軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

327:人よ、祈りと共に輝きを示せ その6

最初の遭遇時を含め、ディーンクラッドはこれまで一度として攻勢に出たことは無かった。

それは奴自身の余裕の顕れであり、そもそも俺たちが同じ土俵に立てていなかったということでもある。

しかし、ここに至って奴はついに己の武器を抜き放った。

黒く染まった、禍々しい剣。その一振りを手に、ディーンクラッドはただただ愉しそうに笑う。

「さあ――踊るとしよう」

そう告げた刹那――ディーンクラッドの足元が爆ぜ割れた。

その気配を感じ取り、俺は即座に体を半身にする。そして次の瞬間、俺が立っていた場所を、ディーンクラッドの刃が上段から斬り裂いていた。

「……ッ!」

風林火山の内、風の術理を高める。

視界がモノクロに染まらぬ限界を見極めながら観察すれば、ディーンクラッドの一撃はその余波だけで石造りの床を斬り裂いたことが分かった。

元より分かり切っていたことではあるが、とんでもない威力である。

これでは、パルジファルですら正面から受け止めることは不可能だろう。

「やはり、君なら躱せるか!」

「ッ、『生奪』!」

横薙ぎに振るわれた刃を身を屈めて回避し、その脇腹へと刃を振るう。

餓狼丸の吸収も終わり、既に攻撃力は最大限に高まっている状態だ。

俺の攻撃は十分に届き、ディーンクラッドのHPを削る――だが、その量は決して多くはない。

対し、ディーンクラッドの攻撃が直撃すれば、こちらはひとたまりもないだろう。

(不利な条件にも、程があるだろう……!)

