軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

362:逃亡の蛇

逃げ出した呑竜、グラットンスネークを追って森の中を駆ける。

これで逃してしまっては、またコイツを探すところからやり直しだ。

流石に、当てもなくコイツの痕跡を探すところから始めるのは勘弁してほしい所である。

(しかし、本当に遠慮なく逃げるもんだな)

ここまで戦っていたというのに、まさか躊躇いもなく逃亡を選択するとは。本当に面倒なタイプの魔物である。

しかし、素材の問題がある以上、こいつは絶対に狩らなければならない。何としても追い付かなくては。

グラットンスネークの移動速度は、幸いにしてルミナやセイランよりは遅い。地下にさえ潜られなければ、見逃すということはないだろう。

問題は――

(奴の動きを止める手段がないこと、か)

グラットンスネークの体は巨大だ。長さがあるため、総重量ではシリウスにも引けを取らないだろう。

それほどの大きさの相手が全力で逃げている以上、力技で押しとどめることは困難だと言わざるを得ない。

となればどこかに追い込むのか、と言いたい所ではあるが、この森の土地勘など俺たちには無い。

逃げ場のない場所に誘導することもまた困難だと言わざるを得ないだろう。

結局の所、順当な方法で攻撃をするしか無いのだ。

「ルミナ、セイラン! 上から攻撃を当て続けろ!」

「はい!」

「クェエ!」

俺の指示に応え、ルミナたちは上空から光と雷を降り注がせる。

木々があるため正確な狙いではないが、それでも少しずつダメージを与えることは可能だ。

根本的な解決にこそならないが、手をこまねいているよりは遥かにマシだろう。

上空から狙撃されているグラットンスネークは、しかし動きを止めることなく逃亡を続けている。

このまま放置しては、いずれ地面に潜って逃げられてしまうかもしれない。

奴の動きを止められるとすれば、やはり重量のあるシリウスしかいないだろう。

ならば――

「……シリウス、俺がこれから奴の動きを何とか止める。そうしたら、奴の尻尾に噛みついて動きを止めろ」

「グルルッ!」

周りの木々が増えてきて邪魔そうにしているシリウスは、それらを強引に蹴散らしながら俺の言葉に同意する。

その様子を見届け、俺は即座に意識を集中させた。

俺の足で、普通に奴に追いつくのは不可能だ。故に、ここは全力を発揮する。

久遠神通流合戦礼法――風の勢、白影。

視界がモノクロに染まり、映る景色がスローモーションに変わる。

その森の中で、俺は目を見開きながら木々の間を縫って走り出した。

歩法――間碧。

「――――!」

ともすれば木々に激突してしまいそうになる森の中を、極限の集中力で躱しながら先へと進む。

激突してしまえばそれまでだが、相応のリスクを冒さねば届くものも届かないのだ。

木々の枝が頬を掠めていく感覚を覚えながら、それでも目は閉じることなく先へと進む。

目指すは、体をうねらせて木々の間を抜けるグラットンスネークだ。

「《練命剣》、【煌命閃】」

餓狼丸へとHPを注ぎ込み、攻撃の威力を一気に向上させる。

倒す必要はない。ただ、コイツの動きさえ止められればいいのだ。

心の中でそう呟いて、俺はうねるグラットンスネークと並走した。

悪路であろうとも駆けることができるのは《走破》の効果によるものか。

思わぬところで役立ったスキルに内心で感謝しつつ、俺はグラットンスネークへと向けて刃を振り下ろした。

「ジャアアアアッ!?」

黄金に煌めく一閃は、周囲の木々ごと大蛇の体を斬り裂く。

魔法攻撃は耐えていたグラットンスネークであるが、このダメージは流石に無視しきれなかったようだ。

身を固くしたグラットンスネークは動きを止め――

「グルァアアアアアッ!」

その尻尾の先端に噛みついたシリウスが、鋭い牙を頑丈な鱗に突き立て、思い切り引っ張る。

シリウスの牙は鋭く、グラットンスネークの防御力も物ともしない。

そして重量についても、シリウスとグラットンスネークは大差のないレベルだと言えるだろう。

故に、シリウスは地面に爪を立て、その全身を使ってグラットンスネークの動きを押し留める。

「『生奪』!」

その動きが止まったことを確認し、俺は即座に白影を解除した。

それと共に振るう刃にて、グラットンスネークの顔面を狙う。

尻尾を噛みつかれているとはいえ、その体はほぼフリーの状況だ。グラットンスネークはシリウスの拘束から逃れようと、必死で体を捩らせている。

動き回る頭を狙うのは中々に困難であったが、自由に動き回れる状況よりは遥かにマシだ。

