軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

358:庭園へと向けて

「成程、緋真と組んだのはお前さんか、フィノ」

「そうそう。誘われちゃった」

青龍王からの依頼を受けた翌日、俺はフィノにメッセージを送って『エレノア商会』の支店を訪れていた。

青龍王から受け取ったアイテムは、成長武器のレベルを素材条件を無視して一段階上げる力を有している。

これを利用して、 強制解放(リミットブレイク) を使った時のデメリットの補填をせよということだ。

だが――先に強化しておいても結果は同じなのだから、金龍王に挑む前に強化してしまった方が都合が良いだろう。

故に、まずすべきことは一つだ。

「でも、成長武器の依頼なら受けざるを得ない。今の成長素材のことでしょ?」

「ああ。とりあえず、この国で手に入る素材で一段階は成長させたいからな」

今の餓狼丸の成長段階は★6だ。これを一段階上げるための素材は、恐らくではあるがこの国で手に入るものになるだろう。

であれば、通常の手段で強化段階を一つ上げて、その後で青龍王のアイテムを使った方が都合がいい。

本来であれば至れない筈の強化段階へ、今の段階で辿り着くことができるのだから。

尤も、イベントの後はすぐに金龍王に挑むことになるだろうし、その強化による恩恵を受けられる期間はあまり長くはないだろうが。

ともあれ、金龍王に挑む前にできる限りの強化は施しておいて損はない。まずは、可能な所まで進めてしまうこととしよう。

「んー……大体は、亜竜の素材だね。一部恐竜あり」

「なら、やはりこの国で手に入る素材か」

「だねぇ。在庫については……まあ、優先的に回して貰えれば間に合うかな。プレイヤーがレベル上げに走ってるから、素材も結構集まってきてるし」

今回のワールドクエストは祭りのようなイベントだ。

しかも、その性質上かなり運の要素が絡んでくる。

つまるところ、それほど上位ではないプレイヤーでも、十分に戦える可能性があるのだ。

ジャイアントキリングに成功すればポイントも稼げるし、何かしら良い賞品を得られるかもしれない。

負けても失うものは何もないし、気安く挑める感覚なのだろう。

尤も、そのおかげで素材が集まってきているのだから、俺にとっては実に助かる話である。

「あ、でもこれだけ手に入らないかも……これ。呑竜ってやつ」

「呑竜……?」

言いつつ、フィノが示した素材は『呑竜の舌』。一瞬食材系の素材なのかと思ったが、どうやら普通に武器素材となるらしい。

舌で一体どんな武器が作れるのか全く想像もつかないが、今回はあくまでも成長武器強化のための素材だ。

どのように使うかなど、今回は考慮する必要はあるまい。

それよりも気にするべきは、何故この素材が手に入らないのかだ。

「昔にそんな名前の爆撃機があった気がしたが……これとは無関係だよな?」

「少なくとも空を飛んだりはしないよー。っていうか、地を這ったり潜ったりの方が得意だと思う」

「……つまり、蛇か?」

「そうそう、でっかい蛇の魔物だよ。一応、分類は亜竜だけど」

どうやら、亜竜も属性だけの差ではなく、かなり様々な種類があるらしい。

そこまでドラゴンから離れてくると、そろそろ普通に魔物扱いでいいのではないかと思えてしまうが。

「で、何でコイツの素材は手に入らないんだ?」

「面倒臭い敵だから、嫌われてる。先生さんのドラゴンと同じぐらいの大きさがある蛇で、こっちを丸呑みにしようと狙ってくるんだけど……とにかくひたすらタフで、しかも不利になるとすぐに逃げる。加えて普通に強い」

