軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

040:王都の周囲

一晩明けて、いつも通りの午後にログインする。

稽古をつけている午前はともかく、午後はひたすら暇なのだが、こうして実戦に出られるならば暇なのも悪くない。

まあ、今日はログイン前にイベントの情報について調べていたので、いつもよりは少し遅いのだが。

ワールドクエスト《悪魔の侵攻》。発生時期は、今度の週末である。

これはその名の通り、悪魔の軍勢によって国が襲撃されるというイベントになるらしい。

しかもそれが、このゲーム世界の全世界規模で発生するようだ。

ちなみに、今俺たちがいるこの国、アルファシア王国は、世界地図全体から見ると南西の方の端っこにある半島を国土としているらしい。

他の国の国土と比較すると、かなりの小国であると言えるだろう。

まあ、だからこそゲームの開始地点とされているのかもしれないが。

(つまるところ――悪魔からの襲撃対策に俺たちが参加できるのは、この国だけってことか)

未だ、他の国への移動手段は判明していない。

つまり、俺たちは今のところこのアルファシア王国に閉じ込められている状態であり、他の国の悪魔対策には参加できないのだ。

まあ流石に、参加できないからと言って、いきなりこの国以外の世界が滅びるなんてことはないだろうが……今後のワールドクエストに関わってくる可能性は高いだろう。

「……気にするだけ無駄ではあるが、ままならないもんだな」

軽く嘆息しつつ、俺は大通りの方から街の外へと向けて足を進める。

気にかかっているのは、他の国の現地人も復活できないということだ。

ワールドクエストの範囲が世界全体と発表されている以上、その結果は避けられないだろう。

見ず知らずの人間が死んだからといってどうこう考えるわけではないのだが、全く手の届かない場所で事態が推移するのが気に入らない。

目の前にいたら斬り刻んでやることは間違いないのだが、流石に遠く離れた場所の相手はどうしようもないのだ。

「ま……なるようになるか」

「――――?」

俺の呟きに首を傾げるルミナに苦笑しつつ、俺は通りに在った屋台に寄り道していた。

満腹度はそこそこ減っているし、この辺りのことを聞くついでに食べ物でも買っていくとしよう。

見た所、サンドイッチの屋台であるようだし、携帯性も十分だろうしな。

「やあ、お姉さん。二人前、包んで貰えるか?」

「お買い上げありがとうございまーす! って、やだ、この前の剣士様じゃないですか!」

「おん? ……済まん、顔を合わせたことがあったか?」

三角巾を被った金髪の女性は、俺の顔を見て驚いた表情を浮かべている。

だが生憎と、俺の方は彼女の顔に見覚えはなかった。

元々、あまり他人を覚えるのが得意なタイプではないのだが、それでも見覚えすらないというのはあまりない。

しかし俺の言葉に対し、店員の女性はパタパタと手を振って笑顔を浮かべていた。

「いえいえ、お話ししたことはありませんよ。ほら、この間、通りで悪魔を倒してらしたでしょう?」

「ああ……あれを見ていたのか」

「ええ、ええ! あの鮮やかな剣技! 見惚れてしまいましたよ!」

「はは、そう絶賛されるようなものでもないんだがな」

