軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

376:第二ラウンド

ライゾンたちとの戦いを終え、再び次のランドマークへと移動する。

あいつらと戦っている間に最初のラウンドの終わり、エリアの収縮も完了してしまった。

目的地まで移動しきる前だったのだが、収縮完了のお陰で次の収縮先については確認可能となったわけだ。

次なる収縮先はさらに西寄り。どうやら、ここまでの移動は無駄にはならなかったようだ。

東側に降りたプレイヤーについては、ご愁傷さまと言ったところだろう。

まあ早めに移動しておけば、龍気に飲まれることもないだろうし、そこは行動方針次第なのだろうが。

「しかし……まだ二回目とはいえ、結構狭まってきたな」

次のエリア収縮が完了すれば、マップは全体の四分の一程度の広さにまで狭まることになるだろう。

しかも、収縮が進めば進むほど龍気によるダメージは大きくなるため、みんな必死になって移動することになる。

果たして、人が集まりやすいエリア際は今どんな状況になっていることやら。

「そっちも気にはなるんだがな」

気にはなるものの、流石に今から逆戻りするのは勿体ない。

素直にエリアの中央へと移動しつつ、その要所要所でアイテムを集めてくるべきだろう。

他のプレイヤーがいたら積極的に狙ってみるが、人を探して右往左往するつもりも無い。

とにかく、立ち塞がった者を薙ぎ倒していけば自然と勝てるのだ。

「……俺のポイントもそこそこ上がってきたな」

今回のイベントもポイント制であり、そのプレイヤーの持つスキルレベルの合計値が素の持ち点となる。

ちなみにではあるが、上位スキルの場合は下位スキルの頃のレベルも合計した値となるらしい。

そしてそれに加え、倒したプレイヤーの持つポイントが自身のポイントとして加算されていくことになる。

パーティ内の場合は貢献度に応じてポイントが分割されることになるが、一人で戦っている俺は総取りだ。

つまるところ、個人としてのポイントに関しては、俺はかなり高い状況にあるということだ。

他のプレイヤーももっと狙ってきてくれてもいいのだが、どうにも顔を合わせたら即座に逃げてしまう連中も多い。

複数のパーティと遭遇した場合だと、流石に全員倒し切る前に多少は逃げられてしまうのだ。

(それなりにいいものも手に入ってはいるんだがな……)

刀も二振り目は手に入っているが、未だランクはD。満足できるような威力ではない。

おまけに普段使っているような太刀は無いし、中々ままならないものだ。

防御に関してはかなり充実しているのだが、攻撃面についてはもう少し探索が必要だろう。

と――

「……ん」

ふと感じた感覚に、俺は足を止めないまま意識を研ぎ澄ませる。

かなり遠く、出どころははっきりしないが、視線を感じる。

ほんの一瞬、こちらの姿を捉えただけのものだが、かなり鋭い視線だった。

自ら俺を狙ってくるような何者かが、俺の姿を捉えたということだろうか。

であれば――まずは、気付かなかった振りをしながらそのまま先へと進むとしよう。

どのように仕掛けてくるかは分からないが、気を抜く訳には行かない。

(しかし、今の感覚……かなり遠距離だったな。狙撃系のスキル持ちか?)

『キャメロット』の高玉のように、射撃攻撃を主体とするプレイヤーは一定数存在する。

接近戦があまり得意ではないため、距離を詰められると厳しい構成であると聞くが、それでも遠距離における戦闘能力はかなり高い。

スキルの中には望遠鏡のように遠距離を見通せるものもあると聞くし、そう言ったスキルの持ち主に狙われていると中々面倒だ。

しかも、この視線の主は、俺に位置を悟られぬように一瞬で気配を消した。

ただ覗いてきているだけの相手であれば楽だったのだが、そう簡単にはいかないようだ。

「……何と言うか、懐かしい感覚だな」

かつて部隊にいた頃を、その時の感覚を思い出す。

あちらでは基本的に銃による戦いであったため、このように遠距離から狙われることは珍しくは無かった。

狙撃に対する察知能力については、間違いなくあの頃の経験によって成長しているだろう。

敵からの攻撃もそうだが、仲間たちとの訓練の間にも――

「――――ッ!」

刹那、一瞬だけこちらに向けられた殺気に反応し、俺は即座に刃を抜き放った。

それとほぼ同時、音もなく飛来した矢を振り上げた一閃で弾き返す。

攻撃の音を消すスキルか、そういったテクニックか。何かは分からないが、一瞬でも反応が遅れていれば命中していた。

しかし、今度こそ場所を正確に捉えた。次の攻撃は受けることなく、確実に仕留め切れる――そう思った瞬間、近くの木陰から飛び出してきた白い影が、俺へと向けて巨大な武器を振り下ろしてきた。

