軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

361:竜蛇

痕跡を追って、森の中へと足を踏み入れる。

森とは言うが、湖からあまり離れていない位置では木々もまだ疎らな状態だ。

この辺りならば、シリウスも辛うじて中に入ってくることができる。

尤も、ここで戦闘を行うとなると、周囲の木々を薙ぎ倒しながら戦う他ないだろうが。

周囲へと意識を張り巡らせ、餓狼丸を抜き放ちながら、ゆっくりと木々の間を進む。

地を這った痕跡は分かり易く、追跡する分に困ることはないだろう。

「……かなり柔軟に動き回ってるな。やはり蛇ってことか」

「木々の間を器用に擦り抜けてますね」

地面に付いた痕跡は、文字通り蛇行を繰り返している。

木々に阻まれることなく進むその動きは、恐らく蛇のものであるのだろう。

尤も、こんな巨大なサイズの蛇など、映画の中でしか見たことは無いのだが。

(まあ、ディーンクラッドと比べたら小型もいい所ではあるんだが)

奴の下半身である蛇身は、それだけで家の高さほどもあるような巨大さであった。

比較する対象が悪いとしか言えないが、あれと比べれば全く問題にならない大きさだろう。

とはいえ、蛇とはただそれだけでも厄介な生き物だ。

この大きさの蛇の場合、一度捕まってしまえば締め上げられてそのままお陀仏だろう。

どのような状況になったとしても、巻き付かれることだけは避けなければなるまい。

「蛇の類は動きが読みづらいのが厄介なんだがな……」

「そうなのですか?」

「筋肉の動かし方が独特なんだよ。おかげで、どう動くのかが本当に読みづらい」

足のある生き物であれば、ある程度動きの予測はできる。

例え四つ足であったとしても、基本的な動かし方はある程度予測がつくからだ。

しかしながら、足もなく体だけで器用に這い回る蛇の動きは非常に予測が難しい。

どのような仕組みで体を動かしているかの知識があればまだマシなのだろうが、そこまで生物に詳しいわけではないのだ。

とにかく、戦闘の際は余裕を持って対処できるようにしなくてはなるまい。

――そこまで考えた所で、俺はふと、感じた気配に目を細めた。

(……見られている)

