軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

364:北限付近

とにかく目についた魔物と戦いつつ、北へと進む。

あまり時間的余裕もなくなってきたし、遊びは交えずにテンポよく敵を倒していかなくてはならない。

途中で目に入った街には立ち寄り、しかし最低限の補給と石碑の解放だけを行って先へと進んだ。

その甲斐あってか、シリウスのレベルも一つ上がり、進化のレベルまであと一つと言う所まで到達した。

ここいらで大物でも狩って、最後のレベルまで上げてしまいたい所だが――

「近づいてきたな」

「……ここからでも、禍々しい魔力を感じます」

そのレベルアップを待つよりも早く、俺たちは北限近くにまで到達してしまった。

目に入るのは、空を二つに分かつかのように聳え立つ赤黒い魔法の障壁だ。

その表面には不可思議な紋様が絶えず流動しており、凄まじい規模の魔力が込められていることが分かる。

あれがマレウス・チェンバレンの力なのだろうが、正直な所、今のままでは勝てるヴィジョンが浮かばないというのが正直な所だ。

「あんなとんでもない規模の魔法を長期間張り続けられるのか……ルミナ、仕組みは分かるか?」

「いえ……恐らくは結界の類だとは思いますが、どうやっているのかまでは……」

「そうか。まあ、悪魔のやることだからな、分からなくても仕方あるまい」

尤も、マレウスのことを悪魔と呼んでいいのかどうかもよく分からないが。

MALICEの首魁にして、ある意味全ての元凶である存在、マレウス・チェンバレン。

奴が悪魔を率いているというのは流石に想定外であったのだが、納得できる話でもあった。

あの悪魔共を――いや、MALICEを従え得る存在が、奴らを生み出したものであると言われれば頷ける話でもあるのだ。

「あれを破るのは……流石に無理か。というか、試すのも止めておいた方がいいだろうな」

「相手を刺激するからですか?」

「向こうから一方的に突きつけてきた約定だが、利益があることも事実だ。変に刺激するのは避けておきたい」

それで向こうから侵攻されたら目も当てられない。

尤も、その程度で目くじらを立てるほど狭量ではないとは思いたいが。

マレウス・チェンバレンは人間の敵であろうとしている。そうあることで、人間の団結と成長を促そうとしているのだ。

その考え方を把握できてしまうことは業腹であるが、奴らがそう適当な真似をするということはないだろう。

「とはいえ、向こう側で何もしていないってことはないだろうからな。様子は見ておくか」

「あれが解かれれば、大きな戦争になるのですね」

「だろうな。高位の爵位悪魔まで含んだ大侵攻だろう」

伯爵級は当然として、未だ見たことのない侯爵級や、下手をすれば公爵級が出現する可能性もある。

それまでに、可能な限りプレイヤー側の戦力を高めておく必要があるだろう。

北上した先は、まばらな木々が立ち並ぶ林のような場所。

木々の間隔は広く、シリウスが通る分にも困らない程度の小さな林だ。

その中を進みながら大障壁へと足を進め――ふと、気配を感じて立ち止まった。

「……何故お前がこちら側にいる?」

「私の行動は、誰に制限される謂われもないわ。それより、一応警告しておいてあげるけど……それより先には近づかない方がいいわよ」

頭上から降ってきた声に、目を見開いたルミナが重心を落として周囲を警戒する。

俺もすぐさま餓狼丸を抜ける体勢を整えながら、こちらへと声をかけて来たその女に視線を向けた。

「お前がこちら側にいるということは、お前はもう悪魔ではないということか、ロムペリア?」

「さあ? 種族なんて何でも構わないわ。私は私、ただそれだけよ」

こちらへと声をかけてきたのは、マーナガルムの時以来姿を見せていなかったロムペリアであった。

こいつも悪魔であるため、北に引っ込んだものだと思っていたのだが、どうやらこちら側に残っていたようだ。

と言うより、この結界のせいでこいつも向こう側に戻れなくなったのではなかろうか。

偶然見逃されたという可能性もあるが――それよりは、マレウス・チェンバレンに何らかの思惑があると考えておいた方がいいだろう。

太い木の枝の上に寝転がっているこの女は、その視線をこちらへと向けながら声を上げる。

「それより、貴方は不用意に近付かない方がいいわ。両方から監視されているから」

「悪魔はともかく……もう片方は、ドラゴンか?」

「ええ。貴方はどちらにとっても無視できない存在。片方だけならともかく、両方を刺激するのはお勧めしないわね」

確かに、仮にどちらかから接触があった場合、もう片方も現れて大事になりかねない。

となると、下手に近づかない方が良いという話も納得できる。

