作品タイトル不明
313:成長の結果
用事を済ませて聖王国に戻ってきた頃には、既にアルトリウスたちの準備は完了していた。
北西の街と北東の街、両方に参加するプレイヤーを集結させ、北の街への攻撃準備を進めているのである。
土曜日と言うこともあり、最前線のプレイヤーの大部分が参加しているのではなかろうか。
霧に包まれ、人気が無かったはずの街は、今や大量のプレイヤーによって埋め尽くされていた。
「まさに数の暴力って感じだな」
「北東にも同じぐらいいるんですよね。凄いことになりそう」
「まあ、正直邪魔であることは否定できんが……」
数は多いが、この数を制御することは困難だ。
集まっているプレイヤーたちが烏合の衆であることは否定できないだろう。
正直な所、これだけの数が一体の敵に群がったら戦闘どころではない。
とはいえ、相手は伯爵級。並大抵のプレイヤーがどうこうできるような存在ではない。
下手に群がれば薙ぎ払われるのがオチだろう。しばらくすれば安易に近付くプレイヤーもいなくなるはずだ。
特に、今回の悪魔は攻撃力に優れるタイプであると聞く。安易な戦闘は死を意味すると言っても過言ではない。
無論のこと、それは周囲のプレイヤーたちだけではなく、俺たちにも当てはまる話だ。
故に一切の油断なく、万全の準備を整える必要がある。
「さてと……最終確認と行くか」
「はい、スキルは大丈夫ですよ」
「装備の更新は特にないけれども……まあ、セットは完了してるわ」
炎の悪魔の遊撃、および空いた時間で周辺の魔物と戦闘を繰り返した結果、俺たちのレベルは四つ上昇した。
それに伴いスキルレベルも上がり、いくつかのスキル進化やテクニックの習得を経ることができたのだ。
これから強力な悪魔と戦うに当たっては、大きな力となってくれることだろう。
まず俺の場合、《強化魔法》が五十に到達したことにより、スキルの進化が可能となった。
その名も《昇華魔法》。性質そのものについては《強化魔法》の順当な進化と言った所だろう。
《強化魔法》も進化と同時に新たな魔法である【ミスリルエッジ】と【ミスリルスキン】を習得し、更に《昇華魔法》の最初の魔法として【エンハンス】という呪文を習得した。
【ミスリルエッジ】と【ミスリルスキン】についてはこれまでの《強化魔法》と変わらず、【ダマスカスエッジ】や【ダマスカススキン】の上位互換といった所だ。
対し、《昇華魔法》の【エンハンス】は、これまでの呪文とは一風変わった性質を持っている。この呪文は、現在掛かっている魔法の効果を増幅させる能力を持っているのだ。
即ち、既に掛かっている《強化魔法》や、他の魔法に関しても、まとめて効力を増幅させることができるのである。
しかも一度使えばすべての魔法を強化できるため、コストパフォーマンスが非常に優秀な魔法だ。
(後は、こっちがどれほど通じるかだな)
それに加えて、三魔剣がそれぞれ新たなテクニックを習得した。俺にとっては、こちらの方が大きいかもしれない。
それぞれ、《練命剣》は【煌命閃】、《奪命剣》は【冥哮閃】、《蒐魂剣》は【断魔斬】だ。
【冥哮閃】に関しては以前戦ったブラッゾも使っていたため、ある程度どのような形式の技であるかは理解している。
振るうために若干の溜めが必要となるが、その後空間に広く軌跡を描くような一閃を放つ技だ。
攻撃のリーチが大きく伸び、また威力についてもかなり高い。三魔剣のどれもが同じようなエフェクトの技となっているが、効果もおおよそ似たようなものだ。
【煌命閃】はHPを大きく消費した上での広範囲高威力攻撃。【冥哮閃】は威力の向上、および複数体からのHP吸収が可能な攻撃。そして【断魔斬】は一度に複数の魔法を斬れる攻撃だ。
見た目にも分かり易く、効果も強力。放てるようになるまでの隙は気になるが、上手く使えば大きな力となることだろう。
また、《降霊魔法》については想定通りの成長をしている。
《降霊魔法》のポイントを三点貯めた時点で【武具精霊召喚】をEX化し、その後手に入れたポイントは全て物理攻撃力上昇に振っている。
一度振ったポイントは元に戻せないようではあるが、他を成長させるつもりも無いし、特に問題はない。
気になることと言えば、ついに肩口まで伸びてきていた【武具精霊召喚】のエフェクトが、篭手から先のみに戻ったことだ。
しかも、これまでのようにぼんやりとした輝きではなく、明確に篭手と刀を変貌させている。
と言っても、形状そのものが変化したわけではなく、表面に不可思議な模様が浮かび上がり、僅かに発光しているのだ。
その模様はどこか、波打つ木目のようなダマスカス鋼の紋様にも似ている。武器の素材を変化させたわけではなかろうが、どこか神秘的な様相を醸し出していた。
(順当に攻撃力が上がった。と言っても、この国に入ってきた頃と比べれば雲泥の差だ。伯爵級を斬るのに刃が通らない、ということはないだろう)
しかし、ディーンクラッド――公爵級を斬るのに十分かと問われれば、それは断言できるものではない。
