軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

428:嵐の証明

先ほどは、上空に待機していたシリウスから飛び降りたアリスが、そのままワイルドハントへと攻撃を加えた。

あの高さからの自由落下などよくやるものであるが、実際効果的だったのだから文句はない。

こちらとしても、その狙いを読んでいたからこそリスクを背負ってでもワイルドハントの動きを止めたわけだが。

まあ何にせよ、奴に大打撃を与えることはできた。この高さから叩き落とされれば、いかなワイルドハントとて無事では済まないだろう。

「地上に降りるぞ。まだ戦うのかどうかは知らんが、確かめてみる必要がある」

「了解。正直、ここまでにして欲しいけどね」

セイランの上に引き上げたアリスは、流石に肝が冷えたのか、深く溜め息を吐いている。

流石に、あの高さから飛び降りるのは堪えたのだろう。

正直なところ、これで決まらなければ打つ手はかなり少ないため、俺としてもこれ以上の戦闘は勘弁してほしいところだ。

そう思いつつ、降りてきた緋真も伴いながら地上へと降下すれば、そこにはクレーター上に陥没した地面に横たわるワイルドハントの姿があった。

死んだわけではなさそうなのだが、何か様子が変だ。倒れたまま微動だにしないし、果たしてどういう状況なのか――そう思った、瞬間だった。

「っ……!?」

「体が、黒く……!?」

地に横たわるワイルドハントの体、それが黒い靄に包まれ、その体自体も黒く染まり、徐々にその輪郭を失って行ったのだ。

黒く染まった身から溢れ出したのは、黒い髑髏の輪郭――紛れもなく、先程ワイルドハントが呼び出したものと同じ、亡霊の姿であった。

ワイルドハントの体から溢れ出した亡霊は、そのまま空へと向けて飛び出していき、散り散りになって消えていく。

状況はよく掴めないが、これはつまり――

「……このワイルドハントは、偽物だったのか?」

「冗談でしょう? 高々分身で、あそこまでの戦闘能力があったって言うの?」

「でも、それなら本物はどこに――」

状況を理解した緋真は、きょろきょろと周囲を見渡し――目を見開いて動きを止める。

俺が異常に気が付いたのは、それとほぼ同時であっただろう。

山の周囲を包んでいた黒い雲。それらが、渦を巻きながら上空の一点へと収束を始めたのだ。

あまりにも早く動く雲は、まるで世界の終末を告げる光景のよう。その中央には紫電の輝きが収束し――黒い雲の奥に、翼を広げた影を視認する。

そして……雲は、弾け飛ぶようにその姿を消した。

「あれが……本物のワイルドハントか」

姿形は、先程までの偽物と変わりはないだろう。

だが、感じ取れる魔力の量は桁違いに大きい。その力は龍王たちと比べても見劣りすることはないだろう。

伝説の魔物、ワイルドハント。その名が決して伊達ではないということを、まざまざと見せつけられてしまった。

真のワイルドハントは、しかしそのまま攻撃を行うようなことも無く、じっとこちらを――否、セイランのことを見つめている。

その紫色の瞳の奥で、一体何を考えているのか。分からないが、先程までのような戦意を感じることもない。

どうやら、これ以上戦うつもりは無いようだ。

「クェェエエエエエ――――ッ!」

山間に響き渡るような、猛々しい鳴き声。

それはまるで、これから厳しい戦いに挑むセイランへの、力強いエールのようにも聞こえた。

そして、木霊する声をその場に残し、ワイルドハントは力強く翼を羽ばたかせる。

その翼で一瞬にして加速したワイルドハントは、あっという間に空の果てへと姿を消していったのだった。

『特殊進化クエスト『天空の覇者、嵐の王』を達成しました』

『《降霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《降霊魔法》のスキルレベルが上限に達しました。スキル進化が可能です』

『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《蒐魂剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《HP自動大回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《クロスレンジ》のスキルレベルが上昇しました』

