軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

318:猛る灼熱

空中で振るい、円を描くように軌道を刻みつけた【煌命閃】。

弱点付与された弱点部位である首、そして高レベルの《死点撃ち》――この組み合わせによるダメージ増加は、ゼオンガレオスのHPを大きく削るには十分すぎるものであった。

そして、大きくダメージを受けたが故の硬直は、正面にいる者たちにとって何よりの福音となる。

「【ストームランサー】ッ!」

ラミティーズの構える戟が、嵐を纏う。

複合属性である嵐魔法を習得していたのか、あまり目にすることのない 魔導戦技(マギカ・テクニカ) を発動した彼女は、目を見開き動きを止めたゼオンガレオスの胸元へと獲物の穂先を突き込んだのだ。

その一撃と共に開放された嵐はゼオンガレオスの全身を包み、巨体をものともせずに斬り刻みながら吹き飛ばす。

悪魔が大きく飛ばされた先は、当然ながらプレイヤーの群れの中だ。周囲の悪魔を掃討し、包囲が完了しつつある現状、周りには奴にとっての安全地帯は無い。

降って湧いたチャンスに、プレイヤーたちは興奮しながら倒れる悪魔へと武器を叩き込んだ。

受け身を取りながら着地した俺は、その様子を遠目に眺めながらポーションでHPを回復させた。

「何ともまぁ……戦争らしいこったな」

我先にと殴りかかっているプレイヤーたちのせいでごった返しているが、ゼオンガレオスのHPは大きく削れているようだ。

あの状況では無理もあるまいが、中々に凄惨な光景である。

とはいえ、あの悪魔がこの程度で終わるということはないだろう。

何故なら、奴は伯爵級悪魔。奴には、まだ切り札たる力があるのだから――そう考えた瞬間、あの混乱の最中で巨大な爆発が巻き起こった。

どうやら、ゼオンガレオスが自分を中心に魔法を発動させたらしい。

「まあ、そりゃそうなるよねぇ」

「あの混雑じゃ、逃げることもままならんだろうな」

ラミティーズと共に呆れを交え、そう呟く。

なまじプレイヤーの数が多いだけに、今のゼオンガレオスの周囲はプレイヤーが押し合っているほどの状態だった。

奴が魔法を発動しようとしていることに気づいているプレイヤーも多かったが、後ろから押し寄せてくる連中を押しのけられなかったのだろう。

結果として結構な数のプレイヤーが吹き飛ばされてしまったが――それよりも、気にしなければならないことがある。

他でもない、満身創痍の様相で立ち上がったゼオンガレオス当人だ。

「クソが……ッ! やってくれやがったな、人間共!」

「うひひひっ! どんな気持ち? どんな気持ちなのかなぁ?」

「良いぜ、手加減は終いだ……すべて纏めてぶっ潰す! 《 化身解放(メタモルフォーゼ) 》ッ!」

刹那――膨大な魔力の発露と共に、ゼオンガレオスの全身を巨大な炎が包み込む。

膨大な熱量と光量の中、元より巨体を持っていたゼオンガレオスは、一気に膨れ上がるかのごとく巨大化した。

そのシルエットの大きさは、これまでの悪魔とは比べ物にならない。

それこそ、ヴェルンリードと匹敵するほどの巨大さだろう。

徐々に収束して行く炎は、その巨体のシルエットをより詳細に浮かび上がらせた。

あの姿は――

「随分とまぁ……でかいゴリラだな」

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

現れたのは、赤とオレンジの毛並みを持つ、巨大な猿の姿であった。

地面から頭までの高さは五メートルはあるだろうか。あまりにも巨大なその姿は、筋骨隆々とした体格を含め、とんでもない威圧感を放っている。

これがゼオンガレオスの真の姿。響き渡る雄叫びは、その響きだけで肌を叩く衝撃となるほどだ。

成程、これは――

「――厄介だな」

『ガアアアアアアアアッ!』

最早口上も何もなく、ゼオンガレオスは大きく飛び上がる。

両腕を振り上げ強烈な殺気を放ちながら落下し――その両の拳を、プレイヤーが密集している場所へと叩き付けた。

轟音と、鳴動。体が浮き上がるほどの衝撃と共に、地面が砕けて爆ぜ割れる。

飛来する瓦礫を餓狼丸で弾き落としながら、俺は悪寒を感じてその場から飛び退いた。

瞬間――地面に走った亀裂に赤い光が走り、足元から無数の火柱が立ち上る。

飲み込まれればひとたまりもない、そんな熱量だ。周囲の状況に戦慄を覚えながら、俺は炎の中で体を起こすゼオンガレオスの姿を見上げた。

「どうやら、理性は無いようだな。これがあの炎の悪魔共の元って訳か?」

今のゼオンガレオスからは、どことなくあの悪魔共と似たような気配を感じる。