分かっていたことではあるが、この嵐のような攻撃に晒されては文句の一つも言いたくなる。

振り下ろされた一閃に対して、こちらは更に肉薄してその剣閃の内側まで入り込む。

そのままディーンクラッドへと密着した俺は、肩を触れさせながら強く足を踏み込んだ。

打法――破山。

全力の衝撃を叩きつけ、ディーンクラッドを後方へと押しやる、

当然と言えば当然だが、この程度ではまるでダメージを受けた様子はない。

餓狼丸で攻撃しているわけではないため、それは仕方のない話であるが――

「ははははっ!」

「――――ッ!」

距離を開いたディーンクラッドは、振り上げた刃に魔力を収束させる。

それ感じ取り、俺は即座に横へと身を躱した。

その直後、ディーンクラッドが刃を振り下ろすと共に、黒い衝撃波が刃となって空間を斬り裂いてゆく。

【命輝一陣】と似たような攻撃であるが、その威力は段違いであった。

俺はその衝撃波を掻い潜るようにしながら、再びディーンクラッドへと向けて接近する。

「いいな、一体どうなっている? 君の動きは本当に読み辛い!」

身体能力の差だろう、ディーンクラッドの攻撃は凄まじい速さで繰り出される。

俺がそれに対応できているのは、林の勢――寂静の効果があってこそだろう。

俺はこいつの動きを先読みし、その呼吸を読み取って攻撃を繰り出される前に回避行動を行っているのだ。

一度でも読みを外せば、その時点で詰む可能性は高い。それほどのリスクを背負わねば、この悪魔に食い下がることはできないのだ。

「『生奪』……!」

斬法――剛の型、輪旋。

ディーンクラッドの視界から逃れるようにしながら、移動と共に大きく刃を振るう。

相手から捉えられることなく攻撃を行っているため、攻撃は確実に命中しているが、与えられるダメージは微々たるものだ。

奴のHPが削り切れるのが先か、或いは俺の集中力が途切れるのが先か。正直な所、分の悪い勝負であるとしか言えないだろう。

あまりの攻撃の激しさに、アルトリウスたちどころか緋真すら戦闘に参加しきれていない状況だ。

このままでは、コイツを仕留め切ることは不可能に近い――そう考えた、瞬間だった。

「――我が 真銘(な) を告げる」

細く、声が耳に届く。

戦いの最中、普段であれば声を上げることもなく敵を仕留めていく彼女が、朗々とその名を歌い上げる。

「我は暗夜に沈むもの。冷たき刃の裡にて、応報の唄を祈り捧ぐ」

それは本来、ディーンクラッドが《 化身解放(メタモルフォーゼ) 》を使ってから切る筈であった切り札。

ここで使ってしまえば、奴が全力を発揮した際に勝てなくなる可能性も高い。

けれど……それでも尚、彼女は躊躇うことなくその名を口にした。

「復讐の夜は来た――『 復讐神の宣誓(ソング・オブ・ネメシス) 』」

その刃が、ディーンクラッドの背中へと突き立てられる。

一撃を受けたディーンクラッドは、そのまま背後へと向けて刃を振るい――アリスは、それを回避することもなく受け止めた。

「……何!?」

奴の刃は確かにアリスの体を捉え、斬り裂くが、それでも彼女が倒れることはない。

アリスの持つネメの闇刃、その 強制解放(リミットブレイク) による効果だ。

どれほどのダメージを受けたとしても、その効果中は彼女のHPがゼロになることはない。

痛覚設定を軽減していないアリスには、本来凄まじい痛みが襲っているはずなのだが、痛覚のない彼女には関係のない話だ。

本来体を両断されるようなダメージを受けながらも、全身を赤黒い紋様に覆われた彼女は笑みと共にディーンクラッドへと接近し、再びその刃を突き立てる。

「君は一体――」

「《練命剣》、【命輝閃】!」

ディーンクラッドに息を吐く暇を与えるわけにはいかない。

捨て身での行動ができるようになった今のアリスは、唯一俺と共に前衛を張れる存在だ。

奴の意識がほんの僅かにでも逸れた隙を捉え、確実に刃を叩き込んでいく。

俺とアリスは、共に虚拍を使える存在だ。これを使える人間が二人、同じ相手と戦うとどうなるかといえば――

「は、はははは! 何だそれは! 見えない、君たちはどうやって移動している!?」

俺とアリス、交互に虚拍へと入り込むことにより、奴には俺たちが現れては消えるように見えていることだろう。

この絶好の機会を見逃すわけにはいかない。アリスの強制解放の効果を含め、可能な限りコイツのHPを削り切らなければ。

俺が放った一閃はディーンクラッドの脇腹を斬り裂き、反撃に飛んできた一閃をそのまま移動して回避する。

それと共にアリスが奴の背中へと刃を突き刺し、放たれた魔法の直撃を受けながらも再び移動する。

ディーンクラッドの攻撃は、その余波のみで周囲を破壊し、暴虐の嵐を巻き起こしている。

だが、一切回避をするつもりのないアリスと、彼女が作ってくれた隙へと潜り込むことができる俺を捉えるには至らない。

俺の方は正直HPを回復している余裕は無いのだが、マリンとアルトリウスから飛んでくる回復魔法によって辛うじて繋ぐことは可能だ。

遠慮なくHPを消費しながら攻撃を放ち、ディーンクラッドがこちらを捉える前に再び奴の視界へと入り――

「本当に素晴らしい――だが、君の方は少し単調なようだね」

――翻ったディーンクラッドの刃が、今まさに刃を突き立てようとするアリスの胸を貫いた。

小さな体の胸の中心、心臓を正確に貫きながら、奴はこちらを振り返りもせずに魔法を放つ。

どうやら狙いをつけた訳ではないらしいが、爆発を巻き起こすその魔法は多少の回避でやり過ごすことはできない。

強制的に距離を離され、俺は舌打ちしながら刃を構え直した。

「ッ……やっぱり、私の方はまだ未熟ね」

「驚いたな、これでも死なないのか。それなら……首を斬り離したら、流石に死ぬのかな」

「さあ、どうかしらね。けれど――残念ながら、もう時間切れよ」

貫かれた刃を掴み、アリスは凄惨に嗤う。

それと共に、アリスの身を覆う赤黒い紋様が、血のように赤く輝き始めた。

その光景にディーンクラッドは警戒し、刃を抜いて距離を取り――

「――ここに復讐は完遂せり!」

――アリスの体より飛び出した紅の輝きが、ディーンクラッドに突き刺さる。

血のように赤いエフェクトは奴の体を覆い尽くし、やがて弾けるように飛び散った。

「ぐ、ああ……ッ!?」

その瞬間、少しずつしか削れていなかったはずのディーンクラッドのHPが、一気に削り取られる。

これこそがネメの闇刃が持つ真の力。己に蓄積したダメージを倍増して返す、まさに格上殺しと呼ぶべき一撃だ。

その効果の発揮を見届けた瞬間、俺は即座に地を蹴り、大ダメージに仰け反るディーンクラッドへと肉薄した。

「『生魔』!」

歩法――烈震。

全力でHPを捧げ、餓狼丸は眩く輝く。

その刃にて、俺はディーンクラッドの胸を背中から貫いた。

斬法――剛の型、穿牙。

「ッ……魔剣、使い……!」

「ここまで大盤振る舞いしたんだ、素直にこのまま果てておけ!」

上向きに刃を振り抜き、貫いたディーンクラッドの体を斬り裂く。

魔力による守りは失われ、生身となった奴の体からは血が噴き出し――

斬法――剛の型、白輝。

「《練命剣》、【命輝閃】ッ!」

「っ、はははははは!」

振り返り防御しようとしたディーンクラッドの身を、袈裟懸けに斬り裂いた。

大きくダメージを受けたディーンクラッドはたたらを踏む。

そして、その刹那。

「《術理装填》! 《スペルエンハンス》【フレイムストライク】――【緋牡丹】!」

――後方から駆け寄った緋真の攻撃により、ディーンクラッドは吹き飛ばされ、残った玉座へと叩き付けられたのだった。