軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

034:現れる真実

騎士団を招き入れ、捕えていた私兵たちを引き渡す。

ついでに、先ほど撃退した暗殺者たちの死体も一緒にだ。

流石に 騎士団長(クリストフ) は顔を出していなかったが、以前詰所に行った時に顔を見た騎士は一人付いてきていた。

どうやら、彼はクリストフの側近らしく、ランベルク家に対しても好意的だ。

いや、元々騎士として優秀だったシュレイドのことは、多くの騎士たちが尊敬しているようで、今回やってきた面々もそういったメンバーで構成されているらしい。

まあ、貴族出身の騎士たちには、成り上がり者と蔑んでいた者もいるらしいが。

「ではクオン殿、ご協力ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。少々手に余る状況でしたから」

「こちらも手の出しづらい問題でしたから。進展するのであればこの程度、大したことはありませんよ」

まあ、官憲である以上、表面化した犯罪でもない限りは対処しづらいだろう。

一応、伯爵家の方も今までは犯罪になるような行為は避けていたようであるし、クリストフとしては頭の痛い問題だったはずだ。

とはいえ、手勢が騎士団に引っ立てられたとなれば、伯爵家もこのまま静観とはいかなくなるだろう。

暗殺という強硬手段にまで出たのだ、ここから先、何も手を出してこないとは考えづらい。

となると、このまま彼らを見送るだけというのは、少々不安が残る。

騎士団に実力が無いとは言わないが、目に見えない場所で事態が推移するのは避けたいのだ。

であれば――

「……リリーナ、一つ提案があるのだが」

「あ、はい。何かしら?」

「お前さん、この後騎士団の方に顔を出さないか?」

「え?」

血痕を掃除しているエルザの様子を眺めていたリリーナは、俺の言葉に虚を突かれたように眼を見開く。

予想していなかった言葉だったのだろう。まあ、俺としても唐突であることは否定できないのだが。

色々と理由はあるのだが、とりあえずは建前側の理由を話しておこうと、肩を竦めて声を上げる。

「親父さんの顔、見ておきたいだろう?」

「っ……それは」

「倒す時に首を落としちまったのは申し訳ないが、それでも一度ぐらいは顔を合わせた方がいい。俺が言うのもどうかとは思うがな」

「……いえ。貴方の言うとおりだわ。ずっと逃げてたら、きっと後悔するだろうから」

毅然とした表情で顔を上げたリリーナに、俺は笑みを浮かべて首肯する。

まあ、結局の所、葬儀の時に会うことにはなるのだろうが……あらかじめ見ておいた方が覚悟もしやすいだろう。

彼女の決意を受け取り、俺は護送の騎士に改めて声をかけていた。

「というわけで、彼女らも一緒に行くことになりました」

「はぁ……いえ、確かに一度来た方がいいとは思いますが、大丈夫なんですか?」

まあ、現在進行形で問題に巻き込まれているのだから、自分の権利が主張できる敷地内から出すのは不安が残る。

だが、事態はそれ以上に厄介な方向まで推移してしまっているのだ。

小さく嘆息し、俺は騎士に近寄って小声で告げていた。

「既に屋敷の中にまで侵入して攻撃を仕掛けてきていますからね。ここはもう安全とも言い難い。安全地帯である騎士団にいてほしいというのが一つ」

「……他にも何か理由が?」

「そちらも既に警戒しているでしょう? 暗殺者まで動かして口封じをしようとしてきたんだ、これで襲撃が終わるとはとても思えない。俺たちも護送についていきますよ」

「しかし、それでは彼女たちに危険が……!」

「我々のメンバーのうち、四人は彼女たちにつけておきます。十分に対処は可能でしょう」

相手にもよるが、雲母水母たちが四人揃っているのであれば、格上相手でも時間稼ぎは十分に可能だろう。

攻撃側の俺としても、下手に護衛対象を気にするよりはそちらの方が戦いやすい。

正直な所、男爵級悪魔が複数体出てきたりしない限りは何とかできる自信があった。