振り下ろした刃はドラゴンの頭のようなグラットンスネークの頭部に突き刺さり、血を噴き出させる。

そのダメージに腹を立てたのか、グラットンスネークは大きく頭を振って頭突きのようにこちらへと攻撃を繰り出してきた。

だが、その動きは容易く読み取れる。大きく跳躍してグラットンスネークの攻撃範囲から逃れ、俺は改めて餓狼丸を構え直した。

今のグラットンスネークは動きを止めているため、一定距離を開けてしまえば攻撃は届かない。

慌てずに態勢を整え――次の瞬間、グラットンスネークはその怒りの矛先をシリウスの方へと向けた。

「シャアアアッ!」

「グル……ッ!?」

体をくねらせたグラットンスネークは、シリウスの体に巻き付いてその体を締め上げる。

シリウスの体は全身が刃であり、それに触れたグラットンスネークは当然のようにダメージを受けているが、それでもお構いなしだ。

対するシリウスも、《強化魔法》で防御力を向上させ、尚且つ《硬質化》のスキルを使っているが、それでもダメージは免れない状況のようだ。

しかし、それでも尚シリウスはグラットンスネークの尾を離すことなく、必死に敵の動きを拘束していた。

その働き、みすみす見逃すわけにはいかない。

「ルミナ、セイラン、畳み掛けるぞ!」

「はい、お父様!」

再び《練命剣》を発動して斬り込んでいくのと同時、上空からルミナたちが舞い降りる。

真っ先に突撃してきたセイランが、シリウスに噛みつこうとしているグラットンスネークの頭を殴りつける。

大きく弾かれた頭に対し、打ち返すように叩き付けられたのはルミナの振るう薙刀だ。

魔法を付与して振るわれた一閃は、グラットンスネークの頭を斬り裂きながら地面へと叩き付ける。

弱点に対する二発の打撃に、グラットンスネークは一瞬意識を失ったかのようにシリウスを締め上げる体を緩めてしまった。

瞬間――

「――――ッ!」

尾に噛みついたままのシリウスが強引に拘束から抜け出し、後ろ足で立ち上がりつつ、横たわった頭へと向けてその前足を叩きつけた。

柔らかい土の地面であるとはいえ、その衝撃は凄まじい。

地震が起きたのかと錯覚するほどの揺れと共に、グラットンスネークの頭は半ば地面に陥没してしまった。

そしてそれだけに飽き足らず、完全に拘束から抜け出したシリウスは、グラットンスネークの尾に噛みついたままその体を大きく振り回す。

近くにあった巨木へと叩き付けられたグラットンスネークは、木をへし折りながらようやくその動きを止める。

だが、その姿は明らかな満身創痍であった。

「――それでもまだ逃げようとするのは、大したもんではあるがな」

地を蹴ってグラットンスネークへと接近しつつ、思わずそう呟く。

執拗に頭を攻撃されてフラフラになっているグラットンスネークであるが、奴はそれでも尚逃げようと体をうねらせていた。

だが、当然ながらシリウスはその尾を離してはおらず、力の篭らぬ体で逃げられる状況ではない。

つくづく、捕まえられたことに安堵しつつも、俺はその頭へと向けて刃を振り下ろした。

『《降霊魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《回復特性》のスキルレベルが上昇しました』

『《背水》のスキルレベルが上昇しました』

『《走破》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』

何とか無事に倒し切れたことに安堵しつつ、アイテムを回収し――俺は、思わず顔を顰めた。

獲得したアイテムの中に、目的である『呑竜の舌』が含まれていなかったのだ。

入っていたのは鱗や皮、骨と言ったアイテムで、確かにレア度は高いがこれらがあっても意味がない。

「おい……もう一回やれってのか」

思わず低い声が出て、シリウスの回復をしていたルミナがびくりと肩を跳ねさせる。

軽く手を振って謝りつつも、俺は深々と嘆息を零した。

こんな面倒な相手と、もう一度戦わなくてはならないのか。

「はぁ……少し、やり方は考えるか」

無策に挑んでいては面倒が増えるだけだ。

何とかして、グラットンスネークを楽に倒せる方法を考えるとしよう。

こんな面倒な相手と、そう何度も戦いたくは無いのだから。

「仕方ない。回復が終わったらもう一回行くぞ」

「は、はい! ……今度は、最初から拘束しますか?」

「そうだな……あいつが攻めっ気を出している内に捕まえるか」

戦い方としてはどうかと思うが、後のことを考えるとその方が確実だ。

俺は再び嘆息を零しつつも、次なる獲物を探して歩きだしたのだった。