軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

365:暴君

小高い丘を登り、その上で伏せながら先の様子を確かめる。

目を凝らすまでもなく見えたのは、ひたすらに巨大な恐竜の姿であった。

長い尻尾を持ち、前傾姿勢を保ちながら動くその姿は、もっとも有名な恐竜の姿に近いものであるだろう。

鱗の上からでも分かる強靭な筋肉は、その巨体が見せかけではないことを如実に示していた。

■ディノタイラント

種別:魔物

レベル:77

状態:アクティブ

属性:地

戦闘位置:地上

暴君の名を持つ恐竜――Tレックスを元にした魔物か。

恐らくはディノレックスの上位種に当たる魔物なのだろう。

四つ足で移動していた時とは随分と異なる姿ではあるが、前足の大きさはディノレックスの時とあまり差は無いように思える。

つまるところ、それ以外の部分が非常に大きく成長しているのだ。

その体はシリウスと比べても一回り以上大きく、攻めあぐねてしまうほどの巨体であった。

「こりゃまた……大層な大物だな」

「どう攻めますか、お父様?」

これほどの魔物を前にして、逃げるよりもどう攻めるかを考えるようになった辺り、ルミナも成長したものだ。

とはいえ、この化物を相手に戦いづらいことは否定できない。

空を飛んでいない限り、足ぐらいにしか攻撃を当てることができないのだから。

「とりあえず、お前とセイランは空から狙ってくれ。ただし、絶対に噛みつかれるなよ」

「分かりました!」

「クェ!」

俺の言葉に、ルミナとセイランは威勢良く頷く。

こいつらについてはそれほど問題はないだろう。噛みつきは怖いが、それ以外の攻撃は飛んでさえいれば何とかなると思われる。

問題はシリウスの方だろう。シリウスは防御力こそ高いが、それでも現状はディノレックスの攻撃でそこそこダメージを受けてしまう程度のものだ。

その上位であるディノタイラントの攻撃を防ぎきれるとは考えづらい。

「シリウス、お前は防御を固めて、噛みつきだけは喰らわないように立ち回れ。隙を見て攻撃し、当てたら一度距離を取るんだ」

「グルルッ!」

結局のところ、ヒットアンドアウェイで戦う他ないだろう。

シリウスは巨体であるため、相手の攻撃も回避しきれるわけではない。

だが、正面から攻撃を受けさえしなければ、自前の防御力で何とか耐えられるはずだ。

それでも不安は残るが、これまでのようにもつれ合いながら戦うよりは遥かにマシだ。

「場合によっては切り札も使う。さあ……行くぞ!」

宣言し――俺は、丘の上から飛び出すようにディノタイラントへと向けて走り出した。

その瞬間、周囲をキョロキョロと眺めていたディノタイラントは即座に反応し、こちらを威嚇するように巨大な咆哮を上げる。

「グルァアアアアアッ!」

肌をびりびりと震わせるその音に、思わず口角が釣り上がるのを感じる。

ディーンクラッドと戦って以来、レベルを上げ過ぎたせいかそれほど強い相手と戦えることは無かった。

グラットンスネークは苦戦はしたものの、あれ自体はそこまで強くなかったため例外であるが――とにかく、ギリギリの戦いになるということが無かったのだ。

その点、このディノタイラントならばいい勝負を期待できそうだ。

「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》……!」

攻撃力と防御力を上昇させ、ルミナによる強化も受けながら、丘の斜面を一気に駆け降りる。

そんな俺を追い抜かすように、ルミナとセイランが空を駆けながらディノタイラントへと接近した。

放たれる光と嵐の魔法は、ディノタイラントの巨体へと突き刺さり爆裂する。

しかし、それを一切気にすることなく前に出てきたディノタイラントは、その巨大な顎でセイランの身に食らいつこうとした。

とはいえ、正面から向かってくる攻撃を馬鹿正直に受けるようなセイランではない。

翼を強く羽ばたかせて飛行する軌道を逸らしたセイランは、そのままディノタイラントの側面へと腕を叩きつけた。

「ガアアアアッ!」

しかし、それらを意にも介さず、ディノタイラントは暴れ回る。

大層な体力と防御力だ。あのセイランの打撃を受けて、殆どダメージを受けた様子がない。

反対側から薙刀を振り下ろしたルミナの一撃も僅かばかりに鱗が削れる程度で、有効なダメージには程遠いようだ。

成程、これは中々に苦労しそうだが――

「『生奪』!」

ルミナたちが注意を引き付けてくれたおかげで、俺はディノタイラントの足元まで接近することができた。

