメーションに思わず嘆息しながら、餓狼丸の血を振り落として鞘に納める。

予定通り、 強制解放(リミットブレイク) は使わずに侯爵級悪魔を倒すことはできた。

しかしながら、課題は山積みだ。悪魔共の動きの変化、大公級への対策――まだまだ、考えなければならないことは多い。

だが、ひとまずは勝利を、この街を護りきれたことを喜ぶとしよう。

「よう。お疲れ、シェラート」

「そっちもな、ランド」

最後までサポートに徹してくれたランドには礼を言いつつ、軽く拳を打ち合わせる。

正直、俺たちだけではゼリオポラリスを止めきることはできなかっただろう。

アンヘルとランドの戦闘力は想像以上だった。

元々彼らの戦闘能力は把握していたが、どうやら想像以上にゲームに順応できていたようだ。

ああも器用に武器を使い分ける姿は流石に予想外であったが。イベント時は一部の武器しか見られなかったが、今回の姿がこの二人の本気ということだろう。

「今後も一緒に戦うことはあるだろうし、頼りにさせて貰うぜ?」

「そりゃこっちの台詞でもあるんだがな……アンヘルのことも含めて、期待させて貰うよ」

そのアンヘルはと言えば、何やら緋真と談笑している様子である。

戦闘時は嬉々として敵陣に突っ込んでいく女であるが、普段は割と面倒見のいい人柄だ。

何を話しているのかは少々気になるが……まあ、女同士の話に口を挟むことも無いだろう。

「ランド、お前は軍曹の下で動いてるんだよな?」

「ん? ああ、そうだな。それがどうかしたか?」

「それなら、後で軍曹とアルトリウスに話をしておいてくれ。連中のこと、違和感があっただろ?」

俺の言葉を聞き、ランドは表情を引き締めて頷いた。

どうやら、ランドも気づいたらしい。悪魔共が単純な攻撃ではなく、情報収集に動いていたということを。

「これまでの悪魔は、人間を獲物として捉えて動いていたように思えるが……」

「今回は、俺たちを明確に敵と――それも、対等な戦力として捉えて動いていたな。そうなると……ちょいと厄介だ」

認めたくはないが、悪魔たちの戦力は人間よりも上だ。

個としての戦闘能力もさるものながら、下位の悪魔たちは無尽蔵に出現して襲ってくる。

あれらはどうも自意識が薄く、爵位悪魔とはそもそも存在の性質が異なるように感じられるが――その辺りの考察は置いておく。

ともあれ考えるべきは、そんな強大な戦力である悪魔たちが、今度こそ『戦争』を仕掛けてこようとしていることだ。

これまでの雑な戦い方ではない、俺たちを戦力として捉えた戦い方だ。

「これまでのように油断してかかってくるのであれば楽だったが……そうも行かないだろうな」

「ああ、そのことは軍曹と相談しておくよ。正直、あのお坊ちゃんは視野は広いが、『戦争』のやり口にまで精通しているわけじゃない。その辺は、俺や軍曹がフォローするさ」

「頼んだ。俺は斬った張ったしか能がないんでな。細かいレベルならまだしも、大規模な戦術眼、戦略眼は持ち合わせちゃいない」

「ははは、確かにな。お前は鉄砲玉の方が扱い易い」

ランドの遠慮のない物言いにはじろりと一睨み入れつつ、軽い嘆息と共に踵を返す。

何にせよ、中々に長い戦いだった。ディーンクラッドの時のように出し切ったとまでは言わないが、結構な疲労が溜まっていることも事実。

いい加減戻って、ゆっくり休むこととしよう。

そう考えながら踵を返し――俺は、ふと足を止めた。

「シェラート、どうした?」

「……いや」

ふと感じた視線、それは魔王や金龍王のものではなく、もっと純粋な感情のこもった何かだ。

悪いものは感じないが、いい物のようにも思えない。果たして何者なのか――分からないが、ランドやアンヘルが感じ取っていないということは、俺個人に向けられたものなのだろう。

「……」

何となくその正体を察し、小さく笑いながら踵を返す。

これで、悪魔との戦いは一つのターニングポイントを越えた。

この後にどうなるかは、また考えていく必要があるだろう。