作品タイトル不明
396:夜に向けて
餓狼丸の強化を終えた俺は、再び経験値稼ぎへと出発した。
この状態であまり増やす必要は無いのだが、最低限の解放スキルを発動できなければ困る。
これが無ければ、 強制解放(リミットブレイク) を使用することもできないのだから。
しかし、経験値を貯めた後ではあまり時間的余裕もないし、やはり金龍王の元へと向かうのは、予定通り明日になるだろう。
今日はとりあえず、時間いっぱいまでレベル上げに勤しんでおいた方が良さそうだ。
(ま、上でどう考えているのかは知らんがな)
ちらりと頭上を見上げ、その先に浮かぶ巨大な浮遊島へと目を向ける。
そこに座すという金龍王、真龍たちの長は、果たして俺たちにどのような要求を突き付けてくるのか。
この国に来てからの出来事全てが茶番であるとするならば、大層面倒臭そうな存在ではあるのだが、その話に興味があることもまた事実だ。
これまで、こちらの 世界(サーバ) における管理者側の存在と話をすることはできなかった。
以前のイベントで見かけた運営AIももしかしたらそちら側だったのかもしれないが、生憎とまともに会話はできなかった。
(協力関係ではあるが、頭から味方と信じていいのかどうかの判断材料がない。ある程度は警戒心を持っていた方がいいだろうな)
俺たちはあくまでも、アルトリウスたちから請われて協力している存在だ。
こちらの 世界(サーバ) の管理者たちとは、アルトリウスを通じて協力関係ではあるものの、直接の関わりがあるわけではない。
今まさに悪魔に――MALICEによってリソースを奪われている管理者側からすれば死活問題なのだろうが、直接話したことが無い以上、そこにどのような思惑が潜んでいるのかの判別はできないのだ。
本当に俺たちへと住まう場所を提供してくれるのか、俺たちという存在にどのような価値を見出しているのか――まあ正直な所、その辺りはアルトリウスの仕事だとは思うのだが、一応自分の目で確かめておきたいのだ。
「先生、明日のことより、今晩のことを気にしておいた方がいいんじゃないですか?」
「と言ってもな……おおよそ紫藤のご隠居に任せるつもりなんだが」
「いや、あの人は絶対に面倒臭がって、説明は全部先生に任せるでしょう。精々補足を入れる程度じゃないですか?」
「……確かに、ありそうだな」
正直気は進まないのだが……もはや後には引けない、やるしかないだろう。
と言っても、俺にできることは精々、アルトリウスから聞いた話をそのまま伝えること程度なのだが。
ついでに、俺は久遠神通流が箱庭計画に協力する前の話は詳しくないため、そこについてはあの爺さんに何とかして貰わなければならないだろう。
「あの方々、どんな反応をするのかはある程度予想ができるけど、その後どうするかまではよく分からないわね」
「ああ、それに関してはあまり問題は無いと思うんだがな」
「あら、そうなの?」
目を丸くすると幼く見えるアリスの表情に、笑みを噛み殺しながら首肯する。
確かに、師範代を始めとした上位の門下生たちは、ある程度反応が読みやすい部類ではある。
あいつらは色々と疑問を覚えることはあるだろうが、最終的には納得することだろう。
アリスが気にしているのはその後のことだ。果たして、彼らがあの話を受け入れた後、どのような反応を示すかが心配なのだろう。
俺からすれば、むしろそっちの方が分かり易いとは思うのだが。
「心配する必要はないさ。上位の門下生たちは、根っからの久遠神通流だ。困惑したとしても、出す結論は決まっている」
「ですねぇ……たぶんですけど、最初の説得の方が大変ですよ。先生は前の戦いに参加していたから実感が湧き易かったかもしれないですけど、皆さんはそうでもないですし」
「だろうな。とはいえ、俺やご隠居がいる以上、頭ごなしに否定することもないだろう」
「ふぅん……まあ、二人がそう言うならいいけど」
流石に、冗談でそんな話をする面子だとは思われまい。
そんな退屈な説明など早々に終わらせて、金龍王に向けての調整を行いたい所だ。
無論、説明のこととて軽視するわけにはいかないのだが。
あまり深く物事を考えない修蔵、俺の言うことはすぐに信じる幸穂はいいとして、蓮司と厳太はそう簡単には納得してくれないことだろう。
最終的に何とかなるとは思うが、やはり面倒ではあるものだ。
「ともあれ、その時のことはその時に何とかするとしよう。今は明日の準備しかできんからな」
「問題の先送りですね……まあいいですけど」
告げながら餓狼丸を抜き放てば、それに倣うように緋真も二刀を構える。
俺に披露したことで既に隠す理由も無くなったか、緋真は二刀流で戦うようになっていた。
とはいえ、常に二刀流が有効というわけでもないし、それはその時々によってではあるのだが。
現在いる場所はディノレックスの生息地帯。敵として美味しいのはディノタイラントの方だろうが、流石にあれを何度も狩るのは大変であるため、一段下げたディノレックスを標的にしているのだ。
前方にいるのは、こちらへと向けて突進してきているディノレックス。その上位の魔物を目にしているとはいえ、やはりこいつの正面に立つのは威圧感が凄まじい。
故に――
「シリウス!」
「グルァアアアアアッ!!」
その突進に対し、シリウスは正面から立ち向かう。
今のシリウスは体格においてもディノレックスに劣ってはいない。そして重量については言わずもがなだ。
