軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

041:剣聖の小屋

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《MP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

樹上からたたき落とされた迷彩蛇を斬り伏せて、そのまま油断なく周囲へと視線を走らせる。

どうやらこの森であるが、爬虫類の類がよく出現してくるらしい。

それも、こちらの目を欺きながら、不意打ちを狙ってくるような連中ばかりがだ。

樹上から奇襲してくる『カモフラージュパイソン』を始めとし、林立する木々に身を隠しながら少しずつ二足歩行で接近してくる大型のトカゲ『カバーリザード』、木の表面や葉の中に身を潜めて透明化して待ち伏せし、鞭のような舌で攻撃してくる『ミラージュカメレオン』などなど。

とにかく、こちらの不意を突いて攻撃してくる連中が多いのだ。気配を察知できなければ、何発か食らってしまっていたことだろう。

まあ俺としては、こういう緊張感のある戦場は大歓迎なのだが。

それはそれとして――

「ルミナ。お前、それ本気でやってるのか?」

「――――♪」

俺の肩の上に乗るルミナは、地面に落ちていた細い木の枝を手に持って、俺の真似をするように振り回していた。

どうやら、俺が剣を振っている様に興味を抱いたらしい。

まあ、見様見真似であり、決して上手いものではなかったが。と言うかそもそも、人間とは重心が異なる妖精では、俺の動きをそのまま真似することは難しいだろう。

この大きさでは、真似した所で意味がないというのもあるが。

「お前は魔法使いタイプだし、そもそもまるで体力がないんだから、剣を振るような真似はしないでほしいんだが……」

「――――!」

「……そこまでやる気があるとなると、俺としても禁止はし辛いんだがな」

ふんすふんすと鼻息荒く棒を振り回すルミナであるが、その表情は真剣だ。

どうやら、かなり本気で剣に取り組みたいと考えているらしい。

その様子を見ていると、久遠神通流の師範として、やる気のある者を『適性がないから』と弾いてしまうのは気が引ける。

己の選んだ道であるならば、納得できるまで打ち込んでみるべきなのだ。その果てに諦めるのであれば、それはそれで仕方がないというものだろう。

ルミナが剣を振ろうとするのは、最早適性以前の問題ではある。だがそれでも、自ら志した道であるならば、まずはそれに任せておいてやった方がいいと考えてしまうのだ。

「……はぁ。ま、無理しない程度にしろよ」

「――――♪」

俺の了承を得られたからか、ルミナは満足げな様子で頷いて、再び棒を振り回し始める。

まあ、これでもきちんと頭上を警戒してくれているので、とりあえずはそのまま様子を見るべきだろう。

小さく嘆息しながら進行を再開し――ふと、気付く。

(……そういえば、ここまでどう進んできた?)

