軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

322:人よ、祈りと共に輝きを示せ その1

ディーンクラッド討伐のため、アルトリウスはプレイヤー全体に声をかけた。

だが実際の所、ワールドクエストが発生した時点で既にディーンクラッドに挑むことは可能となっている。

つまり、何が起きたかといえば――

「そうなるだろうなとは思っていたが、先走った奴が出たか」

「仕方ないことですけどね。別段、それを制限しているわけではありませんし」

決戦当日。ログインしてアルトリウスとの最終調整に臨んだ際、彼が伝えてきたのはそのような情報であった。

確かにアルトリウスの言う通り、決戦の号令は決して強制力のあるものではない。

それより先にディーンクラッドの首を狙ったとしても、それを責めることなどできるはずも無いのだ。

実害もないし、そこは放置してもよいのだろうが――

「……で、わざわざそれを伝えてくるってことは、何かあったのか?」

「ええ……実は、新たな伯爵級悪魔の存在が確認されました」

「何だと? 中央にもいたってことか?」

「はい、そのようです。ディーンクラッドの側近……ということかと」

どうやら、伯爵級の中にも都市を占拠する以外の行動をしている連中がいたらしい。

果たしてどのような理由なのかは分からないが、何にせよディーンクラッドと戦う上での障害となることは間違いないだろう。

俺の認識はその程度のものであったが、アルトリウスの表情はもっと深刻であった。

その様子に、俺は眉根を寄せて問いかける。

「どうかしたのか?」

「……正直な所、ディーンクラッドと戦う前に消耗している余裕が無いんです。公爵級と比べれば格は落ちますが、伯爵級は十分すぎる強敵です。ですが、そこでMPや回復アイテムを消耗していると――」

「奴と戦う余裕がなくなる、か」

何もしなくてもガンガン回復していく俺と違い、普通のプレイヤーのHPやMPは気軽に消耗できるものではない。

しかし伯爵級悪魔と戦えば、相応の消耗を強いられてしまうことは間違いないのだ。

まさか直前になってそのような問題に直面することになるとはな。

「しかし、今更作戦の変更もできないだろう。どうするつもりだ?」

「……元々、ディーンクラッドとの緒戦は少数精鋭で戦うつもりだったんです」

「ほう? ここまで数が揃っているのにか?」

「ゼオンガレオスとの戦いでもそうでしたが、人間形態の時に大人数で攻めると却って邪魔です。だからこそ、最精鋭で《 化身解放(メタモルフォーゼ) 》を使わせるまで追い詰め、その後全プレイヤーでの総攻撃をかけるのが理想です」

アルトリウスの説明に、俺は同意を込めて首肯する。

成程確かに、人間形態の時に多数のプレイヤーで固まると本当に邪魔だ。

相手がディーンクラッドとなれば、そのような隙を晒すことも好ましくない。

可能な限り、余分な要素は排除するべきであろう。

「つまり、元から俺たちはあまり戦わずにディーンクラッドの所まで行くつもりだったということか?」

「いえ、強行突破です。強引に敵陣を貫き、ディーンクラッドとの直接戦闘に持ち込むつもりでした」

「おいおい……それは後ろから攻撃されるだろう?」

「正直な所、賭けですね。ディーンクラッドは人間に期待している。あの悪魔にとって、僕らとの直接戦闘は望むものである筈です。ですから、余計な手出しをさせない可能性は高いかと」