実際、あいつ相手には全く本気など出していなかったわけだし。

あの程度で鮮やかなどと言われてしまうのは少々不本意だ。

まあ、その辺を説明しても仕方ないわけだし、ここは大人しく称賛を受け取っておくことにする。

サンドイッチを選んで包んでくれているが、どうやらいくつかおまけをつけてくれているようだ。

やはり恩は売っておくものということか。

「悪魔を倒してくれて、ありがとうございます。ちょっとサービスしておきましたよ」

「ああ、ありがたい。ところで、少し聞きたいことがあるんだが、構わないか?」

「ええ、ええ、他でもない剣士様の質問ですもの! 勿論構いませんよ」

何だか、やたらと俺に対する信頼度が高いような気がするのだが……ルミナの補正を考えてもちょっと信頼されすぎではなかろうか。

まあ、それだけ悪魔が嫌われているということなのだろうが。

ともあれ、信頼されているならばそれに越したことはない。遠慮なく、質問させて貰うとしよう。

「俺は異邦人なんだが、お陰でこの辺りの地理にはあまり詳しくないんだ。この辺りに何があるのかについて教えて貰いたいんだが」

「あら、異邦人の方だったんですか。ええ、勿論構いませんよ。まず――」

話を聞けば、この周囲にはいくつかの拠点があるらしい。

あればあるだけ守るのが面倒になるので、正直勘弁してほしい所ではあるのだが。

まず、西にあるのが港町フィーライア。この国は半島にあるわけだから、漁業が盛んなのは当然だろう。

そして北東には砦が、その近くには隣国と面する関所があるらしい。

まあ、隣国との行き来を見張ることを目的とした砦だろう。戦闘を前提にした作りの建物であれば悪魔とも戦えるかもしれない――が、分割して守るメリットも少ないし、詰めている人員には王都に戻ってきてもらった方が有用だろう。

「後は……ああ! 異邦人さんなら、聖火の塔はご存じないですよね?」

「聖火の塔? ああ、初耳だが……」

「やっぱり! あれは一度見てみることをお勧めしますよ。魔物払いの、そして悪魔払いの聖なる火を灯す灯台です」

「へぇ、そんな物があるのか」

「ええ、聖火の塔は各国にありますけど、この国は国土が狭いですから、その分だけ塔の密度が高いんです。おかげで、魔物も弱くて平和な国ですよ。まあ、悪魔が現れ始めましたが……」

つまるところ、その聖火の塔の影響範囲の中では、魔物や悪魔が弱体化するということだろう。

俺にとっては少々都合の悪い存在だが、人間が暮らしていく上では必要なものだろう。

まあ、近寄るだけ魔物が弱くなるというのであれば、俺から近付く理由もない。

そのうち観光で見に行くかどうか、といった程度だろうな。

「聖火の塔は、この王都から北と南東にありますね。あ、ちなみにここから少し離れますけど、ファウスカッツェの南にもあるんですよ」

「へぇ。まあ、あの辺りも魔物は弱いしな。リブルムの辺りはどうなんだ?」

「あの辺りは、聖堂などを作って対処してますね。聖堂でも聖火を灯せば似たような効果がありますから」

どうやら、あの聖堂にも聖火とやらが置いてあったらしい。

とはいえ、聖火の塔ほどの効果はないのだろう。ゲリュオンの奴もいたわけだしな。

しかし、北と南東か。できるだけそちらからは離れたいし、南西の方に行けば敵が強くなるのか?

