軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

441:人魔大戦:フェーズⅠ その9

空を駆ける黒龍王と、公爵級悪魔デルシェーラ。

両者の戦いは、最早理解の外にある領域にまで足を踏み入れていた。

縦横無尽に空を駆け回りながら魔法を繰り出すデルシェーラと、それを的確に闇の魔法で防ぎながら反撃する黒龍王。

素の能力のみで言えば、間違いなく黒龍王が上であろう。しかし、デルシェーラはその強大な魔法を地上の俺たちを巻き込む形で発動しようとしている。

結果的に、黒龍王は俺たちを護る形での立ち回りを余儀なくされ、十全に力を発揮できていないのだ。

(……厄介だな)

帝国で銀龍王が重傷を負ったのは、このような状況であったからだろう。

もしもこの場にいるのが大公級であったとしたら、黒龍王は既に倒されてしまっていたかもしれない。

まあ、それ以前に俺たちも無事では済まなかっただろうが。

しかし何にせよ、黒龍王のお陰で俺たちは無事で済んでいる。頭の上で超常の戦いが繰り広げられていると思うと正直あまり落ち着かない気分ではあるのだが。

(しかし、赤龍王は一体何をやっているんだ? 黒龍王の力と同等と考えるなら、赤龍王が公爵級相手に後れを取ることは無いと思うんだが……)

公爵級悪魔と赤龍王、どちらとも戦ったからこその実感はある。

赤龍王は、決して公爵級悪魔に劣るような戦闘能力はしていない。

それこそ、今の黒龍王のように守らなければならないものがあるわけではないのだから、単騎で公爵級を討ち取ってしまったとしても不思議ではないだろう。

だというのに、この悪魔はこうしてこの場に姿を現している。

赤龍王との戦いを避けたのか、他に何か特殊な能力でもあるのか――最悪の事態としては、赤龍王が倒されてしまったのか。

現状ではわからないが、事実として赤龍王は姿を現していない。今は現状の戦力で何とかするしかないだろう。

「……しかし、どうしたもんか」

一旦デルシェーラを度外視するとしても、正面の大穴を塞がれてしまったことで戦況は大きく不利になってしまった。

何とかして正面を抑えなければ、やがては城門を突破されて要塞内部への侵入を許してしまうことになるだろう。

それだけは絶対に避けなければならない――そう判断し、俺はシリウスを先行させつつ正面側へと向かっていたのだ。

左側を放置してしまうことになるが、門を放置するよりは遥かにマシだ。

とにかく、急いで門正面側へと向けて走り――そこに、頭上から声が届いた。

「クオンさん! そのまま正面を! 両脇は別途地上部隊で抑えます!」

「ッ……了解した!」

降ってきたアルトリウスの言葉に対してそれだけ返答し、急ぎ正面へと向かう。

地上部隊を外に出すということは、当然門を開く必要がある。

こちらから攻撃を仕掛けるための手段ではあるが、そこが最も危険なタイミングであることも事実だ。

そこのフォローをするためにも、正面に近づく悪魔たちを何とかしなければなるまい。

先んじて正面へと突っ込んでいったシリウスは、何の遠慮も無く悪魔の群れへと向かって突撃している。

例え氷の上であろうとも、鋭い爪や棘を持つシリウスならば滑ってバランスを崩すようなことも無いだろう。

(だが……流石に、攻撃が集中しすぎるか)

シリウスが正面を陣取ったことで、悪魔の進みは遅くなったものの、その分攻撃がシリウスに集中し始めることになる。

その密度はこれまでの比ではなく、じわじわと体力を削られ始めているところだ。

流石にこの状況は拙いし、右側に展開しているルミナにも戻ってきて欲しいところではあるのだが――そう思った瞬間、上空で煌めいた雷が、地面の悪魔に加えて飛び回るデルシェーラへと向けて降り注いだ。