その上で放った一閃は、ディノタイラントの鱗を割いて僅かながらに傷をつける。

有効なダメージと見るには程遠いが、それでも一切ダメージが通らないということは無いようだ。

股下まで潜り込んでいるおかげか、ディノタイラントの顎や尻尾がここまで届くことはない。

だが、この化物もそれをただ無視するということは無いようだ。

「グルァアッ!」

攻撃は単純。体を傾けて足を振り上げ、そして振り下ろす。

単純なストンピングであるが、下手をすれば十トンは超えているであろう体重は凶器以外の何物でもない。

その攻撃に対し、俺はタイミングを合わせて後方へと跳躍した。

地面を踏みしめる衝撃と揺れを空中で回避し、体を沈めているディノタイラントへと刃を向ける。

そして次の瞬間――その巨体が、冗談のように飛び上がった。

「なっ!?」

驚異的なバネで跳ね上がったディノタイラントは、そのままこちらを押し潰そうとボディプレスを放ってきたのだ。

半ば現実味が薄い光景に頬を引き攣らせながら、それでも体は即座に反応する。

歩法――烈震。

勢いよく前へと飛び出し、ディノタイラントの下を潜るようにその攻撃を回避する。

足から踏み潰そうと迫ってきていたため、尻尾にさえ気を付ければ潜り抜けることは難しくない。

それでも、その巨体故にそれなりの距離を移動しなければ潜り抜けることはできなかったが。

「――ガアアアッ!」

着地の衝撃によって、地に体を沈めて動きを止めたディノタイラント。

そこへ攻撃を繰り出したのは、後から向かってきたシリウスであった。

大きく飛び上がったシリウスは、体を宙返りさせて上段から勢いよく尾を振り下ろす。

ただ攻撃を当てただけではそれほどのダメージにはならないだろうが、勢いをつけた一撃はディノタイラントの鱗を一部粉砕してみせた。

相変わらず、レベルとステータスに見合わない威力である。

「《練命剣》、【命輝一陣】!」

「光よ、貫け!」

シリウスの攻撃を受けてよろめいた相手に、俺とルミナの遠距離攻撃が飛ぶ。

直撃を受けたディノタイラントはよろめき――しかしお返しとばかりに、立ち上がりながら尻尾で周囲を薙ぎ払った。

空を飛んでいるルミナはともかく、俺はそう簡単に避けられる状況ではない。

思わず舌打ちしつつ、地面に張り付くように体を屈め、ギリギリの所で攻撃を回避した。

(直撃したら即死か? いや、ギリギリ耐えられるか……分からんな)

太く、しかししなやかに動く尻尾の一撃は、少なくとも俺に受けきれるものではない。

可能性があるのはシリウス程度だろうが、それでも絶対に無傷では済まないだろう。

攻撃を受けないように立ち回る――こいつを相手にするのであれば、それが大前提だ。

「面倒なこった……!」

未だ有効なダメージは与えられていないが、こちらもダメージは受けていない。

小手調べの段階ではあるのだが、こちらにとっては即死級の攻撃ばかりが飛んでくるのだ。肝が冷えることこの上ない相手である。

思わずニヤリと笑みを浮かべながら、俺は四つん這いの状態から跳ね上がりつつ思い切り地を蹴る。

両手すらも使った加速で接近し、目指すのは先ほど攻撃を当てた左足だ。

「《練命剣》、【命輝閃】!」

注ぎ込んだ生命力により、餓狼丸の刀身が眩く輝く。

本来であれば解放も使いたい所ではあるのだが、今回は餓狼丸の経験値溜めも目的の一つなのだ。

解放を使って経験値を消費してしまっては元も子もない。

斬法――剛の型、穿牙。

回転を終え、動きを止めたその瞬間を狙い、真っすぐと餓狼丸の刃を突き出す。

狙う位置は、先程俺が付けた傷跡だ。黄金に輝く刺突は狙い違うことなくその傷跡へと吸い込まれ――それまでの傷より、深く突き刺さった。

「グガアアッ!?」

流石に突きによる攻撃は堪えたのか、ディノタイラントは嫌がるように体を大きく震わせる。

動きとしては大きくは無いのだが、この体のデカさがあると、俺にとっては殆ど体当たりと大差ない。

その体と衝突せぬようにタイミングを合わせて後退しつつ、俺は改めてテクニックを発動した。

「《奪命剣》、【命喰牙】」

現れるのは黒い短剣。直接的なダメージは与えられないが、少しずつ相手のHPを奪う代物だ。

俺はディノタイラントが動きを停止させるタイミングを見計らって再び接近し、先程の傷跡へと黒い短剣を突き刺した。

これそのものに対する痛みはないだろう。だが、少しずつでも敵の体力を奪ってくれるこのテクニックはかなり有用だ。

突き刺した短剣がディノタイラントの生命力を奪い始めるのを感じながら、俺は小さく笑みを浮かべて呟いた。

「少しずつ削り取ってやるよ、デカブツ。覚悟しな」