「はぁい、お久しぶり!」

「チッ……!」

現れたのは、白い長髪の女。

女性にしては結構な長身で、黄金の目には好戦的な表情が浮かべられている。

黒いボディアーマーに身を包んだその女は、手に持ったハルバードを一切の躊躇なく俺の頭へと振り下ろしてきたのだ。

尤も、気配を捉えていた以上、それを受けることは無い。さっさと回避し、追撃の及ばぬ範囲まで退避しながら、俺は半眼を浮かべて彼女へと声をかけた。

「……あんた、アンヘルか?」

「ええ、久しぶりですね、シェラート」

「その呼び方は止めろと……あんたがいるってことは、さっきの矢を射かけてきたのはランドか」

先ほどの矢が放たれた方向へじろりと視線を向ければ、そちらにあった木陰から一人の男が姿を現した。

茶髪黒目の、目立たない外見の男だ。だが、その立ち姿には一切の隙が無く、両手を上げたポーズながらも一切の油断ができる相手ではないと理解できる。

まさか、このゲームの中で、この二人に出会うことになろうとは。

「何であんたたちがここにいる……ってのは野暮な話か」

「まぁな。お前も予想出来てると思うけど、軍曹の手伝いだよ」

「私たちも軍は辞めましたので、ちょっぴり暇を持て余していたんですよ」

アンヘルとランド。二人組の傭兵であり、軍曹とは旧知の仲。

国連軍の部隊において、共に軍曹の指揮下で戦った仲間たちだ。

この二人は軍曹の紹介で一時的に軍籍に身を置いていたのであって、戦いが無くなれば軍から離れていても不思議ではない。

とは言ったものの、まさかこんな所にまで軍曹についてくるとは思ってもみなかった。

――例の件が無ければ、もっと驚いていたことだろう。

「……あんたたちも、知っているんだな?」

「あら……」

「へぇ、やっぱりそっちもか。つくづく、因果なもんだよなぁ」

目を細めるアンヘルと、へらへらとした笑みを浮かべるランド。

どうやら、この二人も例の件を――MALICEの存在を既に知っているらしい。

恐らくは軍曹経由だろうし、軍曹は……どこだかは分からんが、国連軍関連だろう。

そして、それを知っている以上、彼らが独自に準備を進めていたとしても不思議ではない。

「別に詳しく話さなくてもいいが、戦争も終わったのにこんな所に首を突っ込んできやがって。夫婦揃って戦闘狂だな」

「アンヘルはともかく、俺まで巻き込まないでくれよ、シェラート。っていうか誰が夫婦――」

「――ランド?」

「あー、はい。ごめんなさい。条件反射なんだよ……」

突如として不機嫌になったアンヘルが、ランドのことを睨みつけながら叱責する。

項垂れる彼の様子に首を傾げていると、機嫌を直したアンヘルはニコニコとした笑みで声を上げた。

「実は私たち、きちんと籍を入れまして」

「……あー、ついにか」

「ちょっと待ってくれ、シェラート。その反応には抗議したい」

「いや、部隊全員でいつになったら結婚するのかの賭けをしてたぐらいだぞ? 驚くよりも納得するわ」

どうやら衝撃の事実であったらしく、ランドは頬を引き攣らせながら硬直する。

この二人、部隊に参加する前から二人組で活動しており、その呼吸の合い方は言葉どころか目配せすら必要ないほどだ。

日常生活においてもそれは同じであり、殆ど夫婦のようなものだと思っていたのだが、正式には結婚していなかったのである。

一体いつになったら結婚するのかと、軍曹やジジイを含めた部隊全員で賭けの対象になっていたほどだ。

ちなみに一番人気は戦争が終わったらすぐであったが、この様子ではつい最近のように思える。どうやら賭けは外してしまったらしい。

「チッ、あいつら……この仕事が終わったら覚えとけよ」

「まあまあ。とにかくそういうことですので、今後顔を合わせた時はよろしくお願いしますね」

「そりゃ構わんけどな。あんたたちなら実力も十分だ、頼りにさせて貰うが……このタイミングで顔を合わせたってことは、そういうことなんだろう?」

軽く笑みを浮かべながら問いかければ、アンヘルはその笑みを深くする。

これまでこちらに接触せずにいたというのに、このタイミングで顔を出してきた――それが意味することは分かり切っている。

「前から思ってはいたんです。私たちの部隊で、最強は間違いなくマスター……貴方のお爺様でした。しかし、その次は誰であるかと」

「大体の連中はお前を挙げるだろうな、シェラート。確かに、一人では間違いなくお前の方が強いだろう」

「けれど……私たち二人が相手なら、どうですか?」

雑で大味、けれど鋭敏な反応速度と直感を持つアンヘル。

細かく神経質、故に何手先も読み精密に相手を攻めるランド。

この二人は、バディを組んだ戦闘では、一度として敗北することは無かった。

その腕前は、あのジジイが称賛するほどのものであったのだから。

「いい機会ですから――」

「――ここで、お前に挑戦させて貰うぜ、シェラート」

――思わず、笑みを浮かべる。

この二人との本気の戦い、それは俺もまた望むものであったが故に。

「いいだろう、あんたたち二人なら不足などある筈がない。俺も、本気で行かせて貰う」

加減も油断もできる相手ではない。本気の刃を以て、この挑戦に応えることとしよう。