軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

440:人魔大戦:フェーズⅠ その8

これまで、名無しの悪魔たちはそれぞれレッサーデーモン、デーモンという種族名で登場していた。

まあ、悪魔共を他の魔物と同じような種族として扱うべきなのかどうかは疑問ではあったが、単純に上位の存在に置き換わっていると考えれば分かり易い。

つまるところ、このアークデーモンと名のついた種は、ルミナやセイランたちと比較しても同格のレベル帯に到達した存在だと考えておくべきだ。

そして、そんな悪魔の戦闘能力であるが――

「成程、これまでとは訳が違うか」

斬法――柔の型、流水。

貫手で放たれた突きを刃で受け流しつつ、相手の懐へと肉薄する。

そのまま脇腹へと向けて刃を振るうが、これまでのデーモンならば致命傷を負わせられていた一撃でも、こいつ相手には装甲を軽く削る程度に終わる。

どうやら、随分と強化されてしまっているようだ。

(歯応えのある相手だが……あまり時間をかけている余裕もないか)

こいつ相手ならば多少楽しい戦闘にはなるのだが、生憎と今は戦争中だ。

個人的な楽しみで無駄な時間を過ごすわけにもいかない。

こうしている間にも、悪魔たちはこちらに迫ってきているのだ。まだ、壁の近くまで悪魔を寄せてやるわけにもいかない。

様子見はそこそこで済まさねばならないだろう。

「っ、《蒐魂剣》!」

急激に魔力が高まる感覚に、《蒐魂剣》を発動しながら後方へと跳躍する。

その瞬間、俺の眼前に巨大な氷の壁が出現した。

地面から急激に伸びる氷の棘は、こちらを飲み込まんとするように荒れ狂い――振り下ろした刃によって、霧散するように消滅する。

その様子を見て、俺は再び前へと向けて足を踏み出した。

(結構な出力ではある。だが――同レベル帯の亜竜には及ばない)