『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』

『《血の代償》のスキルレベルが上昇しました』

『《立体走法》のスキルレベルが上昇しました』

『《会心破断》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』

どうやら、ワイルドハントとしても合格だったらしい。

思わぬ課題に直面することにはなったが、課題が浮き彫りになったことはこちらとしても一つの成果と言えるだろう。

正直、ワイルドハントは例外クラスの強さだとは思うが、これらから対面する悪魔に、似たような力を持った存在がいないとも限らない。

空中戦の能力については、今のうちに底上げしておくべきだろう。

「まあ、空中戦については追々考えるとして……今はセイランの進化だな」

スキルの進化もあるが、まずはセイランのことを確認するとしよう。

テイムモンスターの管理画面を開き、セイランの進化情報を確認する。

そこには確かに、前回までは表示されていなかった『ワイルドハント』の名があった。

「下手をしたら、もう一段階進化があって、その先がワイルドハントかもとも考えたが……流石に杞憂だったか」

「そうだったら、レベルがいくつ必要になるんですかねぇ」

「さてな。気の遠くなるような話ではあるが、近づいてくると案外あっという間に感じるかもしれんな」

緋真の言葉には軽く肩を竦めて返しつつ、俺はテイムモンスターの管理画面を操作する。

最早悩む必要などない、セイランをワイルドハントに進化させるために、ここまで苦労してきたのだから。

「行くぞ、セイラン。準備はいいな?」

「クェ!」

力強く頷くセイランに、こちらもまた笑みを浮かべながら進化を決定する。

その瞬間、セイランの身は黒い渦と紫電のスパークに包まれた。

これまでの進化とは異なる様相に、思わず息を飲みつつもその変遷を見守る。

見るからに、ワイルドハント専用と思える進化演出だ。雷を、黒い雲を、まるで喰らい尽くしていくかのように収束していくその様は、嵐の王たるワイルドハントに相応しい演出だろう。

ごうごうと吹き荒れる嵐を吸い込み続け――ついに、セイランはその新たなる姿を露わにした。

「ケェエエエエッ!」

「ほう……これが、ワイルドハントか」

姿形は、ストームグリフォンの頃からそれほど変わった様子はない。

しかし、白い毛や羽毛の部分には所々メッシュのように紫のラインが混じり、また翼や体には常時緩やかな風を纏っている。

体の調子を確かめるように足踏みをすれば、地面との間には紫色のスパークが走っているのが見えた。

先ほどの嵐を丸ごと飲み込んだと言われても、思わず納得できてしまうような姿である。

■モンスター名:セイラン

■性別:オス

■種族:ワイルドハント

■レベル:1

■ステータス(残りステータスポイント:0)

STR:86

VIT:45

INT:45

MND:33

AGI:70

DEX:38

■スキル

ウェポンスキル:なし

マジックスキル:《天嵐魔法》

《旋風魔法》

スキル:《風属性大強化》

《天駆》

《騎乗》

《物理抵抗:大》

《痛恨撃》

《剛爪撃》

《覇王気》

《騎乗者大強化》

《天歩》

《マルチターゲット》

《雷鳴魔法》

《雷属性大強化》

《魔法抵抗:大》

《空中機動》

《嵐属性超強化》

《吶喊》

《帯電》

《亡霊召喚》

称号スキル:《嵐の王》

ステータスも大幅に伸びており、筋力に至っては規格外の数字だ。

このまま成長していけば、100の大台に乗る日も遠くはないだろう。

スキルについても《嵐魔法》が第三段階に相当すると思われる《天嵐魔法》に進化している。

また、《空歩》のスキルは《天歩》に、そして《嵐属性大強化》は《嵐属性超強化》へと進化したようだ。

これらについては純粋なスキル強化だろうが、より空中での機動力を強化することになっただろう。

それに加えて――

「《亡霊召喚》か……あのワイルドハントは色々と使いこなしていたが、あの真似はできるのか?」

「クェ……」

俺の問いに対し、セイランは首を横に振る。

どうやら、流石にまだ分身を作り出すような真似はできないらしい。

しかし、ルミナの《精霊召喚》に対抗した時のように、亡霊たちを呼び出してけしかけるようなことはできるようだ。

亡霊たちがどのような能力を持っているのかについては、また検証が必要だろう。

(あと気になるのは……あの嵐を纏うような姿だな)

とんでもない加速を見せたあの戦闘スタイル。

あれに類するようなスキルは今のところ確認できないが、あれは《天嵐魔法》の一つなのか、或いはまだ発現していないスキルなのか。

何にせよ、現状ではあの能力を使うことはできなさそうだ。

空中戦の強化になるかと思ったが、流石にそう易々とはいかないらしい。

「まあ、とりあえず目標達成ってことね。すぐに戻るの?」

「ああ、また亜竜たちと戦いに戻るとしよう。だが、その前にスキル進化だけさせてくれ」

今回は、元が強力な《降霊魔法》だ。

それが進化したら、果たしてどのようなスキルになるのか、期待と共にスキルの詳細を開き――

「……何だこりゃ」

――思わず、目を見開いて硬直してしまったのだった。