軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

354:帝国での放浪

コロシアムで盛大に煽った後、俺はテイムモンスターたちを引き連れて帝都を後にした。

メジャーリーグも色々と気になりはしたのだが、まずはこの国の石碑を解放することを優先したのだ。

帝国は完全に悪魔を退けているため、聖火の塔を解放する必要はない。

まあ、聖火のランタンを手に入れたいプレイヤーたちからすれば困った状況かもしれないが、悪魔の干渉がないことは素直に喜ぶべきだろう。

「しかし、プレイヤーは耳が早いな」

「お父様の力に頼ろうとする意志が透けて見えていました。私、ああいう人間は嫌いです」

「ああいうのは一定数出てくるからな、仕方あるまい」

俺がコロシアムでぶち上げた宣言は、既に多くのプレイヤーに周知されているらしい。

掲示板の書き込みか、はたまた口コミか。俺たちは優勝候補のチームであったし、それが一人で参戦するとなれば注目されるのも無理はないということだろう。

俺を攻略するために様々な作戦を立ててくるのであれば大いに結構、それを正面から食い破ってやるまでだ。

尤も、そうやって挑む気概すらないやつも結構な数いるわけだが。

「俺を誘うつもりなら、せめてアルトリウスぐらいの実力はあってほしいもんだ」

「……せめての基準が高すぎませんか?」

「くはは、そうかもな」

俺が街を出る前、話を聞きつけたプレイヤーがいくらか話しかけてきたのだが、そのどれもがパーティを組まないかという誘いだった。

現時点で帝国に入っているということから、ある程度は実力のあるプレイヤーなのだろうが、肩を並べて戦うにはあまりにも実力が足りていない。

いや、足を引っ張ってこちらを不利にするという意味では、もしかしたら役に立つのかもしれないが。

どちらにせよ、今回のイベントにおいて、俺は誰とも組むつもりは無いのだ。

――緋真の成長を見るのに、他の余分な要素など加える必要は無いのだから。

「お父様は、随分と意気込んでおられますね?」

「そうだな。自分で言うのもなんだが、随分と楽しみだ」

元より、俺が久遠の当主になることはほぼ確定していた。

俺がジジイを超えるか、或いはジジイが衰えて引退するか――どちらが先になるかは分からんが、俺が当主に就任することはほぼ内定していたと言っても過言ではない。

そして明日香を直弟子にすることも確定していたし、錬成の儀はいつか必ず訪れる行事であったのだ。

正直、ジジイに勝つまではそんなことを考える余裕もなかったが、いざあいつを直弟子にしてからは、錬成の儀についてちょくちょく考えることはあった。

緋真は間違いなく天才だ。いつか必ず、俺の求めるレベルに辿り着けると確信していた。

「お父様、一つお尋ねしてよろしいですか?」

「ん、何だ?」

帝都シルヴァリオからさらに西へ、街道を外れて歩き出した辺りで、ルミナが声をかけてくる。

思えば、ルミナは緋真がいるとかなり控えめであるため、こうして一対一で話をするのは久しぶりな気がする。

そんな俺の感慨を知ってか知らずか、ルミナはおずおずとした様子で続けた。

「あんな風に煽って、大丈夫なのでしょうか? お父様がたくさん狙われることになるのでは……」

「それが狙いなんだから構わんさ。それ位でもなけりゃ面白くないだろう?」

「ですが……」

「心配性だな、お前は」

確かに、俺と緋真は多数のプレイヤーに狙われることになるだろう。

俺たちは優勝候補であり、逆に言えば俺たちを倒さなければ優勝することは難しい。

徒党を組んで襲い掛かってくるか、或いは罠を準備するか。

何にせよ、それ位の試練を潜り抜けられなければ、錬成の儀など夢のまた夢だ。

俺は、緋真があらゆる敵を駆逐して俺の元まで辿り着くことを期待しているのだ。

「俺としては、むしろ楽しみにしているんだ。どんな敵が俺を狙いに来てくれるのか、どんな趣向を凝らしてくれるのか。メインディッシュの前の前菜にはちょうどいいだろう」

「緋真姉様のことを、そんなに期待されているんですか」

「ああ、あいつは俺の域に届き得る逸材だからな」

本人の前で言うと調子に乗るので言わないが、緋真は紛れもなく天才だ。

そしてここに至るまでの戦いで、確実に成長を見せている。

今のあいつならば、多数のプレイヤーを相手にしても十分に渡り合えると、俺はそう評価しているのだ。

「何、負けても死ぬわけじゃない。存分に楽しめばいいのさ」

「……分かりました」

ルミナはまだ不満げではあるが、俺の言葉に納得したようだ。

さて、話もまとまったところで、先に進むこととしよう。

とりあえず、イベントにはあまり関係はないが、シリウスのレベル上げも行いたい所であるし――

「グルァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「っと……良いタイミングだな」

突如として響き渡った咆哮に、軽く眉根を寄せながら視線を向ければ、そちらからは巨大な爬虫類が走ってくるところであった。

その姿は、まさに恐竜と言うべきものであるが幾度か戦ったディノラプトルとは異なる敵だ。