ちらりと背後を振り返るが、あるのは代わり映えのしない木々で覆われた景色だけだ。

また頭上を見上げても、木々の葉が拡げられているばかりで、太陽の位置も確認しづらい。

先ほどからずっと、奇襲攻撃を察知するために気配を掴むことに意識を集中させていた。

お陰で、敵の位置に関しては正確に把握できていたのだが、その他に関することが疎かになっていたのだ。

とどのつまりが、迷ったということである。

「チッ……ちょいとはしゃぎ過ぎたか。ここからじゃ、流石に“広げて”も森の外までは届かんだろうしな……」

「――――?」

「ああ、いや。何でもない、気にするな」

流石にルミナに迷ったと伝えるのは気が引けるというか何というか。

とりあえず感知範囲は広げて、外に繋がりそうなものが引っ掛かったらそちらへと向かうことにしようとする。

しようとしたのだが――その感知に、森とはまるで異なる要素が引っ掛かっていたのだ。

「これは……? 人間、か?」

正確に言えば、人そのものの気配ではなく、人の手で切り拓かれた空間があるということだ。

鬱蒼と生い茂る森の中に、ぽっかりと空いた穴のような空間。

そこだけは木々が無く、何らかの建物のようなものが鎮座している。

明らかに、人の手が入っている空間だった。この性質の悪い魔物が住まう森の中で、人間が暮らしているというのか。

「ふむ……行ってみるか」

元々、遠回りに港町へ向かおうと考えていただけで、この森に対しては特に目的があるわけではない。

せいぜい、悪魔の襲撃に対応するためのレベル上げが目的といった程度だ。

急ぎの用事など全くないわけだし、寄り道をしても問題はないだろう。

距離的にもそれほど遠くはない。少し進めばその姿が見えるはずだ。

「しかし、何だってこんな辺鄙な所にあるんだか」

ここは街道から離れているし、そもそも通ることを前提としていない森だ。

森の奥に何かがあるという話は聞かなかったし、その中継地点という可能性は低いだろう。

案外、放棄された小屋である可能性もあるが……まあ、そこは中を見てみれば分かるだろう。

周囲の気配を探りながらその小屋の方面へと近づいていけば――唐突に、木々の間から光が差し込んでいた。

「っ……!」

「――――?」

鬱蒼とした木々に覆われ、光がほとんど差し込んでいなかったはずの森の中。そこに唐突に差し込んできた光に、俺は思わず目を細めていた。

森の中にぽっかりと空いた穴は、小さな小屋を中心として、眩い日の光を降り注がせている。

やはり、この場所だけ木々が無いのは不自然だ。人の手によって切り拓かれてから、それほど時間が経っていないと見るべきだろう。

見れば畑などの姿もあり、どうやら最近まで人が出入りしていた気配が窺える。

信じがたいことではあるが――この森の奥底で、住んでいる人間がいるということだろう。

「一体どんな物好きなんだか……」

いくら俺でも、このような危険生物の跋扈する森の奥で暮らしたいとは思えない。

この場で安定した暮らしを維持できる者がいるとすれば、それは相当な実力者だけだろう。

自然、口の端が釣り上がる。この場には、一体どのような人間が暮らしているというのだろうか。

とりあえず、今の所小屋の中には気配がない。誰かが住んでいる様子ではあるが、現在は留守にしているようだ。

「……ふむ」

小屋の周囲をぐるりと回ってみる。

やはり、人の気配はない。だが、暮らしている痕跡はいくつも残っている。

積み上げられた薪、頻繁に手入れされている様子の畑、そして――とんとんと足音が鳴るほどに踏み固められた地面。

これは普通に暮らしていてなるようなものではない。強い踏み込みや体を支えるための踏み締め、それが途方もない回数繰り返された痕跡だ。

どうやら、この小屋の住人は、小屋の隣で自己鍛錬に励んでいるらしい。

しかも、踏み固められた範囲は中々広い。これは、イメージに描いた相手との模擬戦を行っているためだと考えられる。

広い範囲を踏み固めるとなると、相当な回数をこなしてきたに違いない。周りにはいくらでも戦える相手がいるというのに、勤勉なことだ。

「辺鄙な所に住んでいるだけはあるか、こいつは中々――」

――刹那、空気の動いた感覚に、俺は咄嗟に背後へと振り返っていた。

距離は5メートルほど。これほど接近されるまで気配に気付けなかったことに驚愕しながら、俺は相手の様子を観察する。

白髪となった短い髪、刃のごとく鋭い眼光。身長はそれほど高くはないが、鍛え上げられた肉体によって、その姿は大きく見える。

