軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

431:要塞の上で

アドミス聖王国北の大都市、アファルド。大要塞となったこの都市の北側城壁の上にて、俺はアルトリウス、エレノアと共に北の景色を眺めていた。

悪魔との戦いでほぼ瓦礫の山と化していたこの街であるが、悪魔との戦いの舞台になる可能性が高いことから、最優先での復興対象となっていた。

広い都市全体が要塞化しており、外からの攻撃には滅法強い性質を持っている。

尤も、ここまでの要塞化はエレノアたちが手を加えてからの状態で、元々は普通の都市に近い状態だった。

まあ、聖王国はこの大陸における調停役であるため、外部から攻撃を受けることをあまり考えていなかったというのもあるのだろう。

しかし、現状は悪魔との戦争状態だ。北側に生息する奴らへの警戒のため、この都市の防御を固めることは必須であったのだ。

「しかしまぁ……この短期間で良くここまでやったもんだな」

「真龍のイベントもありましたから、エレノアさんたちにはちょっと無茶をさせてしまいましたね」

「必要なことではあったし、こっちにも利益はあったから、別にいいわよ」

疲労している様子ではあるが、エレノアはどこか満足気だ。

これだけの規模の都市を作り上げたのだから、達成感も一入だろう。

よくもまぁ、青龍王への対応もしながらこちらを進めていたものだ。

「流石に、防衛装備は北側に集中しているけど、逆に言えば北側は完璧よ。まあ、本当なら全方位に完璧な防御を敷きたかった所だけど」

「時間が無かったんだから仕方あるまい。それより、本当に公爵級の攻撃を防げるのか?」

「ある程度はね。そのための準備はしているから」

俺の問いに対して即答するその言葉に、思わず眼を見開く。

一体どんな準備をしているのか気になる所ではあるが、それは本番まで取っておくこととしよう。

正直なところ、公爵級にここまで近寄られた時点でかなり不利な状況ではあるため、その準備が活躍するような場面にはならないで欲しいところではあるが。

「国の機能を取り戻しているため、イベント中でも石碑は使えます。悪魔に制圧されればその限りではありませんが……そのため、物資の補給に困ることは無いでしょう」

「そして撤退も楽、か。だが、ここを抜かせるわけにも行かんだろう」

「そうですね。他の都市はまだ現地人が残っていますし、防衛ラインを下げることは避けたいところです」

一応、北東および北西の都市からは現地人の避難を進めているらしいが、それも完璧ではないのだろう。

状況によっては防衛ラインを下げることになるが、そうなった場合は既にジリ貧の状況だ。

打てる手が無くなるわけではないが、限りなく詰みに近い状態となってしまうだろう。

絶対に、このアファルドを抜かせるわけにはいかないのだ。

「で、だ。結局、どう動くのかは決めたのか?」

「作戦は二つ。こちらに進軍してくる悪魔たちを奇襲し、戦力を削ること。そして、要塞を使った防衛戦で敵戦力を削ること――その二つで十分な隙を見出せたならば、大将首を狙うべきでしょう」