騎士はしばし困惑した様子で黙考していたが、やがて決心したのか、一度頷いて俺の目を見返していた。

「分かりました、やりましょう……彼女たちのこと、よろしくお願いします」

「ええ、必ず護衛を全うしましょう」

こちらも首肯を返してリリーナの方へと向き直れば、彼女は掃除を終えたエルザに話しかけている所だった。

どうやら、これから騎士団に顔を出すことを伝えているらしい。

まあ、乗り気になってくれたようで何よりだ。これで護送の様子を見送るだけにならずに済む。

しかし、色々と不安が残ることも事実だ。警戒は絶やさぬようにしなければならないだろう。

「雲母水母、準備はいいか」

「はーい。リリーナさんたちの周囲を固めてればいいんですよね?」

「ああ、頼む。俺は周囲を警戒しているから、あまり余裕はないと思うが」

「いえいえ、頼りにしてますって」

快活に笑う雲母水母の言葉に苦笑しながら、俺たちは屋敷の外へと移動する。

そのまま少し待てば、縄で繋がれた襲撃者たちと、その周囲を固める騎士、そして後に続くリリーナとエルザが姿を現していた。

エルザがきちんと施錠しているのを横目に見つつ、俺は全体の真ん中あたり、雲母水母たちはリリーナの傍へと移動する。

「では、これより襲撃犯の護送を行う。各員、周囲への警戒を怠るな!」

『はっ!』

「く……ッ」

悔しげに声を漏らしている私兵であるが、流石にこの状況でまで騒ぎ立てるつもりはないようだ。

そんな様子を後ろから眺めつつ、俺たちは騎士団へと向けて出発していた。

隣に立っているのは、この隊の隊長らしき顔見知りの騎士だ。

ふむ……彼に対しては、一応説明しておいた方がいいかもしれない。

「隊長殿。ここだけの話にしておきたいが、一つ伝えておきたいことがあります」

「クオン殿? 何か問題が?」

「まあ、問題と言えば問題ですがね」

ただし、それが事実であるとするなら、国を巻き込む大問題になるわけなのだが。

一応、まだ確証があるわけではない。状況証拠だけで、正式に話ができるというわけではないのだ。

相手が貴族と言うだけあって、大仰に伝えるのは流石にリスクが高い。

「フェイブ伯爵家に、悪魔と関与している疑いがあります」

「な……ッ!? まさか、そのようなことが――」

「まだ疑いの段階ですがね。先ほどの暗殺者にカマをかけたら少し反応していたので、可能性はある、という程度ですが」

「……仮に事実だとしたら、それは由々しき問題です。ですが、流石に疑惑だけでは詳しく調査することは……」

「ええ、それは分かってますよ」

相手は貴族だ。確たる証拠が無ければ、強制捜査に乗り出すことはできないだろう。

まあ、現状では仕方ないことではある。面倒だが、もっと確かな証拠を手に入れなければならない。

正直な所、俺としても懐疑的な部分は残っている。

あの悪魔どもが、人間と取引などを行うのか。言葉こそ通じるものの、奴らが人間に――否、生物に対して持っている敵意は並大抵のものではない。

あの有様で人間と協調できるとは、とてもではないが考えられなかった。

「まあ、可能性の一つとして覚えておいてください。現状、どこまでが事実なのかは全く分かりませんから」

「……分かりました、気をつけておきます」

半信半疑ではあったようだが、騎士は俺の言葉に頷いてくれた。

別に信じて貰えずとも構わない。その可能性があるということを知っておいてもらうことが重要なのだ。

知識のあるなしは、土壇場における動揺の低減の効果がある。

何も知らずにいるのと、多少耳にした程度であっても知っているのは、天と地ほどの差があるのだ。

思い悩んだ様子の騎士を横目に見つつ、俺は意識を周囲に広げた状態のまま歩を進める。

道は先ほど通ってきたルートを逆行する形だ。既に一度通っているし、特に真新しい物があるわけではない。

だからこそ、異常があれば分かりやすいということでもあるのだが、今のところそういった異常の様子はなかった。

(暗殺者の襲撃からほとんど時間は経っていなかったしな。全滅させたし、まだ報告が行っていないのか?)

