軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

402:真龍の長

真龍たちの長、金龍王。

その居住地たる浮遊島の上空には、現在黄金の魔力による足場が広がっている。

最早仕組みがどうこう以前の問題だ、あまりにも強大すぎる力に、眩暈を感じてしまうほど。

だが、この戦いは初めから想定していたものだ。故に、この強大な力を前にしても、然したる動揺はない。

望む所と言えば嘘になるが――今更、逃げることなどありはしない。

「貪り喰らえ――『餓狼丸』!」

「焦天に咲け――『紅蓮舞姫』!」

「暗夜に刻め――『ネメ』!」

魔力を展開した金龍王に対し、こちらは一斉に成長武器を解放する。

出し惜しみなどしている余裕は無い。こちらが全力を発揮できる時間の中で、金龍王に力を認めさせなければならないのだ。

勝負は、 強制解放(リミットブレイク) を発動してからの短い時間。

それまでは、何としても生き延びなければならないのだ。

「ガアアアアアッ!!」

まず真っ先に飛び出したのは、魔力を滾らせるシリウスだった。

《強化魔法》によって全身を強化したシリウスは、未だ人間体の金龍王へとその鋭い爪を振り下ろす。

傍から見ていれば、人間の女性が巨大な竜に引き裂かれようとしている姿だ。

その細腕でできることなどある筈がない――見た目の上では、だが。

「真龍が、妾を前にして恐れぬか。良き気概だ、英雄に学んでいるだけはある」

シリウスの鋭い巨体を前にして、しかし金龍王は涼しい笑みを崩しもしない。

それどころか、ゆっくりとその細腕を持ち上げ――引き裂こうと迫るシリウスの爪を、片手で受け止めてしまったのだ。

冗談のような光景には息を飲みつつも、相手が龍王である以上驚きはない。

少なくとも、シリウスの攻撃によって金龍王が足を止めたことは事実なのだから。

「うむ、良き気迫だ。そらっ」

「グルァッ!?」

金龍王を押し潰そうと必死に力を込めていたシリウスを、彼女は片手で押し飛ばす。

シリウスの巨体が宙を舞う光景には目を疑わざるを得ないが、おかげである程度は金龍王の能力を類推することができる。

とにかく、全てのスペックが圧倒的に上だ。正面から打ち合えば、絶対に勝ち目は無い。

「《術理装填》、《スペルエンハンス》【ファイアジャベリン】」

フィノから受け取った小太刀に炎を纏った緋真は、俺とは位置が重ならぬよう展開しながら金龍王との距離を詰めていく。

アリスは既に姿を消しており、金龍王を死角から狙っている状況だろう。

相手の防御力を無視できるアリスが、現状最もダメージを与えられる存在かもしれないが、油断するべきではない。

真龍は生命体として、人間の性能を遥かに凌駕している。俺たちに理解できないような感覚器官があっても不思議ではない。

「《練命剣》、【命輝一陣】」

まずは小手調べにと、金龍王へと向けて生命力の刃を放つ。

空を切り裂き飛翔した刃は、しかし金龍王に直撃したにもかかわらず、まるでダメージを与えられずに弾け飛んでしまった。

まあ、シリウスの攻撃がまるで通じなかった時点で、この程度の攻撃が効かないことなど分かり切っている。

本命は、弾け飛ぶ生命力による目くらましだ。その輝きが金龍王の視界を塞いでいる間に、素早く彼女の元へと接近する。

「『生奪』」

「【 灼楠花(しゃくなげ) 】ッ!」

斬法――剛の型、穿牙。

俺と緋真、両側から迫る刺突。

タイミングを完全に合わせた一撃は、回避することも許さない完璧なタイミングだ。

事実、金龍王は避けることもできないまま、腕を掲げて俺たちの攻撃を防御し――その一撃を、素肌を晒した腕で受け止めてみせた。

「……っ!」

予想はしていたが、これでも傷一つつかない。

この体であったとしても、本来のドラゴンとしての姿と何ら変わりはないということなのだろう。

目の前にいる姿は人間と変わりないが、銀龍王と同じ姿の巨大なドラゴンを相手にしているとしっかり意識すべきだ。

ルミナの魔法が飛来すると共に地を蹴り、その場から後退する。

金龍王は避ける様子もなく、ルミナの放った光の砲撃が直撃するが――生憎と、その気配は一切揺らいでいない。

ダメージどころか、その場から後退させることすらできていないようだ。

(それに……あのHP、全く減っていない)