確かに強力な個体であるようだが、亜竜に比べると能力は劣るようだ。

こいつが大量に出現してきたら話は変わってくるが、ただ一体程度であるならば――

「『生奪』」

歩法――縮地。

滑るように移動して、相手の眼前へと躍り出る。

アークデーモンは一瞬こちらの姿を誤認したようだが、それでもすぐさま反応して鉤爪を振るう。

だが、その一瞬の動揺であろうと、俺にとっては十分すぎる。

斬法――剛の型、刹火。

こちらへと振るわれた腕に対し、カウンターで合わせた一閃。

金と黒を纏うその一撃は、アークデーモンの右腕を綺麗に断ち斬ってみせた。

緑の血と共に強靭な右腕が千切れ飛び――それを視界の端に捉えながら、強く足を踏み込む。

刃を振るい、それまで前進していた勢いを遠心力に伝えながら体を反転させる。

「《練命剣》、【命輝練斬】!」

鋭く収束した生命力が、餓狼丸の刀身をコーティングする。

眩く輝く円形の軌跡を残したその一閃は、横からアークデーモンの脇腹へと食い込み――その体を、胴から真っ二つに両断した。

単体攻撃としては最大級の火力を誇るこの一撃は、どうやらアークデーモン相手にも十分に通じるものであったようだ。

二つの肉片となって地面に転がったアークデーモンを、一応警戒しながら観察するが、それ以上動く気配はない。

流石に、爵位悪魔のようなとんでもない能力は持ち合わせていないようだ。

「……今は単体だから何とかなったが、集団となると厄介だな」

アークデーモンに対しては、【武具神霊召喚】の効果を含めた上でも、ただの攻撃ではダメージを与えることができなかった。

この頑丈さでは、大砲を始めとした遠距離攻撃で仕留め切るのは難しいかもしれない。

そして、それだけの能力を持った悪魔が大挙して押し寄せれば、あの城壁とてそう長くは持たないだろう。

果たしてこの悪魔がどれぐらいの数存在しているのか――気にはなるが、今はそれを考えている余裕もない。

俺がアークデーモンと戦っている間に、何体かの悪魔は横を抜けて城壁へと向かってしまったのだ。

多少であれば問題はないだろうが、状況は確認しておきたい。そう思い振り返った俺の視界に入ったのは、そこら中に転がる急所を一突きにされた悪魔の死体であった。

「……成程、仕事をしてくれたようだな」

今のところ、周囲に気配は感じられない。俺がアークデーモンを片付けたのを確認して、さっさと離れて行ったのか。

まあいい、とりあえずアリスの仕事ぶりには感謝しつつ、引き続きこちらに向かってくる悪魔に対処するとしよう。

幸い、大砲の向きの調整が完了したのか、こちら側にも寄ってくる悪魔の量は少なくなってきている。

城壁近くではシリウスが暴れているし、この調子ならばまだしばらくは問題ないだろう。

そう判断して、再び向かってくる悪魔への対処へと戻ろうとし――暴力的なまでに巨大な魔力が膨れ上がった。

「――――ッ!?」

思わず動きを止め、魔力の出所である上空を見上げる。

遥か上空――そこに浮かんでいる、青い着物の女の姿。遠く離れているにも関わらず、その魔力が発せられている場所は、容易に発見することができた。

あの女が発している魔力は、それほどまでに強大なものであったのだ。

――それこそ、あのディーンクラッドと比肩し得る程に。

「あれは、まさか……!」

上空に浮かぶ白髪の女は、ゆるりとその手を振り上げる。

女の掌に収束する膨大な魔力。そして、それはゆっくりと地面に差し伸べられ――指先から、何か光るものが地面へと向けて落ちる。

キラキラと輝く雫は、そのまま地面へと向けて落下し、キルゾーンに開けられた燃え盛る大穴へと向かっていく。

そして――膨大な魔力が、まるで爆発するように巨大な冷気へと変換された。

「な……ッ!?」

風となって吹き付けてくる冷気から目を庇いつつ、門の正面で起こった事態を確認する。

濛々と黒煙が噴き上がっていた、地獄のような大穴。今なお多くの悪魔を足止めしていたあの穴は、驚くべきことに氷によって埋め尽くされていたのだ。

あれほどの大穴を一息に埋めてしまうほどの大規模な魔法。それを、ほんの少しの溜めだけで成し得てしまうほどの魔力。

間違いない、あれは――

「どうも進みが悪いと思っとったんやけど……まさかこないなことになっとるとはなぁ。真龍のことといい、ほんに面白いことするもんやねぇ、人間ってもんは」

とんでもない魔法を一息に発動したその悪魔は、扇で口元を隠しながら優雅に笑う。

青い着物と、白い長髪の姿をした、どこか日本の風情を思わせる悪魔。

その悪魔は、たった一つの魔法で、あの大穴を埋め尽くしてしまったのだ。

穴に近かった悪魔は多少その被害を受けている様子ではあるが、後ろから続く悪魔は気にすることなく前に進みだしている。

この状況では、程なくしてあの悪魔の群れが城門に辿り着いてしまうだろう。

「うちは公爵級第七位、デルシェーラ。こないな展開のまま進んでもつまらんだけやし、ちょい頑張って貰わなあかんね」

「っ……シリウス、正面を抑えろ!」

あの数が城門に殺到したら、流石に抑えきれなくなる。

その前に、少しでも足止めして数を減らさなければ。

だが、そんな俺の指示が耳に届いたのか、上空の悪魔の青白い瞳がこちらを射抜く。

「へぇ……あんさんが、ディーンクラッドはんを斬ったお方か」

「……だとしたら、何だ」

「しばらくは様子を見るつもりやったんやけど……ふふ、少しぐらい遊ばせて貰ってもかまへん――」

その声と共に、魔力と殺気が膨れ上がる。

即座に餓狼丸を解放しようとし――再び、強大な魔力の気配を感じ取った。

しかし、上空のデルシェーラもまたそれに反応してこちらから視線を外す。

そして、次の瞬間――

「――やってくれたものだな、悪魔たちよ」

「っ……本気も本気ってわけや、もう一体龍王がおるとはな」

遠くから飛来した巨大な黒い影――巨大な漆黒のドラゴンが、その巨腕をデルシェーラへと向けて振るった。

対するデルシェーラは氷の楯を作り出してそれを受け止め、そのまま後方へと移動して距離を取る。

砕け散った氷の破片の中、魔力を滾らせた黒い龍王は、眼下の俺たちへと向けて力強く声を上げた。

「戦い続けよ、異邦人たちよ。この悪魔は僕が抑える。君たちは都市を守るのだ」

「ッ……感謝する!」

最大の戦力を止めることはできたが、それでも戦況が悪化していることに変わりはない。

正面を何とかする為にも、まずは向こう側に移動することとしよう。