尤も――その言葉を全て鵜呑みにできるわけではないが。

「何故、お前がわざわざそんな警告をしに来た?」

「別に、わざわざ貴方に会いに来たわけじゃないわよ。今はここを狩場にしているってだけ」

「ほう、この辺りには強い魔物が出るってことか」

その言葉に、ロムペリアはじろりと強い視線を向けてくる。

どうやら、獲物を奪うなと言いたいらしい。こちらとしても、ロムペリアが人間に対して攻撃を仕掛けていないのであれば特に言うことはない。

状況から察するに、こいつ自身向こう側に戻れないのだろうし、ひとまず放置しておいてもいいだろう。

とはいえ、この辺りに強力な魔物がいるという話は無視できない。

こちらも、シリウスの育成を行いたいのだ。目ぼしい敵がいるならば是非チェックしておきたい所だ。

「私としても、あまり目立つような真似はしたくないわ。貴方との戦いも楽しそうだけれど……真龍の長に喧嘩を売ってしまっては面倒だし」

「……金龍王のことか」

「私はあくまで、貴方との決着をつけたいだけ。人間と悪魔の勢力争いに興味はない。だから、ドラゴンを下手に刺激するつもりも無いってだけよ。まあ、いずれは挑みたい相手ではあるけど」

マーナガルムと戦っていた時もそうだが、ロムペリアはどうにも強い敵との戦いを望んでいる節がある。

リソース集めなのか、技術の向上なのか。何にせよ、こいつは以前よりさらに強くなってきている。

しかしながら、当のロムペリアはそれに満足している様子はない。俺と戦うにはまだ足りないと、そう思っているようだ。

その基準が何なのかはよく分からないが、今敵対しないというのであれば変に刺激する必要もあるまい。

「……まあいい、忠告には従っておく。じゃあな」

「ええ、いずれまた会いましょう」

踵を返すと、ロムペリアは特にそれを止めることもなく見送る。

どうやら本当に何もするつもりは無いらしく、若干拍子抜けしつつも俺は東へと進路を変えた。

ロムペリアと戦うつもりはないが、この辺りにいるという強い魔物には興味がある。

奴はあの林の辺りで待ち構えているようであるし、離れながら探しておけばいいだろう。

そう考えながら先へと進み――俺は、奴の話していた言葉を反復した。

(金龍王が、俺を見張っている?)

確かに、立場としては考えられない話ではない。

公爵級悪魔と戦い、真龍を育てている俺は、真龍の立場からしても無視のしきれない存在だろう。

しかしながら、聞いていた金龍王の話と比べると、どうにも違和感を感じる。

金龍王は初めから、俺たちのことを知っていたのか。或いは、今回のイベントで俺たちのことを知ったのか。

もしも、俺たちがこの国を訪れる前から知っていたのであれば――

(……それなら、『龍の庭園』を開催する意味とは何だ?)

金龍王の興味を引くことが最初からできているのならば、わざわざ盛大な祭を開催する必要はない。

単純に、今回の話を聞いて俺に視線を向けているというのであればまだ納得はできるが、そうでないならば色々と矛盾が生じてくるのだ。

果たして、金龍王はいつから、そしてどこから俺のことを見ているのか。

気にはなるが、それを確かめる術は直接金龍王に会う以外には無いだろう。

「……結局、やることは変わらんか」

ルミナには聞こえぬように小さく呟き、思考を打ち切る。

今確かめる術が無いならば、気にしていても仕方がない。今はイベントでの戦いに集中しなくては。

何しろ、今回は緋真の晴れ舞台なのだから。余計なことは考えずに、緋真との戦いに集中するべきだろう。

「お父様、あの……あれを」

「おん?」

ふと、ルミナが進行方向から南に逸れた方向を指差す。

そちらにあるのは小高い丘であるのだが――その丘の向こう側から、恐竜の頭が覗いていた。

こちらのことを見ているわけではないようだが……確か、あの丘はそれなりの高さがあったはずだ。

その向こう側にいるというのに頭が見えているということは――

「……どうやら、大物のようだな」

「はい! 狩りますか?」

「無論、そのつもりだ。ロムペリアもこっちまでは来ないようだしな」

奴は目立ちたくないのか、林から出るつもりは無いようだ。

であれば、あちら側の魔物は狩ったとしても文句は言ってこないだろう。そう判断し、俺はそちらの方へと進路を変えた。

丘の向こう側に見えている頭は、どうにもディノレックスと同じような形状に見える。

だが、ディノレックスは四つ足での移動を行うため、頭の位置は低い筈だ。

であれば、あれはそれとは別種か、或いは上位種か。何にせよ、巨大な魔物はそれだけで強力だ。

「さてと、その正体を確かめさせて貰うとするか」

あわよくば、それでシリウスのレベルが上がって貰いたい所だ。

その期待を込めて、俺はルミナたちと共に丘の方角へと向かったのだった。