粘つくような、狡猾な気配。

木々の間から隙間を縫って向けられる視線に、しかし反応を示すことはせずにそのまま進む。

ルミナたちはまだ気づいていないようだ。であれば、このまま釣り出した方が都合がいい。

そのままゆっくりと森の奥まで足を進め――こちらを監視する気配が、背後に回り込むのを感じ取った。

音もなく近寄ってくる気配は、鋭い視線をこちらへと定め――

「――《練命剣》、【命輝一陣】!」

――振り向き様に放った生命力の刃が、巨大な蛇の大口へと吸い込まれ、その口腔内を斬り裂いた。

一瞬遅れてルミナたちが敵の接近に気づき、即座に魔力を昂らせる。

俺たちの視線を受け、頭を振っていた身を紛らわせた巨大な蛇は、鋭い威嚇音を上げながら鎌首を持ち上げ、こちらを睥睨した。

「シャアアアアア……ッ!」

「成程……こりゃまた、でかい蛇だな」

■グラットンスネーク

種別:亜竜

レベル:68

状態:アクティブ

属性:地

戦闘位置:地上・地中・水中

《識別》で見えた情報を確認し、呑竜改めグラットンスネークと相対する。

その姿は想定していた通り、巨大な蛇であるのだが、その頭部だけはドラゴンのような形をしている。

形状だけを見れば、東洋のドラゴンに近い姿だと言えるだろう。尤も、空は飛べないようであるが。

蛇なのに分類が亜竜なのはどういうことかと思ったが、この見た目の通りなのだろう。

「【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》」

まずは攻撃力を強化、その上でグラットンスネークへと接近する。

フィノに聞いていた通り、その体はシリウスの胴と変わらぬほどの太さがあるだろう。

問題は、太さの比率が変わらない分、全長はグラットンスネークの方が長いことだ。

この長さでは、シリウスの体を締め上げても余裕があるほどだろう。

これは、中々に厄介な相手になりそうだ。

「ケェッ!」

先陣を切ったのはセイランだ。嵐を纏うセイランは、周囲の木々を器用に避けながら接近し、その強靭な前足をグラットンスネークへと叩き付ける。

狙ったのは頭よりも更に後ろ、首から胴体にかけての辺りだ。

頭を狙いたい所だが、噛みつかれてしまっては厄介だ。奴の頭には最大限の注意を払わなければならないだろう。

セイランの打撃を受け、グラットンスネークは大きく弾かれたものの、あまりダメージを受けた様子はない。

どうやら、打撃はあまりダメージにならないようだ。

「ならば、これはどうですか!」

「シャアアアッ!」

衝撃に弾かれたグラットンスネークに対し、ルミナが光の槍を放つ。

薄暗い森の中に光芒の軌跡を描くそれは、確かにグラットンスネークの体に突き刺さってダメージを与えた。

尤も、それでもなお、グラットンスネークはダメージを気にすることなく頭からこちらへと突っ込んできたのであるが。

「『生奪』」

斬法――柔の型、筋裂。

対し、俺はグラットンスネークの突進を右に躱しながら、刃をその身へと合わせる。

生命力を纏って鋭さを増した刃は、グラットンスネークの体に対して一直線に傷を与えたが、あまり大きなダメージにはなっていないらしい。どうやら、全体的にかなり頑丈な魔物であるようだ。

グラットンスネークは身をくねらせながら、その巨体に見合わぬ速度でこちらへと迫ってくる。

「グルァァッ!」

「シャアッ!?」

現状、最もヘイトを買っているのはルミナであり、グラットンスネークはルミナへと突撃を行っている。

その長大な体へと向けて、シリウスが勢いよく襲い掛かった。

鋭いシリウスの爪はグラットンスネークの体に突き刺さり、貫かないまでもその鱗を傷つけている。

更に鋭利な牙を使って噛みつこうとするが、大きすぎて噛みつくことは難しいようだ。

……これはまさか、あの魔法の出番か?

「……【エクステンド:『シリウス』《爪撃》】!」

「ッ! ガアアアアッ!」

一応は詠唱しておいた魔法を発動し、シリウスの爪を強化する。

瞬間、元より自身の《強化魔法》によって輝いていたシリウスの爪が、更に蒼く輝き始めた。

《昇華魔法》の新たな呪文である【エクステンド】は、スキルの効果を上昇させる効果を持つ。

それによって鋭さを増したシリウスの爪は、グラットンスネークの身に深く突き刺さりその血を滲ませ始めた。

「シャアァッ!?」

それまでは気にしていなかったシリウスの攻撃によりダメージを受け、グラットンスネークは驚いたように身を震わせる。

強引に身を捩ったグラットンスネークによってシリウスは弾かれ、近くの木をへし折りながら転倒したが、どうやらダメージは無いらしい。

変わらず戦意の高いシリウスは、大きく息を吸い込んで衝撃波のブレスを放つ。

地を抉り、木々をへし折るそのブレスは、グラットンスネークの顔面に突き刺さり、周囲ごとその身を吹き飛ばした。

「……相変わらず、レベルに見合わない威力だな」

舞い上がった木の葉を払いながら様子を見れば、グラットンスネークはダメージを受けつつも健在な様子だ。

対し、シリウスはダメージこそ負っていないものの、結構な量のMPを消費してしまった。

他のスキルの使用を考えると、これ以上のブレスは厳しいだろう。

となると、何とかそれ以外の方法でダメージを与えなければなるまい。

歩法――烈震。

グラットンスネークがシリウスのブレスで怯んでいるその内に、俺は一気にその身へと向けて肉薄する。

しかし、グラットンスネークは即座に反応して大口を開き、こちらを丸呑みにしようと迫る。

歩法――陽炎。

瞬間、俺は動きに緩急をつけてその噛みつきを回避し、グラットンスネークの頭の横に移動する。

狙うはシリウスの付けた傷跡、血の滲むその傷へと向け、俺は全力で刃を振り下ろした。

「《練命剣》、【命輝閃】!」

黄金に輝く刃が傷口へと突き刺さり、鱗を裂いてその身を斬り裂く。

シリウスのブレス以外では与えられていなかった大きなダメージに、グラットンスネークは悲鳴のような鳴き声を上げた。

「ジャアアアアッ!」

痛みに身をよじり、グラットンスネークは暴れ回る。

その体に巻き込まれぬように距離を取り――その瞬間、グラットンスネークは即座に身を翻した。

「なっ!?」

脇目も振らずに遁走するグラットンスネークに、思わず絶句する。

まさか、こうもあっさりと逃亡を選択するとは思っていなかったのだ。

とはいえ、ここまでダメージを与えておいて逃すわけにもいかない。

ならば――

「ルミナ、セイラン、追え! 逃がすな!」

「はい、お父様!」

「ケエエッ!」

必ずや素材を手に入れる。そのためにも、奴を逃すわけにはいかない。

空を駆ける二人を先行させ、俺はシリウスと共に奴の逃げた方向へと向けて駆けだしたのだった。