軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

341:開戦の日へ向けて

北東の都市まで移動し、現状の拠点である南の都市まで石碑の機能で移動する。

都市に着くまで戦闘を繰り返していたのだが、まさかシリウスのレベルが5までしか上がらないとは思わなかった。

どうやら、真龍はレベルを上げるのに結構な量の経験値を必要とするらしい。

一応、これでもそれなりに早くレベルが上がっている状態なのだろうが、流石にもうちょっと強化しなければ前線まで連れだすことは難しい。これは中々に難儀しそうなものだ。

人の多い街中に入ると、当然ながらプレイヤーの視線が大量に集まってくる。

その視線の向かう先は、言うまでもなくシリウスだ。

当のドラゴンは、視線を向けられていることなどさして気にした様子もなく暢気に歩いているのだが。

「話はすっかり広まってるみたいだな」

「そりゃまあ、仕方ないですよ。そのうちアルトリウスさんの方に注目が集まるんじゃないですか?」

「あいつの方が人当たりはいいからな」

どうも、俺は他のプレイヤーから恐れられている節がある。

戦い方が一般人には少々刺激の強いものであることは否定できないし、そういった印象を抱かれるのも仕方のない話ではあるのだが。

むしろ、こういった場所では変に近寄ってこようとしないだけありがたい部分もある。

ともあれ、そうして遠巻きに視線を集めながら向かった先は、『キャメロット』が拠点として利用している屋敷だ。

正確には『キャメロット』の所有物ではなく、聖女ローゼミアの逗留場所であり、彼女の護衛のためにアルトリウスたちが詰めているというだけなのだが。

ほとんど顔パスで通れる俺たちは遠慮なく中へと入り、そのまま中にいた使用人にアルトリウスの元まで案内して貰う。

どうやら現地人のようだが、使用人の格好をした者たちの中にはプレイヤーも混じっていた気がする。

あれはいったい何をしているのか――いや、深く考える必要はないだろう。

そうして案内された先は、大広間となっている部屋の一角であった。本来はパーティルームなのだろうが、生憎と今ここに集まっているのはそれを目的とした者たちではないらしい。

「これは……早速卵の孵化をやってるのか」

「流石、『キャメロット』は効率よくできるわねぇ」

「何か言いたいことでもあるのか、アリス?」

含みのある言葉に半眼を向ければ、アリスは半笑いの表情で視線を逸らした。

その様子に軽く嘆息しつつ、ぐるりと広間を見渡す。広い部屋ではあるが、あいつならばある程度目立つ場所にいることだろう。

その予想通りと言うべきか、アルトリウスはローゼミアを伴い、卵の傍に立っていた。

彼らの足元には、何やらスキルらしき見慣れぬ魔法陣が広がっている。

「おい、アルトリウス」

「どうも、クオンさん。今後の活動方針についての相談ですか?」

「話が早いこったな、お前さん」

こちらを見透かしたようなアルトリウスの言葉に、軽く溜め息を零す。

今回の戦いで、短い期間ではあるものの、悪魔たちとの間で休戦協定を結ぶことになった。

いや、協定というよりは一方的な通告だが。俺たちは奴らの領域には入れず、奴らもまたこちらに入ってくることはできない。

果たして本当に約束を守るのかという疑念はあったが、それについては他でもない、アルトリウス当人から保証された。

曰く、マレウスは必ず約束は守る、ということだ。人類の脅威を自称するあの女は、奇妙なまでに律儀な性格をしているらしい。

「とりあえず、あの結界が解除されるまでは、ひたすら強化に勤しむしかないですね。現状、僕たちはまだ悪魔と正面から戦えるほどの戦力を有していません」

「……悔しいが、その通りだな」

力の七割しか発揮できておらず、またこちらを試そうとしていたディーンクラッドを相手にあれほど苦戦したのだ。

今の状況では、他の公爵級や更に上の大公級を相手にできるとは到底思えない。

あの結界が解かれるまでに、そんな奴らと戦えるだけの力を得なければならないのだ。

今のままでは、到底届きはしないだろう。

「となると、レベル上げか……やはり帝国に行くべきか?」

「『キャメロット』からもある程度派遣していますが、どうやらシェンドラン帝国の領地はこちらよりも魔物が強いらしいですね。確かに、レベル上げには向こうの方が向いていると思います」