腰に佩かれているのは一振りの長剣。拵えは凝ったものではないが、その握りの使いこまれた痕跡からも、彼が長年にわたって愛用している物であると分かる。

狩りでもしてきたのだろう。血抜きをしたと思われる鹿を背中にぶら下げた老人は、俺の姿を見てにやりと笑みを浮かべていた。

「ほう? こんな所に客人とは、珍しいことだ。それも、妖精を引き連れた者とはな」

「……失礼。森の中を彷徨っていたら、偶然見つけたものでね。俺はクオン、こっちはルミナだ。貴方は?」

「オークスだ。立ち話もなんだ、入れ」

淡々と自己紹介した老人――オークスは、それだけ言い放つと、さっさと踵を返して小屋の入口へと向かっていた。

流石に困惑しつつルミナと顔を見合わせていたが、いつまでもここに突っ立っていても仕方がない。

今はとりあえず、その言葉に従っておくべきだろう。

オークスの招きに応じて小屋の中に入れば、そこには簡素な生活空間が広がっていた。

寝床や竈など、ほとんど一人が暮らすことしか考えていないような状態であり、決して上等な住居であるとは言えないだろう。

だがそれでも、このストイックな老人には非常に雰囲気に合っている住居だと言えた。

「適当に座っておけ」

「……了解」

特にこちらを気にした様子もなく、台所で鹿を捌き始めたオークスの背中を眺めながら、俺は苦笑交じりに近くの椅子に腰かけていた。

ここからはほとんど背中しか見えないが、鹿を捌く手つきは非常に慣れたものだ。

どうやら、ああいった狩りや菜園で得た食料を糧としながら生活しているらしい。

生活感溢れる――というより、生活感しかない。何かの目的があってこの森の奥に住んでいるとは思えなかった。

やがて、鹿肉の処理を終えたオークスは、手を洗い流した後にようやくこちらへと振り返っていた。

テーブルを挟んだ対面へと腰を下ろした老人は、ぐりぐりと首を回しつつ俺に対して声を上げる。

「さて、若いの。改めて問うが……ここには何をしに来た?」

「さっきも言った通り、迷ってたら偶然ここにたどり着いただけだ。修行しつつフィーライアに行こうとは思ってたんだが」

「迷っただぁ? お前さん、異邦人だろう? 異邦人なら周辺の地図が見られるんじゃなかったのか?」

「……あ」

そういえば、そんな機能があったということをすっかりと忘れていた。

咄嗟にメニューを開いてみれば、確かにメニューの中には周辺マップの表示が存在している。

すぐさま開いて確認してみれば、あっさりとこの周囲の地理情報が表示されていた。

現在位置は――

「……『剣聖の小屋』?」

その端的な名称に、俺は思わず目を見開く。

『剣聖の小屋』――そう名が付いているからには、この小屋に住んでいるのは『剣聖』なのだろう。

該当する人物は、当然この老人であり……これまでに垣間見た実力からも、その名を持つことに納得していた。

そんな俺の呟きに、老人は瞑目して口元を歪める。どうやら、苦笑しているらしい。

「そんな風に呼ばれているのか。そこまで大それたもんでも無いんだがな」

「どうかな。少なくとも、あんたが途方もない実力者であることは事実のようだが」

「お前さんこそ、大した実力じゃあないか。ただの剣士じゃあるまい」

「さてね。俺はまだまだ未熟だと思っているんだが」

剣の道に終端など無く、剣の答えに完成など無い。

人生之修行也――生きている限り、完成などあり得ないのだ。

故に、俺はまだまだ、己の実力に満足などしていない。

そもそも、クソジジイに勝てたのだってギリギリだった。もっと余裕で勝てるように強くなりたい。

そんなことを内心で考えていた俺に対し、オークスはピクリと片眉を上げていた。

「変わった若造だな。その若さでそれだけの実力がありゃあ充分だろうに」

「それが充分かどうかは俺が決めるさ」

「……それもそうか。ああ、違いない」

くつくつと笑うオークスに、こちらもにやりと笑みを浮かべる。

どうやら、この男とは中々気が合いそうだ。剣の業に己の生きる道を定めた者同士、そこに共感が生まれるのは当然と言えば当然だが。

となれば、次にやることは決まっている。こちらは招かれた身であるし、あまりがっつくわけにはいかないが――

「いい機会だ。一手遊んで行くか、若いの」

「くくっ……いいね、是非とも付き合おう」

――向こうから誘われたのならば是非もない。

湧き上がる剣気を滾らせながら、俺はオークスの後に続いて小屋の外へと足を踏み出していた。