つまり、今のこいつは人よりも獣に近いような存在であるということだ。

いや、衝動のままに暴れ回るだけでは、知能の面では獣よりもなお劣るだろう。

しかし――

『ゴアアアッ!』

「くそっ、誰かこいつを止めろぉっ!」

この巨体で縦横無尽に暴れ回られては、相手が単純だどうこう言っている場合ではない。

まるで動きを止める様子のないゼオンガレオスは、右手を大きく薙ぎ払ってプレイヤーを吹き飛ばし、手近な一人を掴んでは投げ飛ばす。

こいつはただ、目の前にいる相手に襲い掛かっているだけだ。しかしながら、その巨体が故にそれだけで非常に強力な力を有するのである。

このままゼオンガレオスを暴れ回らせれば、プレイヤーたちの士気にも影響しかねない。

そして無論のこと、アルトリウスがそれを座して見逃す筈もなかった。

「こちらだ、化物! 《プロヴォック》ッ!」

その声を上げたのは、他でもないパルジファルだ。

防御部隊のメンバーで固まった彼女は、盾を構えながら己へと注意を向けさせるスキルを発動する。

現状、単純極まりない思考となっているゼオンガレオスは、見事にそれに引っかかることとなった。

周囲を薙ぎ払うように暴れていたゼオンガレオスは、スキルの影響ですぐさまパルジファルへと視線を向け、彼女の方へと突っ込んでゆく。

振り上げるのは、炎を纏い燃え盛る拳だ。

『ガアアアアッ!』

「《フォートレス》!」

ゼオンガレオスが振り下ろす拳。それを迎撃するのは、巨大な盾のエフェクトだ。

複数人で同時発動することによって防御効果を高めるスキル。その効果は――しかし、立ち並ぶ楯役のプレイヤーたちを無傷で済ませることはできなかった。

あれほどの防御を重ねて尚、パルジファルたちのHPを四分の一も削り取ってみせたのだ。

その様を横目で確認しながら、俺は次なる拳を振り下ろそうとするゼオンガレオスに接近する。

化物であれ何であれ、斬らなければ始まらない。まず狙うべきは――

「《練命剣》、【命輝閃】!」

斬法――剛の型、白輝。

振り下ろした一閃は、ゼオンガレオスの踵に突き刺さる。

悪魔といえど、類人猿の形状をしているのだ。体を動かすための構造は同じだろう。

であれば、アキレス腱を斬れば動きは鈍る。例え素早く暴れ回る猿であろうとも、パルジファルに釘付けとなっている今であれば捉えることも難しくはない。

ゼオンガレオスの踵へと振り下ろした一閃は――確かに、その毛と皮を裂いて肉へと刃を届かせた。

『ガァアッ!?』

俺のことを全く認識していなかったゼオンガレオスは、突然の痛みに驚き、右腕でこちらを薙ぎ払ってくる。

極限まで防御を高めたパルジファルですら無傷で済まぬ一撃だ、そんなもの受ければひとたまりもない。

そう考えていた俺は、早々にゼオンガレオスの攻撃範囲から退避して、その動きを観察した。

どうやら、ヴェルンリードのような反則的な回復能力は持っていないらしい。

あれがあっては流石に手詰まりになりかねなかったが、これならばなんとか手が無くもない。

問題は――こいつの攻撃圏内には、俺でも容易には入り込めないということだが。

「流石です……! 《プロヴォック》!」

パルジファルは俺のことを賞賛しつつ、再びゼオンガレオスの注意を引く。

この状況、彼女が居なければ成り立たない。逆に言えば、彼女さえいればゼオンガレオスに攻撃を加えることも可能ということだ。

(だが、それも永遠には持たないぞ)

ダメージを負ったパルジファルたちへは絶えず回復魔法が降り注いでおり、常にHPを満タンに保つことはできている。

しかし、彼女が奴の攻撃に耐えているのは《フォートレス》の効果があってこそだ。

あのスキルは決して永続するものではなく、一定時間が過ぎればその効果も消滅してしまう。

そして、クールタイムが経過するまで、再び発動することはできない類のものだ。

つまり、一度効果が途切れてしまえば、ゼオンガレオスの攻撃を受けきることはできなくなってしまうのである。

いつまでも、この均衡を保つことはできない――そう考えた所で、俺は思考を切り上げた。

俺が考え付く程度のことを、アルトリウスが考えていないわけがない。それよりも、俺はゼオンガレオスに攻撃を加えることを優先するべきだ。

そう考えながらゼオンガレオスの左足へと接近した所で、ゼオンガレオスの唸り声にも劣らぬほどの大声が響き渡った。

「《フォートレス》持ちの皆さん、こちらに集まって下さい! 戦線を維持します!」

――どうやらアルトリウスは、全てのプレイヤーを利用して、楯を維持し続けるつもりのようだ。

その判断に小さく笑みを浮かべながら、俺はゼオンガレオスの左足へと刃を撃ちこんだのだった。