奴は明らかに別格だ。可能な限り強化をしてきたが、だからといって安心できるような相手ではない。
とりあえず、まずは伯爵級を相手に具合を確かめることとしよう。
一通りの確認を終えた所で、先に確認し終わっていた緋真が声を上げる。
「私はあんまり確認すること無いんですけどねぇ」
俺の変化が多かった一方、緋真の方はあまり大きな変化はなかった。
《斬魔の剣》が《蒐魂剣》に進化したことは大きいと言えば大きいが、他は精々《火炎魔法》が次の呪文を覚えたこと程度だろう。
新たに習得した呪文は【フレイムフィールド】。周囲一帯に炎を張り巡らせ、入り込んだ敵にダメージを与え続ける効果がある。
これは味方には一切影響を及ぼさないため、敵の行動制限やダメージの蓄積など、色々と使える場面は多い呪文だ。
とはいえ、今回の相手は炎属性であるため、あまり意味はないだろうが。
「しかし、どうしますかね……今回の悪魔、私の攻撃はほとんど効かなそうですけど」
「援護に徹するしかないんじゃないかしら。耐性無視はあれを使わないといけないわけだし」
「まあ、そうですよねぇ……それも承知で属性を偏らせている訳ですし」
アリスの言葉に、緋真は嘆息しながら首肯する。緋真は属性を偏らせることで大きな火力を得ている訳であるし、それに関しては仕方のない話だろう。
一方で、アリスは中々に興味深い変化をすることとなった。
《光魔法》が《閃光魔法》に進化し、同時に複合属性魔法である《時空魔法》を取得可能になったのだが――その際、新たな複合属性魔法が提示されたのだ。
その名も《月魔法》――見るからに、マーナガルムが関連していそうな名前であった。
俺たちしかマーナガルムに勝利していないため、現状での検証は不可能だが、《月魔法》は主に幻惑や回復効果を持つ呪文を習得できるらしい。
アリスがこれを習得して最初に覚えた呪文は【ムーンライト】。光を放ち、見た者に『放心』と『暗闇』の状態異常を付与する効果を持っている。
これを当てた魔物はしばし棒立ちになったのち、見当違いの方向に動いたり攻撃を繰り出したりしていた。単純だが、それなりに有効な呪文であると言えるだろう。
まだまだこの魔法の真価は分からないが、マーナガルムが使っていたような魔法を覚えるのであればかなり有効だろう。
一応、その他にも《弓》が《短弓術》に進化したり、《傷穿》が《肉抉》に進化したりしたが、流石に《月魔法》程のインパクトはなかった。
ちなみに、《肉抉》は弱点付与数が増えたほか、ダメージ倍率が上昇している。順当だが便利な進化であった。
「……まあ、ここまでにできる限りのことはした。後は、それを全力で発揮するまでだ」
「はい、お父様。私たちは、それほど変化はありませんでしたが……それでも、全力でお助けいたします」
「ああ、期待しているぞ」
残念ながら、ルミナやセイランは節目のレベルまでは到達しなかったため、新たなスキルを覚えるということは無かった。
とはいえ、ステータスの数値が高いテイムモンスターたちは順当に能力を伸ばしてきている。
その力は、例えスキルが無かったとしても十分に期待できるほどのものだ。今回も、その働きを見させて貰うこととしよう。
一通りの確認を終えた所で、俺はプレイヤーの集団からゆっくりと前に歩き出す。
同じく前に出てきたのは、『キャメロット』の半数を率いるアルトリウスだ。
俺の隣に並んだアルトリウスは、プレイヤーの集団へと向けてその口を開いた。
「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます。時間になりましたので、これより北の街アファルドの攻略を開始します」
決して強くはなく、けれど不思議とよくとおるその声に、集うプレイヤーたちの喧騒は瞬く間に静まっていく。
その様子に淡く笑みを浮かべたアルトリウスは、周囲を見渡しながらゆっくりと声を上げた。
「今回は、難しいことは言いません。早い者勝ちで、北の伯爵級悪魔を仕留めます。方法は問わず、また過程も問いません。各自、好きなように動き、暴れてください」
普段のアルトリウスからは考えられないような、適当な発言だ。
しかし、今回ばかりはそれで問題はない。
例え無茶な戦闘で多少のリソースを明け渡すことになったとしても、素早く悪魔を仕留めることこそが重要だからだ。無論、そこまで好き勝手させるつもりは毛頭ないわけだが。
そして――ざわつく周囲へと向けて、アルトリウスは力強く宣言する。
「さあ、行きましょう! 北の悪魔を討ち、八つの都市の全てを解放する!」
その言葉と共に、アルトリウスは颯爽と馬に跨り、進軍を開始する。
『キャメロット』の面々や俺たちもまたそれに倣い――あまりにも堂々としたその様に、集まったプレイヤーたちも釣られて移動を開始する。
目指すは北の街アファルド。上空からは幾度かその様子を確認したが、未だ正確な情勢は把握していない。
果たして、あの街を支配する伯爵級はどのような相手なのか――己の剣を以て、確かめることとしよう。