「悪魔はいないけどな」

シェンドラン帝国――先日倒したグランドドラゴンの先にある、このゲーム世界における大国の一つだ。

だが俺にとって、この国は只者ではない印象を抱く場所である。

何故なら、彼らは俺たち異邦人の介入を必要とせず、独力で悪魔を退けた唯一の国家であるからだ。

国の規模からして侯爵級、下手をすれば公爵級が出現していたかもしれないのに、それを打破したのである。

果たして、彼らはどれほどの武勇を有するのか……本当に気になる所だ。

「シェンドラン帝国、ですか……彼らであれば、悪魔を退けたことも納得できます」

「ローゼミア様。帝国についてご存じなんですか?」

「はい。私は政から離れていましたが、それでも帝国の概要程度ならば知っています。そして……それだけで、彼らの勝利を納得できるのです」

アルトリウスが卵に魔力を注いでいる様子を眺めていたローゼミアが、視線をこちらへと向けて会話に加わってくる。

若干驚いた様子のアルトリウスは、そんな彼女へと向けて意外そうな表情を浮かべながら問い返していた。

対し、ローゼミアは普段通りの柔和な笑みを浮かべて続ける。

「シェンドラン帝国は、銀龍王様と契約されている国です。悪魔との戦いとあらば、銀龍王様も力を貸して下さったことでしょう」

「銀龍王……そういえば、帝国にいるんだったか」

「真龍たちの王……属性ごとに特化した真龍たちを纏め上げる頂点こそが、それぞれの色を持つ龍王です。銀龍王様は氷の龍王。シェンドラン帝国は、世界で唯一、龍王と契約を結んだ国家なのです」

その言葉に思い浮かぶのは、かつて上空を飛翔していた銀色のドラゴンの姿だ。

隣国にいるとは聞いていたが、まさか国と契約を結んでいるとは思わなかった。

まあ、真龍が群をなして生息しているのであれば、悪魔を退けられたとしても不思議ではない。

尤も、実際の戦況を見ていないため、果たしてどの程度の戦いだったのかは全く分からないが。

「まあ、とりあえず……帝国に向かうってことでいいんだな?」

「はい、魔物の強さもここより上ですから、修行にはピッタリかと」

「ふふふ。それに、クオン様にとっては国自体も楽しい場所かもしれませんよ?」

「ほう……と言うと?」

「それは着いてからのお楽しみです」

そう言って、ローゼミアは口の前に人差し指を立てながら笑みを浮かべる。

どうやら、悪魔を完全に退けたことによって、この聖女様にも多少の余裕が生まれてきたようだ。

しばらくの間悪魔に捕らえられていたのだから、その反動が来たとしても無理は無かろうが。

明るくなった分には特に問題もないだろうと、そんな彼女の様子に笑みを浮かべながら声を上げる。

「成程、それなら楽しみにさせて貰うとしよう」

「はい。ご活躍を期待しております」

とりあえず、聞くべき話は聞けた。アルトリウスの真龍も気になるが、いずれ確認する機会はあるだろう。

今はレベルを上げつつ、西へと向かうこととしようか。

「っと……そうだクオンさん、一つお聞きしたいのですが」

「おん? どうかしたか?」

そろそろ辞去しようかと思ったちょうどその時、アルトリウスに呼び止められ、思わず眼を見開く。

アルトリウスから問われるとすればドラゴンのことだろうか?

生憎と、現状分かっているのは他の魔物よりレベルが上がり辛いことぐらいなのだが。

しかし、アルトリウスが口に出したのは、それとはまったく関係のない話であった。

「クオンさん、『大地の楔』っていうアイテムを知りませんか?」

「『大地の楔』?」

聞き覚えのある名前だ。何だったかと思考を巡らせ――俺が答えに辿り着く前に、アルトリウスは続けた。

「マウンテンゴーレムから手に入るアイテムなんですが……建材に使うアイテムです」

「ああ! あれか、確かに一つ持ってるぞ」

「良かった、できれば譲って貰えませんか? 聖都の再建のため、集めているんです」

「成程、そういう風に使うアイテムだったのか。俺が持ってても使わんし、買い取ってくれるならこちらとしてもありがたいが」

「ありがとう、助かります」

元より俺に扱える代物ではなかったわけだし、さっさと売り払ってしまった方がいいだろう。持っていても何の役にも立たないのだから。

それならば、あの完全に崩壊したシャンドラの再建のために使った方が何倍もマシだ。

あそこはディーンクラッドが暴れ回ったせいで完全に瓦礫の山になっているし、これで修復が進むのであれば願ったり叶ったりだ。

アルトリウスやエレノアにしても、その方がやりやすくなるだろうしな。

「では……この金額で」

「別に金には困ってないからタダでも構わんがな。ま、貰えるもんは貰っておくが」

「流石に無料だと後で面倒が起きかねませんからね。貰っちゃってください」

変に文句をつけられても面倒だし、金を払って貰えるのだから別に文句もない。

俺は『大地の楔』はアルトリウスに売り払い、改めて声を上げる。

「それじゃあ、俺は帝国の方に向かう。お前さんも準備ができたら来るんだろう?」

「ええ。今は少し忙しいですが、落ち着いたら向かいます」

「それがいいだろう。じゃあな」

ローゼミアにも一礼し、踵を返す。

目指す先は帝国領。果たして、どのような敵が待っているのか――実に、楽しみだ。