「ケェエエエエエッ!」

「……っ! 邪魔をしてくれはりますなぁ!」

黒龍王に集中している状況では無視しきれない横槍だったのか、デルシェーラは雷を防ぎつつも苛立った声を上げている。

しかし、それを成したセイランは早々にデルシェーラの攻撃圏内から離脱、俺の姿を確認してこちらへと降下してきた。

「よくやったセイラン、緋真とルミナはどうした?」

「クェ!」

【アニマルエンパシー】で感じたところによれば、どうやら緋真たちもこちらに向かってきているらしい。

であれば、シリウスの回復には十分だろう。余裕もできてきたことであるし――

「セイラン、シリウスの所に向かえ。悪魔共を押し返すぞ」

「ケェエエッ!」

気合十分、威勢良く吠えたセイランは、嵐を纏いながら強く地を蹴って走り出す。

ワイルドハントへと進化したことで、纏う嵐の規模も、駆けるスピードも、これまでより大幅に成長している。

地面すら削り取りながら駆け抜けるセイランは、トップスピードに乗ったまま、恐れることなく悪魔の群れの中へと飛び込んだ。

まるでトラックに撥ねられたかのように弾き飛ばされる悪魔や魔物の群れ。その光景を間近で見ながら、俺は笑みと共に餓狼丸を掲げた。

「――貪り喰らえ、『餓狼丸』ッ!」

刃から黒い闇が溢れ出し、深く昏い怨嗟の声が響き渡る。

周りの悪魔はいくらでもいるため、HPを吸収する相手に困るということはない。

勢いよく周囲の命を喰らい始める餓狼丸を掲げ、俺はセイランが反転して速度を落としたタイミングを見計らい、その背の上から跳び下りた。

斬法――柔の型、襲牙。

セイランの嵐に煽られ体勢を崩していた悪魔へと、未だ染まりきらぬ刃を振り下ろす。

肺から心臓を正確に貫いたその一撃は、デーモンを一撃で絶命させるに足るものであった。

倒れた悪魔の体から黒く染まり始めている餓狼丸を抜き取りつつ、俺は周囲を見渡して笑みを浮かべた。

視界に映るのは、端から端まで悪魔の群ればかり。体力を喰らう相手には困らない状況だ。

加えて――

「――焦天に咲け、『紅蓮舞姫』!」

地を舐めるように膨れ上がった炎が、悪魔たちを纏めて飲み込む。

それを成したのは、連絡を受けてこちらに急行してきたらしい緋真であった。

紅蓮舞姫を解放してはいるが、今のところ 強制解放(リミットブレイク) まで踏み切っているわけではない。

とはいえ、それも視野には入っていることだろう。何しろ、公爵級の怪物が存在しているのだから。

時間制限のない紅蓮舞姫の解放は行っても問題はないのだが、やはり強化段階が下がるデメリットは大きい。

必要になる時までは抑えておくのも悪くはないだろう。

「いきなりホットな展開になってきましたね……どうします、先生?」

「別段、やることは変わらんさ」

暴れ回るシリウスには、ルミナの回復魔法が飛んでいる。

それを片手間で行っているルミナは、既に薙刀を手に悪魔たちへと躍りかかっている状況だ。

黒龍王とデルシェーラが縦横無尽に暴れ回っている現状、空を飛ぶことはリスクが高い。地上で戦う選択は決して間違ってはいないだろう。

アリスの姿は見えないが、霧が立ち込め始めている様子を見るに、近くにはいるのだろう。

まあ、あいつのことは放っておいても問題はない。注意しようとしてもどこにいるか確認するのは難しいし、当人も範囲攻撃に巻き込まれないような立ち回りを意識している。

互いに気を使っていては、互いに戦いづらいのだ。

「正面の悪魔を押し返す。プレイヤーを吐き出すまで、悪魔を門に近寄らせるわけにはいかない」

「結構な数のプレイヤーがいると思いますけど?」

「時間がかかるって? かけた時間の分だけこちらの手数も増えていくんだ、問題はないだろう」

「全く……了解です」

呆れた表情を浮かべていた緋真は、しかし次の瞬間には獰猛な笑みへと表情を変える。

敵の数は多く、しかも公爵級まで姿を現している――先の展開の見えない戦場だ。

しかし、やるべきことは明白。都市を守り、悪魔を討てばそれでいい。

そしてその先で、あの公爵級を討つチャンスを見定めるだけだ。

(あの公爵級さえ仕留め切れれば戦いも終わるかもしれないが、この場で《 化身解放(メタモルフォーゼ) 》を使われればどう考えても大きな被害が出る……準備はあると言っていたが、どうするつもりなんだかな)

今のところ、戦いを終えるための最短手順を取ることは難しい。

黒龍王に任せなければ、公爵級悪魔に対する勝ち筋を得ることは困難であると言わざるを得ないのだから。

ともあれ、今は経緯を見守るしかない。チャンスを見かけたら、そこを全力で叩く。

そのためにも――その時の到来まで、しっかりと要塞を守り通すこととしよう。