軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

380:剣客の戦列

要塞の上階にて戦闘を繰り広げていたのは、見覚えのある剣士二人。

一人は騎士然とした姿の男、デューラック。それに相対するは、通路であろうとも器用に太刀を振り回す戦刃だ。

俺が気配を消しているのもあるが、集中している二人はこちらの存在に気づいてはいない。

不意打ちを行うこともできるが――ここは、一旦この戦いの趨勢を見守ることとしよう。

「師範から聞いてて、興味はあったんだ。お前さんら、師範が称賛するぐらいの実力はあるのか?」

「さて、私はクオン殿ではありませんからね……!」

この二人であるが、意外にも実力は拮抗しているらしい。

戦闘のセンスで言えば、間違いなく戦刃が上だ。こいつは元々鋭い勘の持ち主で、その場に応じた判断の正確さに定評がある。

殆ど本能的に、最善に近い手段を取り続けることができるのだ。

そのため、近い実力を持った者が相手である場合、かなり有利に戦うことができるのだ。

師範代たちは全員それぞれが特殊な才能を有しているが、戦刃は特に戦闘に向いているタイプだと言えるだろう。

一方で、相対するデューラックの動きは実に堅実だ。

的確に戦刃の攻撃を防ぎながら、要所要所で魔法による反撃を加えている。

確か、デューラックは久遠神通流に関する知識をある程度有していた筈だ。

あまり積極的な攻めを見せないのは、流水による受け流しと反撃を警戒しているためだろう。

下手に攻撃をすれば受け流され、致命的な反撃を受けると考えているようだ。

実際、戦刃も剛の型の師範代ではあるが、流水に関してはきちんと習熟している。

下手な攻撃を加えれば、あっさりと反撃してくることだろう。

(しかし……うちの連中もイベントに参加していたんだな)

『我剣神通』のメンバーは、俺のパーティを除いて基本的にそこまでレベルは高くはない。

彼らはあくまでも実戦経験を積むことを目的としてゲームをプレイしており、主体となるはあくまでもリアルでの稽古なのだ。

そのため、最前線級のプレイヤーと比較するとどうしてもレベルは低くなるし、当然ステータスも見劣りするものとなってしまう。

その例に漏れず戦刃自身も、最前線級と比較すればどうしてもレベルは低い状態だ。

対し、デューラックはトップを走る実力者であり、そのレベル差は大きいと言わざるを得ないだろう。

それでも尚、拮抗した戦いを見せているのは、偏に戦刃の戦闘センスによるものだ。

(こいつらがいるとイベント内が荒らされそうだが……いや、勝手に同士討ちして数を減らしてるか)

対人戦闘能力の高い『我剣神通』のメンバーは、このイベントに出れば他のプレイヤーを圧倒してしまう可能性が高い。

だが、こいつらには仲間内で戦闘を避けるという発想は無い。

例え同じクランのメンバーであろうとも、遭遇したら確実に殺し合いが始まるだろう。終盤になるにつれて、こいつらの数も減ってくるはずだ。

我がクランのメンバーながら、揃いも揃って変わり者の集まりだと、軽く嘆息を零す。

しかし、俺がそんなことを考えている間にも、戦刃たちの戦闘は続いていた。

「よっとォ!」

「ふっ、はッ!」

鋭い斬撃を繰り出す戦刃と、それを正確に往なしながら機を窺うデューラック。

デューラックの戦闘を見る機会は少しだけあったが、やはりかなり優れた技量を持っているようだ。

一体、どこでそこまでの戦闘技術を学んだのかは気になるが――正直な所、慎重になりすぎているという印象がある。

俺を基準に考えているのかもしれないが、戦刃が相手であればもう少し攻めても問題は無い。

まあ、それは俺が戦刃のことを熟知しているからの話であって、彼にその知識を求めるのは酷というものだが。

「《練命剣》!」

「恐ろしいものだ……!」

黄金のオーラを纏いながら振り下ろされる一閃を、デューラックは後方へと跳躍して回避する。

そのお返しとばかりに放たれた水の魔法を、戦刃は素早く横にステップして回避した。

そのまま跳躍した戦刃は、壁を蹴ってデューラックへと接近する。

普通ならば《蒐魂剣》で迎撃すればいいだろうに、相変わらず無茶苦茶な動きをする男だ。

「――【ウォータースクリーン】!」

「ぶおっ!?」

しかし、デューラックの対処は的確だった。

戦刃は突如として眼前に現れた水の膜に反応しきれず、まともに衝突してしまったのだ。

どうやら攻撃性そのものは無い魔法のようだが、戦刃の全身がずぶ濡れの状態となっている。

衣が体に張り付き、随分と動き辛そうな様子だ。恐らく、バッドステータスを与えるための魔法なのだろう。

だが動揺は一瞬、どうしようもないと判断したらしい戦刃は、すぐさまデューラックへの攻撃を続行する。

(……成程、動きを鈍らせる魔法か)