大きさはシリウスよりも一回り大きく、四つ足で勢いよくこちらへと駆けてくる。

頭だけ見ればティラノサウルスのようにも見えるのだが、四つ足であるため奇妙な印象が否めない。

■ディノレックス

種別:魔物

レベル:68

状態:アクティブ

属性:地

戦闘位置:地上・水中

どうやら、ディノラプトルの上位に位置するような魔物であるらしい。

とはいっても、あれがそのまま進化してこの姿になるとは思えないのだが。

この辺りはドラゴンやら恐竜やらが多いため、どうにも大型の魔物ばかりだ。

この場合は――

「シリウス」

「ガアアアアアアアッ!」

劈くような叫び声をあげ、シリウスがそれを迎え撃つ。

大きさはディノレックスの方が大きいが、恐らく重量では負けていない筈だ。

大質量を持つ二体は正面から激突し、周囲に凄まじい衝撃を走らせる。

びりびりと肌を叩く衝撃に思わず笑みを浮かべながら、俺は餓狼丸を抜き放った。

「のんびりとした話はここまでだ。敵を倒しつつ先に進むぞ」

「了解です、お父様」

ルミナはまだ完全には納得できていないようだが、今はそれどころではない。

物理攻撃一辺倒のディノ系とはいえ、ここまで巨大となると流石に油断できる相手ではない。

シリウスも《硬質化》のスキルを使い、更に自身を《強化魔法》で強化することによりダメージを軽減しているらしい。

防御を固めたシリウスの防御力は凄まじく、ディノレックスの体当たりや腕による攻撃にも大したダメージを負った様子はない。

唯一のダメージは、強靭な顎によって噛みつかれた際のダメージのようだ。

ディノレックスの噛みつきは、頑強極まりないシリウスの鱗すら割って、その下の肉に突き立っているらしい。

「グルッ……ァアアアアアアッ!」

しかしながら、シリウスも決して負けてはいない。

槍のごとく鋭いシリウスの牙は、ディノレックスの強靭な肉体に突き刺さり、その肉を抉っている。

総合的に見ればシリウスの方がダメージを与えているだろうが、決して油断できる状況ではなさそうだ。

こいつを相手にするときにはきちんと手を貸すようにしようか。

「ルミナ、セイラン。お前たちも行け!」

「はい!」

「ケエエエッ!」

勢いよく上空へと飛び出したルミナたちはそれぞれ思い思いにディノレックスへと攻撃を開始する。

ルミナは魔法で、そしてセイランは打撃で。どちらももみ合うシリウスには当たらぬよう気を付けながら、正確にディノレックスのHPを削り取っていく。

しかし、こうしてもみ合うように暴れていると、流石に俺も手が出しづらいのだが――

「やるしかあるまい。【ミスリルエッジ】、【ミスリルスキン】、【武具精霊召喚】、【エンハンス】、《剣氣収斂》」

各種魔法とスキルを発動し、餓狼丸の攻撃力を高める。

ディノレックスは強い魔物ではあるのだが、流石に成長武器の解放が必要なほどではないだろう。

そのままディノレックスに接近するのだが、シリウスともみ合っている状況であるため、こちらも接近しづらい。

流石に、戦闘中のシリウスに触れることは危険であるため、何とかして隙を見つけなければならないだろう。

「さて、どうしたもんかな、と」

二体でもつれ合って地面を転がっている状況では流石に近付けない。下手に近付いたら下敷きにされてそのままお陀仏だ。

しかし、シリウスも徐々に押され始めており、このまま放置することもできないだろう。

攻めあぐねて眉根を寄せた、その瞬間――ディノレックスは《斬鱗》の接触を嫌ったのか、大きく体を振ってシリウスの巨体を弾き飛ばした。

対し、シリウスは地面に深い爪跡を残しながらも体勢を整え、止まった瞬間に大きく息を吸う。

あれは――

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「グギャアッ!?」

瞬間、凄まじい咆哮と共に、シリウスの口から衝撃波のブレスが撃ち放たれた。

斬撃を伴う衝撃波、それはシリウスへと追撃を仕掛けようとしていたディノレックスの顔面に正面から突き刺さる。

シリウスにとって最大の一撃が急所に直撃しては、流石の恐竜もダメージを無視できなかったのだろう。ディノレックスは悲鳴を上げてその場にひっくり返ることになった。

「《練命剣》、【煌命閃】!」

無論のこと、その隙を見逃す筈もない。

生命力を注ぎ込んだ一閃で狙うのは、ディノレックスの右前足だ。

ディノレックスにとって大きな武器の一つ、シリウスを苦しめたそれが欠ければ、シリウスの攻撃を抑え込むことはできなくなるだろう。

俺の動きを見たルミナとセイランは、逆に左前脚を狙い渾身の一撃を叩き付ける。

黄金の軌跡と、魔力を纏う一撃。その三つの攻撃は、目論見通りにディノレックスの前足の骨を断ち斬り、へし折った。

「ギャアアアアアッ!」

悲鳴を上げ、ディノレックスは身を捩って暴れる。だが、その時には既に、俺たちは後方まで退避していた。

そして――

「――――ッ!」

大きく上空に飛び上がったシリウスが、宙返りしながら長い尾を叩き付ける。

空を裂くその一撃は遠心力と重力の勢いを伴い――ディノレックスの頭蓋を叩き割ったのだった。

『テイムモンスター《シリウス》のレベルが上昇しました』