「そりゃ……嫌われるだろうな」

どこを取っても面倒臭い要素しかないような魔物だ。

今のプレイヤーたちは大半がレベル上げ目的だろうし、わざわざ好き好んで戦うような相手ではないだろう。

だが、俺にはその素材が必要なのだ。何としてでも狩らなければなるまい。

「それで、その呑竜とやらはどこにいるんだ?」

「えっと……場所は南西の、この湖の辺りで目撃情報があったよ」

フィノが地図に示した場所は、中々に遠いエリアだ。

行って帰ってを徒歩でやっていたら、イベントの開始にちょうどいい辺りの時間になることだろう。

「ふむ……とりあえず、行ってみるか」

「りょうかーい。楽しみに待ってるねー」

「吉報を期待しておいてくれ、と……そうだ、一つ確認しておきたかったんだ」

「ん、どうかしたの?」

俺の問いに対し、フィノは軽く首を傾げながらこちらの方を見上げてくる。

余計に子供っぽく見えるそのしぐさに内心で苦笑しつつ、俺は改めて彼女に問いかけた。

「緋真のことだ。あいつはどんな調子だ?」

「んふふ、先生さんは弟子ちゃんが気になる?」

「まあな。だが、何をしているかとか、そういう話はしなくてもいいぞ。あいつも隠しておきたいだろうからな」

フィノを仲間に引き入れたということは、そういうことだろう。

あいつは持てる全てを駆使して俺に挑もうとしている。ならば、それを事前に知ってしまうのは興醒めというものだ。

そして俺もまた、全力でそれに応えねばならないだろう。

「姫ちゃんはね、楽しそうにしてるよ。とっても目が輝いてる」

「くく、そうかそうか。そりゃ、本当に楽しみだ」

果たして、あいつの刃は俺に届く所まで練り上げられているのか。

その成果を、楽しみにさせて貰うとしよう。

* * * * *

「待たせたな。行くぞ、シリウス」

「グォウ」

『エレノア商会』から外に出つつ、邪魔にならぬよう角で待っていたシリウスへと声をかける。

周囲のプレイヤーの注目を浴びていたが、地に伏せて目を閉じていたシリウスは一切気にしていない様子だ。

相変わらず、平時は暢気なものである。

「今回の移動の間に、次の進化まで持って行きたい所だな」

「グル?」

ここに戻ってくるまでに、シリウスのレベルは二つ上昇している。

そのおかげで、何とか節目のレベルに到達し、シリウスは新たなスキルの習得に成功したのだ。

と言っても、進化ではないため大幅な変化は無いのだが。

新たに手に入れたのは《爪撃》のスキル。これは単純に《爪》の上位互換であり、爪による攻撃の威力が上昇するスキルだ。

ただし、元より鋭く攻撃力の高いシリウスの爪が、更なる攻撃力を得たのだから油断はできない。

その攻撃力は、この辺りの魔物に対しても十分にダメージを与えられるレベルの威力にまで到達している。

おかげで、レベル上げの効率も少しずつ上がってきているだろう。尤も、元のレベルが上がり辛いため、それでもまだまだ時間がかかるのだが。

「ソードドラゴン・レッサーだし、次に進化したらソードドラゴンだろ。そこまで行ったら、十分に戦力に数えられそうだな」

「シリウスのこと、気に入られてますね」

「やはり、ドラゴンというのは心が躍るものさ。育てるのも、戦うのもな」

龍育師の連中が生き生きとしている理由も分からなくはない。

ドラゴンたちは、実に個性的な成長をする。俺が詳しく知るのはシリウスだけだが、それだけで魅了されてしまうほどの魅力を持っているのだ。

果たして、こいつはどこまで行けるのか。あの青龍王と同格の領域まで至ることができるのか。

少しずつでも前に進んでいると、そんな思いを抱いてしまうものだ。

「無論、お前たちの成長にだって期待しているぞ。お前たちの場合、むしろ先が予測できないからな」

「そ、そうですか? 無論、私たちだってお父様の期待に応えてみせます」

「ああ、期待しているぞ」

恐らく、セイランはそろそろ 嵐王(ワイルドハント) が見えてきている気もする。

だが、ルミナに関しては何が来るのか想像もできない状況だ。こいつらの成長も、中々に楽しみなものである。

とはいえ、全貌の分かり辛さではシリウスも似たり寄ったりと言ったところだ。

今後覚えていくスキルも、特殊なものが増えてくる可能性が高い。戦略の幅が広がることを期待したい所だ。

ちなみに、もう一つ覚えたスキルは《威圧》である。セイランも使っていたスキルであるため、どのような性質であるかはある程度把握しているが、ドラゴンが使ったら中々の迫力になりそうだ。

「さて、シリウスの進化のためにも、行くとするか。呑竜とやらを片付けるとしよう」

面倒そうではあるが、ネームドモンスターというわけでもない。

散歩がてらに片付けてしまうこととしよう。