軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

397:一族の総意

その日の夜、俺は門下生たちを道場へと集めた。

対象は、ゲームを修行の場として利用している上位の門下生たち。

久遠神通流の術理のうち、基礎となるものについては全てマスターし、そこから発展させた術理をいくつか習得している面々である。

未熟ではあるが、達人の領域に指をかけ始めている者たち――おおよそ、自分の世話を自分で見られるようになった面々だけが、ゲーム内での修行に参加しているのだ。

これだけの数がいるとなると、流石に部屋一つでは狭すぎる。

故に、夜の静まった時間帯であるにもかかわらず、普段使用している稽古場の中で話をしているのだ。

伝えるべき内容は、この世界の真実。

箱庭計画と、それに参加した久遠神通流。そして、最早現実の世界との繋がりは断たれてしまったという事実。

最後に――この 世界(サーバ) に、限界が近付いてきているということ。

その話を俺と、紫藤の爺さんから聞かされた面々は、揃って呆然とした表情を浮かべていた。

無理もないだろう、俺も最初は困惑なんてものではなかった。これまで積み上げてきたものを、全て突き崩されるかのような衝撃――とてもではないが、頭から信じられるような内容ではない。

当然ながら、まず最初に正気に戻った蓮司が発したのは、猜疑の言葉であった。

「……とてもではないですが、信じられる話ではありません。あまりにも荒唐無稽な話だ」

「だろうな。だが、これは紛れもない真実だよ」

「ならば根拠を示してください。この世界が、現実の世界ではないという根拠を!」

そう言われると中々難しい話だ。

何しろ、現実世界へのアクセスは不可能、今この 箱庭(サーバ) において――否、全ての 箱庭(サーバ) においても、現実世界の情報を手に入れることは不可能なのだ。

向こう側からの接触がない以上、その情報を手に入れることはできない。この隔たりを越えることは、絶対に不可能なのだから。

しかし、それでは蓮司も納得しないだろう。並んでいる修蔵は何も分かっていない様子だが、頭の回る蓮司はきちんと理論立てて説明しなければならないのだ。

さてどうしたものかと考えを巡らせたところで、後ろで胡坐をかいていた紫藤の爺さんが声を上げた。

「水無月。お前さんがまさに体験しているものこそが雄弁な証拠だろうが」

「ご隠居? 何を仰っているのですか?」

「『Magica Technica』――箱庭計画の一部を利用し、逆手に取る形で活用したゲーム。なあ、水無月、聡明なお前さんなら分かっているだろう? あんなものを、実現できる筈がないと」

「……ッ」

紫藤の爺さんの言葉に、蓮司は声を詰まらせた。

確かに、俺たちを基準とした現在の科学技術において、フルダイブのVRゲームなど夢のまた夢もいいところのはずなのだ。

だが、逢ヶ崎グループの技術は、それを可能としてしまった。

本来ならあり得るはずのない技術――何のことはない、その正体は、ただ他の 箱庭(サーバ) にアクセスするだけの通信ツールだったのだ。

「それは……ッ」

「ま、納得するしないはお前さんの自由だが、現実は変わらんぞ。このまま手を拱いていれば、全てが終わる。それよりも早く移住を完了させなければ、久遠の剣は途絶えることになる」

この爺さんのズレている点は、全ての論理が久遠神通流の存続と発展に向いている所だ。

そうしなければ死ぬことになるというよりも、久遠神通流を残すことの方が重要なのだろう。

そのためだけに得体の知れない計画に乗ったほどなのだから、本当に筋金入りだ。

「ま、若がやる気になっている以上は、あまり心配はしておらんがな。だろう?」

「ああ、悪魔は――MALICEは必ずや根絶やしにする。それは確定事項だ」

「なら構わんさ。お前さんらが信じようと信じまいと、事実は変わらん。そして敵を定めた以上、若が戦いを止めることもない」

かつんと甲高い音が、広い稽古場の空間に響き渡る。

煙管から灰を落とし、紫煙を吐き出した老兵は、しかしギラギラと変わらぬ熱意を湛えた瞳で周囲を睥睨しながら告げた。

「儂らは久遠神通流を生かさねばならん。未だ道半ば故に、ここで潰えるような終わりなど認めるわけにはいかん。必ずやあの魔女の妄執を排し、我らの未来を掴み取らねばならんのだ」

言葉の重みが違う。この爺さんは、これまでの長い人生をずっと、久遠神通流を生かすことに費やしてきたのだ。

MALICEを、マレウスの歪んだ思想を妄執と呼んだが、それはこちらも大差ないのかもしれない。

紫藤の爺さんは、この 世界(サーバ) で生きる全ての人間よりも久遠神通流の存続を優先しているのだから。

「分かるか、お前たち。こいつは戦争だ。とっくの昔に開戦して、今まさに戦いが続いている戦争なんだよ。それを辞める辞めないの話じゃあない……儂らはただ、お前さんらに選択肢をくれてやるだけだ」

