軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

370:開かれる庭園

イベントの開始当日。少し早めにログインした俺たちは、帝都のコロシアム周辺に集まっていた。

見渡す限りの人、人、人。最前線に到達しているプレイヤーの全員というわけではないだろうが、それでもかなりの数のプレイヤーが集合している様子だ。

これだけの人数では流石にコロシアムにも入りきらないということで、こうやって外に並んでいるのである。

「なんだか、顔を合わせるのは久しぶりな気がしますね」

「向こうだと幾らでも会っているんだがな」

隣に並ぶ緋真は、こちらを見上げてそんなことを口にしている。

確かに、ゲーム内で顔を合わせるのは随分と久しぶりな気分だ。

リアルの方では普通に朝から稽古をしていたし、久しぶりも何も無いのだが、ゲームの中での姿を眺めるのは久々になるだろう。

とはいえ、装備の点で何かが変わっている様子はない。変わったものがあるとすれば、それは中身の方だろう。

「覚悟は決まったか?」

「はい、準備は万全です。そのために、今日まで頑張ってきましたから」

緋真の返答に、俺は満足して頷く。緊張はある様子だが、それでも覚悟は十分すぎるほどに決まっているようだ。

こいつがここまで準備を完了させているのであれば、こちらもそれに応えねばなるまい。

決して手は抜かず、このイベントで頂点に立つ。緋真の挑戦を受け、その腕を確かめる。

嗚呼――実に、楽しみだ。

「アリス、フィノ。こいつのことは頼むぞ」

「どう返答したものか悩む所ね、その台詞。ま、頑張るけど」

「あいあい、ちゃんとサポートするよ」

アリスには悪いが、今回の主役は緋真だ。

こいつが俺の所まで辿り着くよう、三人で頑張って欲しいところである。

そして俺もまた、こいつらが辿り着くまで決して負けるわけにはいかない。

元より負けるつもりなどないが、ここは真面目に戦わなければなるまい。

と――決意を固めたのとほぼ同時、周囲のざわめきが一斉に収まって行った。

これは、騒ぐ者が少なくなったからではないだろう。以前のイベントにもあった、一定範囲内の音量を下げる運営の処置であったはずだ。

「異邦人の諸君、よくぞ集まってくれた」

そしてその直後、周囲に声が響き渡る。

その出本はコロシアムの上、展望台のようになっている場所。

堂々たる姿で立つその男は、周囲を睥睨しながら声を上げた。

「余はシェンドラン帝国が皇帝、ヴォルターク。今日この日、我らが催しに参加を決めた諸君らは実に幸運だ。諸君らは、偉大なる龍の御業を目の当たりにするのだから」

尊大に告げるのは、以前にも出会った変わり者の皇帝、ヴォルタークであった。

あの時はすっかりシリウスに夢中であったが、今は覇気溢れる皇帝の姿を周囲に晒している。

ドラゴンが絡まなければああいう男なのだろう。

「諸君らはこれより、『龍の庭園』のフィールド内に転送される。その中で、最後のチームとなるまで戦い続けるのだ」

今回のイベントには事前に参加登録を行っており、そのチームで行動を共にすることとなる。

他のチームを殲滅することが勝利条件であるため、チーム内での協力は必要不可欠だろう。

まあ、一人で参加する俺の言うセリフではないだろうが。

「フィールドは参加者の数に応じて広くなる。故に、諸君らが狭いエリアに押し込まれるということはない。だが心せよ、エリアは外周から徐々に龍気に飲まれることとなる。龍気の中での戦いは困難を極めるだろう」

確か、龍気とは餓狼丸の解放と似たような効果があるのだったか。

その中にいると少しずつ体力を削られるため、それが無いエリアを目指して移動し続けることとなる。

正直、面倒だから最初からマップの中央付近にいようかと考えている所だ。

その分敵は多いかもしれないが、戦うことに躊躇いなどない。むしろ、望む所である。

「装備を拾い集めよ。より強い武具を纏い、他の参加者を打倒せよ。より多くの敵を屠った者こそが、この戦いの勝者となる」

今回のイベントもポイント制だが、順位についても重要となる。

全チームの内どれだけの順位まで生き残っていたかに応じてもポイントが入るため、自信が無いプレイヤーであれば隠れているのも作戦の一つであるだろう。

無論、それだけで上位入賞ができるかと問われれば、それは難しいと言わざるを得ないが。

こちらとしてもポイントでの優勝を狙いたい所であるし、他のプレイヤーは積極的に狩って行くこととしよう。

「さて、時間が来たようだ……空を見上げよ」

告げて、ヴォルタークは空を指さす。

プレイヤーたちは俺を含め、一様にその先へと視線を向け――絶句した。

彼の指し示した空の果て、遥か上空に、あり得ないものが浮かんでいたからだ。

それは、恐らく巨大な岩。比較対象が無いためどれぐらいのサイズであるかは分からないが、非常に巨大であることは間違いないだろう。

あんな巨大な物体が、普通の方法で空に浮く筈がない。ヴォルタークは全く動揺した様子もないどころか、最初から知っていた様子であるし、あれは恐らくドラゴンに関係するものなのだろう。