「……向こうも焦れている、ということか。だが、そこまで賭けに出なきゃならんのか?」

「公爵級悪魔は、そこまでの怪物だということです」

確かに、以前遭遇した時のディーンクラッドは完全顕現どころか、殆どリソースを集められていない状態だったはずだ。

俺たちもあの時より強くなってはいるが、奴もまた以前より強化されている。

多少賭けに出てでも、有利な状況で戦う必要があるということか。

「つまり、強引に伯爵級悪魔を突破してディーンクラッドの元まで到達し、人間形態の奴を追い詰める……と」

「やはり、厳しいですか」

「そうだな……と、言いたい所ではあるんだが」

無傷で伯爵級を潜り抜けることは困難だ。例え最精鋭で戦ったとしても、厳しいと言わざるを得ない。

だが――

「……何か手が?」

「まあ……ちょいと手が増えることになってな。行けるかもしれんぞ」

敵陣を貫き、相手の追撃を許さずにディーンクラッドとの戦闘に持ち込む。

そのためには、伯爵級悪魔との戦線を維持できる人員が必要だ。

ディーンクラッドを相手に最精鋭を持ち出す以上、伯爵級悪魔と互角に戦える戦力は少ない。

その穴を埋められるものは――案外と、近くに存在していたのだ。

* * * * *

「成程? つまり、まずはその伯爵級をブッ倒せばいいわけだな?」

「……まあ、最終的にはそうなんだがな」

アドミス聖王国の中央、聖都シャンドラ。

その前に布陣を進めながら、俺は並び立つ剣士たちの先頭、見覚えのありすぎる顔を見上げて半眼でそう呟く。

俺の前に並んでいるのは、クラン『我剣神通』――つまり、久遠神通流の剣士たちだ。

師範代を含め、上位の門下生総勢六十名。全員が達人級に及んでいるわけではないが、一角の剣士であることには間違いない。

どうやら、こいつらはこの決戦に間に合わせるため、急いでミリス共和国連邦の事件を解決してきたようだ。

まさか、これほどの速さで追いついてくるとは思わなかったのだが……状況が状況だ、戦力が増えることは素直に喜ばしい。

「とにかく……我々は、師範たちを護衛しながら正面突破し、その後伯爵級を仕留めればよいと」

「ああ。ただし、俺は戦闘するぞ。基本的に、俺は消耗してもすぐに回復するからな」

水蓮の言葉に対し、俺は鷹揚に頷く。

あまり意識してはいなかったのだが、俺のスキル構成は継戦能力に特化しているらしい。

ここで多少戦ったとしても、それがディーンクラッド戦に響くことは無いのだ。

まあ、少しでもディーンクラッドのHPを削るため、餓狼丸の吸収はここで使うつもりは無いのだが。

「だがよぉ、師範。それじゃあ公爵級悪魔との戦いが見れねぇじゃねぇか」

「そう思うなら、さっさと倒してくることだな。もしくは……奴が《 化身解放(メタモルフォーゼ) 》を行うのが先か。とりあえず、伯爵級を潜り抜ける時に アレ(・・) は使ってやるからしっかり見とけ」

「お、マジか!?」

俺が告げたその言葉に、戦刃を始めとした全てのメンバーが沸き立つ。

本来奥の手の一つではあるのだが、以前の戦争では日常的に使っていたため、あまり特別感はない。

そのおかげで習熟度が増したわけであるし、意味はあったのだろうが。

ともあれ、これで戦力は拡充できた。確認のためにアルトリウスに視線を向ければ、その口元にも僅かな笑みが浮かんでいる。

どうやら、追加戦力はお気に召したらしい。

「……ともあれ、うちの門下生たちが道をこじ開け、維持する。それで行けるか?」

「申し分ないかと。伯爵級を釘付けにしてくれそうですしね」

「ははははっ! 何なら速攻で倒して援護に行ってやるよ!」

得意げな顔で笑う戦刃に、思わず嘆息を零す。

伯爵級はそこまで容易い相手ではないが――こいつらもミリスで戦ってきた訳であるし、それは分かっているはずだ。

軽く言ってはいるが、決して適当な戦闘をすることはないだろうし、倒し切ることも十分期待できる。

「それで、その伯爵級悪魔とはどのような能力を持っているので?」

「どうやら、傀儡を操る能力を持っているようですね。数で攻めるタイプのようです」

「数なら、個としての力はそこまででもないか。それなら、多少は相性がいいかもな」

多数を相手にするのは、久遠神通流にとっては得意分野だ。

そういった類が相手であることは、不幸中の幸いであると言えるかもしれない。

さて、そうと決まったならば――後は、口火を切るだけだ。

「アルトリウス、準備はいいか?」

「ええ、問題ありません。時間もちょうどいいですね」

あの時、ディーンクラッドに敗れてから、様々なことが変わった。

レベルも、有するスキルも――そして、世界に対する理解も。

そして今、俺たちは改めて、持てる全てを駆使してディーンクラッドに挑む。

集う多くのプレイヤーたちは、その始まりを今か今かと待ち構えていた。

徐々に膨れ上がる熱意を感じ取りながら、俺は都の方へと振り返り、前へと足を踏み出す。

都市の中からは、悪魔の姿が見え隠れしている。だが、最早逃げも隠れもしない。正面から叩き伏せるまでだ。

「――総員、抜刀」

俺の声と共に、久遠神通流の剣士たちは一斉にその刃を解き放つ。

溢れ出る戦意と殺意を余すことなく解放し、敵の喉笛に切っ先を突き立てんと荒れ狂う。

久遠神通流の戦、それを存分に見せつけるのだ。

「神仏在らばご照覧あれ――我らが剣は神に通ず! 諸余の怨敵、皆 悉(ことごと) く 摧滅(ざいめつ) せしめん!」

さあ、始めよう。是なるは、久遠神通流の秘奥が一端。

合戦礼法の真なる姿――全身全霊の戦闘技法。

「目標、公爵級悪魔ディーンクラッド! そして立ちはだかる総てを――斬り、崩せェッ!」

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

久遠神通流合戦礼法――終の勢、風林火山。

――久方ぶりの全霊を解放し、俺は前へと足を踏み出したのだった。