であれば、この護送の間ぐらいは動きはないかもしれない。

そう思いつつ大通りに差し掛かったところで、街の北側からやってくる一団の姿が目に入っていた。

此処は南側の平民街と貴族街の境界に近い場所。となれば、北側からやってくるのは当然貴族の人間だ。

「げっ……」

あまり上品とは言えないリリーナの声が耳に入り、彼女の方へ視線を向ければ、案の定例の一団の方を見つめて顔を顰めていた。

俺は隣の騎士に手で連中のことを示しながら、若干彼らの方へと向かって立ち位置を移動させる。

改めて姿を観察すれば、中央に立っているのは一人の少年だった。

線が細いが、身長は低くはない。全体的にひょろりとした印象を受ける人物だ。

相手はこちらの姿を捉えている様子であったが、今は別に呼び止められているというわけでもない。

小さく嘆息しながらもそのまま騎士団の方へと進み――そこで、その一団から声が上がった。

「待ちたまえ、騎士団の諸君!」

「……はぁ」

仕草は見えないようにしているが、あからさまに憂鬱そうな表情で溜息を吐く騎士。

その様子を苦笑交じりに横目に見ながら、俺は一団の様相を確認していた。

兵士の数は十五人。その中心に立っているのが、今声を上げた細身の少年だ。よく見れば、十五人の中には先ほど逃がした連中の姿も含まれている。

あの無様に逃げ出した連中を再度連れてきているというのはちょっと意外だった。よほど人員が足りていないのだろうか。

何にせよ、この世界に公務執行妨害があるのかどうかは知らないが、任務中の騎士を呼び止めるとは中々いい度胸をしている。

「……何か御用ですかな、クライス・フェイブ殿」

「無論、用だとも。僕の部下を返して貰う、というね」

向き直った騎士の言葉に対し、予想していた通りの伯爵令息は偉そうにふんぞり返って声を上げる。

しかしまさか、堂々と返還要求をしてくるとは思わなかった。

ちょっと考えれば、そのような発言が通るはずもないと分かるだろうに。

「お断りします」

「そうだ、速やかに彼らを引き渡し――何だと?」

「お断りいたします。彼らは許可なく私有地に押し入り、紛れもなく犯罪を起こしている。正式な手続きもなく、彼らを解放することはできませんね」

「ッ……貴様、本気で言っているのか!」

その問答を呆れた表情で眺めつつも、相手の動きを確認する。

私兵十五人の動きは、先ほどやってきた連中と大差はない。要するに雑魚しかいない。

この程度ならば、俺一人で相手をしても十分に対処しきれるだろう。

ただ、問題は――碌に鍛えてもいなさそうな、この伯爵令息だ。

見るからに素人、体も鍛えられていないひ弱そうな人物。しかし、そうであるにもかかわらず、俺の勘はこの少年相手に警鐘を鳴らしていた。

これは、何だ。こいつはいったい何を隠している?

「異邦人に騙され、攻撃されたのだぞ! 何故その異邦人どもを捕えない!? 騎士団の怠慢だ!」

「異邦人の彼らは、不法侵入して攻撃を仕掛けてきたこの者たちを迎撃したに過ぎません」

「出まかせだ! どこの馬の骨とも知れぬ異邦人の言葉など信用できるものか!」

「信用できますとも。彼らは我らが騎士団長が認めた人物。悪魔を討ち、妖精に認められた彼らを信用しない理由が無いのでね」

押し問答は周囲に響き渡っているが――今の騎士の一言で、俺の方へと視線が集中した。

正確には、俺の肩に乗っているルミナの方へ向かって、だが。

妖精に認められるというのは、やはり中々の信用条件であるらしい。都度都度助けになってくれることに感謝が絶えないな。

いつもの妖精パワーのおかげで、周囲の支持は、今の一言と共に随分とこちらに傾いたようだ。

「ぐ、この……貴様!」

「おん?」

どうやら、なんとか殿は矛先をこちらに向け直したらしい。

まあ、それならそれで対応してやるだけなのだが、できればもう少し観察しておきたかった。

未だこいつの持つ気配の正体が分かっていない。あまり大胆な接触は避けるべきだろう。

既に名前は忘れたが、何とか伯爵令息はずかずかと俺の方へ接近し、こちらへと手を伸ばしてくる。

どうやら、胸ぐらを掴み上げようとしているらしい。別に簡単に避けられるのだが、近くでじっくり観察したいという思いもある。少し大人しくしておくのもいいだろうか。

「貴様のような異邦人風情が、我らに楯突いて――づぁっ!?」

「なっ!?」

少年が俺の胸ぐらを掴み上げようとした、その瞬間。

俺の胸元がばちりと光り、彼の手を強く弾いていた。

一瞬何が起こったのか分からず、周囲が一時静まり返る。

俺自身、いったい何が起こったのか分からず、何かあったかと着物の内側に手を入れ――そこにある硬い感触に、思わず目を見開いていた。

それは――首にかけたままになっていた、紋章を象るペンダント。

「それは、アドミナ教の聖印……?」

「……悪魔の力を退ける聖印だ。これがあったからこそ、街道の悪魔を斬れたわけだが……お前さん、これに触れられないのか」

「ぶ……無礼だぞ! 誰に向かって口を開いている!」

「無論、分かっているとも。悪魔との繋がりが疑われるフェイブ伯爵家の、その令息様とさ」

言い放ち、俺は太刀を抜き放つ。

俺の発言にざわめく周囲に緊張が走り――その中心で、目の前の相手から視線を逸らさぬまま、殺気を込めて問う。

「――答えろ。悪魔が人間の街で、いったい何を企んでいる」

確信を込めた、その言葉。

それが響いた刹那――少年の口が、横に裂けるように広がっていた。