「ならば、あそこにいるのは……」

銀龍王か、或いは金龍王か。現状判別はつかないが、どちらかである可能性は高い。

龍王に関連するものであればかなり気になるのだが――生憎と、それを確かめている暇はなさそうだ。

空に浮かぶ島から、膨大な魔力の集中を感じる。攻撃的な気配は感じないが、その量だけで背筋が寒くなるほどだ。

ますますもって龍王の所在を確信した直後――その魔力が、真下にあるコロシアムへと注ぎ込まれた。

瞬間、巨大なコロシアム全体が金色の光に包まれ、その光は周囲へと伝播していく。

「さあ、戦うがいい、異邦人たちよ! 貴様らの奮戦、楽しみにさせて貰うとしよう!」

光の中で皇帝の声が響き渡り――俺の視界は、一瞬で漆黒に染まった。

視力を奪われたわけでも、目を閉じている訳でもない。周囲一帯が暗闇に包まれているのだ。

だが、それもほんの僅かな間だけ。俺の眼前にはメッセージと共にウィンドウが表示された。

『ワールドクエスト《龍に捧げる戦いの宴》を開始します。降下場所を選択してください』

どうやら、ここでフィールドのどこに降りるかを決定するらしい。

先ほども考えてはいたのだが、特に悩むことではない。

移動する手間を省くため、中央付近に降りることとしよう。

そう判断し、俺はフィールドの中央付近にある大きな街を選択した。

「さて、どうなるかな?」

同じようなことを考えているプレイヤーは多いだろうし、最初から派手な戦いになるかもしれない。

とはいえ、最初は武器を手にしていない状態だ。防具もその性能を失っている状態であるし、無茶はできない。

そう考えている内にも、開始までのカウントダウンは進む。これがゼロになった時、全ての参加者が一斉にこのフィールド内に放り込まれるのだろう。

どのような戦いになるのか――どんな戦いができるのか。誰もいないこの空間だからこそ、己の獣性の高まりを如実に感じ取れてしまう。

「どんな敵がいるんだ?」

恨みも憎しみもない、純粋な闘争。それは、まさにコロシアムのあるべき姿だろう。

俺の前に立ちはだかるのはアルトリウスの『キャメロット』か、あるいは他のクランか。

師範代たちもここまで辿り着いて来てはいたようであるし、この機に俺に挑んでくる可能性もあるだろう。

或いは、今まで会ったことのない手練れが出現する可能性も否定はできない。

そして、そんな中で勝ち残り、緋真との決闘を成し遂げられるのならば――

「嗚呼――楽しみだ」

その言葉と共に、カウントダウンはゼロとなる。

そして、次の瞬間。俺の視界は金色の光に包まれ――荒廃した街の景色が、目に飛び込んできた。

荒れ果てた大地と、いくつも連なる崩れかけの廃墟。ゴーストタウンの様相だが、周囲にはいくつもの気配を感じ取ることができる。

「《蒐魂剣》、【断魔鎧】」

MPを一気に消費して、青白い魔力の鎧を身に纏う。

幸い、突入直後に敵に狙われることは無かったようだが、決して油断することはできないだろう。

周囲にはいくつものプレイヤーの気配を感じる。まずは装備を集めることが先決なのだろうが――

「ははは……ッ!」

躊躇うこともなく、俺は即座に駆け出した。

目指すは前方、半ば崩れて外壁が無くなっている建物の中にいるプレイヤーだ。

三人ですぐに家探しを開始しているようだが――装備が揃う前に仕留め切ってやるとしよう。

歩法――烈震。

目標を目視し、地を蹴って一気に加速する。

相手はまだこちらに気づいていない。であれば――まずは一人、片付けてやることとしよう。

「しッ!」

「え――」

打法――破山。

接触と共に強く地を踏み込み、全ての衝撃を相手の体へと伝える。

まるで爆弾が爆発したかのような衝撃音と共に鎧姿のプレイヤーが吹き飛び、壁を破って家の外へと放り出される。

状況を理解できなかったのだろう、残る二人は呆然とこちらへ視線を向けている。

――そんな隙を見せてくれるのであれば、こちらとしてもありがたいことだ。

打法――寸哮・衝打。

左隣にいたプレイヤーの胸へと拳を放ちながら、衝撃を内部へと叩き付ける。

心臓を直接破壊する一撃に、体を大きく揺らした魔法使い風のプレイヤーはそのまま地面に崩れ落ちた。

HPは尽きているはずだが、これだけでイベントから除外されるわけではない。

チームメンバー全員が倒されない限りは、まだ復活のチャンスは残っているのだ。

とはいえ――

「なっ、ばっ、何でこんな所に――」

「運が無かったな」

辛うじて拾えたらしい剣を構える最後の一人。

しかし、それをまともに構える頃には、俺は既にその懐まで肉薄している。

放つのは、相手の顎を押し上げるように放つ掌底だ。

打法――影仰。

その衝撃で、首を伸ばすように剣士の体が宙を舞う。

俺はそのまま相手の頭を掴み取り――思い切り、地面へと叩き付けた。

その頭蓋が潰れる感触と共に、三人のプレイヤーの姿が消え去り、彼らが拾ったアイテムだけが袋に詰められてその場に残る。

さあ、始まりだ。まずは、この一帯のプレイヤーを全て狩り尽くしてしまうとしよう。