「ふむ……まあ、鉄板だな」

今回は敵戦力の量をあまり把握できていないのだが、数に関わらず有効な戦術ではあるだろう。

悪魔を相手にする場合、人間相手のルールやセオリーなど通用しない。逆に言えば、そういったものに囚われる必要もない。

いくらでも卑怯な手を使って、敵の戦力を削ってしまえばいいのだ。

「ここしばらく、北側には大量のトラップを仕掛けてきたわ。正直どこまで通じるかは謎だけれど、ある程度の足止めにはなる筈よ」

「要塞化だけじゃなくてそんなことまでしていたのか……確かに、有効ではあると思うけどな」

「一応、これがトラップの配置マップね。貴方はどうせ奇襲を仕掛けてくるんでしょう?」

「まあ、それは確かにそうなんだがな」

正直、俺はあまり防衛戦に向いているとは言えない。

可能であれば、奇襲や野戦で大将首を落としてしまった方が楽だとも言える。

そのため、罠を絡めた奇襲を考えているのであれば、俺もそちらに参加したいところだ。

まあ、正直なところ奇襲も難しいとは思っているのだが。

「……しかし、アルトリウス。奇襲っつっても、他のプレイヤーはどうなる?」

「我々以外にも同じことを考えるプレイヤーはいるでしょうね。そしてプレイヤーの母数が大きい以上、その数は結構なものになるかと」

「だろうなぁ……隠密はあまり期待できんか」

大勢のプレイヤーがいる以上、悪魔共に気づかれぬよう潜んで一気に攻撃するということは難しいだろう。

ならば、罠で足止めを喰らっている所に対して普通に襲撃を仕掛けた方が建設的だろう。

どう攻めるものかと考えていたその時、隣からエレノアが口を挟んできた。

「ああ、それなのだけど……クオン、貴方確か、フィノに妙な提案をしていたわよね?」

「妙なって……まあ確かに、変わっているかもしれんが、有益な話ではあっただろう」

「確かにそれはその通りかもしれないわね。けど、言った以上は貴方も協力して貰えないかしら?」

エレノアの言葉に、軽く眉根を寄せる。

フィノに成長武器を取得して欲しいという話はしたが、まさかフィノのポイント稼ぎに協力しろということか。

まあ、いずれはこちらの益になることではあるし、それもやぶさかではないのだが――

「フィノを連れて前線まで行けってことか?」

「そうね。流石に、私たちだけで得られるポイントでは、成長武器には届かないわ」

「しかしなぁ……俺たちの戦闘について来させるのは中々厳しいと思うぞ」

フィノも戦えないことはないが、決して戦闘が得意というわけでもない。

俺たちのパーティに随行するのは中々困難だろう。

だが、その回答は見越していたのか、エレノアは軽く笑いながら声を上げる。

「大丈夫よ。貴方のドラゴン、ちょっと貸して貰うだけだから」

「……いや、何をするつもりだ?」

「元より、貴方のドラゴンは強襲はともかく、奇襲には向かないでしょう? とんでもなく目立つし」

「それはその通りだが」

俺たちの近く、背伸びをするような形で城壁に手をかけているシリウスは、現在進行形でひたすら目立っている状況だ。

周囲のプレイヤーは物珍しげに見ながらスクリーンショットを撮影しているし、前線に出てもこの注目度は変わらないだろう。

「貴方のドラゴン……ソードドラゴンは空中要塞のようなものよ。堅牢な防御力を持ちながら、素早く上空を飛び回ることができる。爆撃機として運用するには持って来いよね」

「……つまり、フィノをシリウスの上に乗せて、上から爆弾を落とすと?」

「そういうことね。フィノなら《インベントリ拡張》も持っているから大量の爆弾を持ち運べるし、安全にキルスコアを稼げるでしょう」

「ふむ……」

まず、罠で足止めをしている悪魔の群れに対し、フィノが上空から爆弾を降らせて打撃を与える。

敵陣が混乱した所で、俺たちが降下して敵を掃討する。

シリウスが戦闘に参加しづらいことがあまり面白くはないが、悪くはない作戦と言えるだろう。

龍王の爪を鍛えることを考えると、フィノのスコア稼ぎは必要であるし……確かに、余裕のある内に稼いでおいた方がいいかもしれない。

「……わかった、その作戦で協力しよう。幸い、シリウスは強化されたばかりだからな」

シリウスはレベル20になったことで、いくつかスキルが強化されている。

《爪撃》が《剛爪撃》に、《鋭牙》が《穿鋭牙》に、《刃翼》が《鋭刃翼》に、といった具合だ。

まあ、どれも近接戦闘用のスキルであるため今回の作戦には関係ないのだが。

本音を言えば、あともう少しレベルを上げて次なる進化段階まで強化したかったのだが、それにはあと一週間ほど時間が必要だろう。

「この戦い方だと他の連中と足並みを揃えるのは無理だし、俺たちは別で適当に動かさせて貰うぞ」

「了解です。まあ、元々そうなるとは思っていましたから」

エレノアの案の有無にかかわらず、俺が独自に動くことは想定済みだったらしい。

まあ、アルトリウスの許可があるなら問題はないだろう。

ここに辿り着くまでに、精々悪魔共の数を減らしてやることとしよう。

「ところで、そっちは出んのか?」

「僕も同じ戦法を取ろうと思えば可能ですが……どちらかというと、こちらの真龍は回復や補助の方を得意としていますからね。とはいえ、数を減らすことは必要ですし、順当にやらせていただきます」

「了解だ。ま、他のプレイヤーは巻き込まんように気を付けるさ」

アルトリウスの育てている真龍は光属性、ルミナスドラゴンというらしい。

その姿は軽く目にした程度であるが、鳥のような羽毛の生えた翼を持つ、一風変わったドラゴンであった。

中々に優雅な見た目であり、アルトリウスにはお似合いだろう。

「それじゃあ、こちらはこちらで準備する。街の方はよろしく頼むぞ」

「ええ、そちらは存分に暴れてください。ある意味、ここからが戦争の本番です……よろしくお願いします」

そう告げるアルトリウスの表情は硬い。

彼の表情が告げる通り、決して容易な戦いにはならないだろう。

だが――これを踏み潰せば、奴らの喉元に一歩近づく。

必ずやこの襲撃を退け、奴らに刃を届かせてやるとしよう。