軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

369:最終準備

シリウスを進化させ、移動しつつ戦闘を続ける。

あまり時間的余裕は無いが、それでも今日のログインはギリギリまで時間を使いたい。

正直ペース的には餓狼丸の経験値が溜まり切るということは無さそうだが、それでも八割は行けるはずだ。

これならば、あと少し敵を倒せば金龍王と戦う準備は整うだろう。尤も、金龍王とどのような話になるのかは全く不明なのだが。

また経験値についてはともかくとして、戦力の面でも気にすることがある。

特に気になるのは、三魔剣の新たなテクニックだろう。《練命剣》のテクニックである【命輝鎧】、《奪命剣》のテクニックである【刻冥鎧】、そして――

「《蒐魂剣》、【断魔鎧】」

先ほど亜竜と戦って手に入れたテクニックを発動する。

その瞬間、俺の体は全体が青白い燐光に包まれた。無論のこと、《蒐魂剣》が持つ魔法吸収の能力である。

三魔剣のレベル40で手に入った鎧系のテクニック。それらは全て一様に、身に纏う形で現れる長時間維持可能な技であった。

【命輝鎧】と【断魔鎧】はそれぞれ物理ダメージ、魔法ダメージを遮断するテクニックだ。

捧げたHP、MPの量に応じて全身に効果を纏い、物理ダメージか魔法ダメージを遮断することができる。

一度発動しておけば数分間は維持できるし、効果も許容ダメージ量を超えなければそのまま維持可能という、中々に便利な能力だ。

これは今回のイベントにおいて、特に序盤は役に立ってくれそうな能力だ。

ちなみに、【刻冥鎧】については以前ブラッゾが使った通り、武器に対して常時HP吸収効果を与える利き腕のみの鎧だった。

(惜しむらくは、同時に発動はできない所だな……)