助走の距離があるとはいえ、ディノレックスの突進を受け止められないということはない。
事実、シリウスはすさまじい衝撃音と共に、地面を陥没させながらもディノレックスの突進を受け止めた。
否、それどころか、受け止めたディノレックスの巨体を後方へと向けて投げ飛ばして見せたのだ。
力任せの強引な投げ方であるが、結果としては巴投げのような状態で恐竜の体躯が投げ出される。
一瞬呆気に取られてしまったが、戦果としては十分すぎるだろう。
「『生奪』」
「《術理装填》、《スペルエンハンス》【フレイムピラー】」
スキルを発動し、地面に叩き付けられたディノレックスへと向かう。
流石にダメージが大きく、中々動けずにいるようであるが、放っておけばまたすぐにでも暴れ回るだろう。
動きが止まっている今のうちに、できるだけダメージを与えておかなければ。
だが、俺と緋真がディノレックスを攻撃圏内に収めるよりも早く、空を駆けるルミナとセイランが攻撃を開始した。
「光よ、刃となりて!」
「ケエエエエエッ!」
光を纏う薙刀の一閃と、嵐を纏う剛腕の一撃。
その二つを無防備な腹部に受けて、ディノレックスは痛みに暴れ回る。
しかし、ディノレックスの爪や尻尾によって捉えられるよりも早く、ルミナたちは翼を羽ばたかせて離脱する。
やはり、飛行能力を用いた一撃離脱は強力だ。これをやるだけで相手を完封できるだろうが、それでは俺たちの経験値稼ぎにはならない。
俺たちも存分に殴らせて貰うとしよう。
歩法――烈震。
起き上がったディノレックスへと向けて、強く地を蹴る。
相手は、まだこちらの姿を捉え切れていない。空を駆けるルミナやセイランを睨むばかりだ。
あれだけの痛打を受けた後なのだからそれも無理はないだろうが――接近する俺たちから注意を逸らしたのが命取りだ。
「前足――」
「――貰った!」
斬法――剛の型、輪旋。
スキルを纏う刃を、俺はディノレックスの右前脚、緋真は左前脚へと振り下ろす。
成長武器の強化によって高まった攻撃力は、頑丈なディノレックスの鱗と筋肉を貫き、確かなダメージを与えてみせた。
加え、緋真は左手の小太刀を斬り裂いた傷口に突き入れる。瞬間、ディノレックスの左足は全てが炎に包み込まれていた。
フィノ謹製の小太刀によって威力を増した緋真の魔法は、ディノレックスの左前脚を体内から燃やす。その痛みは想像することもできない、筆舌に尽くしがたいものであろう。
痛みに唸り声を上げるディノレックスは、しかしそのダメージによってバランスを崩してしまっている。
「グルアアアアアッ!」
その頭を、銀色に輝くシリウスの腕が地面へと叩き付ける。
どうやら腕に《研磨》を使用しているらしく、その鋭い爪は頑丈なディノレックスの頭へと突き刺さり食い込んでいる状態だ。
ディノレックスは必死に逃れようともがいているが、頭を押さえつけられた状態では流石に動けないようだ。
強引に振り払おうにも、両前足がダメージを受けているためそれもままならないようだ。
――そんなディノレックスに向けての追撃は、容赦なく放たれた。
「はい、それじゃあ右目も貰うわね」
「ギ……ィッ!?」
その一撃を放ったのは、いつの間にか接近してきていたアリスであった。
シリウスによって押さえつけられた頭へと近づいたアリスは、その右目へと向けて容赦なく刃を突き立てたのだ。
そもそも動くこともできない状況ではそれを防ぐこともできず、彼女の鋭い刃は深く眼球へと突き刺さる。
とはいえ、短剣では眼窩を越えて脳まで傷つけることはできなかったのか、その一撃で命を奪うには至らなかったようだが。
それでも大きくHPを削ることには成功し、ディノレックスの体力は既に半分以下の状態だ。
「長引かせる理由も無いな――《練命剣》、【煌命閃】」
大きくHPを捧げ、餓狼丸の刀身に黄金の刃を宿す。
ディノレックスを挟んで反対側にいる緋真も、どうやら炎の魔法を発動したようだ。
何の魔法を装填したのかは分からないが、かなり多くの魔力が緋真の刃に集っていることを感じる。
どうやら、向こうもその一撃で決めるつもりであるようだ。
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!」
「グルル……ッ!」
その気配を察したのか、ディノレックスは必死に暴れてシリウスの拘束から逃れようとする。
だが――最早、チャージは完了している。逃れる間などある筈がない。
斬法――剛の型、中天。
振り下ろすのは、何の小細工もない大上段からの一閃。
黄金の軌跡を纏うそれは、逃れる間も無くディノレックスに直撃し――反対側で発生した大爆発が、その半身を焼き尽くした。
どうやら、緋真が使っていたのは【ファイアエクスプロージョン】であったようだ。
最大威力のスキル二つに挟まれ、耐えることは叶わなかったのだろう。ディノレックスは、この攻撃によって倒れ伏すこととなった。
『《練命剣》のスキルレベルが上昇しました』
『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』
『《高位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』
とりあえず、序盤としてはいい成果だろう。
この調子で、夜まで獲物を狩っていくこととしようか。