「選択肢とは、どういうことでしょう?」

「察しが悪いな、幸穂よ。戦うか戦わないか、ただそれだけに決まっとるだろうが」

MALICEとの戦いに参戦するのか、或いはすべてを聞かなかったことにして身を引くのか。

どうやら、紫藤の爺さんはそれを全て彼らに委ねるつもりであるらしい。

俺以外の戦力についてはあまり気にしていないのか――その真意は分からんが、どうやら爺さんはこの場に集まった面々に戦いを強要するつもりは無いようだ。

と、そこで、これまで黙っていた修蔵が声を上げた。

「……なあ師範、よく分かってねぇんだけどよ、一つ聞いていいか?」

「いや、そこは理解しておいた方がいいんだが……何だ?」

「今戦ってる悪魔ってのは、要するに師範が戦争に出ていた頃の敵と同じ敵ってことか?」

「まあ、元をたどれば同じ存在ってことだな」

その成り立ちから詳細に説明すると難しいのだが、認識そのものは間違っていないだろう。

どちらにせよ、MALICEから生み出された敵性存在。

元が同じであるからこそ、俺にとっては不倶戴天の宿敵なのだ。

そんな俺の内心など理解はしていないだろうが、その返答に対して修蔵は獰猛な笑みを浮かべてみせた。

「ってことは、俺たちも戦争に参加できてるってことじゃねぇか! 最高じゃねぇかよ、オイ!」

「……いや、その結論はちょっと」

「何をしけたツラしてやがるんだよ蓮司、こいつはチャンスじゃねぇか。こいつは俺たちが望んでも手に入らなかった、実戦経験の機会だぜ?」

修蔵の言葉に、蓮司は大きく目を見開く。

単純極まりない思考であるからこそ、物事の本質を捉えているというべきか――いや、単純に強くなることしか考えていないだけだな。

今の久遠神通流において、何よりも大きな課題は、全員の経験不足にあった。

俺とジジイは例外ではあったが、他の面々は実際の殺し合いは経験できていなかったのだ。

だからこそゲーム内での修行は有意義であったし、師範代たちも少しずつ経験を積めているのだ。

だが、そこに本当の殺し合いという意識は無かっただろう。作り物であり、命のやり取りとは程遠いという意識があったはずだ。

「修蔵の言う通り、これは本当の生存競争だ。負ければ最後には淘汰される、命懸けの戦いだ。戦争の経験という意味では、確かな経験になるだろうな」

「だよなぁ! なら悩む必要なんて何もねぇじゃんか!」

自信満々に、楽しそうに――何よりも、燃えるような戦意を湛えながら、修蔵は笑う。

単純で馬鹿な奴ではあるが、コイツの考え方は実に久遠神通流らしい。

そうだ、俺たちはそれでいい。久遠神通流が目指すべきものは単純なのだから。

「経験を積んで、強くなって、ついでに世界を救う。最高じゃねぇか!」

「くく……うむ、確かに面食らいはしたが、修蔵殿の言う通りだな」

どうやら異論はないのか、厳太もまた修蔵の言葉に同意する。

彼については決して考えなしではないため、きちんと考察した上で出した結論なのだろうが、どうやら修蔵と同意見のようだ。

そして、彼が返答したことで覚悟が決まったのか、幸穂もまたそれに続く。

「お兄様に近づくためには、経験が必要不可欠。悔しいですが、先日のイベントで痛感しました。こちらとしても、挑むのは望む所です。水無月さんも、経験不足は痛感したでしょう?」

「……それを突かれると痛いところですね。しかし、師範……昼間の私の質問の答えは、つまりそういうことですか」

「はぁ、理解が早いのは助かるが、まあそういうことだな」

どうやら、蓮司も納得すると共に、緋真の戦い方に関する俺の真意についても理解することができたようだ。

あちらの世界に移住する以外に道がない以上、あちらの世界における久遠神通流を追求していかなくてはならない。

「いずれあちらの世界に移住することになれば、久遠神通流は同様に形を変えることになるだろう。どのような形になるかは分からない、大きな変化となるだろう。最適解は遠い、長い検証になるだろうな。だが、明日香の――緋真の戦い方はその先駆けとなるだろう」

どのような形が結論となるかは、まだ分からない。

だが、その最初の一歩として、緋真の戦い方は一つの答えとなるだろう。

故に、今の緋真の戦い方を、否定する必要など無いのだ。

「今回の話を聞き、戦う気概を持っているのであれば、ゲームを用いた修行を続けるといい。だが、その先にどのような久遠神通流を作り上げるのか、それを常に意識しておくことだ。俺たちの未来は、俺たちの手で作り上げるぞ」

笑みと共に、そう告げる。

門下生たちは困惑こそあるものの、戦い強くなるという気概に溢れた面々だ。

その先に強者への道がある以上、迷うことなどありはしない。

俺の言葉に対し、門下生たちは力強く頷いたのだった。