流石に強力な効果であるからか、或いは効果が互いに干渉するからなのか、この鎧系のテクニックは同時に複数発動することができない。

とはいえ、他のテクニックについては使用可能なので、状況に応じて使い分けろということなのだろうが。

何にせよ――

「ガアアアアアアッ!」

「便利なものだな、こりゃ」

赤い亜竜、ファイアドラゴンの放ってきた火球を丸々無視して前進する。

降り注ぐ炎は、俺が纏う蒼い光に触れた途端に消滅し、その熱も衝撃も体に届くことはない。

あとどれぐらいで効果が切れるかは感覚的に理解できるため、ギリギリになったらきちんと回避する必要があるが、今の所は問題ない。

これまでは剣を振る手間があったり、足を止める必要があったりと動きが阻害されていたが、このテクニックがあればそれを避けることができる。

そのままスムーズにファイアドラゴンへと接近し、俺は刃を振るった。

「『生奪』!」

魔法が直撃した俺が、そのまま向かってくるとは思わなかったのだろう。

ファイアドラゴンは驚愕によって動きを止め、俺の刃はその体へと遮られることなく到達した。

今の餓狼丸の攻撃力ならば、ファイアドラゴン程度の鱗を貫くことは難しくはない。

翻った刃は多少の抵抗と共に鱗を貫き、確実にダメージを与えてみせた。

「ガアッ!」

小さく悲鳴を上げ、怒りを目に宿した亜竜が、大口を開いてこちらへと噛みついてくる。

尤も、その動きは既に予測ができていた。すぐさま距離を取って攻撃を回避し、追い縋るように迫ってきたドラゴンの頭へと刃を向ける。

が――それがこちらに届くよりも早く、ルミナによるインターセプトが入った。

光を纏う薙刀は、こちらへと伸びてきていたドラゴンの頭に直撃し、それを地面へと叩き付けたのだ。

ごく一般的な西洋のドラゴンの姿をしたファイアドラゴンであるが、その大きさは進化前のシリウスと同じ程度だ。

そこそこ大きくはあるが、巨大というほどでもない。ルミナの攻撃力でも十分に動きを止められる相手であった。

「よくやった、ルミナ。《練命剣》、【命輝閃】」

無論のこと、動きを止めた相手をのんびりと眺めているはずもない。

即座に生命力を纏わせた太刀を振り下ろし、その頭へと向けて振り下ろす。

斬法――剛の型、中天。

黄金の輝きを纏う太刀は、一切の躊躇いなくファイアドラゴンの頭へと叩き付けられた。

元より、今の俺たちにとっては格下の相手だ。いくらか数がいたため厄介であったが、そちらはシリウスとセイランが引き付けてくれたおかげで容易く片付けることができた。

頭蓋を叩き割られて事切れたファイアドラゴンを放置し、ルミナはセイランの援護に向かわせつつ、俺はシリウスの様子を観察する。

進化したシリウスであるが、その戦闘はまさに獰猛そのものであった。

「グルァアアッ!」

「ガァァ!?」

進化してソードドラゴンとなったシリウスは、ファイアドラゴンより一回り以上大きい。

サイズ的な比較で言うならば、グランドドラゴンと同格クラスであろう。

そして同サイズ帯と比べてもかなり体重が重いため、ファイアドラゴンとは圧倒的に重量差があるのだ。

当然、体当たりをすれば弾き飛ばされるのはファイアドラゴンの方であった。

「グルルル……ッ!」

地面を転がったファイアドラゴンに対しても、シリウスが容赦をすることはない。

尾を振りかざしたシリウスは、己の尾の先端にある刃に自ら噛みつく。

そしてその直後、シリウスは尾の刃に歯を立てたまま、擦るように首を動かした。

瞬間、甲高い金属音と共にシリウスのHPが僅かに減り、尾の刃が銀色の光に包まれる。

「……あれが《研磨》のスキルか」

動作が長く、準備をするのに少々時間がかかってしまう。

果たして、それだけの時間をかける価値のあるスキルなのだろうか。

それを見極めるために、俺は目を細めながらシリウスの戦闘を観察する。

《研磨》を行っている間に、ファイアドラゴンは体勢を立て直していた。

相手も既に準備は万端、果たしてどのように動くか――

「ガァアッ!」

鋭い咆哮と共に、シリウスが駆ける。

そのスピードは巨体に似合わぬほどの速さであり、あっという間にファイアドラゴンへと肉薄する。

無論、ファイアドラゴンとて黙って見ていたわけではない。

先ほどの接触で接近戦が不利であることを理解しているファイアドラゴンは、翼を羽ばたかせて後方へと飛翔しながら魔法に因る炎を放つ。

しかし、シリウスはそれらをすべて無視し、直撃を受けながらもファイアドラゴンへと接近する。

《堅牢》のスキルに加え、《魔法抵抗》のスキルも向上している。おかげで、多少の魔法程度でシリウスは小揺るぎもしないのだ。

「――シャアアッ!」

そして、接近すると共に体を大きく捻り、全身を勢いよく回転させる。

当然、その尻尾は大きく弧を描きながら振り抜かれ――ファイアドラゴンの頭が、胴から両断された。

その切れ味に、思わず眼を見開く。輪旋を模した一撃ではあったが、あれほどの切れ味を発揮するとは。

具体的な数字で攻撃力の上昇を確認できたわけではないが、通常状態でファイアドラゴンを両断することはできない筈だ。

どうやら、時間をかけて攻撃力を上げるだけの価値はあるらしい。

とはいえ、使いづらいことは間違いないのだが。

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《エンゲージ》のスキルレベルが上昇しました』

『《回復特性》のスキルレベルが上昇しました』

『《高位戦闘技能》のスキルレベルが上昇しました』

『《剣氣収斂》のスキルレベルが上昇しました』

『《背水》のスキルレベルが上昇しました』

『《走破》のスキルレベルが上昇しました』

ルミナたちもファイアドラゴンを倒していたらしく、そこで戦闘は終了となった。

最早、この程度の亜竜では勝負にならなくなってきたらしい。

経験値はそこそこ稼げるのだが、やはり少々退屈な戦いになってしまうものだ。

「しかし、シリウスも強くなったな」

「グルゥ」

少々減っていたシリウスのHPをルミナが回復させている様子を眺めつつ、シリウスの戦力を分析する。

最早、ルミナやセイランと比較しても劣ることのない戦闘能力だ。

これならば、積極的に前線に出して行っても問題はないだろう。

「三魔剣のテクニックの確認も問題なし、イベントそのものへの準備は十分か」

シリウスの強化については目標達成できた。少なくとも、ルミナたちと比べても劣ることは無くなった。

これならば、金龍王との戦いにも駆り出すことはできるだろう。

尤も、龍王クラスに通じるかと聞かれれば、それは間違いなく否であるのだが。

ともあれ、イベントに出場するには十分すぎる。その後の悩み事は色々とあるが、とりあえず先に進める分には問題はないだろう。

(金龍王という悩み事はあるが……まずはイベントを楽しませて貰うとするか)

勝つ必要はあるし、その後の面倒は否定できない。

だがそれ以上に、俺に挑んでくるであろう数多くのプレイヤー、そして錬成の儀として対面するであろう緋真――果たしてどのような戦いができるのか、本当に楽しみだ。