確かに、俺たちの攻撃は金龍王に届いてはいないだろう。

直撃して尚まともにダメージを与えられないことには色々と文句を言いたい所ではあるが、事態はそれよりも厄介だ。

何しろ、彼女は今、餓狼丸の放つ《餓狼の怨嗟》の効果範囲内にいるはずなのだ。

餓狼丸の解放効果は、敵味方関係なく影響を及ぼす。どのような相手であれ、確実に牙を剥くのがこの妖刀の長所であり短所でもある。

しかし、その影響を受けているはずにもかかわらず、金龍王のHPバーは全く減少する様子を見せていないのだ。

(効果がない……わけではないな。餓狼丸の攻撃力は確実に増してきている)

餓狼丸の刀身は、いつも通り――否、いつもよりも更に早い速度で黒く染まってきている。

俺たちだけのHPでこうはならない。確実に、金龍王から生命力を吸い取っているはずなのだ。

にもかかわらず彼女のHPが減らないのは、餓狼丸の吸収を上回るほどの回復力を持っているということだろう。

金龍王の司る属性は聖属性、回復に特化した属性だ。恐らく、回復力という面において凄まじい能力を有しているということだろう。

「……反則だろ、そりゃ」

こんなとんでもない怪物が、高度な回復能力を持っているとは……バランスも何もあったものじゃない。

まあ、最初から挑むことを前提とした存在ではないのだが。

さて、防御力が高く、更に回復力まで高い相手。そういった類の場合、取れる選択肢は二つだ。

一つは、超高火力によって相手の防御力を上回る方法。そしてもう一つが――防御力を無視する方法だ。

「ケエエエエエッ!」

出し惜しみをせず、セイランが全力で魔法を発動する。

現れたのは、金龍王を中心とした竜巻だった。風の刃を纏いながら渦を巻くそれは、本来巻き込まれればひとたまりもないような一撃である。

しかし、その中心に巻き込まれている金龍王は涼しい顔だ。

分かってはいたが、セイランの魔法でもまともにダメージは与えられないらしい。

「この程度では、妾の鱗は貫けぬぞ?」

渦を巻く風の中心で、金龍王は変わらぬ姿で仁王立ちしながら声を上げる。

今まさに風によって斬り刻まれている瞬間ですら、それほどの余裕があるということだ。

全くもって、とんでもない怪物だが――その背後へと、黒い影が接近する。

風が渦巻くその空間は、俺たちでは近づけない場所だ。だがただ一人、ほんの僅かな時間だけ、攻撃をすり抜けられるものが存在する。

セイランは、その影の姿を確認して魔法を解除し――瞬間、《無月の暗影》を解除したアリスが金龍王の背中へと刃を突き刺した。

「――! 成程、気付かなかったな」

「づ……ッ!?」

「アリスさんっ!?」

腹を刃に貫かれ、けれど金龍王はまるで痛痒を覚えた様子もなく、ただ楽し気に笑みを浮かべながら無造作に腕を振るう。

至近距離では避け切れる筈もなく、その腕の直撃を受けたアリスは、その場から大きく吹き飛ばされた。

保険として《聖女の祝福》をセットしていたため、それだけで落とされることは無かったようだが、これ以上の無茶はできないだろう。

「うむ、今のは中々だった。英雄たちだけでなく、そこな狼臭い小娘も肩を並べるに足るということか」

「……もう傷が塞がってるんだけど。勘弁してほしいわね」

あれほどの威力で吹き飛ばされても刃だけは離さなかったアリスは、ポーションでHPを回復しながら苦い表情を浮かべている。

アリスの与えた一撃はまさに会心であったのだが、それでも金龍王に有効なダメージを与えるには足りなかったらしい。

一応、体に穴が空いていたと思ったのだが、僅かな時間でそれも塞がってしまったようだ。

「しかし、この程度では満足はできぬぞ? 妾はまだ一歩も動いてはおらぬ。お主の力はこんなものか?」

「無茶を言ってくれるもんだな……だが、その化物っぷりのお陰で、早々に準備は完了した」

餓狼丸を掲げ、告げる。

その刀身は、既に切っ先までもが漆黒に染まっている状態だ。

金龍王の体力があまりにも高すぎるが故の結果だろうが、好都合だと思っておくべきだろう。

「ここからが本番だ、金龍王。存分に楽しんでくれ!」

「く、はははっ! それでこそだ、英雄よ! 見せてみよ、その真の力を!」

金龍王の昂りに応えるように、餓狼丸が脈動する。

その感触を掌に馴染ませながら、俺は囁くように己が刃へと告げた。

「我が 真銘(な) を告げる――我が爪は天を裂き、我が牙は星を砕く。されど我が渇きは癒されず、天へと吼えて月を食む」

餓狼丸より滲みだした闇が肌に絡みつき、炎のような紋様を描く。

頬にまで這い上がる感触に笑みを深めながら、それはその真なる名を口にした。

「怨嗟に叫べ――『真打・餓狼丸重國』!」