恐らくは『鈍足』の効果を与える魔法。常に動きを止めずに戦い続ける久遠神通流にとっては、実に厄介な効果だと言えるだろう。

実際、動きがある程度鈍った戦刃を相手に、デューラックはある程度余裕を取り戻したように思える。

尤も――それで終わるようであれば、久遠神通流の師範代にはなっていないだろうが。

「しゃらくせぇッ!」

戦刃の思考は単純だ。動きが鈍るならば、普段よりも速く動けばいい。

実に分かり易く単純だが、短期的に見ればそれほど悪い判断でもないだろう。俺も、場合によっては白影を使っている場面だ。

先ほどと変わらぬ速度で――否、先程よりもさらに加速しながら、戦刃は果敢に刃を振るう。

対するデューラックは面食らった様子ながら、戦刃の攻撃を正確に弾き返していく。

何と言うか、デューラックの動きは人間を相手にしているというより、強力な魔物を相手にしているかのようだ。

それでも、戦刃は業を煮やすということはなく、ただひたすらに攻撃を重ね――デューラックの長剣が、大きく弾かれた。

「《練命剣》、【命輝閃】ッ!」

「――《デュアルブラスト》っ!」

刹那、状況が動く。

即座に刃を翻した戦刃は、大きくHPを消費して一閃を放つ。

それに対し、デューラックは聞き覚えのないスキルを発動した。瞬間、デューラックの左手と剣、その両方が蒼い光を纏う。

弾かれた刃を右手のみで持ったデューラックは、蒼い光を放つ左手で振り下ろされる戦刃の一閃を迎え撃ち――彼の左手に深く食い込んだ状態で停止した。

本来であれば、左腕ごとデューラックの体を両断していてもおかしくは無い一撃だ。それが止められたことに、戦刃は目を見開き――連動するように放たれた長剣の一閃が、戦刃の体を斬り裂いた。

「がッ……くくっ、腕を犠牲にするかよ……!」

「そうでもしなければ、貴方ほどの使い手を討つことなどできませんから」

「ははっ、そいつは光栄だ……今回は俺の負けだ。だが、次は勝つぜ」

そう告げて、戦刃は笑みを浮かべながら消滅する。

どうやら、同じパーティの門下生たちも既に敗れていたらしい。

他の連中がどう戦ったのかは分からないため評価はできないが、戦刃については順当な結果だっただろう。

あいつはゲームとしての戦い方をほとんど活かせていない。ゲーム要素を戦闘能力としてきちんと落とし込めているデューラックの方が上手だったということだ。

さて――

「ともあれ……太刀は見つかったな」

満身創痍のデューラックには悪いが、戦刃が使っていた武器を見逃すわけにはいかない。

軽く溜め息を零しつつ、俺はデューラックの前に姿を現したのだった。

* * * * *

「ッ……私の勝ちです、ユキさん」

「……ええ、そうですね」

片膝を突くユキと、彼女へと刃を突きつける緋真。

ユキのHPは既に尽き、それに対して緋真のHPは四分の一程度を残している状態だ。

呼吸を整え、ユキの門下生たちへの警戒は絶やさぬまま、緋真はただじっとユキの姿を見つめている。

既に動けぬ彼女は、小さく溜め息を零して声を上げた。

「認めましょう。この中では、確かに貴方の方が強い」

緋真とユキでは、キャラクターとしてのレベル差もあるが、ゲームとしての習熟度にも差がある。

ただ純粋な武術としての技量のみで言えば、まだユキの方が上であっただろう。

けれど、ゲームシステムを活用した戦いにおいて、彼女よりも緋真の方が上であった。

――そして、もう一つ。

「驚かされました……けれど、そんな小細工でお兄様と戦うつもりですか?」

「小細工なんかじゃありませんよ。私はずっと、先生との戦いを見据えていたんですから」

「……成程」

そう呟き、ユキは深く深く溜め息を吐き出す。

その声の中には、先程までとは違う納得の色があった。

確かな敗北であると、彼女はそう認めたのだ。

「……私の負けです。このイベントは、ここで敗退とします」

「いいんですか? 私はかなり追い詰められていますし、そちらも二人残っているでしょう?」

「今の貴方が上回るでしょう。それに、虚拍を使えるものを相手に対処できる技量はありませんから」

今は姿を隠しているアリシェラのことを指摘しながら、ユキは目を閉じる。

己の敗北を、静かに嚙み締めながら。

「ここまで来たのです。己の全てをぶつけて来なさい」

「っ……ありがとうございます、ユキさん」

深く頭を下げ、緋真はHPを回復させながら移動を開始する。

時間を取ってしまったため、エリア収縮が近付いてきていたのだ。

その背中を見送って、ユキは最後に深く溜め息を吐き出す。

「……ごめんなさいね、私の我儘で」

「いえ、構いませんよ、師範代」

「どのみち、戦っていたら負けていましたし……負けた以上は身を引くのは当然です」

「……負けた以上は身を引く、か」

その言葉を反芻して、ユキは苦笑を零す。

完全に納得できたわけではない。しかし同時に、納得しなければならないという思いもある。

少なくとも彼女の矜持は、どのような形であれ己を打倒した緋真を認めるべきであると、そう告げていたのだ。

ユキはただ、己の複雑な思いを胸に抱いたまま、イベントエリアから姿を消したのだった。