「ちなみに、南西の方には何が?」

「向こうですか? ちょっと深い森がある程度ですけど……あまり近づかない方がいいですよ。現れる魔物は強いですから」

「成程……参考になった。また寄らせて貰うよ」

「はーい、今後とも御贔屓に!」

笑顔で手を振る彼女には軽く頭を下げ、取りだしたサンドイッチを頬張りながら南へと進む。

まず、行くべきは南西だ。向こうならば多少は鍛えられるだろう。

そして、その後に西の港町へと向かう。特に用事があるわけではないが、海産物が食えるかもしれんし、防衛に際しても様子を見ておきたい。

その場で防衛するのか、放棄して避難するのか、どうなるかはその土地と戦力次第だ。

まあ、到着するにはしばらく時間がかかる予定であるし、今から港町のことを気にしていても仕方ないが。

「まあ、まずは南西の森からだな。行くぞ、ルミナ」

「――――!」

俺の言葉に、ルミナはやる気に満ち溢れた様子で拳を突き上げる。

その姿に苦笑しつつ、俺は王都の外へと足を向けていた。

* * * * *

面倒なだけで特に強くもない平原の魔物は無視しつつ、森へと向かう。

辿りついた森は、ファウスカッツェで伊織と共に入った森と比べるとかなり鬱蒼としている。

と言うか、あちらが雑木林程度の密度しかなかっただけであって、こっちは森としては普通というレベルなのだが。

樹海と言うほどのレベルではないが、それでも中々に深い森だ。

ここからは未知の領域、気をつけて進むべきだろう。

「ルミナ、ここからは油断できんぞ。俺から離れず、援護に専念してくれ」

「――――!」

こくこくと首肯するルミナに満足しつつ、俺は森の中へと足を踏み入れる。

太刀は抜いたまま、動きが邪魔されぬ位置取りを意識しつつ、深い森の中へ。

木々は高く、葉が広いためか、この中まではあまり日光が入ってきていない。

お陰で随分と薄暗いが、そのおかげか木々よりも低い草木はあまり育ってはいないようだ。

そのため、歩きづらいというほどではない状態だ。修行には中々いい環境かもしれない。

「ふぅむ。緋真の奴を連れてきてやってもいいかもな」

自然環境の中に放り込む修行については、まだあいつに課したことはなかったはずだ。

まあ、あのクソジジイのような殺意溢れる企画にさえならなければ問題ないだろう。

少なくとも身一つで雪山に放り込むような真似はしないつもりだ。

と――その刹那、こちらへと向けられる殺気を察知し、反射的に刃を振るっていた。

「ッ……頭上とは、いきなりやってくれるな!」

我ながら弾んだ声で刃を振るえば、頭上から落下してきた魔物に刃が命中し――その体を弾き飛ばす。

現れたのは、緑と黄緑の斑模様をした、2.5メートルはあろうかという蛇だった。

どうやら、枝の上を這いまわって頭上から落下してきたらしい。

■カモフラージュパイソン

種別:魔物

レベル:16

状態:正常

属性:なし

戦闘位置:地上・樹上

迷彩蛇、といったところか。

確かにあの体色では、樹上を移動されると発見するのは困難だろう。

蛇というだけあって、毒を持っている可能性もあるだろう。

不意打ちで毒を食らったら、かなり厄介なことになるのは間違いない。

「シャアアアッ!」

どうやら、不意打ちが不発に終わったことを腹に据えかねているらしい。

とはいえ、不意打ちに特化した魔物が地面に落ちてしまっている時点で、すでに恐るるに足らず。

再び噛みつこうと伸ばしてきた首を刃で打ち払いつつ、逸れた首へと返す刃を叩き込んでいた。

俺の放った一撃は蛇の首を綺麗に斬り飛ばし――そのまましばらくのたうった後、その動きを完全に止めていた。

『《死点撃ち》のスキルレベルが上昇しました』

ふむ。不意打ちは厄介だが、それさえ凌いでしまえば大した相手ではないな。

まあ、あれにいきなり対処できる人間もそうはいないだろうし、いきなり蛇に押し潰されたらパニックにもなるだろう。

そう考えると、一般のプレイヤーには中々難易度の高い敵だ。

そして何よりも、遠慮なくこちらを殺しにきている殺意の高さには感心した。もっとやるべきだ。

「よし。ルミナ、お前は樹上を注意してくれ。今の奴を見かけたら撃ち込んでいいぞ」

「――――!」

俺の指示を聞き、ルミナはやる気を滾らせる。

いかに迷彩になっていると言っても、流石に注視していれば見つけられる程度のものだ。

ルミナでも注意して観察していれば、あの蛇を見つけることは可能だろう。

わくわくとした表情で頭上を探し始めたルミナの様子に苦笑しつつ、蛇のドロップアイテムを回収して、先へと進む。

ちなみに、ドロップ品は肉と蛇革だった。使い所は無くもないだろうが、俺はほとんど使わない類だ。

まあ、そういったものは全てエレノアに押しつけてやればいいだろう。

まだ回収した者が少ないアイテムだからと、高値で取引してくれるはずだ。

「よし、先に進むとするか……他には何が出てくるかね」

口の端が笑みに歪む。

果たして、俺を脅かしうる敵が出現するのかどうか。

それを楽しみにしながら、俺は森の奥へと足を踏み入れていった。